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97話 ねえ、同棲しない?


 それは昼休みの時間、いつも通り屋上で二人で昼食を取っていた時のことだった。


 「ねえ誠也君。夏休みの具体的な予定ってもう決まっている?」


 「ん……そ~だな~……」


 お弁当を食べ終わったタイミングで、間もなく訪れる夏の予定を尋ねられた。

 夏休みに入る前にまだ期末考査が控えているが、まぁ成績はそこまで悪いわけではない。真面目に試験範囲を勉強しているし大丈夫だろう。星良に至っては俺が気に掛ける必要すらない程に優秀だし。

 だからまだ夏の予定は具体的に定まっていない。星良と一緒に思い出を作る事は確定事項ではあるのだが。


 「実は夏休み中に私から少し提案があるんだ」


 「どこか旅行に行くとか?」

 

 「ん~そういう事じゃなくてぇ……」


 なんだか星良の様子がどこかおかしい。

 妙にそわそわしながら頬を赤らめ、それに熱っぽい視線を向けてくる。


 「この夏休み中、ちょっと二人で〝同棲〟してみないかなって?」


 「………ああ……うぇ?」


 星良から持ち掛けられた提案に生返事をした。

 だが時間差で彼女の発言に疑念が生じて間抜けな声が漏れ出る。


 え、同居……いや同棲? 同棲って一緒に暮らそうって意味のあれか? 


 俺の脳内が軽くショートを起こし始める。そんな事などお構いなしに、星良はどんどんと話を独りで広げていく。


 「同棲先についてはお父さんが準備してくれるから安心して。北條組は不動産会社とも繋がりがあるから広い部屋も借りられそうだし。もちろん夏休み中の同棲に発生する費用は北條組が全面的に負担するからね。あ、でも雪子おばさんには今日の放課後にでも報告しておかないといけないね」


 「いや待て待て待て! どんどん一人で先に行かないでくれ!! かなり置いてけぼりになっているからッ!!」


 脳内の整理をしようとするが、次々と星良から送信される追加情報に処理が追い付かない。一度彼女の肩を掴んで向き合い、半ば強引にセリフを途切らせる。

 混乱している俺とは真逆に、星良はキョトンとした顔を浮かべている。この顔……さては俺が当惑している理由を本気で分かってないな。


 「え~……まず順に片づけて行こう。そもそも同棲ってどういう意味?」


 「誠也君は私と一緒に生活するのは嫌?」


 「そこは全然嫌じゃない。むしろ好きな人から一緒の屋根の下で暮らそうなんて言われて嬉しいぐらいだ」


 「せ、誠也君♡」


 「でもな、流石に間を端折りすぎだと思う」


 俺が肯定的な発言をすると星良の表情が惚ける。

 喜んでいる所に水を差すようで申し訳ないが、今は現実の話を再開させてもらう。


 「まだ交際してから日も経っていないのに同棲なんて流石に早くないか? それに星良のお父さん……源五郎さんだって許してくれないだろ」


 「そこは心配無用だよ。昨日の時点でもう説得済みだし、それにお父さんも『誠也君なら大丈夫だろう』って賛成してくれたし」


 いやいや源五郎さん!? 大事な一人娘を交際したばかりの男と二人きりで生活させるなんてダメでしょ!?


 この場に居ない源五郎さんに内心で思わずツッコんでしまう。

 

 「むしろお父さんも喜んでいたぐらいだよ。予想より早く孫を拝める日が来そうだって」


 「ま、孫って気が早すぎるだろ」


 どうやら既に北條組全体の賛同は得ているらしい。

 だがまだ分からない。確かに源五郎さんと母さん、互いの親からの正式な交際許可を貰ったとはいえ、星良も気が早すぎるのではないだろうか? 確かに大胆な星良のことだ。いつかは同棲などについても持ちかけられるとは予想していた。だがいくら何でもこれは急すぎる気がしてならない。


 まるで……何か不安を抱え焦っているかのような……。


 「と、とにかくさ、まずは段階を踏んだ方が良い気がするんだ。いきなり同棲と言われても心の準備が……」


 「……や」


 「え?」


 「いや。そんな待ちたくなんてない。頷いてくれないと絶対にいや」


 震えた声で彼女は抱き寄ってきた。まるで親に捨てられるのを恐れる子供のような反応に流石に違和感を無視できない。

 やはり今の星良はどこか様子がおかしい。そもそも事前の相談もなく同棲を強引に進める時点で違和感はあったのだ。


 まるで何かを焦っているかのような……。


 困惑気味の俺に対し星良は小さく呟き始める。


 「だって……こうして繋ぎ止めておかないと誠也君がどこかに行っちゃいそうなんだもん」


 俺の腕を掴む彼女の手の力が強まる。

 だが対照的にその声は更に震え、どんどんと弱弱しくなっていく。


 「星良?」


 「だって最近の誠也君、色々な女の子に話しかけられて不安なんだもん」


 その言葉と共に彼女は胸の内に抱えている気持ちを吐露し始めたのだった。


 

 

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