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98話 同棲決定ね♡


 「不安って何が……」


 「誠也君が他の女の子に盗られてしまう不安」


 「心配しなくても俺は星良一筋だって。いくら他の女性に言い寄られても靡いたりしないから」


 確かにここ最近、俺は多くの女子と交流を持っている気がする。

 例えば友人として百地とはよく喋るし、それにクラスメイトとも大分打ち解けてきた。その中には女子連中もちらほらみられる。あとは……一応は小日向先輩とも交流を持つ事となった。まぁこちらは相手が一方的に関わって来るのであって、俺としては距離すら置きたいぐらいなのだが。 

 だからと言って星良以外の女性を異性として認識した事などない。


 しかし俺は自分の考えが浅い事を次の星良の言葉で思い知った。


 「誠也君が他の女性に目移りする心配なんてしてないよ。でもね、やっぱり彼女として自分の恋人が他の女の子と仲良くしている光景はちょっと嫉妬しちゃう。だから……この夏休みは私ともっと距離を縮めて欲しい。私だけのために……たくさんの時間を一緒に過ごして欲しい……」


 「星良……」


 「百地さんと仲良く話をしている時、小日向先輩に迫られている時とか、本当は胸がモヤモヤした。自分がとても器の小さな我儘を言っている自覚はある。だけど……この夏は誠也君の時間を私に使ってほしい。私も誠也君の為に自分の時間をたくさんあげたい」


 不安げに見上げながら本音をぶつける星良の姿に俺は言葉でなく、彼女を抱きしめる事で返事を送る。


 「ごめん。確かに最近の俺はデリカシーが足りなさ過ぎたかもな」


 抱きしめられた星良は一瞬驚いた顔を見せるが、すぐに悲しげな瞳と共に顔を俯かせる。


 「ううん。誠也君が悪い訳じゃないよ」


 しばし俺の胸に顔を埋めて彼女は黙り込む。

 やがて顔を押し付けたままポツリと零し始めた。


 「ごめん、私ったら何やってるんだろうね。少し他の女の子と話をしただけで嫉妬して、挙句誠也君に相談もなく勝手に同棲なんて言い出して……」


 顔を埋めている為に表情は見えないが、彼女の体は小さく震えていた。

 その姿を見て責める気になどならない。むしろ、自分の恋人にこんな不安感を植え付けていた事を恥じるぐらいだ。


 「ごめんね誠也君。夏休み中の同棲の件だけどやっぱり忘れて。お父さんにも後からそう伝えておくから……」


 「いや、やっぱり俺も同棲に賛成だ」


 「え、でも……」


 「確かにいきなり星良の口から同棲なんて言葉が出て来て驚いた。期間限定とはいえ俺たちには早すぎるとも思ったさ。でも自分の恋人をこんな不安にさせていたと知って断れるかよ」


 俺の胸に顔を埋めいている星良を少し引き離し、真っ直ぐに彼女の眼を見て自分の意思を告げる。


 「俺だって本音を言えば星良と今以上に距離を縮めたいとずっと考えていた。ただあまりがっつき過ぎると重荷になると不安もあったんだ。だけど星良も同じ気持ちなら問題ないじゃないか」


 「じゃあ……夏休み中に同棲の件については……」


 「もちろん、OKだよ。ただ俺の両親にもちゃんと話を通しておく必要はあるけ……」


 「良かった! それじゃあ夏休み中は毎日誠也君と一緒に居れるね♡!」


 今まで消沈気味だった星良の瞳が一気に煌めいた。

 あれだけ不安げに震えていた姿が一変し、有頂天気味に今後について語りだす。


 「じゃあじゃあ、今日の放課後に誠也君の家に行くから! そこで雪子おばさんに許可を貰って、その後は同棲生活の大まかな取り決めもしないとね! あとあと、大体の家具の方は北條組で全部用意してもらってるけど、細かな家庭用品も夏休み前に見に行こう! あとね、あとね……!!」


 「あ、あはは……凄いテンションの変わりようだな……」


 嬉々として今後の予定を次々立てていく恋人の姿に苦笑が漏れる。

 これは邪推かもしれないがさっきの弱々しい態度、もしかして俺の同意を得る為の演技……ではないよな? 流石に考えすぎ……だよな。


 「あっ、それとベッドはお父さんに頼んで大きなダブルベッドがもう置いてあるからね♡」


 ……やっぱり演技だったのかもしれない。


 よくよく振り返れば組長の娘としての裏の顔が星良にはある。

 普段は清純な学園アイドルだが、本気で激昂した時の底見えぬ冷めた一面だって俺は何度も見てきた。


 ウチの彼女って俺が思う以上に腹黒いのかも……。


 さっきの目尻に浮かべた涙も泣き落としの為だとしたら少し背筋が寒くなった。だがその悪寒も一瞬のこと。俺との同棲を心から喜ぶ彼女を見てどうでも良くなった。


 「いーっぱい思い出を作ろうね誠也君♡」


 どこまでも曇りのない満面の笑みで星良は笑いかけるのだった。

 その笑顔に対して俺は照れつつも、星良と多くの時間と思い出を築ける。その確定した事実に胸は弾んでいた。




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