第7話:刃を交えて
月明り薄い夜の闇間に、火花めいた輝きが散る。
異物とぶつかり合ったことで、鋭くも腹に響く鳴音が虚空へ融けた。
確かな衝撃を受けて僕は半歩退き、右腕を肩の高さで後ろへ戻す。
手の内に握っているのは直剣型の武器。ミラ結晶を加工して剛性へ振り切った新金属、それを基軸に鍛造された実体剣だ。
ズシリとした独特の重さが右手にある。この重さが堅固と威力の確かさを感じさせる。
「なかなかやるね」
警戒を交えた一息と共に、僕は正面に立つ敵の姿を見据えた。
それは甲冑を着込んだ侍という表現が最も相応しいだろうか。
ただし時代劇で描かれる威厳と重厚さが際立つものとは違う。平易で色艶はなく、手入れのされないまま風雨と経年による劣化を極めたとも言える、草臥れた落ち武者同然の様相だった。
兜には特徴的な意匠もなければ、申し訳程度に丸みを帯びているだけ。これを被りその下へ覗くのは剥き出しの髑髏だ。
一切の肉を持たず、のっぺりとしながら薄汚れた白骨は、空洞となった両の眼窩へ暗黒を留める。
腕も脚もただの骨。骸骨が甲冑を纏って立つ、それがこの怪物だ。
かつて地球を襲った侵略兵器の後継機。奴等は統一感のない様々な形態を作るけれど、こんな妖怪紛いまで出てくるとは。
恰好はボロボロで、武器らしい物といえば手に持つ一振りの日本刀のみ。それだって刃毀れが酷く、今にも折れてしまいそうに見える。
けれど油断はまったくできない。あの朽ちた刀は、僕の直剣を受け止めて、弾き返してきた。
「もう一度だ!」
短く呼気を吐き、僕は力強く踏み込んだ。
骸骨武者へ向けて右腕を振り下ろし、ミラニウムの剣で斬撃を狙う。
これと同時に敵も動いた。
骨の身ながら苦慮もなく、素早く滑らかに腕を進め、手首による最小の動きだけで刀を斜斬へ走らす。
僕の直剣が狙う軌道へ、武者の襤褸た刃が唐突でありながらも自然に入り、一撃を阻害し激突する。
先ほど響いた鋭重の打音がまた一鳴きして、互いの得物が互角の距離感で制止した。
僕は握った剣を強く押すけれど、骸骨武者の刀は真っ向から受け止めて微動だにしない。
見た目の上では僕の剣圧が勝っているのに、敵の一刀は貧相な見目に反して強靭。外見からは計れない力が作用しているようだった。
これもシールドの応用か。
「オヌシ、デキルナ」
眼前の骸骨武者から、抑揚のない冷めた声が聞こえてきた。
うなりや雄叫びとは違う。確かな意味を持った人の言葉だ。
侍風な外観を模すだけじゃなく、人間の使う言語まで学習してきたらしい。
喋るヘイタイアリに出くわしたという同業者の話は聞いていたけど、僕は初めてだ。
なるほど、これは不気味で悪寒が走る。異形が人の言葉を操ると、こうまで気色悪いものなのか。
「下手な人真似はやめてもらいたいね」
僕の直剣と敵の刃、相克する力を境として、僕は髑髏と睨み合う。
互いの剣牙をぶつけ合い、どちらも譲れぬ状態で。
もっとも髑髏に目玉はないから、本当は何処を見ているか判然としていないけど。
「ワレラノ、ギジュツヲ、ヌスミ、マネテイルノハ、オヌシラダ」
「そっちが先に襲ってきて、負けたんじゃないか。戦争で地球人は傷付いた、その賠償を請求させてもらってるだけだね」
「ヌスット、タケダケシイナ」
「どっちがだか!」
僕は右手を僅かに捻り、剣芯を一拍逸らした。
浮いて生まれた微かな間隙。ここに猛力を込め、腕動と共に腰から入る。
でも骸骨武者は即応。同等の力で内へ流し、刀向に角度を付けてきた。
僕達の拮抗は鬩ぎ合いを経て炸裂し、衝撃諸共に腕を弾いて、体ごと一歩退かせる。
「なんの!」
が、僕は仰け反らない。
弾かれた瞬間に腰を若干から落とし、体幹を足場上で垂直に取ると、気合一呵で強引に押し戻す。
勢いそのまま腕運に自重を乗せ、右腕を下手投げの要領で振り上げた。
奔った直剣が足場を擦過し、半弧を描いて敵を強襲。
相手が人間ならば、確実に意表を衝いている。
「アマイ」
「うっそ!?」
僕は目を瞠った。
骸骨武者は驚くべき反応速度で腕を張り、対角から強剣速による斬り落としで応じてきたから。
同じ距離だけ相手へ近付き、またも到達未然に激突する二つの刃。
接点から火花が散り飛び、衝音を伴って余波が風を逆巻かせる。
迎える数度目の膠着。
けれど睨み合いへ移るより早く、僕達の剣身が弾き返し合って数間を空けた。




