襲撃
いつものように学校へ行き、授業を受け、気が付けば一日の三分の二が終わっていた。終礼時に担任から最近多い不審車に注意するように言われ(人じゃなくて車かよ)、その数分後には校門を出ていた。
これから向かう場所は言うまでもなくあの廃病院。あれだけ極夜に馬鹿にされてこのまま引き下がることができようか、いや、できはしない。今日の漢文の授業で出てきた反語法の復習、終わり。いつ使うんだそんなもんとか思っていたが……意外と使い道あったんだな。
街の商店街を通って、途中の横断歩道で立ち止まる。この道路は車があまり通らないのでうっかり赤信号を無視してしまうことも多いのだが、人がいたので控えることにした。見慣れない服を着ていたその人の方を見ると、なぜか目が合ってしまって急いで正面を向いた。
その女の子は白と黒を基調とした服――ゴシックロリータとか言うものだ――を着ていて、髪は薄い金色。瞳の色は濃い藍色で……ともかく、この街の人ではないだろう。海外からの観光客だろうか?
体の左半分に視線を感じ、横目で左方向を見た。……彼女にものすごく見られている。不審車――じゃなくて不審者だと思われたのだろうか。それも目が合っただけで。
……おいおい、ここで通報でもされてみろ。齢十六にして前科一犯がついてしまう。いかん、何か遠くのものを見てこの視線を気にしないようにしよう。
そういえばここから廃病院が見えたはず――お、あった。なんとか屋上だけ見える。……黒い人型のシルエットが見えるのは気のせいであってほしい。
「 」
肩に手を置かれ、振り向くとさっきまで俺を凝視していた女の子だった。えっと、今何か言ったのか?
「 ――」
彼女がもう一度口を開いて何かを言い出す前に、俺は彼女の手をつかんで思いっきり引き寄せた。
そして瞬きをする合間に、ほんの一瞬前まで彼女のいた場所に窓ガラスまで黒く塗られてた大型のトラックが突っ込んできた。
砕かれたブロックから巻き上がった埃にむせながら、尻もちをついた体を起こす。これが不審車か?と思っているとそのトラックは信じられないことに道路へ戻り、急スピードで再発進した。
「本当に不審車じゃねえか!」
俺は道路へ飛び出し、遥か向こうに走り去るトラックのナンバーを目で追った。……よし、ギリギリセーフ。なんとか確認できた。俺は数字を忘れないように、制服のポケットから生徒手帳の空白ページに書き留めたところで俺はあの女の子の無事を確認していないことに気が付く。逃走車を気にするより先に彼女に怪我がないかを確認しないといけないではないか。
振り返ると地面にぺたりと座り込んでいる彼女がいた。その藍色の瞳は驚きの色を強く残したままじっと俺の方を向いていた。大きな怪我は無いみたいでとりあえずは安心、か。
「えっと、大丈夫か? あ、日本語分かる?」
手を差し出し、彼女が立つのを手伝ってやると、彼女の頬にかすり傷があるのに気が付いた。少し赤くなってるけど、出血はしていない。でも女の子だから痕が残っても困るだろうし……ここから最寄の病院はどこだったっけか。
その場所を思い出そうと思案を続ける俺の学生服の袖を彼女は引っ張った。
「 」
……聞こえねえ。口は動いているのに声が出ていないぞ。
「 」
「え?『ついてこい』?」
手招きをされ、俺がそう聞き返すと彼女は横断歩道を渡り出した。
(えっと……通報しないといけないよな、今の事故)
しかし彼女はそれに構わぬ様子で歩道を小走りに渡りきると、なぜか廃病院がある方角へ歩き出した。振り向いて俺がついて来ていないのを知るとまた手招きをした。
仕方なく俺は事故の音を聞いて集まってきた人に不審車のナンバーを教え、彼女の元へ走った。
☪ ☪ ☪
昨日の夜、極夜に『来るな』と言われた廃病院の屋上に俺はまた向かっていた。なぜかさっき会ったばかりの女の子も一緒に。彼女もこの場所を知っていたのだろうか。この街の人ではないはずなのに。
そんな俺の考えをよそに、前を歩く彼女は何も喋らず(正確に言うと、何度か口は開いたが聞き取れなかった)、屋上へ続く階段を上っている。
ぎい、という重たい音と共に扉が開かれた。屋上にいたのは昨日のように毒舌家の極夜ではなく――
側頭部から血を流し、ボロボロの手摺に寄り掛かる極夜だった。
「 」
彼女は極夜に駆け寄った。混乱して動けないでいる俺の方を見て、極夜は目を逸らす。
彼の周りに散らばる血痕が、さらに俺の理解を遅らせる。
『今宵を以って此の場所にくるのはやめろ。忠告ではない。命令だ』
『知れば貴様は今までの貴様でいられなくなる』
昨日、極夜の発した言葉の意味が、今頃になって俺の頭の中で響き始めた。
ちょっと文章荒いな……。また修正かけていくかも。次話もぜひ読んでいただけたらと思います^^




