第8話:剣刀攻防
「ここから押し切る!」
合され防がれるなら、相手が綻ぶまで攻め立てるまで。
そこから先は疾風怒濤。再度の踏み直しより間髪入れず、速撃の反振で斬華を操る。
下方からの斬り上げ、袈裟懸け。
胴打ちへ繋げて、一太刀目を囮とした霞の二段目。
丸舞から斜弦吶抜き、突きを交えて下げ即座の斬り返し。
全身込めの打ち落とし、そのまま逆袈裟目掛け上げ、手首返して水平薙ぎ。
一切異なる方向から手を止めずに連撃を叩き込んだ。
一振り目より二振り目、三振り目より四振り目、腕を疾駆させる度に速度を上げ、鋭利さも威力も高め続けて。
「サセハセン」
対する骸骨武者は悉くを迎撃してみせた。
僕の剣筋へ的確に刃を重ね、狙い放たれた箇所へ滑り込んで阻み潰していく。
尋常でない集中の妙技。その連続。
僕達の合間で何合も何合も、二つの刀身が激突し、弾き送り、再び衝突、即時に離脱を繰り返した。
圧と火勢が喰らい合い、威力と赫速が結んで反らし、夜陰の揺らぎに透音が巻いて挽く。
凄まじい剣戟が多段に積まれ、その度に衝撃が波もかくやと周囲をさざめかせた。
僕の剣は相手を抜けない。正対する怪物が抜かせない。
遠隔攻撃の手段を持たない代わりに、近接戦闘へ特化した手合いだ。
「しぶというえに手強い!」
「ソレハ、コチラノ、セリフダ」
十数撃目の打ち合いが終わった時、僕の直剣は骸骨武者が握る刀に抑えられていた。
ただの一太刀すら敵には届いていない。全てを完全に合わされ、完膚なきまでに防がれた。
刃同士がぶつかるほど、僕の余力は消耗される。こちらも明確な手傷はないけれど、極限の集中と肉体の酷使は負担が大きい。
常人より基礎身体能力が上がっている強化兵士でなければ、とうに息が切れて返り討ちだったろう。
これ以上の疲労蓄積はパフォーマンスを落とし、戦闘継続が困難となってしまう。
状況は悪い。未だに効果的な一撃が決められていないのだから。
「ココマデ、ネバルトハナ、ショウジキ、ヤッカイダ」
「その感想はお返ししたいね」
剣を止められた状態から、僕は右脚を前へと蹴り出した。
放った先の靴底が骸骨武者の下腹部へ届き、重さと抵抗を外へと押し出す。
しかし相手の体幹は小さく揺れただけ。逆にこちらが反発力で崩された。
僕は乱れたバランスを下肢の踏ん張りで即座に堪え、返された反動の内で剣を寝かせ後方へ。
力の対流に全身を預け、大きく弧を描いたところで、腕と脚の筋肉を瞬間的に引き絞る。奔騰した力で自身に急制動を掛けると、腰を捻転させて一気に戻した。
一度越えた軌跡を直ちに戻り、振り出された上半身、更に両腕が、握る直剣を力の限りに払い断つ。
「ナンドキテモ、オナジコト」
再び舞い戻ってきた一刃を目の当たりにしながら、骸骨武者は素早く応じた。
猛然と差し迫る僕の剣へ、自身が持つ毀れた刀を腕ごとに振り下ろす。
それは瞬く間もなく直下へ降り、寸分たがわず真上から剣へと直撃。爆発的な強圧を噴出させ、力尽くで剣身を打ち落した。
「くっ!?」
僕の両腕に激烈な痺れが走る。指先から掌、手首を通って肩までが電流を流し込まれたように震え、全ての感覚が遠退いた。
その間に直剣は敵の一撃へ任せ大地まで運ばれて、斬撃それ自体を無力化される。
こちらの攻め手を撃墜した矢先、骸骨武者は手中の刀を改めて構え直した。
冥瓏とした眼窩に僕の瞳を覗き見て、刃の切っ先を定めた中心点に差し向ける。
「アキラメテ、シネ」
感情の起伏がない単言と共に、骸骨武者は素早く刃を突き出してきた。
僕の顔面を貫くために繰り出された、最短距離を滑る刺突。無駄を削ぎ端的に、だからこそ速い絶死の冷撃だ。
その動きを両目に映し、僕は奥歯を噛み締める。
意識を刃の動きへ注ぎ込み、目はけして瞑らない。
生存を求める欲求が神経の反射へ転じ、首を咄嗟に傾けた。次の瞬間、刀の突き刺しが襲い来て、僕の左頬を浅く裂く。
高速の敵刃は顔の皮膚を擦り、血管を傷付けて、血の雫を宙に散らした。焼けるような痛みが生まれたけど、そこまで。
殺意の一閃を寸でで躱し、命を奪われるには至らない。
「コノ、マアイデ、ヨクゾ」
「うおらァッ!」
危うい所で兇刃を凌いだ直後、僕は腹の底から気合を発した。
怒号を喝に戦意を猛らせ、細胞全てを揮わせる。闘争本能へ火を入れて、痺れも痛みも頭の中から振り払う。
そうしてもう一度、剣を掴み取り、固く歯を食い縛った。
骸骨武者の刀が次の動きへ入る暇を与えず、僕は強引に両腕を動かす。下がった剣先で大地を抉り、潜らせながら土を掬い、力一杯吹き飛ばした。
直剣の上方移動に合わせて足元が捲れて砕け、撃った土片が無数の礫となって飛び散っていく。
大小多数の土塊が規則性もなく乱雑に、敵側へと放射された。剣風に乗せられて一斉に舞う範囲は広い。




