第4話 二つの剣
どうも、TKNです。
序章も中盤に差し掛かり、
二つの詩の全景が明かされ、少女の詩と繋がります。
詩の全景が明かされ、それで終わるのか。
それは読んでのお楽しみ。(またですか)
ともあれ、序章の中で最も頭を抱えて構成した所となります。
どうぞ、読んであげてくださいませ。
日が暮れて、夜になり国王より晩餐に招かれるフォルゼア。
国王より頂いた真紅のドレス。
宿にて、鑑の前に、真紅のドレスを胸元に当て、首をかしげる。
傍に置かれた黒い剣が、無い口を開く。
「ぶわははははっ。馬子にも衣装というやつだな。」
睨むフォルゼアに、床に叩きつけられてはたまらんと、慌てる黒い剣。
「褒め言葉だ。どこまで鈍い貴様。」
そんな黒い剣を見、フォルゼアがドレスに付けられていたリボンを一つ紐解く。
「何をしている。」
紐解いた赤いリボンを、持ち、黒い剣に近づく。
「まさか・・・貴様やめろ。我にそんなものは似合わん。」
嫌がる声を挙げる黒い剣。無表情で柄にリボンを結ぶフォルゼア。
「これで良し。」
「貴様、ふん。まぁ、我も行くならば身嗜みをしろということか。」
いやにあっさり引き下がる黒い剣。
そして、ベッドに置かれている毛布を黒い剣に被せるフォルゼア。
「今度は何をする。」
「着替える。」
成る程、と黒い剣は黙り込み。 晩餐に呼ばれた時間となる。
宿の前に立つ老騎士。宿から出てくる赤いドレスを着た美しい少女。
16歳になろうかと言う若さにしては、スタイルの良さがドレスにより強調される。
それを見たバルフが感嘆の声を挙げる。
「ほ。子供と思っておったが、いや中々。見事なまでに鍛えておるようですな。」
バルフが感嘆の声を挙げたのは、
下心ではなく、ただ純粋に丹念に鍛え上げられたフォルゼアの体にであった。
それに対し、少し照れくさそうにお辞儀をするフォルゼア。
それを見たバルフは笑う。
「ははは。いかに世に名を馳せた者でも女性は女性ですな。
そして、魔剣殿も似合っておられますぞ。紳士的で。」
黒い刀身に結ばれたリボンが、さながらタキシードの様に見える。
「当然だ。」
誇らしげに言う魔剣。それを聞き流し、城へ案内するバルフ。
「さ、参りましょう。陛下や皆の者が待っております。」
日も暮れた人気の無い道を行く。
そして、城門をくぐった時、人気の無い意味に気がついた。
城内の者だけでなく、城下の者まで集まっていた。
そして、フォルゼアに気づいたアレス王が、群がる子供達に手を焼きつつ手を振る。
「おお、どうやら主役のご登場の様だ。」
その言葉に、その場にいる全員の視線がフォルゼアに向く。
流石のフォルゼアも、驚き、どうすればいいのか判らない仕草を見せる。
それを横で見ていたバルフはこう言う。
「フォルゼア殿、皆、貴方の言葉を待っておりますぞ。」
バルフの方を目を丸くして見るフォルゼア。
「そ・・そんな。何を。」
静かに目を閉じバルフは言う。
「考える必要は無いですぞ。自分の心のあるがままに。
皆はそれを期待しておるのです。」
そう言うと、フォルゼアは意を決したかの様に口を開く。
「あ、えと。」
更に視線が強くフォルゼアの体に突き刺さる。
殺意でも敵意でもない。初めて彼女に突き刺さる意志。期待。
戸惑いながら、フォルゼアは言う。
「えと、上手く言えませんが。
え・・と。頑張ります。精一杯。」
と、と言うとその場から笑い声が湧き上がる。
横でバルフが茶化す。
「お嬢さん。口下手ですなぁ。ははは。」
恥ずかしそうに、下を向くフォルゼアの腰から大声がする。
「ふははははっ。我の為に集まってくれてご苦労ご苦労。
案ずる事は何も無いぞ。我が力を持って奴らを消し去ってくれよう。
聞くが良い我が忌むべき名を。恐れるが良い我が呪われし名をっ。
戦えっ奪えっ殺せっ我は奪う者、ソウル・・痛ぁぁぁぁぁぁっっっっ」
傲慢な自己紹介の最後に、激しく城門の壁に叩きつけられる黒い剣の金属音。
それを見た全員が、大声を挙げて笑う。
「はははっ。実に妙な組み合わせ。」
「慢心する者としない者。と言う所ですな。」
「その通り、しかし何と頼もしい姿であろうか。」
相槌を打ち合う人々。
黒い剣を叩きつけるフォルゼア。
近づくアレス王。
「フォルゼア殿、中々似合っておりますぞ。魔剣殿も。」
黒い剣を叩きつけるのを止め、恥ずかしそうにうつむくフォルゼア。
「ありがとう御座います。陛下。」
軽く手を振り答えるアレス王。
「いやいや、さぁこちらへ。この国の料理が口に合うか判らないが。」
中央に置かれた一際大きいテーブルに招かれるフォルゼアに、多くの人が集まる。
「これはこれは、なんとも美しい。」
「ドレスに帯剣とは、これはこれで良いものですな。」
色々な声が飛び交う中、アレス王は宣言する。
「さて、諸君。、
我等は機会を得た。
明後日、全軍を持ってして、彼の皇帝に正義の鉄槌を下す事を
阻む者イージスの盾と、奪う者ソウル・イーターに誓って宣言する。
彼の国の子供にも笑顔と安らぎを。」
高らかに、大声でアレス王は宣言をすると、砕けたかの様に酒や料理を口にする。
あの時見た、気品や風格はどこへやら。
今ここにいるのは、ただ一人の男。ただ一人の酔っ払い。
周りの人々は、いつもの事と笑って見ている。
流石のフォルゼアも、笑い出す。
「ふふ。あらあら、なんとも居心地の良さそうな国王様ねぇ。」
そして、隣に同じく笑う、白いドレス・白い剣を帯剣した女。レザリア。
周りは騒ぎで気づいていないのか、変らず笑い声が聞こえる。
「貴様・・・。」
静かに、されど激しく感情を高ぶらせ剣に手を当てるフォルゼア。
それを見たレザリアは、またあざ笑うかの様に口を開く。
「もう、こんな所で抜いたらだめでしょ。安心なさい。
今は戦う気は無いわ。ただ気になった事があって来たのだけど・・・。
ふふ、どうして良いお土産までもらっちゃったわねぇ。」
睨めつけるフォルゼア。それに気がついたバルフがこちらにくる。
「如何なされたかな、フォルゼア殿。 む。」
バルフの方を向くレザリア。
「あ~らオ・ジ・サ・マ。相変わらず大人の色気が滲み出ておられますわねぇ。」
少し、顔を濁らせ語るバルフ。
「何をしに来た。この馬鹿孫が。名を捨て、国を捨てた貴様が来るべき所ではないぞ。」
その言葉に驚き、バルフとレザリアの顔を見比べる。
どことなく、そう目元が良く似ている事に気がつくフォルゼア。
「バルフ殿。まさか。」
フォルゼアの言葉に、眉間にシワを寄せつつ頷くバルフ。
「うむ。この馬鹿は、我が孫。・・であった者だ。」
再び肉親の因果が時代に絡みつく。然し、それをさも誇らしげにあざ笑うレザリア。
「くすくす。オジサマ。もう孫ではありませんことよ。
私は王都、白の騎士団団長。レザリア=クラスヴェリア。貴方が剣を交える者で御座いますわ。」
バルフは答える。
「ならば早々に去れい。貴様に語る言葉なぞありはせん。」
剣を抜こうとするバルフ。止めるフォルゼア。
「バルフ殿。」
バルフを抑え、レザリアに問うフォルゼア。
「聞きたい事って、何。」
忘れていたといわんばかりの顔で、答えるレザリア。
「あ、そうそう。ほらガラテアの事なんだけどねぇ。」
フォルゼアの顔が強張る。
「もう、悪い事は言わないわよ。私もこれでも騎士なのよ。
貴方、去り際にガラテアに何をいったのかしら。
彼、魔剣の力を使わないのに、恐ろしく強かったわ。」
怯えた様な、それでいてその力を欲している様な事を、言葉から滲ませつつ続けて言う。
「ねぇ、教えて頂戴。何を言ったの。あれは人じゃなかった。
本当に死神と戦っている気分だったのよ。」
フォルゼアは、誇らしげに答える。
「ええ、義父様は強い。心も体も。
今の貴方も私も、例えこの剣で力で戦おうとも、
両腕が義父様にあったなら、勝てない。」
少し首をかしげ黙るレザリア。そしてこう言い返す。
「義父様。成る程ねぇ。だから笑っていたんだ。
どうもガラテアって隠す癖があるから、これも知らないんじゃないかしら。」
首を傾げるフォルゼアに、微笑みを見せ、軽く頭を下げてこう言った。」
「ありがとう。フォルゼア。貴方のお陰で彼は一片の悔い無く逝けたのよ
それどころか、死ぬのを楽しみにすらしていたわ。
まるでそう、子供みたいに。」
フォルゼアが少し眉間にシワを寄せる。
「あらやだ、また怒ってもう・・。
ガラテアはね。戦争で自分の子供と妻を失っているのよ。
彼が何故死神と呼ばれているか、それも知ってなさそうね。」
静かに耳を傾けるバルフ。
眉間にシワをよせながらも、興味があるという顔をするフォルゼア。
「ふふ。いいわ。
昔、途方も無い強さを持った騎士がいたのよ。
それは大層な暴れん坊でね。納まる所の無い剣。それがガラテア。
けれど、一人の女性が鞘となって、彼を更に強くしたの。
そして、二人は一人の子供を授かったの。
ガラテアは喜び、次の戦の勝ち鬨に子供の名を付けると勇んで出て行った。
けど、幸せって続かないものなのよねぇ。
戦に出て行ったガラテアと軍。 その隙を狙って侵略してきた国が、皆殺しにしたの。
ガラテアの妻と子供もね。
帰って来たガラテアは、それは怒ったそうよ。
そしてたった一騎で、小さいとはいえその国一つに死を撒き散らした。
でも不思議じゃない。 いくら強いからって一人で国を落とせるかしら。
レザリアは、わざとらしくフォルゼアに問う。フォルゼアは、腰にある黒い剣を見る。
「そう。彼の怒りに呼応した様に、彼の元に現れたのよ、
そこの可愛いリボンをつけた剣がね。
剣は彼に力を貸したの、その国。その城を瞬く間に落とした。
怒りに震えた彼は、納まる所を失った彼は。
幾度となく、その命を剣に吸わせたの。
仕える国もなく、ただ破滅をもたらす死神となった。
これが、彼が死神と呼ばれる所以。」
フォルゼアが、剣を見、もしかしたら自分もそうなっていたかも知れない。
そう、ガラテアの過去は自分そのものだという事を知った。
それを見たレザリアが、再び微笑みかける。
「まるで貴方達と同じよね。失って、悲しんで、そして剣に選ばれて。」
フォルゼアと魔剣に視線を送る。
「でも、一つの相違点。フォルゼア。貴方は死神になれなかった。
いえ、なろうとしなかった。」
羨ましそうな表情でフォルゼアを見るレザリア。
「期待しているわ。闇の招きに打ち勝った騎士の剣。
一体どれ程の強さなのかしら。楽しみで楽しみで、胸が張り裂けそうよ。」
そして、ふと疑問を浮べる。
「そういえば、そんな怒り狂ったガラテアを止めたのって誰なのかなぁ。
絶頂期の死神を止めた。人にあらざる者。興味あるわ。」
フォルゼアは、知っているとばかりにこう言う。
「多分、いえ。きっと唄が彼を止めた。
清く白い唄が、彼を闇の淵から救い出した。」
確信を持った表情で、フォルゼアは答えた。
羨ましそうな表情で言うレザリア。
「あらやだ。出会った事あるのね、いいなぁ。
私も逢ってみたい、戦ってみたい。」
そんな残念がるレザリアに、
フォルゼアは少し離れた所で唄うエルドに視線を向け。こう言う。
「もう、逢っている。今。」
驚いた表情で、フォルゼアの視線の方を見る。
その先のエルドを見て笑うレザリア。
「あらや~だ。ガラテアに似て堅い人かと思ってたけど、冗談も言うのね。
まぁいいわ。そろそろ帰らないとね。ありがとうフォルゼア。
貴方と戦える日を楽しみにしているわ。」
そういうと、振り向き様に剣に手を触れた様に見えたその一瞬。
近くにあったテーブルが、跡形も無い程に崩れ去り、彼女はその場から出て行った。
それを見て驚くフォルゼア。残念そうにバルフは言う。
「彼女もまた、失う事の重さに耐えられなかった一人。
稀代の資質はあるものの、心がそれに伴っておらん。全く持って勿体無い事だ。」
そんな残念そうなバルフに、フォルゼアは言う。
「バルフ殿。ここは戦場では無いが、私は約束を貴方と交わす。」
その言葉に目を丸くして答えるバルフ。
「ほ。騎士の約束は絶対ですぞ。して、何かな。」
暫し間を置き、頭で言葉を整えたフォルゼアは言う。
「彼女、レザリアを闇の淵から救い出し、貴方の元に戻らせます。
レザリアにはまだ、戻るべき場所がある。まだ遅くはない筈。
貴方も彼女も、心の底では、親しく呼び合う事を望んでいる。
そうでしょう、バルフ殿。」
初めて勘が働いたフォルゼア。それに驚いたバルフは声を挙げる。
「ほ。いや。驚いた。男子三日逢わざれば、活目して見よ。というが、
ははははは。フォルゼア殿。生まれてくる性別を誤った様ですな。
確かにその約束聞き入れましたぞ。」
それに少し怒った声で笑い声を挙げるフォルゼア。
「なぁにぃぃぃぃぃっ。」
再び物語は繰り返される。
失って、闇の中救いを求めるが如く、戦いを望んだガラテア。
失って、闇の中救いを求めるが如く、戦いを望み救われたガラテアがフォルゼアを救い。
失って、闇の中救いを求めるが如く、戦いを望んだレザリアをフォルゼアが救うのか。
フォルゼアはまだ知らない。
この出来事が、
彼女に二つの剣の真実を知り。
彼女にイージスの謎解きを解く切っ掛けになる事を。
その晩、レザリアは王城の一室。そのテラスにて夜空を眺めていた。
腰には、黒い剣。
ふと、フォルゼアは黒い剣に語りかける。
「ねぇ、ソウル・イーター。」
その事に驚き返す黒い剣。
「天変地異の前触れか。貴様が我が忌み名を呼ぶとは。」
「からかわないで。」
「・・すまん。」
いつもと違う雰囲気に、黒い剣はしおらしくなる。
「で、何か用か。」
頷き答えるフォルゼア。
「何故忌み嫌われているのか。」
またしても唐突。またしても脈絡の無い言葉に、黒い剣は笑い飛ばす。
「ぐはははははっ。意味がわからんぞ小娘。
然しまぁ、簡単である。我が魔剣であるからだ。」
「魔剣だから、忌み嫌われるものなのか。」
と即座に聞き返す。
当然のように言う黒い剣。
「我は星の数程の命を奪いし剣ぞ。」
「そうは、思えない。義父様の命も護ってくれた。」
フォルゼアにしては鋭い指摘。それに焦る様に答える黒い剣。
「な、何を言うかと思えば。くれるというから貰っただけだ。
そして、たまたま貴様が我を振るうに値する場所に立っていた。それだけだ。」
その言葉に、フッと笑いつつ夜空を見上げるフォルゼア。
「貴方も、素直じゃない。私達、意志が全く違うのに、
こうしていられるのも、似た者同士だからかもしれないからか。」
少し黙り込み言い返す黒い剣。
「貴様と一緒にするな。」
笑うフォルゼア。
そして黒い剣を見、フォルゼアは言う。
「この戦いが終わったら。旅がしたい。」
不思議そうに答える黒い剣。
「また訳のわからん事を。この戦いで勝利すれば巨万の富と名誉が貴様を待っているのだぞ。
何も不自由する事なく、毎日遊んで暮らせるのだぞ。どこまで馬鹿者か小娘。」
その言葉に、夜空に再び視線を向けるフォルゼア。
「それだと、本当にイージスになりそうだし。私、思うんだ。
あの皇帝も、元は志の高い人だったのじゃないかっ・・て。
人を救う事も出来る金銀財宝。それは同時に人を醜くする物でもあるんじゃないかって。
もしそうなら、私はやっぱり要らないな。それよりも世界が見たい。
この短い旅でいろいろ苦しかったけど、沢山の事を知る事が出来た。
この広い世界ならどれぐらいの事を学べるんだろう。」
黙る黒い剣。
「それと、ソウル・イーター。次の旅は。貴方の為の旅にしようと思う。」
不思議そうに答える黒い剣。
「我の。どういう事かな。」
夜空から黒い剣に視線を戻し、微笑むフォルゼア。
「貴方を、その忌まわしい名前、恐れられる名前。いえ。
魔剣を聖剣に作り変える旅。
私、思ったの。貴方、過去のガラテアそのものだって。
だから、私が貴方の鞘になる。
ただ一つ貴方が安らげる鞘に。そして、もっと強くなろう一緒に。」
照れと嬉しさを必死で隠す黒い剣。
「我を聖剣に作り変える。不可能だ。大体・・・」
その言葉は続かなかった。 透き通った美しい声により遮られて。
「呪われた魔剣を浄化する聖なる焔の鞘。
う~ん。また新しい詩が生まれそうな予感がしてきましたねぇ。」
その声に横に振り向くと、隣のテラスにエルドが竪琴を奏でつつこちらを見ていた。
「こんばんわ、麗しい赤の騎士様。今宵の夜空の星は、いつになく輝いておりますね。
そして、ソウル・イーター様。
否定しておられるご様子ですが、貴方様自身も期待しておられますね。」
世界の全てを見透かす様な目で、フォルゼアと黒い剣に微笑むエルド。
「貴様か。どこまで人を舐めた奴。」
少し肩をすくめて、答えるエルド。
「ふふ、貴方は剣ではありませんか。
力の質に差異はあれどただ一振りの剣ではありませんか。」
その言葉に返す事が出来ないのか、黙り込む黒い剣。
再び、視線を夜空に戻しフォルゼアに語りかける。
「夜空を見て判ると思いますが、世界は広大です。
それに気づき、何かを成そうと旅の決意をされるのですね。
ふふ。どうやら私は勘違いをしていた様です。
この小さな大陸の、小さな国。その中の小さな英雄の詩。
そう、思っておりました。
どうやら、未完の英雄は新しい詩への序章に過ぎない。
そう、確信しました。」
視線をフォルゼアに戻し、続け語るエルド。
「でも、余り先を見過ぎない様に気をつけて下さいませ。
貴方がこれから出会う脅威は。とても大きいものです。」
その言葉に、笑みを浮かべ、エルドに礼を言う。
「そうね。ご忠告確かに受け取ったわ。
ありがとう・・・イージス。」
「いえいえ、どう致しまし・・・あ。」
笑うフォルゼア、 慌てるエルド。
「これはこれは、本当に日々成長されていますね。
もう隠し通す事は無理ですか。
でも、くす。 神話には興味は余り無いみたいですね。」
首を傾げ答えるフォルゼア。
「神話・・。」
優しく微笑み相槌を打つ。
「ええ。神話。イージスとは人の名前ではなく、無敵の盾。
そしてそれを持つ女性。それは、アテナ。」
その名をただ聞き入れるフォルゼア。黙り込む黒い剣。
「アテナ。」
夜空に視線を戻し語るエルド。
「はい。そして、栄光を手にした彼は、醜く歪んでしまい、盾の戒めを受け。
そして、死ぬ事を奪われた。今も助けを求め苦しみ彷徨っています。
どうか、彼を助けてあげて下さい。私には、授ける事以外に、私はどうする事も出来ないのです。」
涙を浮べるエルド。そして伝承に一つの疑問が出来たフォルゼア。
「授ける・・。アテナ。もしかして、勘が外れてしまうかもしれないけど。」
それを見て察したのか、涙を白く美しい手で拭いつつ答える。
「はい。少し外れていますけど。剣ともうまく歩いている様ですし。
そろそろ知る時でしょうね。
白い剣。聖剣クラウ・ソラスは別に存在します。
そして、黒の剣。魔剣ソウル・イーターも別に存在するのです。」
誰よりも驚いた黒の剣が叫ぶ。
「なんだと。ならば、我は何者なのだ答えろ貴様っ。」
はやる黒い剣。抑えるフォルゼア。
それを見て静かに答えるエルド。
「それは、・・いえ。この話は貴方達にはまだ荷が重過ぎます。
いつか、そう、必ず知る時が来るでしょう。
判ってください。
貴方は、呪われてはいない。力の質が違う一振りの剣であると言う事を。」
不服そうに答える黒い剣。
「答えになっておらん。我は誰だ。答えよ貴様。」
激昂する黒い剣に手を当てフォルゼアはこう言う。
「折角だし、名前、変えてしまえばいいじゃない。」
更に怒り散らす黒い剣。
「小娘。流石に聞き捨てならぬな。」
そんな怒る黒い剣を撫でてフォルゼアは言う。
「言ったでしょう。私は貴方の呪われた名を変えてみせるって。
いくら憎んでくれても構わないわ。憎むだけ憎んでいい。
その名前で、偽りの過去から救い出してあげる。 そう…貴方の名前は。」
「やめろ。言うなっ。」
黒い剣の止める声も聞かず、フォルゼアは言葉を紡ぐ。
「私は言えなかった事があるの。凄く後悔した。だからガラテアの魂を持つ貴方に言うわ。
優しい死神。 死神の剣。ガラテア。」
微笑ましくその光景を見るエルド。
「優しい死神。恐れ忌み嫌われる死の使い。神の農夫。
神話を知らないのに、死神様の性格は知っている。」
不思議そうに、微笑みつづけて言う。
「くすくす。本当に不思議。さぁ、貴方は何をする剣なのかしらね。ガラテア様。」
その言葉に必死で訂正を求める黒い剣。
「貴様等・・・。許さん。というよりもだな。もっとドスの聞いた名前にしないか。
なんだその矛盾したような言い回しはっ。気に入らんっ訂正せよっ。」
慌てる黒い剣、ガラテアを見て二人は声を揃えて笑う。
名前、変えて欲しかったようですね。と。
そして、エルドは、再びフォルゼアに視線を戻す。
「フォルゼア様。貴方はこの死神の剣ガラテアで何を願うのでしょうか。
聞きたいですね。とても。」
フォルゼアは、夜空に向けガラテアを掲げる。嫌がるガラテアが叫ぶ。
「やぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉおおうっ。」
問答無用で誓いの剣を立てる。
「私は奪う。聖剣でも無い、魔剣でも無い。この死神の剣で。栄光を奪う。
憎しみを生み出す根源。栄光を奪い滅する者、優しい死神。ガラテアと共に。」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ。」
死神の剣ガラテアの産声が夜空に響き渡る。
その時、彼女達のいるテラスの前に、突如として鎌を携え、黒いボロを纏った骸が現れる。
手を口に当てて、骸を見るエルド。
目を丸くして驚くフォルゼア。
喰らい付こうとばかりに威嚇するガラテア。
涙を流しこちらを見る、骸。
何を言っていいか判らず困るフォルゼアに、エルドは優しく言う。
「おや。珍しい。泣いてらっしゃるのですね。
フォルゼア様。この方は死神様。
生ける者が死ぬその時に、ただ一度だけ現れて。
その魂が迷わない様に、魂を刈り取り道案内をする。神の農夫。死神様。
くすくす、余程嬉しかったのでしょう。いつも悪い対象、悪神でしか見られない。
そんな彼が、優しい死神なんて言われて、思わず出てきてしまったようですね。」
そんなフォルゼアとガラテアを見て、死神は剥き出しの顎の骨を動かしこう言う。
「剣を。」
その言葉に、エルドは驚く。
「あら、初めて見たわ。死神様が選ぶなんて。」
判った様に、フォルゼアと黒い剣に語りかけたエルド。
何も判らず差し出すフォルゼア。
理解しようと流れに任す黒い剣。
差し出された黒い剣。差し出された剥き出しの右腕の骨。
黒い剣に触れた瞬間、フォルゼアが違和感を覚える。
「え、軽い。」
自分の力に余りある黒い剣の重み。それが羽根の様に軽くなる。
そして何も言わず、闇に溶けるように消えていく死神。
驚くフォルゼア。
「これは・・。」
続けるガラテア。
「一体。」
二人が悩む。 それに答えるエルド。
「あの方が出てこられたなら、そう。思った以上に早かったですね。
いいでしょう。それではフォルゼア様、ガラテア様。」
エルドの方を向くフォルゼア。
「まだ荷が重いと思っていましたけど、そうでもなかった様ですね。
ではお話しましょう。二つの剣。いえ、世に轟かせた聖剣・魔剣の事を。
元は名も無い剣。 鍛冶の神が創りし物。
鍛冶の神は創る事が出来ても、与える事が出来ない。授ける事が出来ません。
だから、鍛冶の神は創った物を世界に落とす。
そして、全てに制約を持たない人間に全てを委ねます。
出逢った人間の質が、物の質になり。
出逢った人間が、物の名前を与える。
そうやって繰り返し、繰り返し。
歴史に名を残した者の傍らには、聖剣や魔剣。色々なものが存在しました。
その中でも、取り分け質の高い物は、神の住む世界に還ります。
そう、鍛冶の神に鍛えられ、世界でも鍛えられた物は、
神の世界に還り、神器となるのです。いわば。聖剣や魔剣はその余り物。出来損ないと言う所。」
ガラテアを強く抱き込むフォルゼア。
「え、じゃあ。」
苦しむガラテア。
「つ・・潰れる。」
微笑むエルド。
「安心なさい。まだガラテア様はまだ鍛えられていない。
だから、戻る事は許されない。
でも、驚きましたね。今まで鎌とみすぼらしい布以外求めなかった死神様が。
それも、生きた人間の前に現れて、その剣を望まれるなんて。
余程気に入られたのでしょう。ガラテア様も、そしてフォルゼア様も。」
視線を夜空に移し、消えていった死神を想う様に語るエルド。
死神様は、怖がられ、恐れられますが。
元々、それはそれは身も心も美しい神でした。然し、心が清く美しすぎたのか、
貧しき者に自身の全てを惜しみなく分け与えた。
優しく、慈悲深い神です。
ふふ。偶然とはいえ、神に触れる事が出来るなんて。
不思議なフォルゼア様。」
フォルゼアに微笑み、そして視線をガラテアに移す。
「ガラテア様。」
言葉の続きを待つかのように黙るガラテア。
「くす。貴方は聖剣になれなかった。
そして、フォルゼア様によって魔剣にもなる事が出来なかった。
貴方は、今はまだ一振りの剣です。
神剣になる事を義務づけられた一振りの剣。そう、未完の神器。」
先程の事は、その手付けと言う所でしょう。」
驚くガラテア。
「我が…神剣。」
ガラテアに微笑みかけるフォルゼア。
「良かったじゃない。俄かに信じられないけど。
でも、これなら満足じゃない。ガラテア。」
照れを隠そうと答えるガラテア。
「ふん。今度はドスが効き過ぎておるわ。恥ずかしくて名乗れぬではないか。馬鹿者が。」
笑うフォルゼアとエルド。
「ほんとに素直じゃない。」
「剣もまた、持ち主に似る物ですよ。」
ひとしきり笑うと、また憂いを称えた表情に戻るエルド。
「フォルゼア様。貴方もまた、死神様にその剣を鍛える事を義務付けられたのです。
道を踏み誤らず、立派な神剣に鍛えて下さい。そして彼を。
栄光に心を曇らせ、盾の戒めに苦しむ彼を救い出してあげて下さい。
どうか、どうか。」
そう言うと、月明かりに溶け込む様に消えていくエルド。
見送るフォルゼア。
「ええ、必ず。」
茶化すガラテア。
「小娘。神と約束を交わしたんだ。違えると地獄に落とされるな。」
剣を叩きつけるフォルゼア。
「ぶるぅああああああああああっ。貴様。何故そこでそれをする。」
叩きつけつつ答えるフォルゼア。
「アテナと約束したの、死神とじゃないわ。
というより生まれ変わっても、捻くれた性格はそのままなのね。」
少しガラテアを睨むと、再び問う。
「ねぇ。結局。アテナって何者なの。武器でも盾でも無いみたいだけど。」
笑いながら答えるガラテア。
「やはり貴様は鈍感無知であるな。気づかんか。
あれは、神族。それも高位神。女神アテナだ。
場所によって呼び名が違う事もあるがな。
イージスとは盾の名前そのものであり、彼女とは全く別物だ。」
思わず、腰を抜かし地面にへたり込むフォルゼア。
「え。・・・じゃあ。」
片方のテラスで盗み聞きしていたバルフが声をあげる。
「いやいや、神が本当に存在していたとは。
そして二人の神と二つの約束を交わす。決して破る事は許されませんな。」
バルフの方に振り向くフォルゼア。
「バルフ殿。盗み聞きって男らしくないですよ。」
頭を掻きつつ答えるバルフ。
「いや、すまんすまん、どうにも出る機会がなくてな。
結局最後まで隠れてしまったわ。」
大声で笑うバルフ。そして夜空に視線を向けこう言う。
「いや然し、恐れ入った。イージスの謎解きもまだ見つけられぬ娘が。
神々に見初められ、代行者となり。そして、栄光こそ諸悪の根源と言い放つとはな。
最早死期が近いこの老いぼれでも考えてもみなかった事だ。
ははは。当然か、栄光こそ騎士の誉れであり、それに向かって精進するものだからな。
いや、実に面白い。フォルゼア殿。どうやら私が教える事は何もなくなった様だ。
それどころか逆に教えられるとは、考えても見なかった。
その栄光を奪う剣にて、あの馬鹿孫も救ってやってくれ。
あの娘もまた、力という栄光に惑わされた哀れな騎士。頼みましたぞ。」
そういうと、フォルゼアに深く礼をして、その場を去っていく。
見送ったフォルゼアは、再び夜空を見上げる。
「世の中広いのに、狭いな。ガラテア。」
返すガラテア。
「また訳の判らん事を。まぁ何があるか判らんという事だ。」
静かに、夜空を見上げるフォルゼアに、相槌を打つガラテア。
唄われた二つの剣。
鍛冶の神により生み出され、
名を与えんが為に世界に落とされた白と黒の名も無い剣。
黒の剣、名前を与えられ、還るべきを知る。
名前を与える者、還す為、剣を鍛えるべきを知る。
二つの剣に隠された神話。その事実。次なる旅の目的を見出したフォルゼア。
かくして決戦の時が訪れた。
TKNです。第6話、二つの剣を最後まで読んで頂き、有難う御座います。
非常に頭を抱えて創った所。如何でしたでしょうか。
王道を外さず、ありきたりにならぬ様、なるべく神話を別の解釈して取り。
それを複数組み上げ、そして一つの物語へと絡ませていく。
何か、初作で難しい事に挑む事はどうかと思いますが、折角ですので、無い知恵を振り絞っております。(笑)
では、どうも有難う御座いました。




