44話 最後通告
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ここから物語の1章は大詰めとなっていきますので、今後の展開をお楽しみください。
いい加減、ヒロインとの甘々なやり取りも増やしたいですし……。
鼓膜を突き破らんばかりの怒声、だが不思議と私は冷静に聞いていた。
分かっていたからだ。都合が悪くなれば、彼女は激情をぶつけて有耶無耶にしようとする事を。
『いい加減にしてよ。どこまで私の邪魔をすれば気が済むの?』
「邪魔? 私がいつ、あなたの邪魔をしたというの?」
『決まっているでしょ! 私と誠也の仲を引き裂こうとした!! それ以外に何があるっていうのよ!!』
背後からは彼女の激昂だけでなく、何かが割れる破壊音が聴こえてきた。大方、癇癪を起し部屋の中の何かに当たり散らしているのだろう。
『どうして、どうして私の誠也を取ろうとするの? 小学生の頃にあんたは一度、誠也の前から消えたくせに。幼稚園からずっと隣で支えていたのは私なのに……』
怒鳴り声は次第にくぐもり、涙ぐんだものへ変化し始める。
幼馴染の悲痛なその声は、普通ならこちらの胸もジクジクと痛めるのかもしれない。
だけど私は双葉ちゃんに一切の同情を寄せる事は出来なかった。
だって彼女は、この期に及んでこんな的外れな事を口にするんだもん。
『私の方こそ誠也に相応しいのに。私の方があんたより、絶対に彼を愛しているのにぃ』
涙声で訴えるその言葉は、信じられないほど私の胸に響いてこなかった。
本気で彼を……誠也君のことを愛している?
友人達の前であんな見世物の様な扱い方をして?
あの日、涙を流している彼のことを彼女はゲラゲラと嘲り、挙句に人としての倫理観を疑う罵詈雑言をぶつけていた。
その非道について、未だに彼女は謝罪の1つすらしていない。それどころか、あの行いを彼女は誠也君の為などと言い切る始末。
これで『彼を愛している』などと言われ、納得できる人間がこの世に居るのだろうか?
まして、同じ人間を好きになった女性の口から、同情や応援の言葉など口が裂けても言えるわけがない。
「いい加減に気づいたらどうなの? あなたの行いは誠也君をただ傷つけている事実に」
『はぁ? 泥棒猫が誠也の事を理解したみたいに言わないで。私の行いは最後には誠也の為になるはずなのよ』
「ならない。あなたは悪戯に誠也君の心を踏みつけているだけ」
私は熱のこもらない口調で淡々と否定を続ける。
スマホの向こうでは、どこまでも身勝手な言い分を彼女は募らせる。
そのたびに私は教えてあげた。
双葉ちゃんがいかに愚かか、いかに独善的か、いかに誠也君の人生に害を与えているのかを……。
「ねえ双葉ちゃん、これが最後通告だから真面目に聞いてくれる? 私はもうあなたが陰で誠也君を貶めるように動いていた証拠を掴んでいるの。だからね……誠也君に謝って……」
自分の口から出たこの言葉に、私は内心で驚きを隠せなかった。
もう完全に敵対したつもりだった。愛する人を傷つけ続ける明瞭な敵、そう思っていたはずなのに、私の胸中では彼女が頷くことを期待していた。
ああ、やっぱり……私もまだ双葉ちゃんに引き返して欲しいと思っているんだ。
何度も心の中で敵だと認識したくせに、まだ私は過去を完全に断ち切るか悩んでいた。
だがこれが正真正銘、口にした通り本当に最後通告の訴えだった。
もしここで彼女が誠也君に謝罪をすると約束すれば、加える制裁に温情を与える気でいた。
でもここでもし、否定的な言葉を述べたその時は……。
まだ微かに残っているかもしれない双葉ちゃんの良心を信じる。いや、信じたかった。
誠也君への謝罪を要求してしばし、通話の向こうで彼女は黙り込み続けていた。
私はあえて答えを促さず、彼女の意志でどの答えを出すかを待ち続けた。
この瞬間こそが、三日月双葉の運命を決める分水嶺だった。
そして……彼女は最後の糸を自ら断ち切ってしまう。
『私は……悪くない。全部…ぜんぶ……誠也が、アンタが悪いんだ』
プッツン……と、私の中で最後の1本の糸が切れた。
気が付けば私は通話を切り、強制的に彼女との会話を終了していた。
「もう……知らないから……」
それは果たして三日月双葉に対して言ったセリフか、それとも自らに告げたセリフだったのかは不明だ。
最期の救いの手を振り切られたが、不思議と戸惑いの類はなく、どこか落ち着いている自分がいた。
「さて……明日に備えて準備しないと」
どこかやるせない気持ちを抱えたまま、私は集めた証拠を纏める。
ちなみにだが、今の会話も録音してある。もうどうあがいても彼女は言い逃れられない状況を作り出し、ここまで来たら徹底的に追い込むつもりだ。
その時、電子音が部屋の中に響き渡る。
もう遅いのに……。今更謝っても手遅れだから……。
一方的に通話を切れば掛け直してくるとは予想済みだ。
だが仮に、今更のこのこと誠也君に謝ると口にしても私は絶対容赦しない。
だがスマホに表示されていた相手は予想外の人物だった。
「誠也君……」
震えるスマホが画面に映し出していた名前は、私の最愛の人だった。




