34話 今後の対策
ゲラゲラと笑いながら消えていく先輩達の後姿を、俺は歯噛みして見送ってしまった。
くそ……何をしてるんだよ俺は……。
本当なら奴らを逃がしてはいけなかった。こんな形で終わらせてしまっては、また同じことが繰り返されてしまう。
すぐにでも教師に相談し、この一件の対応をしてもらわなければいけない。
でも……もしもあいつ等が星良にまで手を出して来たら……。
もしも奴等が俺個人を狙っていたとしたら、俺は今すぐにでも学校側に報告してる事だろう。
だがいくら屋上とはいえ、学園内で集団リンチを決行する奴等だ。悪行をばらされ、そして処罰が下った場合、自暴自棄になった連中が何をするか分からない。
もっとも怖ろしいのは奴らの歯牙が、俺の大切な人にまで向かう事だった。
もしも愛する隣の彼女が、巻き込まれ傷つくのは恐ろしすぎる。
そもそも奴等の今回の行動理由は何だ?
連中は自らの行動理由を俺が双葉を裏切った事が起因している風に怒鳴っていた。双葉が関与している事だけは間違いない。
だが、だからと言って双葉を問い詰めてもはぐらかされるだろう。
ならばこのまま泣き寝入り? いや、そんな訳にもいかない。あの連中は下手をしたら学校外でも被害を及ばしかねない。
「大丈夫、誠也君?」
どこから対処すべきなのか悩む俺へ、とても穏やかな星良の声が聴こえてきた。
「頬っぺた痛そう。殴られたんだよね?」
取り出したハンカチで俺の頬を優しく拭う彼女に、俺は礼を述べつつ頭を悩ませる。
やっぱりここは学校側に報告すべきだろう。
確かに報復の恐れはあるが、だからと言って耐え続ける訳にもいかない。
「なぁ星良、お願いがあるんだ」
「ん…何かな?」
「俺さ、今からこの事を先生に報告しようと思う。だから星良にも付いてきてほしいんだ」
彼女は俺が暴行を受けている現場を目撃している。当然あの連中は全員が口裏を合わせ事実を否定するだろう。そして証拠もない以上、すぐに教師が動いてくれる保証もない。
だが教師に訴える事で牽制にはなる。向こうも今後は迂闊に手を出せなくなり、その隙にこの件の黒幕であろう双葉から話を聞き出して見せる。こうなれば徹底的に戦うつもりだ。
ただ心配なのは星良の身が不安だが、彼女のことは担任の杉原先生をはじめ、この学校の先生に護ってもらうように頼み込む。
最悪どこで奴等に狙われても、星良の安全だけは保障してもらえるように立ち回ればいい。
凡その考えを纏めて職員室に向かおうとするが、そこで何故か星良がストップをかける。
「待って誠也君。今すぐ先生に報告は不味い気がするの」
「え、どうして?」
「私だって本当はすぐにでも先生に相談したい。でもね、よく考えてみて。悔しいけどこちらには証拠がなく、人数も向こうが多い。勿論相談すれば親身になって話を聞いてはもらえると思うけど、でも学校側の体裁がある。証拠も無しですぐに彼等を処断するとも思えないの。それどころか先生に相談した腹いせに、彼らはもっと誠也君を傷つけかねない」
彼女の言い分は俺も納得はできる。
しかしだからと言って、何もしない事が正解な訳もない。
一体どうすべきなのか苦悶していると、星良はこんな提案をしてきた。
「ねえ誠也君、少しだけ私に時間をくれないかな?」
「それはどういう……」
「実はね、私に1つの策があるの」
彼女の口から出てきた策という単語に、俺は具体的にどうするのか尋ねる。
「私の北條家はね、実は色々な繋がりを持っているの。その中には弁護士先生とのコネクションもある」
さらりと出てきた言葉に思わず驚いてしまう。
そんな俺を置いて星良はこう続ける。
「学校側に相談すれば、彼等は見えない場所で更に誠也君に苛烈な嫌がらせをすると思う。でもね、学校外の人間の協力まで把握はできないはず」
「それは、確かにな。そもそも星良が巨大極道組織の北條一家の娘だなんて知らないだろうし」
「だからね、少し私に任せてくれないかな? 事情を説明すればお父さんだって腕のいい弁護士先生を呼んでくれるはず」
迂闊に動けないとなれば、彼女の提案はこの状況で最良なのかもしれない。
俺としてはすぐにでも先生に相談すべきでは? という考えはまだある。だがそれでも星良の身に及ぶリスクが軽減されるならと思い、彼女の提案の方を俺は選んだ。
「分かった。じゃあひとまず、星良の方に任せてもいいかな?」
「うん、任せて。必ず解決してみせるから」
本当に……自分が情けない。
俺は星良を護りたいがためこの案を呑んだが、結局俺の方が護られている。
気が付けば俺は星良を抱きしめていた。
「あう…誠也君」
「もしも、もしもさっきの連中が星良に何かしようと感じたら、すぐに俺に教えてくれ。その時はもうなりふり構わない、星良を全力で護るから……」
「本当に誠也君は優しいんだから。でも…嬉しいな……」
だが、この時の俺は知らなかった。
俺が護ろうとしている今の星良の心には鬼が宿っており、俺ごときに護られるほど弱い存在などではなかった。
肉体的に痛めつけられた俺以上に、彼女の心は傷ついており、敵と定めた連中への〝容赦〟と言う枷が外れてしまっていた。
「優しくて愛おしい誠也君。必ず私が解決してあげるからね……♡」




