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失敗


 何度目の発砲だろうか、また耳のそばを鉛の弾丸が突き抜けていく。霧はどうにか攻撃体勢に入ろうとしているが、師であるクラウディアがそれを許さない。ならば今自分がすべきことはこのまま時間を稼ぐこと――時間を稼ぎ、それからどうする?

 ステップで相手の攻撃を躱しながら、ふと考える。

 この状況を何とかできるのは、ここにいない実戦向きの黒百合極夜とその相方だろう。たとえ彼らにこちらの緊急事態を伝えることができたとしよう。ただ彼らのいる場所とここは距離がある。三キロメートル。近そうで遠いその距離を彼らが移動するのにかかる時間、自分はそれを稼ぐことはできるだろうか。

 おそらく、不可能だ。残り数発で弾丸は尽きる。元々護身用の小銃だ。替えの弾などそう多く持ち歩いてはいない。

 ならば――自分以外の三人が逃げられるだけの時間は稼ぐ。


 自分の命に代えても。


「(凌哉さん!二人を連れて早くここから逃げ――)」

 突然、自分の手から銃を持つ感覚が消え、転落防止用の柵の向こうへ落ちていくものが今自分が手に持っていたそれであると知り、襟元を掴まれ、体を柵に押し付けられる。

「おかしな人ね、貴女は」

 目の前の師が、クラウディアが、この世でおそらく自分のことを一番よく知る女性が言う。


「出ない声で仲間に何を伝えるの?」


 そうだ。自分には声がない。極夜や論&漣と意思疎通ができるのも、彼らが自分の唇の動きを読み、予測変換しているだけで、耳で声を聞いているわけではなかった。ここに、彼らの目はない。自分の思いは、誰にも届かない。

 結局、時間稼ぎすらできなかった自分を、霧は心の中で笑う。ロケットにある写真のように、あのころの――自分が声をなくしたころの、厳しくも優しかった師匠ならどうにかなるかもしれない。自分たちを見逃してくれるかもしれない。

 一瞬でもそう思ってしまったことが失敗だったのだ。

 おそらく自分はここで撃たれ、まだこの場所にいる論と漣、それに凌哉も同じく――。

「まったくどうしてこうなったのか……私はあの時――」

 クラウディアが俯き、何か言葉をこぼす。しかし霧はそんなものに耳を傾けず、視界には入らないがここにいるはずの三人のことを考えていた。

 院に入って間もない自分にもよくなつき、面白いくらい似ていて、それでいて正反対な双子、双百合論と双百合漣。

 この仕事が終われば三人同じ布団で寝て、起き、また新たな一日を過ごしていたのだろう。

 そして――初対面の自分の命を救ってくれた、普通の男の子、風見凌哉。

 夕方、あのとき彼と会っていなければ自分は高速のトラックに撥ねられ命を落としていたかもしれない。ここに来る前にも、同じトラックから守ってくれた彼。時折、ここではなく、星空のさらに向こう側を見つめる彼。

 そんな二人を、彼を守れなかった自分が心の底から悔しくて、悲しくて、その想いは涙となって霧の目に溢れた。

「……貴女には今まであった家も財産も、権力も全て取り戻させたはずよ?それを手に、元の生活に戻ればよかったの。それなのに」

 クラウディアは銃を霧の側頭部に当てる。

「どうしてまたこんな組織に加わった!? 私が貴女の伯母を撃ったのは何のため!? あの腐った組織を壊滅に追い込んだのは誰の、何のためだったの!? 貴女が『幸せ』になるためだったでしょう!」

「(……違い、ます。師匠、私はただ――)」

「うるさい!もう何も喋らないで!」


 銃声。と振動。そのあとに茂みが揺れる音。


 不審に思い目を開くと、視界に入ったのは今起こったことが理解できないでいるクラウディア、とその向こう側。


「――第一ステップ、狙撃銃の扱いはクリアっと」

 今回の役目を終えたはずの狙撃銃を構え、片頬のあたりを真っ赤にした風見凌哉が立っていた。

「ってなわけで、おねーさん。今度は主に俺が相手だ」


視点こっちの方が書きやすいわ


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