103話 誠也のお願い
ガラの悪いナンパ男共を撃退後、俺たちと龍太たちは別れた。別れ際に冷静になった星良と月夜さんはそれぞれ謝罪をし和解もちゃんとしていた。
その光景に龍太は安堵していたが、俺の胸の中にはモヤがくすぶっていた。
あのガラの悪い男共が引き下がったのは龍太の強さがあってこそだった。もしもあの場に龍太がおらず自分と星良だけだったら……。
帰路についている間も自らの非力さに悩んでいると、星良が不安げに話しかけてきた。
「ねえ誠也君どうかしたの?」
「え、何で?」
「だって今の誠也君、とても辛そうな顔をしているから……」
心の内の苦悩を見抜かれて俺の目は丸くなる。
星良には余計な不安を与えまいと顔には出さないようにしていた。だが最愛の彼女には全て筒抜けだったらしい。
ほんと……俺って愛されているんだな……。
自分を本当によく見てくれている事実は嬉しい。だがだからこそ、そんな彼女を自分だけでは護り切れなかったかもしれない情けなさが際立った。
「ごめん誠也君。私……もしかして何か気に障る事でもしちゃったのかな?」
「違うよ。星良は何も悪くないからやめてくれ。ただ……自分が情けない男だって思ってさ……」
「どうしてそんなことを急に……」
親身になってくれる星良に気が付けば全てを吐露していた。
先程のナンパの際に自分が何もできなかったこと。結局は友人の龍太が解決して自分は見ているだけだった事実を口にした。
「情けない彼氏だよな。いくら星良を大事にするって言っていても口先だけだ」
「そんなことないよッ!!」
自らを卑下し続ける俺の言葉を星良は大声で否定した。
「あの時に誠也君は体を張って私を庇ってくれたじゃない。自分が痛みを伴う事を覚悟のうえで私の為に動いてくれた。それがどれだけ凄い事か誠也君には分かってないんだよ」
「がむしゃらだっただけさ」
「がむしゃらに私の為に必死に身を挺して庇ってくれた。誠也君自身は大したことができないと思っているのかもしれない。でもあの時のあなたの行動がどれだけ私を助けてくれたか分かる?」
彼女は俺の両手を優しくぎゅっと包み込み、柔和な笑みと共にこう言ってくれた。
「ありがとう誠也君。私を助けてくれて」
その言葉に俺の沈んだ心は一気に晴れて行った気がした。
劣等感でチクチクと痛んでいた心は楽になり、目の前の星良に自然と微笑み返していた。
……俺は大馬鹿野郎だな。こんなにも想ってくれる恋人の前で子供みたいにいじけてさ……。
今なら自分が胸の内に抱えていたモノの正体が分かる。
俺はきっと龍太に対して嫉妬していたのだ。恋人の前でカッコイイ彼氏を演じた彼と比較し、体を張る事しかできなかった自分に劣等感を感じて、その挙句が恋人に心配をかける。
どうしようもなくちっぽけだな俺って……。
星良のお陰で立ち直った直後だというのにまたこんな考えが浮かぶ。
脆弱な心を奮い立たせるために自分の両頬をバチンと叩いてやった。
「せ、誠也君?」
「ああごめん。いつまでもウジウジしている自分に活を入れてやった」
ジンジンと熱をともす頬の痛みを無視して星良と向かい合う。
「もう大丈夫だ。女々しいところを見せてごめんな星良」
俺が完全に立ち直った事を理解したのか、星良はそれ以上は何も言わないでくれた。ただ俺を安堵させてくれようとしたのか無言で腕を組み、一緒の歩幅で歩いてくれる。
その気遣いがまた嬉しく、俺も何も言わずに彼女の手を握る。
星良のお陰で俺の中の小さな男のプライドの問題は片付いた。
しかし、今後もあのような輩が星良にちょっかいを出す可能性は拭いきれない。何しろ学園のアイドル的存在なのだ。言い寄る男は後を絶たないだろう。そんな連中から愛する人を護る為には今の自分では不足である事も事実だ。
具体的な案に頭を悩ませていたが、ここである人物が俺の脳裏に浮かんだ。
「なぁ星良、少しだけお願いしてもいいかな?」
「少しなんて言わずに何でも言って。誠也君の頼み事ならなんだって断る気なんてないよ」
「それはそれでちょっと怖いが」
どこか怪しげに微笑む星良に少し苦笑しつつも、俺はとある人物を話題に出す。
「北條組の若頭の南条さん。ちょっとあの人にお願いしたい事があって……」




