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告白・追撃

縦書きで書いてたものだから漢数字であることをご了承ください<(_ _)>

「さて、あの下等生物に何から説明するか……」

 頭に包帯――ついさっき俺が買いに行かされてきた――を巻かれた極夜は俺の方を見ずに呟いた。

 正直な話、廃病院の屋上に散らばった数滴の血痕がいまだ俺の中で現実として認識できていない。

 そんな俺を置いて先程出会った女の子がしきりに何かを極夜に伝えているが(口は開いているのに)声が聞こえない。それにもかかわらず夜は相槌を打ったり返答したりと会話をしているっぽい。というか知り合いだったのかよ。

「微塵子……風見凌哉、話がある。此方へ来い」

「今俺のことを何と言い間違えた?」

「ボルボックス――いや、蜱だ」

「お前の話なんか聞くもんか!」

 耐えろ俺の涙腺&心! 俺は泣かないぞ! ここには女の子もいるんだ。絶対泣いてなるものか。

 ……そうだ、帰ろう。帰って寝よう。逃げてやる! とか思って夜に背を向けた瞬間、左肩の上を固くて冷たい何かが通り過ぎた。それと、わずかに刺すような痛み。屋上の入り口の戸に当たって落ちたそれが黒塗りのナイフであることを認識するまでに数秒を要した。

「首足処を異にしたくなければ黙って従え。此方には時間が無い。不本意ながら貴様とも無関係ではなくなってしまったしな」

 ……ここは黙って従おう。本能的にそう察した。今みたいに刃物を投げられても嫌だし。殺されては困る。というかなぜ刃物を持っていて当たり前のように人に向けて投げるのか理解できない。

 俺は極夜と少し距離を取って座った。今の出来事のせいで極夜を直視できない。

「……先ずは此方の事情を知らせる。僕は黒百合極夜。昨夜名乗ったな。次に」

 極夜は自分の隣に座る女の子を見た。正座をしていた彼女は背筋をさらに伸ばして藍色の瞳で俺の方を見た。

「彼女は篷百合キリ。皆は(ネーベル)と呼んでいるが貴様は好きにしろ」

 ふーん。ネーベルってどこの言葉なんだろう。英語……じゃあないか。音的に……ドイツ語、かな。

「(Sehr Erfreut.……えっと、その、よろしくお願いします)」

 ――ん? 今のって霧さんの声か?

「……霧は過去の精神的外傷で声を失っている。本人には喋ろうとする意思はあるそうだが……内面の傷はそう容易く回復するものではない、というのが此方の医師の見解だ。貴様も、霧の言ったことを理解するには唇の動きで判断することだ。それが出来なければ出来るようにしろ」

 ……何か変だな。極夜の発言からすると俺が今聞いた霧さんのものであるはずの声が聞こえていないみたいじゃないか。唇の動きで判断? 無理無理、できる訳無いだろう。この一般ピープルな俺に。

「なあ、今声が聞こえ――」

「待て。此方の話が先だ。次は……里について触れておくか。僕らは孤児院兼揉め事処理屋『五花の里』という組織に属している。詳しいことは追って説明するが僕等は現在、揉め事処理の繋がりでとある犯罪集団を追っている。銃や麻薬等の密輸を行っている集団だ。霧をトラックから守ってくれたそうだが、そのトラックもそのグループの仕業だろう」

 その車に狙われた霧さんを助けたから俺にとっても無関係ではないのか? でも今質問しても答えてくれそうにないので口は閉じておくが。

「僕等がその集団を追っていることが相手にも知られたが故に狙われたようだ。霧はトラック、僕は先程狙撃された」

「そ、狙撃? おいおい、いつからここは戦場になったんだ? そもそもお前、よく生きているな」

「……牽制、または警告の心算なのかもしれない。だが此の程度で引き下がる訳にもいかない。里のためだからな」

「さっきから気になっているんだけど……その『里』ってやつをよく説明してくれないかな」

 極夜は霧さんの方に目を向ける。霧さんはどういう意図があってか首を横に振った。言わない方がいい、ということだろうか。

 しかし極夜は逡巡の後口を開いてくれた。

「貴様が里の者でない為公開できる情報は僅かだが、文句は無いな」

「そりゃあ、何も聞けないよりはマシだけど」

 本音を言うと、俺にとって無関係でないのなら話してもらえることは多い方がいい。しかし極夜の纏う雰囲気……みたいなものかな、それはこちらの考えを押さえつける何かがあった。

「五花の里……此処からは随分と距離があるがとある山間に位置する孤児院だ。敷地面積は大凡山二つ分。近くには小規模の村落もある。孤児院の名の通り、其処に属する僕も霧も孤児だ。院は『桜』『百合』『牡丹』『椿』の四つの家から成り、それぞれに役割がある。『百合』家と『椿』家に与えられた役割は……まあ社会の裏で行うような事が多いな」

「それは……孤児院で行う必要があるのか? あまり――というか全然関係が結びつかないんだが」

 すると極夜はその表情を曇らせた。霧さんも、極夜ほどではないがその表情は暗い。

「その理由を今貴様に言うことはできない。ただ――先にも言ったが僕等は孤児だ。それゆえ自分の居場所を探すのに必死だということを理解してくれ。それに……光桜の願いでもある」

 ヒカリザクラ――極夜はその名を宝物にしているかのように、あの毒舌調からは想像できないほど温かかった。その温度差に当てられてか、なぜか俺の中でもどこかで聞いた覚えがあるような気がして……俺はこれ以上突っ込んで聞く気は起きなかった。


☪       ☪       ☪


「家族がいないんだ、俺も」

 場所は廃病院から最寄のコンビニ。日も暮れてしまったのでとりあえず自分たちの晩飯を買いに来たのだ。霧さんに好きな物を選ばせつつ、あれから途切れたままの極夜との会話を復活させようと開いた口から出たのは自分でも意外な言葉だった。どうしてこんな話をしようとしているのか自分でも分からない。

 案の定、極夜は不審者でも見るかのような絶対零度の眼差しを俺に向けた。……酷くねぇ?その反応。お前が冷徹な奴であることは分かっているけど。

「……突然何を言い出すのかと思えば。正直貴様の脳内構造が理解できない。尤も、最初からする気はないが」

「うるさいよ。ただ……俺がああやって現実逃避する理由をまだ言ってなかったって思ってな」

 俺は店内を見渡して霧さんを捜す。……アイスクリーム売り場の前で静止していた。この距離なら聞こえないだろし、わざわざ呼ぶ必要も無いだろう。とりあえず放置。

「別に家族がいないって言っても生まれた時からじゃない。二年前からだな、俺が独りになったのは。妹もいた。五歳だったけど、かわいかったから将来が楽しみだったな」

「……身内はみなそう思うものだ」

 どうやらおとなしく聞いてくれるらしい。自分の方から他人に家族の話をするのはいつ以来だろう。もしかしたら初めてかもしれない。

「……二年前の夏休みに交通事故。父さんと母さん、あと妹――一度に三人も失った。もうどれだけ泣けばいいのか分かんなかったね。それから俺の現実逃避は始まったんだ。この現実を受け入れたくなくて、ずっと三人を捜していたくて……はい、めでたし、めでたし」

「人が死ぬ話をしておいて何が『めでたし』だ。今ここで腹を切って詫びろ。介錯はしてやる」

 ここで割腹自殺をしたら店が大変だぞ、という理由で無視。

「でもさ、一つ考えたんだよ。ほら、親より先に死ぬなって言うじゃん。死ぬのは歳の順ってやつ」

「……ああ、幾度か耳にするな。親より先に死ぬと三途の川を渡れぬそうだな。――鬼が許さないとか聞いたが」

「そう、それそれ。でさ、親より先に死んだら駄目なんだろ? なら両親が子ども一人残して死ぬのはどうなんだろうなって、そう思ったんだ」

 これだけ寂しい思いをさせて、俺の心に大きな穴を開けたところで……子どもより先に死ねば問題無いのか。

「……貴様の言い分は分かる。ただずっと現実から逃げ続ける訳にはいかないだろう。貴様が存在する世界は現実だ。地の果てまで逃げたところで現実から逃避は不可能だ。そろそろ前を向け。女々しくて気色悪い」

「はは……その通りだ。返す言葉もない」

 極夜は小さく息を吐くと周りの商品棚を見渡した。物珍しげにしているみたいだし、あまりこういう店には入らないようだ。

「……此の商店、多くの品が並んでいるな。好きな物が買えるのか?」

「大抵の店ならどこでもそうだけど」

「ではこの三角形の袋詰めの海苔を全部買っても良いのか」

「……自分の財布が許す限りはいいんじゃねえの。それから『三角形の袋詰めの海苔』じゃなくて『おにぎり』な。そう書いてるだろ」

 そんなことも知らないのか! やーい、田舎も――絶対零度の眼差しで突き刺された。

「……貴様の持ち合わせは幾らだ」

 なぜ俺の財布の中身を聞く?

「二分の三千円だけど」

「では二十個買うのに足らぬではないか」

 誰がそんなに食うんだ。多くて三つか四つじゃないか?

「(私これがいい)」

 背後で霧さんの声。振り向くと手にカップアイスクリームを一つ持った霧さん。……それがあなたの晩飯ですか? まあ何を食べようが人の自由だが……どうして俺に渡すんですかね?

「仕方ない、此の程度で勘弁してやる」

 極夜がおにぎりを十個ほど抱えている。なぜそれを俺に言う必要がある? ――ああ、そうか、俺に買えと言っているのか……っておい!


 何故か俺、二人分の晩飯を買わされた。所持金の九割強持っていかれたぞ。どうしてこうなったんだ……。

「(ねえ、これは温めなくてよかったの?)」

「そんなことしたら溶けるだろ」

 ……と俺は霧さんと二人で「電話だ。銭を寄越せ」と言って俺の財布を持って消えた極夜の帰りを待っている。あー、寒いなあ。冬の夜の、しかも屋外でよくアイスが食べられるな、霧さん。極夜は……遅いな。あいつ、公衆電話を探すのに手間取っているのだろうか。この地域でもほとんど見なくなったからなあ、緑の電話。

……そういやどうして俺は残りの所持金を全て極夜に渡してしまったのだろうか。一文無しになったじゃねえか。財布を奪われ、ココロも寒く感じた俺は夜空を見上げてみた。ああ、今夜も星がよく見える。冬の風の音もよく聞こえて、少しうるさいくらいだな。

「(凌哉さん。えっと、その……何かお話、しましょう)」

「ん?ああ、話ね。暇だもんな。そうそう、極夜に聞けなかったから霧さんに聞いていい?『五花の里』のこと」

 あの時、廃病院の屋上では聞くことができなかったことを、今霧さんに聞くことにした。極夜と霧さん、出会ったときから不思議過ぎる。どういう経緯でこういう事態になって俺が巻き込まれているちゃんとした説明をくれないと俺はついていけない。

「(うーん、私も院に入ったばっかりで詳しいことは話せないんだけど……えっと、ギルドみたいなものかな。私もそこのメンバーで、今はお仕事中なんだけど)」

「ギルドってあれか? 布の間に綿を入れて重ねて縫う……」

 あ、それはキルトか。自分で間違いに気付いてよかった。いや、分かってるんだ! 本当だよ!

「間違えた。今の無し。金箔のことだろ?」

「(それは多分ギルト)」

 あら、自爆。カッコ悪い。

「い、今のも冗談だ。えーとえーと、あ、あれだろ?合金鋼に使う鋼」

 ポカンとする霧さん。もしかして間違えた?――あ、それはキルドか。ちっくしょう。

「(えっと、ギルドの本来の意味は欧州の商工業者の組合のことで……だけど私たちは仕事を請け負う組織のことをそう呼んでるの。凌哉さんって、おもしろい人ですね)」

 そんな裏仕事を請け負う組織があったのか。どんどん裏社会の話に首を突っ込んでいるみたいだな。

「ふむ……間隙を縫う暇すら無いとはな。どうしたものか」

 ――と、そこで何かぶつぶつ言いながら極夜が帰ってきた。公衆電話はあったのか? 実は俺がもたれかかっているのが緑色の電話ボックスだったりする。はっはっは。

「霧、これから論と漣も来る。作戦決行は近い。それから風見凌哉、貴様にも――」

「極夜!避けろ!」

 俺が叫んだのとほぼ同時に極夜は後方へ跳躍した。刹那、猛スピードで俺と極夜の間をトラックが通り抜けた。トラックはスピードを落とすことなく走り去った。……おいおい、今のって夕方と同じトラックじゃなかったか? ということは狙われたのは……霧さん? 俺はすぐに霧さんへ背後に隠れるように言う。黙って従う彼女の肩は震えていた。

「風見凌哉。今のトラックが何処に行ったか分かるか」

 俺はトラックの走り去った方へ目を向け、それが広めの道へ出ると方向転換しているのを視認する。

「……どこに行ったというより、こちらへ戻ってくるらしい」

「――霧を頼む」

 極夜はそう言うと道の真ん中に出た。そんなの、トラックに撥ねてくれと言っているようなものじゃないか。危ない、と声を出すより先に、さらに速度を上げたトラックが俺の視界に入ってきた。

 その時、極夜は袖から何かを取り出し、それをトラックに向かって投擲した。瞬間、トラックのフロントガラスが飛散し、車体は大きく蛇行する。車体の方が極夜を綺麗に避けるような形でトラックは轟音を立てて横倒しになった。

 今、極夜がトラックの側面を蹴って倒す瞬間を見た気がするが……こいつはそんなことまでできるのか?

「リストの顔と一致するな。やはり標的だったか」

 極夜は倒れたトラックの中から運転手を引きずり出した後、細い紐で縛り出した。拘束道具は常備してるのだろうか?

「霧、先に廃病院まで戻れ。漣と論が来るだろうから一緒に待っていろ。僕は文百合ともう一度連絡を取る」

「(……了解です)」

「風見凌哉、貴様にも協力してもらいたい。詳細は後だ。霧と廃病院で待っていろ」

「俺に協力できることなんかあるわけ――はい、了解です!」

 途中極夜の目が鋭くなったからつい了解しちまった。怒らせたら怖いだろうことは予想できる。……ここは素直に従っておこう。霧さんに袖を引っ張られ、極夜に背を向けて足を踏み出し――。

「風見凌哉」

 名を呼ばれて振り返る。極夜は公衆電話の前に立っていた。やべ、電話ボックスの前に立って隠していたこと怒られるか?

 ――というか極夜の手には携帯電話が握られていた。持ってんじゃん! 俺の金返せ!

「貴様は、暗闇の中で数十メートルも離れた物が見えるほど目がいいのか」

「……何言ってんだよ。普通だろ、こんなの」

 俺は吐き捨てるように応えて霧さんを追い廃病院へ向かった。


 そう、普通なんだ。俺にとって見ればそんなこと。

 二年前のあの夏に――ただ願っただけなんだ。

 独りは嫌だったから……ずっと、父を、母を、妹を捜して――この星空のどこかに見つけたいって。


この先シリアスというか自分でも「うーん……」て感じの話です。もしかしたらその部分は飛ばして次に進むかもしれませんねぇ。

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