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デュアルネクサス  作者: ミチバケ
戦後10年目
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4/13

第4話:大戦の爪痕

 へし折れた高層ビルの残骸が、広大な砂地に半ばまで埋まっている。

 乾いた風が吹くたびに多量の砂塵(さじん)は舞い上がり、まるでヴェールのように視界を遮(さえぎ)った。

 見えているのは潤いを著(いちじる)しく欠いた砂漠。そして正体を無くした瓦礫(がれき)たち。

 地上の大部分は散乱した鉄屑(てつくず)と砂と埃に覆われ、地平の果てまでが無味乾燥だ。

 かつて大きな都市があった筈の場所も、今やまったく原形を留めていない。砂の大海に沈み、建築物の残影を時折覗かせているのみ。

 まともな文明を感じさせるのは、砂にまみれながらも辛うじて伸びる道路と、それを用途通りに使っているボクの軍用ジープだけ。

 随所が砕け、あるいは罅割(ひびわ)れ、陥没したアスファルトの亡骸が、逆巻く砂の波を真っ直ぐに貫いている。周囲のことごとくが本来の役割を失って久しいなか、朽ちて尚(なお)繋がりを維持する道は偉大だった。

 他には称賛を送るに値するものが皆無。

 酷く荒廃した情景は在りし日の姿も遠く、どこまでも物寂しい。

 現在進行形で世界を食(は)む茫漠(ぼうばく)たる砂丘。生きてはいない大地。

 長く尾を引く激戦の傷跡は、地上より生命の力を奪い去った。着実に、執拗(しつよう)に。

 この枯れ果てた景色を眺めながら、過去の道程と未来への行道(ゆきみち)に思いを馳(は)せる。

 視野を占有する黄砂の海原(うなばら)は、勝利の優杯か敗北の証明か。

 答えがでない問いを巡らすのは虚しい。


『そっちの砂煙を確認した。300m先で待機中だ。拾ってくれ』


 ジープに備え付けてある無線機から、くぐもった声が聞こえてきた。

 タイヤを絡め取る砂地でないだけマシという旧い悪路だ、走行中に巻き上がる後塵(こうじん)は凄まじいものとなる。

 目印としては十二分。さぞかし見付け易かったことだろう。

 変わり映えしない砂漠の広がりを左右にしながら進んでいけば、前方に人影が一つ確認できた。

 正面から其処へ近付いて、緩やかにブレーキペダルを踏んでいく。


「まったく厄介な場所さ、此処(ここ)は。ヒッチハイクもままならないんだからな」


 ジープが停止するのと同時に、助手席側(サイドドア)を開けて無線の送り主が乗り込んできた。

 防塵(ぼうじん)マスクを被り、黒い迷彩柄のコンバットスーツと、対衝撃プロテクターで露出なく固められた探索屋(エクスプローラー)。

 声のくぐもりは無線の精度でなくマスクの所為だ。頭部を丸々覆っているため、声質がノイズ混じりのように聴き取りづらい。


「今までで最低かい?」

「フン、陸地な分を差し引いてもドッコイってところか」

「そういえば海側にも埋まっていたっけ」

「ああ、あった。浅い海域だが、とにかく足場が悪い。ま、こっちも負けちゃいないが」


 防塵マスク越しで表情も知れない相手の舌打ちに、ボクは苦笑で返しつつアクセルを踏み込んだ。

 頑丈さと走破性に秀でた軍用ジープは、再び砂埃を蹴りながら走り出す。

 黄金の砂海が一瞬ごとに後方へ流れ始めた。しかしどこまでも同じ景色で変化に乏しく、進んでいる実感は薄い。

 吹き抜けていく風の勢いと、四つのタイヤが路面を噛む音だけが状況を教えてくれる。


「それで、この道を真っ直ぐ進めばいい?」

「ある程度は。俺が合図したら西に逸(そ)れて、砂漠に乗り入れろ。そこからまだしばらく走る」

「よく見付けてくれたね。流石はプロの探索屋(エクスプローラー)。キミに依頼して正解だったよ」

「報酬に見合う仕事はする。そっちの提示額がクソ舐(な)めたお小遣いだったら、半端な仕事で返したさ」

「キミの作業実績を鑑(かんが)みれば、多額の報酬は妥当だ。過去に4基、墜落したキューブを見付けだしてる。そして今回で5基目。個人としての成果なら間違いなく世界トップクラスだよ」

「持ち上げられるのも悪い気はしねぇ。なまじに金と権力を持ってる奴は、俺みたいな個人事業主を低く見てくるばっかりだ。そんで、どうにかして払いを渋ろうとする。その意味じゃアンタは上客さ」

「お互いに好印象が抱けたなら幸いだ。仕事も予想よりずっと早かったし、感謝の意味も込めて追加報酬を用意してある。荷台を」


 ボクの言葉を受けて、探索屋(エクスプローラー)は体を捩(よじ)った。

 すぐ後ろの座席に置かれたアタッシュケースを認めると、身を乗り出して掴み、自分の方へと引き寄せる。

 黒迷彩の膝上に置いてロックを外し、上蓋を押し上げて中を覗くと、マスクの下から軽快な口笛が聞こえてきた。


「こいつぁスゲぇ。ぶっとい金の延べ棒が出てきやがった。しかもこっちはダイヤの塊か。こういうサプライズは大歓迎だぜ」

「キミの働きは期待以上だった。その能力をボクは高く評価してる。これからも良い関係を続けていきたいね」

「払うモン払ってくれるなら異論はない。これでまた家族に美味いもん食わせてやれるしな。……しかしアンタ、これだけの額をポンと寄越せちまうとは、生半可な金持ちじゃないだろ」

「祖母と親世代のお陰でね。いわゆる莫大な遺産というやつさ」

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