第4話:大戦の爪痕
へし折れた高層ビルの残骸が、広大な砂地に半ばまで埋まっている。
乾いた風が吹くたびに多量の砂塵は舞い上がり、まるでヴェールのように視界を遮った。
見えているのは潤いを著しく欠いた砂漠。そして正体を無くした瓦礫たち。
地上の大部分は散乱した鉄屑と砂と埃に覆われ、地平の果てまでが無味乾燥だ。
かつて大きな都市があった筈の場所も、今やまったく原形を留めていない。砂の大海に沈み、建築物の残影を時折覗かせているのみ。
まともな文明を感じさせるのは、砂にまみれながらも辛うじて伸びる道路と、それを用途通りに使っているボクの軍用ジープだけ。
随所が砕け、あるいは罅割れ、陥没したアスファルトの亡骸が、逆巻く砂の波を真っ直ぐに貫いている。周囲のことごとくが本来の役割を失って久しいなか、朽ちて尚繋がりを維持する道は偉大だった。
他には称賛を送るに値するものが皆無。
酷く荒廃した情景は在りし日の姿も遠く、どこまでも物寂しい。
現在進行形で世界を食む茫漠たる砂丘。生きてはいない大地。
長く尾を引く激戦の傷跡は、地上より生命の力を奪い去った。着実に、執拗に。
この枯れ果てた景色を眺めながら、過去の道程と未来への行道に思いを馳せる。
視野を占有する黄砂の海原は、勝利の優杯か敗北の証明か。
答えがでない問いを巡らすのは虚しい。
『そっちの砂煙を確認した。300m先で待機中だ。拾ってくれ』
ジープに備え付けてある無線機から、くぐもった声が聞こえてきた。
タイヤを絡め取る砂地でないだけマシという旧い悪路だ、走行中に巻き上がる後塵は凄まじいものとなる。
目印としては十二分。さぞかし見付け易かったことだろう。
変わり映えしない砂漠の広がりを左右にしながら進んでいけば、前方に人影が一つ確認できた。
正面から其処へ近付いて、緩やかにブレーキペダルを踏んでいく。
「まったく厄介な場所さ、此処は。ヒッチハイクもままならないんだからな」
ジープが停止するのと同時に、助手席側を開けて無線の送り主が乗り込んできた。
防塵マスクを被り、黒い迷彩柄のコンバットスーツと、対衝撃プロテクターで露出なく固められた探索屋。
声のくぐもりは無線の精度でなくマスクの所為だ。頭部を丸々覆っているため、声質がノイズ混じりのように聴き取りづらい。
「今までで最低かい?」
「フン、陸地な分を差し引いてもドッコイってところか」
「そういえば海側にも埋まっていたっけ」
「ああ、あった。浅い海域だが、とにかく足場が悪い。ま、こっちも負けちゃいないが」
防塵マスク越しで表情も知れない相手の舌打ちに、ボクは苦笑で返しつつアクセルを踏み込んだ。
頑丈さと走破性に秀でた軍用ジープは、再び砂埃を蹴りながら走り出す。
黄金の砂海が一瞬ごとに後方へ流れ始めた。しかしどこまでも同じ景色で変化に乏しく、進んでいる実感は薄い。
吹き抜けていく風の勢いと、四つのタイヤが路面を噛む音だけが状況を教えてくれる。
「それで、この道を真っ直ぐ進めばいい?」
「ある程度は。俺が合図したら西に逸れて、砂漠に乗り入れろ。そこからまだしばらく走る」
「よく見付けてくれたね。流石はプロの探索屋。キミに依頼して正解だったよ」
「報酬に見合う仕事はする。そっちの提示額がクソ舐めたお小遣いだったら、半端な仕事で返したさ」
「キミの作業実績を鑑みれば、多額の報酬は妥当だ。過去に4基、墜落したキューブを見付けだしてる。そして今回で5基目。個人としての成果なら間違いなく世界トップクラスだよ」
「持ち上げられるのも悪い気はしねぇ。なまじに金と権力を持ってる奴は、俺みたいな個人事業主を低く見てくるばっかりだ。そんで、どうにかして払いを渋ろうとする。その意味じゃアンタは上客さ」
「お互いに好印象が抱けたなら幸いだ。仕事も予想よりずっと早かったし、感謝の意味も込めて追加報酬を用意してある。荷台を」
ボクの言葉を受けて、探索屋は体を捩った。
すぐ後ろの座席に置かれたアタッシュケースを認めると、身を乗り出して掴み、自分の方へと引き寄せる。
黒迷彩の膝上に置いてロックを外し、上蓋を押し上げて中を覗くと、マスクの下から軽快な口笛が聞こえてきた。
「こいつぁスゲぇ。ぶっとい金の延べ棒が出てきやがった。しかもこっちはダイヤの塊か。こういうサプライズは大歓迎だぜ」
「キミの働きは期待以上だった。その能力をボクは高く評価してる。これからも良い関係を続けていきたいね」
「払うモン払ってくれるなら異論はない。これでまた家族に美味いもん食わせてやれるしな。……しかしアンタ、これだけの額をポンと寄越せちまうとは、生半可な金持ちじゃないだろ」
「祖母と親世代のお陰でね。いわゆる莫大な遺産というやつさ」




