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72話 残酷なサプライズ


 「そのさ、実は蓮司に話したいことがあるんだ。その、この後に時間あるかな?」


 「ん……少しだけなら大丈夫だ。さっきも言ったけど今日は部活も休みだし。でもここじゃダメなのか?」


 「うん。その、ここではちょっとね……」


 流石に人目のつく場所では百地だって告白しにくいだろう。

 御手洗先輩を見ながら、百地は俺たちにチラチラと目配せをした。


 恐らくはフォローをお願いしているのだろう。


 ここで俺と星良は意を組んでさりげなく動こうとする。多少強引でも御手洗先輩と百地を人目のつかず、二人きりになれる場所へそれとなく誘導する事にした。

 ここでただ見ているだけではサポートに来た意味がない。そう思い俺が先輩へ言葉を投げようとした時だった。


 「あ、実は俺も百地に報告しておきたい事があるんだ」


 「え、報告?」


 「ああ、百地とは付き合いも長いしな、ちゃんと報告しておきたくて」


 この時、俺と星良には御手洗先輩が何を言おうとしているのか分からなかったが、百地だけは何かを悟っていたのかもしれない。


 彼女は僅かに唇を震わせながら、想い人が言おうとする事の先を促した。


 「何を……報告したいの……?」


 「ああ、実はな、俺に彼女ができたんだよ」


 「……へ?」


 百地の口からは信じられないと言わんばかりの動揺の声が漏れた。


 それは俺たちにとってもあまりにも残酷な通知だった。

 まさに今、クラスメイトが告白しようと決心した矢先、その相手からの交際報告は痛すぎる。


 おいおい、流石にこれは惨くないか。


 思わず俺は顔が引きつり、星良に至っては両手で口を押えて心底ショックな顔を隠せないでいた。

 そんな俺たちの反応など気付きもせず、当の先輩はというと恋人自慢をし始める始末だった。


 「相手はバスケ部のマネージャーでさ、とてもいい娘なんだよ。しかし俺も正直驚いているんだよな。まさかあんないい娘から告白されるなんてな~」


 「へ、へ~……そうなんだ」


 「いや~ついに俺にも春が来たって感じかな。今日はバスケ部の練習も休みだからさ、この後にその娘とデートなんだよ」


 「そう……」


 先輩の一言一言が百地の心を切り刻んでいく。


 もう……やめてやってくれよ先輩……。


 無言でそんな訴えを送るが、当然届くわけもない。


 決して御手洗先輩は嫌味のつもりで言っている訳ではない。彼にとっては付き合いの長い幼馴染に自慢混じりの報告のつもりなのだろう。

 だが告白に来た百地の事情を知る俺たちからすれば、このサプライズはあまりにも残酷すぎる。


 だが、俺も星良も先輩へ怒りが湧くでもない。何も言えずただ黙り続ける事しかできなかった。

 だって恋愛は自由であり、御手洗先輩は百地に何か不義理を働いたわけでもない。二人は正式に交際していた訳でもなければ、百地だって今まで彼に何も言わなかった。浮気行為でもなければ、告白を保留しているでもないのだ。ならば部外者の自分たちに先輩を責める道理はない。


 ただタイミングが悪かった。究極的に言えばそれだけなのだ。


 きっと百地もそれを理解できていたのだろう。


 「そっか、うんそっか! ちゃんと幸せにしてあげなさいよ!」


 乾いた笑みを浮かべていた彼女だったが、顔を上げると一気にいつも通りのテンションへと戻っていた。

 何も知らない御手洗先輩は『ああ』と気軽に返事をしているが、俺たちはとても見ていられなかった。


 教室で俺や星良に絡む際の元気な彼女を知っているからこそ、今の百地は殻元気に振舞って無理をしている事がひしひしと伝わって来る。


 いつの間にか星良は彼女の傍まで寄り添い、そっと手を握っていた。


 「あの、百地さん。そろそろ……」


 これ以上この場に居てもただ傷が増すだけでしかない。それを理解できるからこそ、星良はさりげなくこの場から退散しようと促す。

 その気遣いを受け取り、百地は無言で頷くと教室を後にしようとする。


 「それじゃあ私たちはもう行くから。彼女さんを泣かせるんじゃないぞ~」


 「え、俺に何か用があったんじゃ……?」


 「んーん、大した用事じゃないからまた今度メールで送るよ」


 決して自分の動揺を悟られまいと、彼女は明るさを振舞ったまま御手洗先輩の前から立ち去る。


 だが百地への追い打ちはこれで終わらなかった。


 「おーい蓮司君、来たよ~」


 教室を出る俺たちと入れ替わるように、1人の女子生徒が教室にやって来た。

 その女子生徒は御手洗先輩の元まで迷いなく近づき、そのまま彼の腕を取って楽しげに笑う。


 その光景を視界の端に捉えた百地は笑顔を崩さないまま、目尻に涙の玉を浮かべていたのだった。


 彼女の両隣に居た俺と星良はモロにその涙を目撃し、俯いて唇を結ぶ事しかできなかった。



 

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