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91話 自宅前で起きた予想外


 小日向先輩とのやり取りを事細かに話し終えた後、星良はどこか不貞腐れたような表情を俺に向けていた。


 「む~……なんだか危機感を感じるかも」


 「おいおいやめてくれよ。俺があんな非常識な人に靡くわけないだろ」


 「でも小日向先輩も美人だし……」


 「だからやめてくれって!」


 疑いの眼を向ける恋人に必死に否定を続ける。

 もしかして星良視点では俺って意外と軽薄な男に見えているのか?


 しばしふくれっ面を維持する星良だったが、やがて小さく噴き出した。


 「ぷっ、あはは冗談だよ。ちょっと面白くなかったからからかっただけ。でも……やっぱり彼女としては不安もあるんだよ」


 そう言いながら彼女は俺の腕に強く抱き着いてくる。

 口調こそ軽いが、腕に感じる力強さから彼女の不安がひしひしと伝わる。


 冷静に思い返せば、星良の立場からすればあまり気分が良くなかったのかもしれない。

 確かに小日向先輩の方から一方的に絡んできたとはいえ、自分の彼氏が目の前で積極的にアプローチを掛けられれば面白くもないだろう。

 

 まぁ……あの先輩の場合は〝積極的〟でなく、〝狂気的〟と表現した方が正しいのかもしれないがな。


 まるで俺の腕を離すまいとしがみつく星良に向けて、優し気な口調で言った。


 「さっき小日向先輩にも言ったけど俺の心は星良一筋だよ。だからさ、そんなに不安にならないでくれよ。心配しなくても俺は他の女性の元にふらふら付いていかないから」


 彼女の頭を撫でながらそう言うと照れくさそうに笑ってくれた。

 

 「えへへ、誠也君もどんどん大胆になって来たよね」


 「それを星良が言うか?」


 楽し気に笑いながら口にする星良に思わず苦笑が漏れる。

 大胆ぶりで言うならば間違いなく星良の方が上だろう。なにしろ正式な交際関係を結ぶよりも先にキスをしてきたのだから。

 だが最近の俺も彼女に引っ張られている気がする。先程なんて大勢の野次馬の前で彼女の頬にキスしてしまったし……。


 「でも嬉しかったなぁ。先輩の前でほっぺにキスして堂々と愛の公言をしてくれたことは」


 「うぐっ、あまり掘り返さないでくれ。冷静に思い返すとかなり恥ずかしいから」


 落ち着いた今、興奮していたさっきの自分を思い出すと全身がむず痒い。

 こちらをじっと見つめる星良の瞳に耐え切れず、視線を横にそっとずらし目線を切る。すると待っていましたと言わんばかりに頬にチュッと柔らかい感触が伝わった。


 「うふ、さっきのお返し♡」


 「~~~~……たくっ……」


 完全に自分を手玉に取って楽しむ星良に何も言えず顔だけ赤く染める。

 とりあえず悔しいからガシガシと彼女の頭を撫でまわしてやった。ただ本人は『きゃー』っなどど言いつつ笑っているが。


 やがて俺の自宅が見えてきた。だが……すぐに違和感を察知する。


 「あれって……」


 自宅の前に一台の車が停まっていた。

 しかもその車は見たことのある黒塗りのベンツ。


 「な、なんで……」


 今しがたまで上機嫌だった星良の顔にも焦りが滲んでいた。

 視界に映り込むベンツ。その持ち主が誰なのか俺ですら予測が立つのだ。星良が気付かないわけがない。


 動揺を抱えたまま俺たちはベンツへと歩み寄ろうとする。

 だが先に車のドアが開き、中から予想通りの人物が現れたのだ。


 「お久しぶりです誠也さん。急な訪問、大変申し訳ありません」


 「南条さん……」


 車から出てきたのは北條組の若頭である南条さんだった。

 だが、真に俺が混乱に陥ったのは次に車内から出てきた人物を見てからだった。

 

 「あら、誠也じゃない。それに星良ちゃんも」


 「え、母さん?」


 車の中からなんと母さんまで一緒に出てきたのだ。

 普段よく見せる何食わぬ顔のまま母さんは俺たちに話しかけてきた。


 「あら二人とも仲良く腕なんて組んで。もしかして放課後デートでも楽しんでいたのかしら?」


 驚きのあまり腕を組んだまま硬直する俺たちを茶化してくるが、今はその空気に乗ってあげる事はできなかった。

 特に星良のショックは大きかったらしく、厳しい視線を南条さんへと向けていた。


 「どうして雪子おばさんとあなたが一緒に居るの? 雪子おばさんにいったい何をしたの?」


 「いえお嬢、自分は……」


 「早く答えなさい! まさかおばさんに脅しをかけるような真似でも……!?」


 「ちょ、落ち着くんだ星良!!」


 恐らく南条さんはどう話を切り出そうか悩んでいたのだろう。しかし星良からすればそれが歯がゆかったらしく、感情的になって叫んでしまっていた。

 すぐに俺は彼女を宥めようとするが、時すでに遅しだった。


 「え、どうしたの星良ちゃん? それに今の言い方この人と面識があるの? 脅しをかけるってどういう意味?」


 「あ……その……」


 一見強面の相手に臆することなく怒声を浴びせる星良の様子に母さんが戸惑う。

 俺の視点からすれば星良は北條組組長の娘。だから若頭の南条さんに強気な態度を取るのも理解できる。だが母さんはまだ知らないのだ。星良が北條組の、極道一家の組長の娘である事実を。


 これ……もしかしてややこしい事態になってきたか?


 


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