95話 クズ共の末路①
もう毎日が憂鬱で仕方がない。いったい私はこんな窮屈な生活をどれだけ過ごせば解放されるのだろうか?
彼女の名前は田島彩香。かつて双葉と共に誠也に嘘告を働き、挙句見世物にした女子生徒の1人だった。
「全部……こうなったのも全部アイツのせいだ……!!」
苛立ちのあまり自分の親指の爪を噛みしめる。
彼女の脳裏に浮かんだのはかつての友人であり、今は憎々しい相手である三日月双葉だった。
全部あのバカ女のせいで私はこんな息苦しい生活を送る羽目となってしまった。
アイツが大道に嘘告なんてしなきゃこんな事にならなかったのに……!!
最初は軽い悪戯感覚のつもりだった。罰ゲームで少し冴えない男子をからかって、数日もたてば皆が記憶にすら留まらない、そんなちょっとしたお遊びのつもりだった。だが学園のアイドルである北條星良が乱入した事で事態は大きく変動してしまった。
私たちの悪戯が度を超えてると非難され、教室内では肩身の狭い思いをしている。クラスメイト達からは冷ややかな視線を毎日向けられる。
今までは私はどちらかと言えばクラスの中心に近かったのに。
クラス内でカースト上位として扱われていたあの頃が懐かしく、そして恋しかった。
そもそもだ、嘘告の件はほとんど双葉が墓穴を掘って暴露したようなものだ。それであの女だけが被害を被るならばまだ分かる。だがあの馬鹿はあろう事か私たちまで巻き込んだのだ。クラスメイトの注目が集まっている中で。
あの日以降から私たちに対する教室の空気は一変してしまった。
今までのように私が話しかけても場は盛り上がらない。それどころか冷ややかな空気に包まれ、仲の良かった友人達もよそよそしく振舞ってくる。
なによ……少し前まではお互い笑いあっていた関係なのに……。
そしてもっとも私にとって屈辱的だったのは大道に庇われた時だった。
不幸中の幸いと言うのもおかしいが、双葉とつるんでいた私たちに直接的ないじめなどは発生していない。だがそれでも時折誰がか私たちに陰口を言って笑っている事もある。そんな現場を見かけると大道、もしくは北條がまるで庇うように場を諫めるのだ。
私たちに騙され泣いていた男に気を使われ、その結果私は安寧が与えられる。
悔しかった。苦しかった。許しがたかった。
少し前までモブ男子の1人だったアイツが、今や北條と共にまるでクラスの纏め役のように扱われている。そして対照的に私は落ちぶれて憂鬱に学校生活を送っている。
これも全て双葉のせいだ。あの女と関わったばかりに私のスクールライフはお先真っ暗だ。
「絶対に許さないわよ双葉」
いくら憎悪しても教室内で双葉の姿を見る機会はもうない。
自分だけ退学という逃げ道を選んであの教室から逃げた。そのせいで残された私たちがアイツの分のヘイトまで集める事になったんだ。
◇◇◇
今日も部屋の中でオンラインゲームをやっていたらいつの間にか一日が終わっていた。
「くそっ、また負けたじゃねぇか。こいつ絶対チート使ってんだろ!」
苛立たし気にマウスを床に投げ捨てながら、中島馬頭は怒声を上げていた。
かつてはサッカー部で活躍していたこの男だが、今は自室にこもり怠惰な毎日を過ごす引きこもりと化していた。
学校を退学処分されて以降、彼の生活は一気に変わり果てた。一日中部屋の中に籠り続け、スマホを見たりネットをしたりと、外との交流を極度に恐れ遮断し始めたのだ。
「腹減ったな。もう晩飯の時間過ぎてんじゃねぇか……」
部屋の扉を開くとトレーに乗った晩飯がラップされて置いてある。
退学となってからクソおやじは俺を見放した。なにせ面と向かって『早く就職して家を出ていけ』と言われたぐらいだしな。
だがババアの方はまだ俺を庇ってくれた。それでも自分の境遇にストレスは溜まり、同情するババアの態度が逆に苛立ち、アイツに当たるようになっていた。そんな毎日をしばし続けていたらアイツも俺を見放したらしい。今は食事だけを部屋の前に置くだけで会話すらない。
廊下に置かれている晩飯を部屋の中に持っていく。
もうすっかり冷めており、ラップ越しに伝わる生温い温度がまたムカつく。
「温め直しぐらいしろよクソババアが……」
少し前までは家族3人で食卓を囲んでいたのに……。
「くそったれが。あの女のせいで俺の将来真っ暗だ……」
同じく退学となった三日月双葉は今頃はどうしているのだろうか?
今の俺と同じように落ちぶれている? それともアイツだけは親に支えられているのか?
考えても仕方がないと分かりつつも、俺の頭では一日一回はあのクソ女を考えてしまう。
晩飯を食い終わった後、またあの女に憎しみを募らせながら俺はネットゲームを再開するのだった。
「死ね、死ね、死ね……」
画面上の相手キャラを撃ちながら脳内では三日月双葉に変換し、ハチの巣にしながらまた一日が終わった。




