90話 軽蔑
星良に半ば強引に連れられ百地と御手洗先輩を二人きりした後、俺は帰路につきながら彼女から事の顛末を話された。
「そうか……そんな事情があったんだ」
「うん。それで私と先輩が一緒に出てきたってことなんだ」
「あの山中先輩って女子に騙されていた事は同情できるけど、でも御手洗先輩を慰める気にはならないな」
「私も同じ気持ちだよ。あの人の意気地のなさが原因で……」
ゲームセンター内での体験を話し終わった彼女に対し、俺はどこか冷めた対応をみせる。だが星良もそんな俺を咎めずむしろ同調する。
事情を全てを聞き終わり、恋人に陰で騙されていた御手洗先輩には同情の気持ちもある。だが、完全に彼に対して肩を持つ気分にもなれなかった。
どうして御手洗先輩を擁護する気分になれないのか――それは彼の臆病な理由のせいで友人が苦しんだ事になったからだ。
星良の話では御手洗先輩はなんと百地に恋心を持っていたらしい。それなのに彼は百地でなく山中先輩を選んだ。その結果、両想いだった二人は結ばれなかった。
どうして御手洗先輩が百地でなく他の女の子を選んだのか。その理由は失恋した場合、幼馴染としての繋がりが消えるかもしれない、その怖ろしさからだったらしい。
この話を聞き終えた後、ハッキリ言ってしまえば先輩に対して腹が立った。
「いくら幼馴染としての関係が壊れる事を恐れたとはいえ、本当の気持ちを無理やり隠すなんておかしい。俺には理解できない行動だな」
ずっと顔を合わせてきた関係だからこそ、付き合いの浅い人間には抱かない不安を抱える事もあるだろう。だけどそれを理由に本心を殺すこと、それは決して正しい選択ではないのだ。
「そもそも百地への気持ちを忘れるために他の娘と交際ってのも、相手の女の子に失礼だしな」
今回の先輩の交際相手はかなり悪質な性格だったから良かったが、もしも相手の娘が本気だったと思うと憤りも覚える。相手の女の子は本気で御手洗先輩を想っているのに対し、先輩の心には常に幼馴染の百地が住み着いて居る。そんな浮ついた心構えではいつかは相手の娘を傷つけ、最後には破局するだろう。
「私も先輩の本音を聞いて許せなかった。気が付いた時にはいけないと分かっていても手が出ていたし……」
僅かに苦い顔のまま自分の掌を見つめ星良はぼやく。
先輩の左頬が赤く腫れた理由を知ったと同時、自業自得だと思った俺は決して間違ってないだろう。
「しかし百地が少し心配だな」
どうやら御手洗先輩は本音を百地に告げるつもりらしい。その為に星良に頼み二人きりで置き去りにしたのだが、俺には不安しか残らない。
確かに百地は御手洗先輩へ好意を抱いていた。だが先輩の口から真実を聞き、そのまま二人仲良く結ばれる、なんてご都合展開にはならないだろう。間違いなくかなりの波乱が予測される。いや、もはや必然と言った方が正しい。
「あの二人……無事にやり直せるだろうか」
「う~ん……多分無理かな」
「うぇ!?」
俺の独り言に対し、星良の口から出たのは信じられないほど薄情なセリフだった。
俺の口から間抜けな声が飛び出るが、それを構うことなく星良は続けた。
「百地さんの気持ちを考えると、私はあの二人がこれまで通りの関係に戻れるとは思えないかな」
まるで他人事のような星良の発言。無意識に俺の表情は怪訝なものに変わっていたらしく、どこか納得していない俺に彼女はこう言ってきた。
「ゲームセンターで御手洗先輩は自分と百地さんを二人きりにしてほしいって私に頼んできたの。でもね、その頼みを了承したのは決して二人の仲を取り持つためじゃない。百地さんに決着をつけさせる機会を与えたいと思ったからなんだ」
「決着を……つける機会……」
「そう。御手洗先輩の本心をちゃんと知ってもらって、その上で百地さんに決断してもらいたかったから。先に進むことを恐れ、本心を隠す行為を取った先輩を私は赦せない。二人はむしろ適切な距離を作った方が良いと思うの。少なくとも私は本心を胸の奥に隠し、逃げ道として他の女性とお付き合いする男性は信用できないから……」
その言葉は疑念に包まれた俺を納得するに足るものだった。
きっと星良は間違った選択を取った先輩を許せなかった。
だからこそ百地と先輩を二人きりにし、彼の過ちを彼女に知ってもらう場を設けたのだろう。
「ただ、全てを聞き終えた後でも百地さんが彼を選ぶなら……それは彼女の自由。その時は素直に祝福しようと思う」
そう口にしつつも、その未来を望んでいない事は彼女の表情から明らかだった。
とはいえだ、これ以上は俺と星良が口を挟む問題ではない。最終的に決めるのはあくまであの幼馴染たちなのだ。
ここで百地についての話題は一旦終了する。
そして次に出てくる話題は必然的に小日向先輩に対するものだった。
「と・こ・ろ・で、私がゲームセンターに居る間の誠也君の方の話も詳しくしたいけどいいかな? 誠也君と小日向先輩は私が戻る間にどんなお話をしていたのか、詳しく教えてくれるかな~」
「わ、分かってるって。別に隠す気なんてないって……」
黒い影を差しながら笑みをぶつける恋人に対し、俺は背筋に寒気を感じつつ答えていくのだった。




