59話 苦手な先輩
ようやく2人目の3大アイドルを出せた。3人目はいつの登場になるやら……。
「いや~奇遇だね。まさか同じ学園アイドルとこんな場所で遭遇するなんてね~」
「そう、ですね……」
「なんだか羨ましいな~。私が一人寂しく買い物している間、星良ちゃんは彼氏さんとラブラブしているなんて~。なんだか同じ3大アイドルとして負けた気分かも~」
俺たちの前に現れた女性、それは同じ学校の2年生の小日向瑛美だった。
学園3大アイドル、それは俺の在籍している学校の3人の美少女に与えられた称号だった。
決して正式なアイドル選挙のような投票を行ったわけではない。だが彼女達の美しさは日常生活の中でも、多くの男子の心を射止め、同姓ですら見惚れる程だった。そして気が付けばこのような呼称が校内中に広まっていた。
3大アイドルはそれぞれの学年から1人代表で選ばれており、1年の代表が俺の恋人である北條星良。そして3年の代表は現生徒会長。
そして2年の代表こそ、この小日向瑛美だった。
直接会話をした経験などないが、有名人と言う事もあり俺も彼女の名前は知っている。
「ありゃりゃ、腕なんか組んじゃって~。お熱いですな~ヒューヒュー」
思わぬ有名人との邂逅に俺が僅かに動揺していると、小日向先輩がグイッと距離を縮めて俺の前までやって来る。
「ふ~ん、星良ちゃんってこういう男の子がタイプなんだ~」
まるで値踏みするかのようにジロジロと俺を見回す小日向さん。
仮にも初対面の人間との距離感とは思えず、俺が一歩後ずさる。そして合間に星良が庇うかのように割って入った。
「あの、誠也君が困っているので……」
「あっ、ごめ~ん。星良ちゃんの選んだ男の子がどんなのかな~って思ってさ~」
なんだか……うまく言えないけど嫌な人だな………。
別に何か気に障る事を言われたわけではない。だが俺はこの人のことをどうも好きになれそうにないと思った。
「でもでも、君も中々凄いね~。私と同じ学園アイドルを射止めちゃうなんて。大人しそうな顔して意外と押しが強いオラオラ系かな~」
「はは、どうも……」
「でもおめでたい事には間違いないからね~。星良ちゃんもいい人が見つかって良かったね~。君も可愛い彼女さんを手に入れておめでと~」
「……ありがとうございます」
まるで感情の籠っていない感謝を星良は口にする。
普段ならば失礼じゃないかと注意をするが、この時の俺は何も言えなかった。
やっぱり……俺はこの人をどうにも好きになれそうにない。
その最大の理由、それは彼女が俺に向ける〝目〟だった。
口では俺に『おめでとう』なんて言っているが、この人は俺たちを祝福なんてしていない。だからと言って、俺を見下したり、嘲ったりもしていない。
この人の双眸は俺や星良を見ていない。まるで関心がない。だから彼女の口から発せられる言葉が信じられないほどに響かないのだ。
かつて縁を切った幼馴染の双葉も、言葉が響かないという点は同じだったが、彼女の場合は敵意にしろ憎悪にしろ、言葉には感情が乗っていた。だがこの人には何の感情も言葉に乗っているとは思えず、まるで綿毛の様に軽く感じて仕方がなかった。
「あっ、そろそろ電車来そうだね~。お邪魔にならないよう、私は後ろの車両に行くからごゆっくり~」
ほとんど一方的に彼女は話し終えると、そのまま軽い足取りと共に去っていく。
一度たりとも振り返らない彼女の後ろ姿を見つめながら、星良はどこか複雑な表情を向け続けていた。
「あのさ、もしかして小日向先輩と何かトラブルでもあったのか?」
同じ学園3大アイドル、何か過去にいざこざでもあったのか訊いてみるが、彼女は首を左右に振って否定する。
「確かに一度だけ、同じ学園アイドルに興味があったらしくて、彼女の方から話しかけられた事はあるの。でも別に何か嫌なことを言われたり、されたりはなかった。でもね、正直に言って私はあの人が苦手。だってあの人、まるで感情を籠めないのに、楽し気な口調で話すんだもん。とても不自然で……嫌なんだ……」
直接表現はしないが、おそらく不気味に感じるのだろう。
星良の彼女に向ける印象は、見事なまでに俺と同じだった。
まるで人形と話をするかのようなあの不気味な感覚、それがどうにも消えてくれないのだ。
「まぁでも、そこまで気にすることはないんじゃないか? だってあの人は星良や俺に危害を加える訳でもないんだし……」
「……うん、そうだね。私たちが神経質になる理由もないもんね」
実際にあの人の存在が俺たちの関係に影響を及ぼす訳でもないのだ。気にするだけ無意味なこと、そう割り切って俺たちは仲良く談笑しながら電車に乗った。
ただこの時、俺も星良もどうしてなのか、彼女の乾いた笑顔が忘れる事ができなかった。
今日は昼の12時にも投稿しますので、よければ見てほしいです。




