挿入話 出会い
ぎい、と重たい音を地下室中に響かせて扉が開いた。
少女は牢屋の隅で体を強張らせる。時計がないため正確な時間が分からないが、もうあの時間が来たのだろうかと、体が勝手に震え始める。
足音が近づき、牢屋の前で止まる。
見たことのない若い女性だった。まだ成人していなさそうだ。
「食事よ。こっちへいらっしゃい。……ああ、昨日までの給仕係は亡くなったわ。敵対マフィアとの抗争で――って言っても関係ないよね」
そう言って、パンとスープだけの質素な料理の乗った盆を置く。
少女はボロボロの毛布を纏ったまま、おそるおそる彼女の方へ近づく。
「早くしてよ。夜の訓練だってまだなんだから」
少女は無言でパンの方に手を伸ばし――たところ、少女の年齢にしては細すぎる腕を掴まれた。
「……何この傷。牢屋にいるだけでこんな――」
彼女はそう言うとパッと腕を掴む手を放し、地下室のさらに奥へと消えた。
少女は去って行った彼女を気に留める風でなく、しかし彼女に掴まれた腕をじっと見つめた。
少女がパンを半分だけ食べ元の皿に返したところで彼女は戻ってきた。
どこか深刻な表情で、木のさじでスープを飲みだす少女を見下ろしていた彼女は突然少女の毛布をはぎ取った。
少女は木のさじを握ったまま転がった。毛布と同じくボロボロな服を彼女に掴まれ、無理やり脱がされる。
少女の背中の大きな傷が露わになった。
「……ボスもいい趣味してるわね。こんなちっちゃな子虐めてさ」
何が起きたのか分からず、縮こまって震えだす少女。
そんな少女を彼女はぎゅっと抱きしめた。
木のさじが転がって音を立てた。
「権力に伏せて生きるのも大事なのよ。特に私たちの世界はね」
誰かに優しくされたのはいつ以来だろう。
少女の目に涙があふれ、音もなく零れた。
「ボスには話をつけておくわ。これでも補佐の1人なんだから。でも1つだけ条件があるわ。これは今から実行なさい」
彼女は少女の小さな肩に手を置き、戸惑いに揺れる少女の藍色の瞳を覗き込んだ。
「私といるときは常に笑顔でいること。こんな汚れた世界で生きないといけないんですもの。貴女が私の、私が貴女の心の拠り所になるの。分かったわね?」
彼女はそう言って少女に微笑みかける。
少女は目を泳がせながらも頷き、指で頬を持ち上げて無理やり笑顔を作ろうとした。
ただその顔は笑顔というより、にらめっこで相手を笑わせるときのそれだった。
彼女はそんな少女が愛おしくて吹き出してしまう。
もう一度少女を抱きしめ、小さな頭を撫でた。
「貴女はそれでいいわ。これからよろしくね、ネーベル」
「私の名はクラウディアよ」
多分この連載の次の話くらいに関わってくるんじゃないだろうか




