94話 憂いは晴れて……
「そんな事があってね、この南条さんに私も友達も助けられたのよ」
母さんから一通りの話を聞き終わり、どうして南条さんと一緒に居たのか俺は納得する。
だが星良の方がまだ訝しんでいる顔が解けておらず、南条さんへと厳しい視線を向け続けていた。
「雪子おばさんの窮地を救った事は納得したわ。でも車に同乗させるのはどうなのかしら?」
「いえそれは……」
しばし言い淀む南条さんだが、やがて観念したかのように白状した。
「実はですね、お嬢が交際してから誠也さんのご両親についても調べていたんですよ。雪子さんが誠也さんの親御さんであると知っていたので、安全を考慮しご自宅までお送りを……」
「……ちょっと待ちなさい。まさか雪子さんを付け回していたんじゃないでしょうね!?」
「誤解ですお嬢! 町で出会ったのは本当に偶然で!?」
自分の組の人間がずっと彼氏の母親を付け回していたのかと激怒し、星良が勢いよく立ち上がる。
興奮気味になる彼女を俺は宥めつつ南条さんの言い分を聞く。どうやら本当に軽い身辺調査だけで、絡まれている現場と遭遇したのは偶然らしかった。
「あまり南条さんを責めないであげて星良ちゃん。お陰で私も友人も助かったんだから」
「俺としてもお礼を言わせてください。南条さん、母さんを助けてくれてありがとうございます」
「いえそんな……」
俺と母さんの感謝する様子に渋々だが星良も引き下がってくれた。
ただ最後にもう一度だけ、南条さんへと向けて釘を刺してはいたが。
「誠也君のご両親にご迷惑を掛ける事は絶対に許さないわよ。その点は肝に銘じていなさい」
「もちろんです。組全体で共有している絶対事項です」
俺は見慣れた極道モードの星良だが、母さんは見慣れておらずちょっと驚いている。
そこから南条さんは一足先に車で帰った。母さんは遠慮しなくてもいいと言ったが、事務作業が残っているという理由で結局は見送る事となったが、それが気を利かせた嘘だと俺には分かった。だって星良と南条さん、明らかに目配せをしていたんだもん。
もう付き合いも長いから俺には分かってしまった。星良の視線が『空気を読みなさい』と言っていたことを。
南条さんが帰った後、残った星良は俺や母さんと楽し気に談笑する。先程までの重苦しい空気は完全に霧散し、和気あいあいとした時間が過ぎていく。
「あらもうこんな時間。そろそろお夕飯の支度しないと」
時計を見るとかなりの時間が経過していた。
あと30分もすれば父さんも帰って来る頃合いだ。
「それじゃあ今日はお暇させてもらいますね」
「また遊び来てね。じゃあ誠也、ご実家まで星良ちゃんを送ってあげなさい」
「うん分かってる。じゃあ行こうか星良」
彼女を送る為に一緒に外に出ようとする。
星良はそこまで気遣わなくて大丈夫だと言うが、俺も母さんももう間もなく空が暗くなる中、女の子を独り送るなんてしたくはない。
玄関で母さんに見届けられ星良の実家を目指す。
しばし並んで歩いていると、不意に星良が俺に話しかけてくる。
「正直ほっとしたよ。雪子おばさんに受け入れられて……」
その言葉に自分の家柄を知られた際の不安がやはりあったのだろう。
「でも雪子おばさん、私の出生なんて全然気にせず私を見てくれた。流石は誠也君のお母さんだね」
そう言いつつ俺の肩に寄り添うように一緒に歩く。
そこからはしばしお互いに会話はなかった。ただ無言で歩いているのにその時間がとても心地よく、自然と俺たちの口元には笑みが浮かんでいた。
だがもう間もなく星良の家へと辿り着く頃、彼女は再度口を開いた。
「これで後は誠也君のお父さんに認めてもらうだけだね」
「そんな心配しなくてもいいよ。間違いなく母さんと同じく祝福してくれるからさ」
「そっか、じゃあこれで完全に私も誠也君も一切の憂いはないね」
そう言うと彼女は俺の前に回り込んで来て満面の笑みを向けてくる。
「ご両親の許可も貰ったし、これからはもっとガンガンと行くから覚悟してね」
ウインクと共にそう宣言させれたてドキッとする。
そんな俺の反応を見た彼女は、小学生時代の悪戯っ子の顔を見せてにまっと笑ったのだった。




