↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/106

104話 自暴自棄な女(双葉視点)


 「ねえねえこの服買ってよぉ~」


 「おいおい双葉ちゃん。少し前にバッグ買ってあげたじゃん」


 ショッピングモール内で私は〝彼氏の1人〟に高値の洋服をねだっていた。


 「え~いいじゃない。買ってくれるならほら、見返りだってあげるよ?」


 着ている洋服の胸元をまくって胸を強調する。

 それだけでこの男は鼻の下を伸ばして私の言う事を聞いてくれた。


 「しょうがないなぁ。じゃあ買ってくるからちょっと待っていて」


 おねだりした洋服を手に持ってレジへと向かう男の姿に、思わず私は吹き出してしまう。


 「ふん、男なんてチョロい生き物よね」


 誠也から完全に見放され、そして親にまで家族として見られることもなくなった。その事実に耐え切れなかった私はもう自暴自棄な生活を送り続けていた。

 今や身も心も真っ黒に汚れ、見知らぬ男に媚びを売って過ごす毎日。ここ最近はほとんど家にも帰らず、女としての自分を売り込んでいつの間にか複数人の〝彼氏〟が出来上がっていた。

 

 遊び関係で出来上がった彼氏達はほとんどが私の言いなりと化していた。

 まだ若く、そして容姿だけは整っている私は黙っていれば男受けがいい。今デートしている彼氏だって私の言う事は基本は何でも聞いてくれる。

 今デートしている相手はきっと本気で私を好いているのだろう。裏で私が複数のキープ彼氏を抱え込んでいる事実すら知らずに。


 おねだりすれば高価なプレゼントが手に入る。体を差し出せばお小遣いだって貰える。そのお陰で今の私は平凡な学生時代では得られない高価なレディースブランドをいくつも身に纏っている。

 

 ほんっと……堕ちるところまで堕ちたって感じよね。


 偽りの贅沢では真に心が潤うわけもない。むしろ虚しさは肥大化していく一方だ。

 そもそもこんな生活がいつまでも続くわけもないのだ。いつかはこの偽りの幸せだって剥がれ落ち、そして私と言う人間の本性が赤裸々に知られる。そうなれば私と恋仲関係だと騙され財布扱いしている男達からも制裁を与えられるだろう。


 「まぁ別にもうどうなっても構わないんだけどね」


 誰に言うでもなく双葉の口からは独り言が無意識に零れ落ちる。


 この先に訪れるであろう破滅的な未来を予測しながらも彼女は危機感など感じない。

 本当に大事にしなければいけない人を貶し、蔑ろにし、そして傷つけた。その結果最も望んでいた未来への道は完全に閉ざされた。 

 大好きだった幼馴染の大道誠也と道が交わる事はもうあり得ない。変わらぬその現実だけで未来を捨てるには十分過ぎるほどだ。今の双葉にとって大勢の偽彼氏と遊ぶことは破滅前の最後の暇つぶしに過ぎなかった。


 「他の服も見て回ろうかな……」


 偽の彼氏がねだった洋服をレジへと持っている最中、双葉は適当に周辺を歩き回っていた。

 本来なら戻って来るまで彼氏の帰りを待つべきだろう。だが双葉にとっては彼は数いるお遊び相手の1人に過ぎず、そんな相手を気遣う理由もなかった。これで嫌われても双葉からすれば遊び相手が1人減った程度の認識なのだ。

 この際だからもう一着ぐらい気に入った服があれば買ってもらおう。そんな漠然とした考えと共に店内を徘徊していたが、ここで聞き覚えのある声が耳に入って来た。


 「え……今の声って……」


 鼓膜を震わせる知った声を目指して私は足を運ぶ。


 そして……予想通りの人物がそこには居た。


 「ねえこれは似合ってるかな?」


 「ああ、星良の可憐さが強調されて良いと思うぞ」


 「えへへ~、それじゃあこれも買っちゃおうかな」


 私の視線の先の試着室で北條星良がワンピースを両手に持ってはしゃいでいた。そんな彼女を微笑ましく見ているのは私のかつての想い人である誠也だった。

 遠巻きから眺めている私の存在に二人は気付いていない。二人だけの世界に入り込み、私なんて視界の端にすら映っていないのだろう。


 偽りの恋人を財布として弄ぶ私と、本物の愛を共に分かち合う北條。


 「ふ……ふふ………」


 今の私にはあの二人の姿は視界に入れるだけで毒だった。決して自分の存在を悟らせぬよう、私はこっそりとこの場から離れて行く。

 気付いてほしくない、そう思っている癖に最後にもう一度だけ振り返る。もしかしたら誠也が私の存在に気付いてくれるかもしれないと思った。


 だけど現実は無情であり、誠也は背を向けたままだった。


 もう私はあの幼馴染へ声を掛ける資格も勇気もない。だからひっそりとこの場から消える事しかできなかった。未練がましく涙を零しながら………。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。