87話 気まずい二人
ひとまずゲームセンターから俺たちは離れ、今は駐車場近くの空いた空間に移動していた。
「いや~、まさか誠也君が人前であそこまで攻めるとはねぇ」
移動を終えてすぐに百地がニマニマと俺をからかってきた。
その隣では御手洗先輩もどこか生暖かい笑顔を俺たち二人に向け、そして星良は気恥ずかしそうにしつつも、どこか満足げな顔をしている。
「それにしても星良はさっきからご満悦だね」
「うん。だってあれだけ人の目がある場所でも堂々と私を求めてくれたんだもん。喜ばないわけがないよ」
俺とは違い星良の方は羞恥心より感激の方が大きいらしく、今もまだ余韻を思い返しては微笑を浮かべ続ける。
小日向先輩を追い返すためとはいえ、多くの通行人の前で恋人にした大胆な行いに今更羞恥心がぶり返す。
そうしてしばし百地にからかわれたが、日頃の彼女を知っている身からしたらどこか覇気がない。
どことなく百地がぎこちない理由、それは間違いなく一緒にこの場に居る御手洗先輩の存在だろう。
「……ところでさ、どうして蓮司が星良と一緒に居たのかな?」
やはり百地の口から出てきた疑問はこれだった。
元々は百地の御手洗先輩に対する想いが実らず失恋し、俺と星良は彼女のストレス発散に付き合いゲームセンターへとやって来ていた。その際に俺と星良だけが同じゲームセンター内で御手洗先輩を発見し、百地には気付かれぬように彼の存在を秘匿し続けていた。
だから彼女視点からすれば、星良と一緒に彼が登場した事に疑念は尽きないだろう。
だが俺もまだ事態を完全に把握できていない。
ゲームセンター内に先輩が居たことは知っていたが、まさか星良と共に俺たちの前に出てくるとは予想外過ぎた。
「それにさ、なんだか蓮司の左頬が晴れているのも地味に気になるし……」
そこについても正直かなり気になっていた。
明らかに彼の頬は赤く腫れており、まるで女性に平手打ちを受けた痕跡のように見える。それもかなりの威力の一発……。
百地の当然の指摘に対し、御手洗先輩はどこかバツの悪そうな表情を浮かべる。
「ああ、この頬については仕方ないというか、自業自得というか……」
そう言いながら彼は一瞬だけ星良へと視線を傾けていた。
向けられた視線に対し星良はなんだか少し怒っているようにも見え、事情が呑み込めない俺が詳しく話を尋ねようとする。
「なぁ星良。いったいゲームセンターの中で何があったんだ?」
そもそもだ、俺と星良が施設内で御手洗先輩を発見した際、彼は恋人と一緒に居たはずなのだ。その恋人の姿は見えず、恋人を置いてどうして先輩は星良と二人で行動をしていたかが気になって仕方がない。
俺が詳しく事情を訊き出そうとするが、彼女は口元にしーっと指を立ててジェスチャーをしつつ、耳元でそっと囁きかけてきた。
「詳しい事情を話す前に、私たちは少しここから離れよう」
声を潜めながら彼女の視線は百地と先輩へと向いている。
その態度とセリフから、どうやら百地と先輩を二人きりにさせたいらしい。
「それじゃあ百地さん。今日はここで解散ということで私と誠也君はもう行くね」
「えっ、ちょ、待ってよ! 普通このタイミングで私と蓮司を二人きりにする!? 私まだ全然この状況を飲み込めていないんですけど!?」
軽い別れの挨拶と共にあっさりと退散しようとする星良。これには流石に百地も焦りを見せていた。
まぁ慌てるのも無理はないだろう。だって今日失恋したばかりだというのに、その失恋相手と自分を二人きりにさせようとしているのだ。
流石に俺も星良へと物申そうとするが、彼女は力強く俺の腕を引いてこの場を強引に離れようとする。
「ちょっと本気で私たち二人だけにする気なの!?」
「ごめんなさい。百地さんからすれば色々と追い付いていないかもしれないけど、御手洗先輩はあなたと二人きりで話したいみたいなの」
「ああ、その通りだ。気を使ってもらって悪いな北條さん」
動揺を隠せない百地とは対照的に、御手洗先輩はとても冷静だった。
「なぁ百地。少し……いやかなり大事な話があるんだ。どうか聞いてくれないか?」
落ち着いた口調で百地へと語り掛ける先輩。
その意味深な態度に彼女は怪訝な表情を浮かべる。
「……なに、何を話したいのよ?」
まだ納得しきれていない顔を浮かべつつも、小さく頷いて彼女は幼馴染と向き合う。
「じゃあ行こう誠也君。事情は帰りながら話すから私たちは退散するよ」
「……ん、分かった。ちゃんと何があったのか説明してくれよ」
この空気の中では言及もしづらく、半ば強引な形で俺と星良はこの場を後にした。
本当にあの二人だけ残して大丈夫なのか……?
一抹の不安を覚えつつも、星良が友人を傷つける為にこんな馬鹿な事をするとも思えない。間違いなく意味があっての行動なのだ。とにかくゲームセンターの中で何があったのか後から訊くとしよう。
こうして残されたのは百地と御手洗先輩の二人だけ。
気まずい空気が蔓延する中、最初に口を開いたのは御手洗先輩だった。




