46話 俺は馬鹿だ
この回は前話の誠也サイドとなります。
星良や双葉視点が多かったので、誠也視点を入れました。1章のクライマックス間近なのに、主人公が介入してないのが気になりまして……。
学校が終わり、自宅近くまで星良を見送って別れた後、俺は特別な事などせず普段通り自宅で変わらぬ夜を過ごしていた。
本来であれば昼間に大勢の人間に不当な暴力を受けたのだ。対策を考えるなり、誰かに相談するなり行動を起こす事が当たり前なのだが、星良にこの件を任せてほしいと言われ、今の俺には他に打てる手立てが見当たらなかった。
星良の話では、北條家とコネのある弁護士に相談し、そこから反撃の手立てを考える予定となっている。
恋人の組に世話をかけて不甲斐なさを感じてはいたが、それ以外にもう1つ、俺の中では一抹の不安がこべりついていた。
「やっぱり…確認した方がいいのかな?」
このセリフを俺は自室で零したのは何度目だろうか?
俺の胸の奥の靄が晴れずにいる理由、それはもちろん昼間のサッカー部の先輩達の暴行、そして双葉への疑いもあるのだが、俺が一番引っ掛かりを感じていたのは星良のことだった。
あの時、嘲笑と共に先輩たちは俺を馬鹿にして立ち去って行った。その際、先輩達を見る彼女の目が正直怖ろしかった。
あの時の彼女の瞳は、昨晩の冷酷な時の星良のものとダブったのだ。泣きじゃくる舎弟に容赦なく〝ケジメ〟を執行させようとした時と同じ……。
まさか星良、北條組の人達を使って直接危害を加えて黙らせるつもりじゃ……。
いや、いくらなんでもそこまで強引な手段に出るはずがない。きっと俺が考えすぎているだけで、星良はちゃんと弁護士先生に相談を持ち掛けているはずだ。
頭の中ではそう思いつつ、浮かび上がるのは〝組長の娘〟として見せた彼女の冷酷な貌だった。
もしも星良が俺を助けようと無茶を働いているとしたら?
自意識過剰と言われるかもしれないが、これまで彼女は俺の為に何度も激昂した。
双葉達に嘘告をされ見世物にされた時も、クラスメイトから疑惑の目を向けられた時も、彼女は周囲を敵に回す事もお構いなしに俺の味方となってくれた。
もしも、もしもの話だが、今回危害を加えた先輩達を敵とみなし、同じように暴力に訴える手段に出たとしたら……。
気が付けば俺は星良へと電話を掛けていた。
くそっ、どうして俺はもっと早く最悪の可能性を想定しなかった!?
他の打開策が浮かばなかった俺は、彼女の案に乗る事にして全てを任せた。
今にして思えば自分の間抜けぶり、そして無責任な振る舞いに怒りすら感じた。背負わせるだけ背負わせ、後は彼女だけに判断を委ねるなど正しいやり方ではなかったのだ。
何もできない、そんな俺の無力を間近で見た彼女なら、最悪は強引な手段で俺を護ろうとする可能性はあり得るというのに……。
星良へと連絡を入れたが、中々出てはくれない。
普段であれば3コール以内に出てくれる彼女が、今は出てくれない。その事実に俺は更に焦燥感が強まっていく。
どうして今日に限ってこんなに出るのが遅いんだ? もしかして電話に出られない状況に居る?
そこまで思考が進むと、俺の額からじんわり汗がにじむ。
もしかして、この瞬間に彼女は問題解決のために動いてくれているのか? 昼間に言っていたように弁護士先生に相談? それとも……もっと強引な方法で先輩達を……。
最悪の想像が脳裏をよぎった直後、コール音が途絶え星良はスマホに出てくれた。
『はい、もしもし』
「あっ、星良。こんな遅くにごめんね」
ひとまず電話に出てくれた事に安堵する俺だが、会話して早々に違和感を察知した。
あくまで普段通り受け答えしようとする彼女だが、俺の耳にはわずかな動揺が見受けられた。まるで後ろめたい事があるかのように……。
俺はあえて揺さぶりをかけるような言葉をぶつけてみた。
「弁護士に相談って話、あれって嘘だよな?」
『……ッ!?』
もう確定だった。星良は弁護士に相談などしていない。
もっと手早く、そして強引な手段を用いて俺を護ろうとしている。
彼女自身も隠し切れないと悟ったのか、全てを赤裸々に話してくれた。
少し問いただすようなやり方で嫌な気分になったが、彼女に本当のことを尋ねる。
やはり弁護士先生に相談というのは嘘で、彼女は北條組の力を使い先輩達から自白を取った後らしい。
その言葉を聞き、俺は自分自身に怒りが湧いた。
何をやっているんだよ俺は? こんな重荷を一方的に恋人に背負わせて何様だよ!?
この瞬間、俺は完全に悟ってしまう。
きっとこの先も彼女は俺を護るためならば、どんなリスクを背負ってでも組の力を行使してしまう。自分の危険など顧みず、ただ俺を最優先して生き続ける。そんな関係……恋人などと呼べる訳もない。
俺が頼りないから……星良は無茶をしようとする。
そんな未来が嫌で嫌で、俺は気付いたら彼女にこの言葉を送っていた。
「正直に言うとさ、俺さ……少し星良に怒っているんだ」
画面の向こう側でショックを受けた息をのむ音が聴こえてきた。
少々胸が痛んだが、彼氏だからこそ俺は彼女に教えてあげなければいけない。今の星良の間違ったやり方を止めるためにも。




