温泉旅行①
陽が東に傾いて、土埃が光を反射して、白くあたりをかすめている頃、よもぎ駅にて。
「敦子ちゃんはまだ来ないのかしら?」
現在時刻9時10分。
約束時間は9時だったはず……
「ごめんなさ〜い! ちょっと色々あって遅れちゃいました〜!」
「いいのよ〜! 気にしないで〜! それでは行きましょうか?」
「はい! 行きましょう!」
氷堂先輩は私の遅刻をそんなに咎めないみたいだ……ナツと違って心が広いようだな……
ピキッ!
なんか、嫌な音がしたぞ?
まぁ、そんなことは置いといて。
俺が今日遅れたのは、寝坊……
なんてことはないのだ! 俺は今日、この日をめちゃくちゃ楽しまにしていた。
今回は俺の中では合法で氷堂先輩の裸が観れるのだから!
それに、隣の布団で寝れる……
闇に紛れて、あんなことやこんなことや……
絵面が百合物になってしまっても大いに結構……
私(俺)の前であの『氷姫』の顔が崩れるのが見たい……
その一心で俺は今日6時に目覚ましをかけて、飛び起きた。
今回は荷物に男物が入っていると、思わぬ誤解を招かせかねないので、入念に荷物の確認をして、そのあとは女の子の姿になるために外へと出ようと思ったのだが……
ここで問題が発生。
女の嗅覚はすごい……
「にいさま! なんでこんな朝早い時間に! それに今日はお休みのはず!」
ここはとりあえず爽やかに挨拶。
「あっ! おはよう! 希!」
「おはよう! じゃありません! こんな時間に外に出て行こうとして、それもピンクのスーツケースなんて……何を考えているんですか?」
くそぉ……見つからないように朝早く起きて、出て行こうとしたのに……
厄介なやつに見つかってしまった……
「な、何言ってんだよ……兄ちゃんはピンクが大好きなんだぞ?」
苦しい言い訳だが……黙りこむよりはまだいい……
「へぇ〜。そうなんですね……じゃあ中身を見せてもらえますか? にいさま!」
「げっ!?」
これはまずい……入ってるのは女の子の服ばっかり……この中を見られるのはまずい……
「いいですよね〜やましいことがなければ……」
「な、何もないぞ? 本当だ! だから、にいちゃんはもう行く!」
ここはささっと逃げた方がいい!
「あれ、にいさまは逃げるんですか?」
あぁ、逃げる……
って、逃げれない……
何故だ?
「お、おい……お前こんな力あったのかよ?」
「はい! にいさま相手にはどんなこともできる気がしますよ……」
飛んだブラコンだ……
愛を力に変えるなんて、お前はアンパンマンなのか?
そんなことよりこれはまずい……
こうしている間に約束の時間が来てしまう……
ならばやるべきことはただ一つ。
妹の排除。
希には悪いが……お前はここまでのようだ。
「希……わかった……スーツケースの中を見せればいいんだろ?」
「はい! 分かればいいんです!」
俺は希にスーツケースを渡し、希がスーツケースを開けようとしたその時、
師匠! お願いします!
了解!
俺は希の心臓を手で貫いた……
なんて残酷なことはなく。
俺は希を突き倒し、床に倒れた希の唇を奪う。
「に、にいさま……だ、ダメです……子、こんなとこぉ………」
俺は希の舌と自分の舌を絡ませて、熱いキスをした。
希も最初はダメとか言っておきながらも、次第に目をトロンとさせて、顔を赤くして、目を閉じた。
ふふ、ハハハ! こいつもこれで終わりだ……
希は床に倒れたまま、起き上がる様子はない……
こいつの活動はもう止まった……
師匠! ありがとうございます!
どういたしまして!
俺がやったことは単純だ……
師匠を使って、俺の口内に睡眠薬となる成分を創り出し、キスをすることで体内に押し込む。
これで終わりってわけだ……
まぁ、師匠がいたらなんでもありなんだがな……
これを使えば本当に犯罪紛いなこともできるが……それはやらない。
それは俺の理念に反するからね!
今更って声が聞こえたけど、無視するね。
俺は倒れた希を優しくお姫様抱っこして、希のベッドに連れて行く。
俺はそっと希をベッドに移し、そっと乱れた髪を撫でてあげる。
ごめんね……希……俺の可愛い妹よ……
でも、お前がいくら止めたとしても、にいちゃんにはやらなきゃいけないことがあるんだ……
じゃあ、にいちゃんは行ってくるね……
愛してるよ……愛しい妹よ……さよなら……
これが戦闘物のシーンなら感動するのだが……
俺のやるべきことは女の元に向かうこと……
俺は妹とのハプニングを上手く交わし、路地裏で敦子に変身し、着替えた後、よもぎ駅へと向かっていくのであった。
残された妹はというと、昼頃にようやく目を覚まし、突然込み上がってきた熱い思いに体をクネクネさせるのであった。
10歳にして……
まぁ、あとは想像に任せるね。
俺は急いでよもぎ駅へと向かった。
それでも妹にかなりの時間をとられていたので、10分も遅れてしまった。
これがナツだったら……
いや、言うのはやめてこう……
殺されるような気がする……
「はい! 行きましょう!」
こうして、俺と氷堂先輩の温泉旅行が始まる。




