第3話 未完の英雄
連続で投稿すると、前書きに困りますネ!(笑
絶望の淵に立った主人公、フォルゼア。
今回彼女に、これから苦楽を共にする相棒が現れます。
どんな奴なのか。それは、読んでのお楽しみ。
護るべき国、護るべき者を失う赤の騎士。近くの森に身を隠す。
絶望という闇が訪れ、悲しみという雨が容赦なく彼女の体を打つ。
暗雲立ち込める空を見上げる顔に生気はほとんど感じられない。
まるで、人形の様に、ただ・ただ容赦なく打ち付ける雨に身を晒す。
そんな彼女を叱る様な声が、響き渡る。
「ぶるぁぁああ。立てぇい。貴様それでもこの我の新たなる主か。
情けなくて涙が出るのは、こちらの方だ。」
聞きなれぬ声、彼女を主と呼ぶ声。
フォルゼアは、視線だけで辺りを見回す。
「幻聴か。」
その瞬間、フォルゼアの目の前に、一筋の雷が落ち。
そこには、黒い炎を揺らめかせた剣が突き刺さっていた。
「小娘、なんだそのザマは。なんだその緩みきった顔は。
立て。立って我を手に取れ。」
幻聴の次は幻覚か・・。と、ふらりと立ち上がり、幻覚の剣の前に立つ。
「そう、そうだ。そして手にとれ。我を手に取れ。」
虚ろな目で、力なく、その幻覚の剣を引き抜き、そのまま後ろに倒れてしまう。
「な・なんたるへっぴり腰。貴様それでも騎士か。ガラテアに認められた騎士か。
恥を知れい。」
後ろに転んだ衝撃と、幻覚の剣が発したガラテアという名に、我を取り戻すフォルゼア。
「あ、私は。・・・これは、ガラテアの。何故ここに。」
剣は答える。
「ガラテアは死んだ。いや、正確には我が魂を吸ったわけだが・・・って何をするやめっ。
ぐぶるぅぁぁぁぁぁぁぁぁっ。」
言葉が終わる前に、激しい金属音が近場にあった大岩で鳴り響く。
「貴様っなにをっやめっ。」
まるで剣を鍛えなおす様に、幾度も幾度も剣の腹を岩に叩き付けた。
「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ。貴様っ調子にのるでっあっ・・落ち着けやめろ。話を聞け。」
大きく振りかぶり、
叩き割ろうと渾身の力を込めて剣を振り下ろそうとするフォルゼアを、
慌てて引き止める喋る剣。
「話って。」
振り上げたまま、問い返す。
「うむ。その、なんだ、ほっといても奴は死んでいた。」
一際激しい金属音が鳴り響いた。
「ぶぐるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。」
再び、剣を振り上げるフォルゼア。
「待てっ悪かった。取り合えず落ち着け。
その、なんだ。奴は、ガラテアはお前を助ける為に死んだ。それは判るな。」
少し間が空く。
「なんだ、この間は、おい、きいているのか。」
フォルゼアは、剣を振り上げたまま、頷く。
「判った。で・・だ。その死に方だが、結論から言うと、我が吸って殺した。」
三度激しい金属音が鳴り響く。
「ぐぶるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。」
「折れるっ折れてしまうやめんか小娘。 いいか結論だ。過程がまだであろうが。
奴の命を吸ったのには意味があるのだよ。」
剣の言葉に首を傾げるフォルゼア。
「そう、意味。いいか良く聞け、奴が望んだのだ。
白の奴に殺されるならば、我に命をくれてやる。
その代わり奴の命の力を、貴様に与えてやってくれとな。」
またしても首を傾げるフォルゼア。
「小娘、脳みそにシワはあるのか。」
またしても金属音が鳴り響く。
「ぶるぉぁぁぁぁぁっ。小娘、暴力はいかんぞ暴力はうん。
我は貴様等人間が伝え言う所の、魔剣だ。
ただ、少々不便でな。魂を吸わないと喋る事は出来ても、力は出せない。
無論、その分白い奴より遥かに力は強いがな。
まぁ、なんだ。それはそれとして、まぁ、そういうことだ。
白い奴に奪われるならば、我と共に小娘、貴様を護る。と言う事だ。」
振りかざした、黒い剣を下げ、不思議そうに剣を見る。
「な・・・なんだ。突然じろじろと。」
首を傾げつつ問うフォルゼア。
「力・・・。」
剣を裏返したり、振って見たり、色々と試す。
「小娘。我を杖か何かと勘違いしている様だが、そんなチャチなものじゃあないぞ。
ガラテアの魂は強大だ。その気になれば、この世の全てが思いのままだ。
どうだ。わくわくするだろう。欲しい物は奪えばいい。憎らしい者は殺せばいい。
気に入らない物は壊せばいい。どうだ素晴らしいだろう。
世界が薔薇色に見えてきただろう。
良し、我が名を教えてやろう。我が名はソウル・・・痛ぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
激しい金属音が鳴り響く。
「貴様っ何をするか折角・折角我が名言を言う所であったのに、
しかもなんと言う所で邪魔をする。ソウルイターって何だ。魂の板か。
ふざけた名前になってしまっているではないか。」
フォルゼアは剣を不服そうににらめ付ける。
「邪悪。」
またしても、岩に向けてソウル・イーターを振り上げる。
「待てっ、待つんだ。例えだ。例え。」
剣を振り上げたまま、首を傾ける。
「そうっ。例えだ。何も非道に走る必要も無い。
小娘。貴様が悪漢が奪おうとする者を、奪い返し護る。という使い道もあるのだぞ。
我は、奪う者、という名を冠しているからな。それぐらい造作も無い。」
自慢げに口実を並べるソウル・イーターを、また顔の近くに近づけにらめつける。
「な・・、なんだ貴様。」
「何か、怪しい。」
慌てるソウル・イーターに、疑いの眼差しを突き付ける。
「小娘、人を信じなくなったら人間おわりだぞ。」
「剣だし。しかも魔剣。」
更に慌てるソウル・イーター。
「ええい。キリが無い。良く考えろ、我を携え続けたガラテアがどう生きて、どう死んだかを。」
「あ。」
その言葉に、それもそうだ。と、剣を下げ、森を出ようとする。
「何故、我がこんな苦労をせねはならんのだ。」
「何かいった。」
愚痴るソウル・イーターに、首を傾げ問うフォルゼア。
「いや、なんでもない。なんでもないぞ。」
また岩に叩きつけられては堪らないとばかりに、必死に誤魔化すソウル・イーター。
森の出口に無造作に転がっていた剣。
放心したフォルゼアが途中で落としたのであろう。王都の騎士の家宝の一振り。
それをフォルゼアは見つけるや、手に取る。
「貴様、我がいるというのに、そのような駄剣なぞいらぬであろうが。」
ソウル・イーターをにらめつけて、フォルゼアはこういう。
「ある騎士の家宝で借り物。」
「成る程、律儀な奴であるな。」
納得したソウル・イーターは、再び黙り込む。
遂に、吟遊詩人の予言めいた詩の通り、
時代は動き、力は英雄を求め、
そして、絶望と悲しみの淵にて、破滅をもたらす黒の剣と出逢った。
然し、ここから先、唄う為の詩が存在しない。
これから唄われるは、悲しみか、喜びか。
かくして二つの英雄譚が一つの終わりに向けて時代と共に動き始める。
亡命先の国の城下町。その入り口に辿り着いたフォルゼア。
そこで、先ず目にしたのは、決して富んではいないが、
楽しそうに遊ぶ子供の笑顔と、気持ち良さそうに、汗を流し働く者の姿があった。
それを見て歩き、フォルゼアは確信が持てた。
この国の王は、剣を捧げるに相応しい。と。
本人は気がついていない様だが、口元から笑みが毀れていた。
そんな彼女に数人の子供が歩み寄ってくる。
そして、フォルゼアに話しかける。
「ねぇ、お姉ちゃんってイージス様でしょ。ねぇ、そうでしょ。」
無邪気に数人の子供達が、笑顔でフォルゼアに問いかけた。
それに対し、フォルゼアは。
「私は、…イージスでは無い。フォルゼア=レッドノートというただの騎士だ。」
屈み込み、珍しく優しい表情で子供達の頭を撫でる。
「あ、やっぱりイージス様だ。ねぇ。死神様は、死神様も来てるの。」
「もう怖がらなくていいんだね。護ってくれるんだよね。」
「ちょっと皆に伝えてくるよイージス様が護りに来たって」
子供達が一度に、フォルゼアに言葉を畳み掛ける。
その中の一つに、表情を少し暗くしたが、笑顔で答えた。
「死神は、私を護り、逃がす為に姿を変えた。」
と言うと、ソウル・イーターを地面に突き刺す。
「おい、貴様。我をこんな所に突き刺すな。」
不機嫌そうに、喋りだすソウル・イーター。
喋る剣を面白そうにべたべたと触りまくる子供。
「何をする、やめろ。触るな。ころ・・」
子供を脅そうとするソウル・イーターに、
間髪いれず叩き割ると囁いてそれを妨げた。
「き・・貴様。」
無邪気にソウル・イーターを触りまくる子供達。
魔剣の威風なぞ今この場には微塵も存在しなかった。
「ねぇ死神様。」
我関せずと、子供の問いを無視するソウル・イーター。
「本当に叩き割られたいのか。死神様。」
子供を気遣い、少し笑いながらソウル・イーターを撫でる。
「お・・脅しには屈せぬぞ。」
と、そんなやり取りを展開しているフォルゼア達に、大勢の騎士が押しかけてくる。
あまりの人数に、ソウル・イーターを触る子供達を後ろに隠し構える。
そんなフォルゼアの様子を見て、多くの騎士達が笑い声を挙げた。
「ははははは。噂通り。いや、それ以上のお人のようだ。」
妙に軽い。今まで逢った騎士のどれとも違う声質の白髪で年老いた騎士が、一つ前へ踏み出してきた。
「いや、驚かせてすまないね。
散々煮え湯を飲まされた、あのイージスに少し意地悪をしたくなったんだ。
いや、申し訳ない。」
無駄に明るく、そして大きく笑いながら、フォルゼアをなだめる騎士。
その後、思い出したかの様に自己紹介を始めた。
「おっと、失礼失礼。私はこの国の騎士団の団長を務めるバルフ。
バルフ=グラバドール。 フェルゼア殿とは、幾度も戦場でお会いしているが。
いや、こうして見ると、剣を持つ者には見えない美しさだ。」
やはり軽い。敵国同士であったならば、警戒をしないのか。
汚れたモノを見て、不信感を覚えてしまったフォルゼアは、
バルフに不思議そうに問う。
「こちらこそ。私はフォルゼア=レッドノート。貴方は、見覚えがある。
あのガラテアと、そのお歳で渡り合っていた方。
残念ながら、私は役割が違っていたので、貴方と剣を交える事はありませんでしたが。」
フォルゼアも自己紹介をし、立て続けに質問をバルフにする。
「時に。貴方はどうして私を怪しまないのか。
私は、貴方の同胞を、いや貴方の大事な戦友の命を奪った者でもある。
なのに、何故貴方は、そんな笑みを向けられる。」
その言葉にバルフは、目を丸くして、笑いながら答えた。
「ほ、はははははっ。本当に若い。羨ましい程に若い。
そして、別の意味で憎らしいと思えますなぁ。」
笑いながら、答えるバルフに、少しムッとした表情でフォルゼアは言い返す。
「失礼ながら、貴方に騎士としての誇りが無いのでしょうか。
友の仇を取ろうと思わないのでしょうか。国の為にも。」
バルフは、またしても笑いながら言い返す。
「騎士としての誇り。ありますとも。はははは。」
更にムッとした表情でフォルゼアは大声で言い返す。
「だったら、何故そんな笑っていられる。」
怒り出したフォルゼアを宥める様に、優しく静かに語りかけるバルフ。
「いいかいお嬢さん。確かに君は私達の戦友の命を奪った事もあるだろう。
だが、それならば我々もまた同じ。
憎しみから争いが生まれ、また新たなる憎しみを生む。
終わりの無い悲劇の連鎖となるのだよ。
だから、我々は護るべく戦い、護るべき者の為に散った者には、敬意を払い。
また、護るべき者の為に戦い、最後まで守り抜いた者を敵味方問わず、尊敬するのだよ。
お嬢さん。貴方が何故、彼の死神ガラテアと共に戦えたか、全ての答えはそこにある。」
バルフの重みのある言葉一つ一つに、耳を傾け、フォルゼアはこう答えた。
「義父様と共に。…。」
少し目を丸くするバルフ。
「ほ。義父様とな。成る程成る程。お嬢さん。貴方は頭で理解していない様だが、
心では既に立派な騎士のようですな。では、年寄りから一つ。
イージスの英雄譚。富める者を侵略する者。貧しき者を侵略される者。
それになぞらえてごらんなさい。 そこに騎士という存在の本懐がある。」
再び考え込むフォルゼアを見てバルフはこう続ける。
「ほほ、騎士とは戦う為に確かに存在する。
然し侵略する者から侵略される者を護る為だけのものではない。
この意味が判りますかな。」
更に悩むフォルゼア。それを見て大勢の騎士が一斉に笑う。
「な。何故笑う。」
そんな困惑する表情を見せるフォルゼアに、多くの騎士達の中から一つの声が聞こえた。
「イージス様、その答えが判れば、貴方は、亡き父上達を越えられるでしょう。」
その言葉に、バルフは笑いながら怒る。
「ははは。いい所だけ持って行かないでくれるか。」
そういうと、大勢の笑い声が城下町に響き渡る。
不思議と、悪い気が沸かず、つられて笑ってしまうフォルゼア。
戦う為に存在し、護るべき者と国の為に戦う事こそが騎士。
信じ続けた信念を覆されたフォルゼア。
侵略する者される者。両者どちらでも無ければ、一体何から護るものか。
夜もふけた深夜に、城下町の噴水のある広場でイージスの英雄譚を幾度も口ずさむフォルゼア。
そんなフォルゼアに、聞き覚えのある美しい声が、重ねてイージスの英雄譚を唄い出す。
そして、一節が終わり。フォルゼアに話しかけてきた。
「こんばんわ、麗しき赤の騎士様。夜空がとても綺麗で御座いますね。
然し、あの夜空の輝きが、少々曇っているようですね。」
その言葉にようやく気がついたのか、エルドの方を見て声を挙げる。
「エルド殿。貴方・・歳はいくつだ。」
余りに唐突な質問で、目を丸くして答えるエルド。
「あははは。そういえば年齢を考えずに伝えてしまいましたね。いや困った困った。」
確信的な笑みを浮かべるエルド。フォルゼアが更に問う。
「貴方は、何者。」
単刀直入。飾りも何も無い言葉に、エルドは微笑みながら答える。
「私は、貴方ですよ。」
またしても不可解な答えに頭を悩ませる。そんなフォルゼアを見て、再び夜空を見上げる。
「麗しき赤の騎士様。今度は何をお悩みでしょう。イージスの英雄譚を繰り返し・繰り返し。」
その言葉に、この者が何者なのかは二の次とばかりに、答えるフォルゼア。
「あ、ああ。富める者、貧しき者を侵略する者とされる者になぞらえれば、
騎士を騎士たらしめる理由が在る。とバルフという老騎士に教えられたのです。」
同じく、夜空を見上げるフォルゼア。
それに、夜空を見上げつつ、視線だけをフォルゼアに送り、答えるエルド。
「麗しき赤の騎士様。
それは貴方様ご自身が見つけなければなりません。
残念ながら、私には答える事は出来ません。
私が出来るのは、詩を唄う事のみ。それが私に出来る唯一の事です。」
そういうと、美しく透き通った声で、歌い始めるエルド。
「時代は動き、力を求め、
力は英雄を求め遂に、絶望と悲しみの暗い淵 黒き伝説と出会う。
それは奪う者。黒の魔剣。ソウル・イーター。
迷うことなく光を志し落ちた闇にて出逢った力。
見紛う事無き正義の意思に、見紛う事無き邪悪の意思が
反発し合うも共に歩き。何処に行く。悩める英雄はどこへ行く。」
その詩を静かに聴くフォルゼア。そして気になる次にて、エルドは少し困った表情を見せる。
「う~ん、困りましたね。良い詩が浮かびません。今回はこの辺りにしておきましょうか。」
フォルゼアに、微笑むエルド。
「それでは、麗しき赤の騎士様。私の様なしがない吟遊詩人めの詩に、
耳を傾けていただきありがとう御座いました。では、また。」
右手を、腹部にあて、深く一礼するとその場を去ろうとする。
それにフォルゼアは問いかける。
「何となく、貴方が誰か判った気がします。
でも、確信が持てません。もし、そうだとして、
貴方は何故私を助けてくれるのでしょうか。」
その言葉に、振り向かず、ゆっくりと闇に消えながらエルドはこう言う。
「私もまた、護る者ですから。」
彼が完全にいなくなるのを確認したソウル・イーターが無い口を開く。
「凄まじく鈍感な貴様が、良く判ったな。」
その言葉にムッとした表情で答えるフォルゼア。
「感も必要無いじゃない。ソウル・イーターがここにあるもの。
イージスの盾を手に入れた過去の英雄が、生きていても不思議じゃないわ。」
暫し間を置き、落胆の息を無い口から吐きつつソウル・イーターは言う。
「やはり貴様は鈍感の戦馬鹿だ。
そもそもイージスの英雄が生きていた時代は何百年も昔だ。馬鹿者が。」
その瞬間、噴水の溝に叩きつけられるソウル・イーター。
「ぶるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ。」
翌朝、噴水周りで謎の金属音が、
けたたましく鳴り響いたという話で、持ち切りになった事は言うまでも無い。
少し睡眠不足で、眠そうな目をこすりつつ、フォルゼアは王城へと歩を進めている。
その横には、老騎士バルフ。
「お嬢さん。ははは。悩みすぎて眠れませんでしたかな。」
フォルゼアが眠そうに頷く。
「ははは。若さとは悩み、行動し、時に後悔もして成長していくもの。
焦らず、ゆっくりと歩いてゆかれるが、よろしかろう。」
若き日の己を見るかの様な眼差しで、フォルゼアを見る。
そして、前方に視線を戻すと、王城の門が見えてきた。
そして、フォルゼアはまたしても不可解と出会う事となる。
門の前に、多くの騎士が集まっている。そこまでは不思議ではない。
問題は、その先頭にいる豪奢な服を着た壮年の男性であった。
「ようこそおいで下さいました。若き英雄フォルゼア殿。」
右手を腹部に当て、深く一礼をする男。
彫りの深い顔立ちに、綺麗に整え後ろに流した金色の髪。
その容姿と動作一つ一つから気品と風格のようなものが、にじみ出ている。
「え、あ。」
少し困惑するフォルゼアを見た、それを察したバルフが目を閉じ、軽く笑いながら言う。
「ははは。驚かれましたかな。このお方こそ、我等が剣を捧げた王。
アレス=クライフ国王陛下ですぞ。」
更に困惑して、どう対処して良いのか判らない。そんな動きを見せるフォルゼア。
それを見て、その場に居た者全てが、笑い声を挙げる。
そして、バルフがその中で、まだ笑いながらもこう言う。
「ははは。アレス陛下は。少し辛抱が出来ない性分でして。
かのイージス殿が、この国に剣を預けて下さると申し上げた時、
抑えるのに苦労しましたよ。」
辛抱が出来ない王。という言葉に、
かの醜いベイグラン=ビグラウスを思い出すフォルゼア。
辛抱出来ない、同じ意味でここまで違うものかと目を丸くして、アレス王を見る。
「私の顔に何かついてますかな。フォルゼア殿。」
その言葉に、バルフは少し悪戯心が沸いたのか。
「陛下に見惚れているのでは無いでしょうか。」
またしても、笑い声が響き渡る。
「ははは。それが本当なら、
男冥利に尽きる。という事になるな。」
アレス王はバルフにそう笑い返す。
「まこと、その通りに御座います。」
相槌を打つバルフ。
あの大臣と皇帝のやり取りと、またしても重ね見たフォルゼア。
何故、こうまで違うものかと。
「時にフォルゼア殿。その腰に帯剣しているのはもしや。」
その言葉に、その場にいた騎士達も視線を、
フォルゼアの腰にある、抜き身の黒い剣。ソウル・イーターに集める。
そして、騎士達が口々にこう言い出した。
「死神の剣」
「ガラテア殿の」
ソウル・イーターだと言う事を知らない騎士達は、
フォルゼアに浴びせるように問いかける。
「何故イージス殿が死神の剣を」
「まさかガラテア殿の身に何か」
暫しの静寂の後、全員が剣を掲げる。
フォルゼアは少し怒ったような口で騎士達に言い返した。
「義父様は、剣となって私を守ってくれている。死んではいない。」
そんなフォルゼアの肩を軽く叩くバルフ。
「お嬢さん。皆は判っていますぞ。だからこそ、その剣に向けて、剣を掲げたのです。
剣となりて尚護ろうとするガラテア殿に向けて。」
「そうです。これは嬉しい事ですね。イージス殿だけでなく、
死神殿まで馳せ参じて下さるとは。心強い。」
なだめるバルフ、相槌を打つ騎士。
そして、勘の鈍さをまたしても露呈してしまったフォルゼア。
三度、笑い声が沸き起こる。
「これは、私達でも教えられる事が沢山ありそうですね。団長。」
それに対しバルフは相槌を打ち、アレス王に話しかける。
「うむ。実力は確かなれど、まだまだ未完の大器。将来が楽しみですな。アレス陛下。」
アレス王が続いて相槌を打ち、城内に招き入れる。
「確かに。吟遊詩人が飛びつきそうな話ではあるな未完の英雄。と言う所か。
さ、立ち話も良いが、会談の席を用意しているので、入られよ未完の英雄殿。」
招かれた会談の席、そこに見慣れた者が隅に立っていた。
それに、気づいたアレス王がフォルゼアに紹介する。
「ああ、彼は良くこの城で詩を唄ってくれる吟遊詩人のエルド殿だ。
今回、詩がまた進んだ様で会談の場で唄って戴こうかと。」
アレス王の粋な計らいとでも言うべきか、フォルゼアの経路を唄う詩。
それを会談の場にてお披露目する。
フォルゼアは、エルドに軽く一礼をすると、アレス王の真向かいの席に招かれる。
そして、アレス王・バルフ・大臣達・フォルゼアが席に着くと、
宝石の様な美しい果物が並べられる。
「さ、フォルゼア殿我等が国の果実だ。遠慮なく召し上がってくれ。
さて、エルド殿早速で悪いが、続きから、いや。最初から聞かせてくれぬかな。
この未完の英雄殿の詩を。私はこれが楽しみで、仕方が無いのだよ。」
軽く笑うアレス王。それに相槌を打ちつつ笑うバルフと大臣達。
そして、未完の英雄という言葉に、反応するエルド。
「それは素晴らしい。未完の英雄。この詩の名を考えあぐねておりました。
それに致しましょう。二本の剣。イージスの盾に続く、新たなる英雄譚。
未完の英雄。ありがとう御座います。アレス陛下。素晴らしき華がこの詩に添えられました。」
意図せぬ反応にアレス王は笑いながら答える。
「や、とすると私がこの詩の名づけ親に。いやすまない。美味しい所を持っていってしまったかな。」
エルドは微笑つつ、アレス王に深く礼をする。
「いいえ、私の様なものが名づけるよりも、
貴方様のような方が名づけられた方が、この詩も喜びましょう。
さて、では僭越ながら私、エルドめが、未完の英雄を唄わせて戴きます。」
右手を腹部に当て、一礼するエルドに、拍手が浴びせられる。
そして少し照れ恥ずかしそうに、エルドの方を見るフォルゼア。
暫しの静寂の後、詩が会談の場に透き通った美しい声と共に流れ出す。
「真紅の鎧を纏い、赤子を抱く騎士。
一人の吟遊詩人と出会い己の在り方、我が子に教えるが如くに、騎士は言う。
我、心護る故に我在り。 と。
その信念違える事無く、赤の騎士は戦場を駆ける。
護るべき国の為、護るべき者の為。 剣を振るう。
その剣弾くは黒き剣 黒き騎士。
此方、赤の騎士。ベルゼア=レッドノート
彼方、黒の騎士。ガラテア=ヴァルテス
幾度も剣を交え、遂に一つの結末を迎える。
黒き右腕が鮮血と共に戦場に舞い、
勝利を確信した赤の騎士。赤の騎士を捉える黒の剣。
崩れ落ちる赤の騎士、抱き止める黒の騎士。
互いを称え、交わされた一つの約束。
約束を護る黒の騎士。 腕と共に国の地位をも捨て去った。
出会うは、…憎しみに溢れた赤の騎士の娘。
身に余る鎧・持て余す剣 引きずる娘。
その娘を容赦なく黒の剣の腹が打ち据える。
娘の憎しみは日増しに強くなり、 娘の体は日増しに弱くなる。
倒れる娘、運ぶ黒の騎士と心配する老婆。 黒の騎士の優しさに触れる娘。
いつしか憎しみは消え去り、実の親の様に慕う娘。
嗚呼、戦人とはかくも不器用なものなのか。
慕う心を隠し強くなろうとする娘と、
約束を護る為、いつまでも憎しみの対象であり続けようとする黒の騎士。
繰り返す事幾年月、亡き父の鎧を模した真紅の鎧を身に纏い。ついに娘は騎士となる。
黒の騎士に背を預け、 護りの進軍繰り返し、娘は赤の騎士団を継ぐ。
赤の騎士よ 赤の騎士よ。あらゆる災厄阻むイージスの盾よ。
何と堅固なる一枚の盾であろうか。
その勇名を付けし者、敵国の王アレス=クライフ。」
その詩の一文に、ぎょっとした顔で、アレス王を見るフォルゼア。
その反応を待っていたとばかりに、腕を組みつつ静かにフォルゼアに微笑むアレス王。
二人のやり取りを見て、一度咳払いをして、再び唄い出すエルド。
「数々の戦を駆け抜ける赤の騎士、その勇名は、王都に座する皇帝の耳にまで駆け抜けた。
勇名を馳せた赤の騎士、尚も強きを求め修練する。
赤の騎士よ 赤の騎士よ。何故強さばかりを求めるのか。
護るべき者を忘れた赤の騎士。 聞かされるイージスの英雄譚。
後悔の涙と共に、令状強く握り締め王都へと。
悩む騎士、悩む騎士。一人の詩人と出会い、過去は繰り返される。
赤子抱く赤の騎士ベルゼア=レッドノートより在り方を戴く詩人。
悩み抱く赤の騎士フォルゼア=レッドノート。詩人より戴く在り方。
彼女は知る。金銀財宝でも救えない者が居る事を。
彼女は知る。父の在り方を。
遂に、赤の騎士。父の意思をも受け継ぎ、未完の英雄が産声を上げた。
赤の騎士の心と共鳴するかの如く晴れ渡る空。
その空の下には、飢えと寒さに震える子供。
真紅のマントを与える赤の騎士。我も我もと乞う人々。
皇帝から授かりし、金銀宝石惜しみなく分け与え。
皇帝から授かりし、美しき麗剣すらも与え、皇帝の下へと馳せ参じた赤の騎士。
目にするは、強欲の権化。
口にするは、激昂の叱咤。
多くの騎士に捕らえられた赤の騎士。
若さ故の過ちか、若さ故の正しさか。
赤の騎士属国に 進撃する王都の白の騎士団。
捕らえられた赤の騎士。
牢獄の天井から落ちる水滴の音。
倒れる看守の音。
時代が赤の騎士を生かす事を望んだか、
赤の騎士が取った行動に救いの手が差し伸べられた。
勇猛果敢に進撃する黒い騎士。赤い騎士が囚われた牢めがけて並み居る騎士を打ち払う。
多くの騎士が死神と恐れる黒の騎士。 多くの騎士がイージスと敬う赤の騎士。
世代を越えて二人の騎士は背中を合わせ、多くの騎士を打ち払い出口へと。
迫る大群。傷ついた騎士達。
笑う男。
赤い騎士を牢より救い出した名も言わぬ笑う男。
追っ手の足止めを成功させるも、追っ手ともども瓦礫の下へと。
馬は走る、名も無き者に作られた血路を。 隣国への亡命への道を。
己の無力さに。叫び嘆く赤の騎士。
それをなだめる黒の騎士。
その横に並び、相槌を打つ。 白の騎士。
馬を止める黒の騎士と白の騎士。
睨み合う二人。 二つの剣の英雄譚。イージスの英雄譚と遂に出会う事となる。
再生の剣を携えた白の騎士。破滅の剣を携えた黒の騎士。
そしてただ己の無力を嘆き叫ぶ、イージスと勇名を馳せる赤の騎士。
二つの剣の結末か、はたまたこれから動くのか。
黒の騎士に逃がされた赤の騎士。
護る者・護る国・初めて素直に義父と呼べた者すらも失い。
絶望と失意の闇の中、悲しみという雨に打たれる。
最早、嘆く声も涙も枯れ果て、虚無が赤の騎士を支配する。
その時 赤の騎士を叱咤するが如く鳴り響く雷鳴。
落ちる雷。
赤の騎士の眼前に現れたるは、黒の騎士が携えた黒の剣。
二つの剣の英雄譚は再び動き出す。
穢れを知らぬ赤の騎士、穢れを知って尚、穢れし魔剣を手に取った。
絶望を知らぬ赤の騎士。絶望を知って尚、その中に光を見出した。
時代は嘆き力を求め、力は遂に未完の英雄と出逢った。
その力、奪う者。魔剣 ソウル・イーター。
そして、黒の騎士の魂を奪いし剣を携え、
赤い騎士は亡命を果たす事となる。
これより生まれる新たなる英雄譚。未完の英雄。
終わり無き二つの剣の終わり無き戦い。イージスの伝承。
それらが一つとなり、新たなる英雄譚がこれより始まる。」
詩が終わり、拍手よりも皆の視線がフォルゼアに向けられる。
場に居る全員が目を丸くし、英雄譚が作り話では無い事を確認しようとする。
「フォルゼア殿、この詩が真なれば。」
「ははは、一体何度驚かせてくれるのか。」
「その剣が、破滅の剣。」
最早誰の言葉が判らない程、ざわめく室内。
そこに咳払いを一つするエルド。
それに気がついた皆は拍手をする。
少し、口を尖らせる素振りを見せ、右手を腹部に当て深く頭を下げる。
「ご静聴、有難うございます。
そちらにおられます、赤の騎士様の携える黒き剣。
見紛う事無き、本物のソウル・イーターに御座います。」
少し、怯える大臣達を横目に、アレス王が豪気に笑い飛ばす。
「はははははっ。絶望と穢れを知って尚、その象徴とも呼ぶべき剣を手にしたか。
ならば、その剣の力で誤った使い方をする事はあるまいな。」
「その通り、アレス陛下。どうやら我等が思っていた以上に、お嬢さん。
いや、フォルゼア殿は、多くの苦難と戦ってこられた様です。」
相槌を打ったバルフにアレス王が言い返す。
「ああ、正直驚いたな。特に皇帝を叱咤する所など恐れ入った。」
その言葉に室内の大臣達が相槌を打つ。
「不謹慎ながら、痛快に御座いますな。」
「左様。彼の者には良い薬かと。」
「いや然し、ともすれば、近い内に攻め入ってきますな。」
一人の大臣が、相槌の中で危惧する。
その言葉に、バルフが答える。
「遅かれ早かれ、攻め入ってきたでしょうな。
何も得られずただ伸ばすだけならば。
フォルゼア殿とガラテア殿を招き入れた今、明日にでもこちらから出向いてやりたい気分ですな。」
アレス王がバルフに相槌を打つ。
「うむ。それが良かろう。詩によれば、城内にダメージがあるようだ。
そして、こちらは無傷に加えフォルゼア殿とガラテア殿に魔剣がいる。
まさに好機。まさに勝機。どうかなフォルゼア殿。
アレス王が開戦の判断をフォルゼアに任せる様に、問いかけた。
その瞬間、フォルゼアの腰からソウル・イーターがやかましく叫ぶ。
「我がいるのだ、勝利は必然。
戦えっ、殺せっ、奪えっ。我こそは魔剣ソウル・・・痛ぁぁぁぁぁぁぁっ」
激しく床に叩きつけられ金属音と共に叫んだ魔剣。
「小娘ぇぇぇっ。またしてもこの我の、華麗なる自己紹介を邪魔してくれたな。
しかも何故、ソウル・イタになる様に毎回叩きつけるのか貴様ぁぁぁっ。」
再びけたたましく鳴り響く金属音。
それを見てバルフが言う。
「もしや、昨夜の謎の金属音とは。」
ソウル・イーターを床に叩きつけるフォルゼアを除く
その場にいた全員が、大声を挙げて笑う。
「これは良い開戦の合図で御座いますな。」
「確かに、いやしかし、魔剣をあのように扱うとは恐れ入りますな。」
「左様。もしかするとその豪胆さが、フォルゼア様の強さの秘訣なのかもしれませんな。」
その光景を見つつ笑い、相槌を打つ大臣達。
そして、アレス王はエルドの方を見てこう言う。
「何とも頼もしき英雄殿だな。エルド殿。
彼女を見ていると、負ける気がしない。不思議ですな。」
その言葉にエルドは、微笑み、そしてまた何かを知っている口振りで答える。
「左様で御座います。アレス国王陛下。
いずれ、いえ、近い内に、現れるかも知れません。
そう、残り一つの伝承。あらゆる災厄を阻むイージスの盾が。」
アレス王は笑いながら視線を、地面に破滅の剣を叩きつけ続けるフォルゼアに送りつつ、
エルドに言い返す。
「ははは。作り話では無く、実在の盾と言いたげですな。
私もこれは、戦場に赴かねばならないな。座して待てば損をする気がしてならん。」
それを聞いたバルフが相槌を打つ。
「陛下。本来ならば止めるべきですが、今回ばかりはこのバルフも同感で御座います。」
再び、室内に笑い声が響き渡り、会談の席は終わりを告げた。
日が頭上に昇る昼時、魔剣を携え、城下町を散策するフォルゼア。
久しぶりに、何も考えず、ただ散歩をしている。
そんな自分を見つめ直すと、色々在ったんだな。と思いにふける。
そして、ふと思い出されたイージスの話。
侵略する者とされる者。
立ち止まり、空を見上げてこう呟く。
「まぁ、なるようになるか。」
「戦馬鹿め。」
またしても、けたたましく金属音が城下町に鳴り響く。
どうも、TKNです。第3話 未完の英雄
最後まで読んで頂きまして、有難うございました。
今回で、頼りなる?ツンデレ若○ソードが出てきました。
果たして○本ボイスにツンデレが合うのか。は置いておきまして。
脳内変換して読んで頂けると面白いかもしれません。
では、どうも有難う御座いました。




