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73話 がまんできないよぉ(百地視点)


 「いやーあはは、申し訳なかったね二人とも」


 逃げるように蓮司の教室を出た後、私は精一杯の虚勢を張って誠也君と星良に笑顔で謝っていた。


 「せっかくサポートをお願いしたのに徒労で終わらせちゃってさ。あっ、付き合わせちゃったお礼に自販機でジュース1本ぐらいは奢るからそれでチャラってことでお願いしますね」


 私が笑顔でそう言っても、二人は複雑な顔で小さく頷くだけだった。


 間違いなく私が無理して虚勢を張っているとバレている。

 自分でも痛々しい態度だと悟っているが、それでも殻元気を振りまいてないと耐えられそうになかった。


 だけどこんなやせ我慢、二人の前では無駄な抵抗だとすぐに悟る。


 「ちょっと待っててね。今から自販機で何か買って……」


 私が背を向けながらこの場を離れようとするが、その足は背後からの抱擁で引き留められた。


 「ちょ、どうしたのさ星良~?」


 後ろから抱き着く星良に対して苦笑を浮かべる。

 

 「ほら、いくら女同士でもスキンシップはほどほどにね。じゃないと誠也君だって嫉妬しちゃうよ」


 普段通り、普段通りにと心がけるが私の声はきっと震えていたんだろう。

 この優しい幼馴染カップルは、そんな強がりを見せる私に慰めの言葉を掛けてくれた。


 「辛かったね」


 私に抱き着きながら星良がそっと呟いた。

 その短くも、私を想ってくれる優しい声に涙腺が一気に緩んでしまう。


 「あはは……私も悪かったんだよ。今更になって告白しようとしたんだから……」


 「うん……」


 「そのさ、ちょっと調子にノッていた部分もあったのかも。幼馴染なんだから、付き合いが長いから特別に見られているんじゃないかって……」


 「うん……」


 「ばか……だよね……。中学の時から好きだって意識していながら、今の今まで自分の気持ちを押し殺してさ………」


 後悔の念を言葉にして次々と愚痴の様に二人に零し続ける。

 だけど星良も誠也君もそんなグチグチ言う私を面倒くさがらず、1つ1つの呟きを聞き届けてくれる。


 ああもうダメだ。こんな優しくされたら……我慢なんてできないよぉ……。


 「うっ、ぐ……うぁぁぁ~……」


 気が付いたころにはボロボロと泣いていた。

 まるで幼子が母に縋る様、私は星良の胸に顔を埋めて涙を流す。


 今にも崩れそうな私を星良は強く抱きしめ、誠也君は無言で頭を撫でてくれた。


 それからしばらくの間、その温もりに埋まり私は号泣し続けた。


 ほんと……この二人は優しすぎるんだから……。



 ◇◇◇

 


 私の胸に顔を埋めて泣き続ける百地さんの姿に、こちらまで悲しい感情が誘発されそうになる。いや、もう私はもらい泣きしてしまっていた。

 

 私は誠也君と無事に幼馴染の垣根を越えて恋人同士になる事ができた。

 だけど、彼と結ばれない未来だってあり得た話なのだ。その場合、きっと私は目の前の百地さんと同じく泣きじゃくっていた事だろう。


 だからこそ百地さんの苦しみに共感してしまい、うるんだ瞳から涙を抑えきれなかった。


 「ぐすっ……あはは、どうして星良が泣いてるのさ」


 「ごめんなさい。だって…だって……」


 「ほんと、星良は優しい娘だね。私の失恋で自分のように泣いてくれるんだから」


 ひとしきり百地さんが泣き終えるが、私の涙は止まってくれず彼女に笑われた。

 すると誠也君の空いているもう片方の手が私の頭に伸びてきて、百地さんだけでなく彼は私の頭まで撫でてくれる。


 「少しは落ち着いたか二人とも?」


 私たちがそれぞれ平静を取り戻すまで、誠也君はただ見守ってくれた。

 

 「たく~、星良もだけど誠也君もけっこう女たらしの節があるんじゃないの? ガールフレンドだけでなく私まで口説く気?」


 自分の頭に乗っている誠也君の手を握りながら彼女は楽し気に笑う。

 その表情はやせ我慢の時の笑顔と違い、正真正銘いつも教室で見る彼女の温顔だった。


 「あー……うん、もう大丈夫。ありがとね二人とも」


 溜め込んでいた感情を全て吐き出し終えてすっきりしたのか、目元を赤く腫らしているが百地さんはいつもの調子に戻ってくれた。

 

 「しかし告白すらできずに失恋とは、恋愛の神様も中々にシビアだね」


 「百地さん……」


 「あっ、ごめんごめん。でももう引きずってないから安心して」


 慌てながら百地さんはもう大丈夫だと告げると、その場でグーッと背伸びしながらにかっと笑う。


 「確かに悲しみはあるけどさ、でも蓮司が幸せになるならそれでいいんだよ。幼馴染が幸せな未来を歩める、それだけで私は大満足だよ」


 すっぱり言い切る彼女は笑いながらそう言い切った。

 どこまでも逞しいその姿に、私は同じ女性として心底この友人を尊敬するのだった。




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