第2話 穢れと絶望
序章は、完結させておりますので、一気に投稿させていただきます。
今回も引き続き、王道を外さず、子供向けに近い物語構成を目指してつくっております。
横切る伝令兵。
手にするは一枚の召集令状と、大きめの皮袋。
宛先はフォルゼア=レッドノート。
送り主は、皇帝。ベイグラン=ビグラウス。
息を切らせ、剣の修練をするフォルゼア。
それを厳しい目で見ているガラテア。
転げる様に駆け込み、息を切らせて令状を伝える伝令兵。
「でっ…伝令です。皇帝陛下直々の勅命です。
守護騎士団第二隊。フォルゼア騎士団長に王都に馳せ参じよと。」
令状を手渡されたフォルゼアは、皇帝直筆のサインを確認するも、面倒臭そうな表情を浮かべる。
それと同時に鈍い金属音とともに、フォルゼアは大きく前によろける。
頭を殴られて、不服そうにガラテアを睨み付ける。
「名誉な事だ。貴様はどこまで戦馬鹿なのだ。」
更にフォルゼアの頭を叩くガラテア。
更に不機嫌な表情を浮かべ、睨み付けるフォルゼア。
「あ・あの。」
その険悪な雰囲気に恐る恐る声をかける伝令兵。
「あと、これも預かっております。」
大きめの皮袋を受け取り、口を手の平にむけ、紐を解くフォルゼア。
口からこぼれ落ちるは、沢山の宝石と金貨。
片手では受け止めきれず、地に美しい音色を奏で落ちる。
「これはこれは。」
それを見たガラテアは、ヒゲを蓄えた顎に指を当て、フォルゼアの反応を今か今かと見る。
足元に美しい音色と共に落ちた宝石と金貨。女ならば喜ばない筈は無い。
然し、フォルゼアは修練の邪魔とばかりに、足元に落ちた宝石と金貨を蹴散らした。
三度ガラテアの鉄の拳がフォルゼアの頭を捉える。
三度フォルゼアは不機嫌な目付きでガラテアをにらめ付ける。
もう許さない。とばかりに剣でガラテアに斬りかかる。
然しガラテアの一喝にて、ガラテアの皮膚に届く寸での所で剣は止まる。
「貴様、その宝石があれば一体何人の飢えた子供が救えるのか判っているのか。」
ハッとした表情で、ガラテアと伝令兵の顔を見る。
伝令兵は顔には出さないが、明らかに軽蔑した視線をフォルゼアに送っている。
ガラテアもまた、然り。
「未熟者が。日々の修練により剣筋に磨きはかけられても、貴様の目は曇り続けておるわ。
道を踏み外すな、剣を見ろ。この剣に映る今の荒んだ貴様の顔を見ろ。」
黒い剣の腹をフォルゼアの目の前に突き出すガラテア。
黒い剣の腹に映った己の顔から目をそらすフォルゼア。
「騎士とは、ただ強ければ良いわけではない。
日々の修練にて己の心も強くしなければならないのだ。
今の貴様に、騎士団長を務める資格は無い。ましてや騎士でも無い、去れ。」
その言葉に、顔を暗く沈め、その場を去ろうとするフォルゼア。
「恐れながらフォルゼア騎士団長。貴方は何故イージスと呼ばれるか。
そのイージスの英雄譚を知っていますか。」
立ち去ろうとする、フォルゼアに伝令兵はそういって呼び止めた。
「これは詩人が謳われる、英雄譚です。
昔・昔。ある男が、深い森で美しい女性と出会う。
男は、強きを求めこの森に。
何者をも退ける無敵の聖具の場所を、女性に問う。
女性はイージスと名乗る。
イージスは問う。求める力は確かに在る。然し力を手にする資格があるかしら。
突如現れた、二人の子供。
左は、裕福な子供。
右は、貧しき子供。
イージスが言う。どちらを助け、どちらを見捨てるか。見せなさい。
二人の子供に迫る凶刃。考える暇すら与えない。
迷う事無く、男は二人の子供をその大きな体で抱き寄せた。
男は怒りの声を挙げる。
選ぶ必要なぞあるものか、我が身を盾にして二人を護る。
二つの凶刃は、子供から男に向きを変え、男の左腕に大きな十字の傷を付ける。
左腕に負った大きな傷。不思議な事に痛み無く。血も流れず。
困惑する男。イージスを探す。
しかしそこにイージスの姿無く、彼の傷ついた左腕に二人の子供が笑顔で小さな手を当てた。
そして子供の姿は眩い光と消え、その光は彼の左腕に集まった。
光が収まり、彼の左手には一枚の盾。
目を疑うように鏡のように白く美しい盾を覗き込む。その中に映るイージス。
イージスは男に語る。
「盾なる人、あらゆる災厄から私は貴方の護りたい者全てを阻むでしょう。
さぁ共に行きましょう。成すべき所へ。」
男は駆けた、侵略される祖国の元へ。
防衛する力すらなくなりつつある国を5千の軍が進撃する。
殺せ・奪え・根絶やしにしろ。
野太い声と共に、門をこじ開けようとする軍。
背後から陣形かき乱し、駆け抜ける男。
瞬く間に、門の前に男が立ち塞がる。
多く兵が押しかける。その数はゆうに千を越す。
男は叫ぶ。ここから先は、一歩たりとて踏み入れはさせぬ。
男は、左腕。イージスを宿した盾を掲げ、押し寄せる兵を押し返す。
ついに押しかけるは、全軍。その数5千。
じりじりと、敵軍を堀に押し返す男。
じりじりと、男に堀に追い込まれる軍隊。
次々と堀に落ちていく兵。
その力に軍は撤退を余儀なくされ見事、国を救い英雄となった男。
然し、英雄という言葉に男は慢心し、己の心を濁らせる。
男の左腕についた大きな傷から大量の血が流れ出る。
血を止めようとする男。
流れ出る血。
意識が遠のく中、男を悲しそうに見つめるイージス・・・。」
伝令兵が伝える言葉が終わる前に、フォルゼアは背にしていたガラテアと伝令兵の方を向く。
「・・・ごめんなさい。」
無口で有名だった事からか、伝令兵は驚きの声を挙げる。
その言葉にガラテアは、何も言わず、静かに頷いた。
地面に散らばった宝石と金貨を自分の服で、丁寧に土を払い、皮袋に納める。
そして、少し、目に涙を浮かべつつ、その場を後にした。
「ふむ。戦馬鹿でも何か気が付いたか。 よくやってくれたな君。」
伝令兵を褒めるガラテア。
それに頭を掻き照れながらこう答える。
「いやぁ、こう言う話って子供が直感的に理解出来る様に創られてますから、
もしや。と思いまして。」
その言葉に、カラテアは野太い笑い声を挙げる。
「はっはははは。子供か、確かにあの戦馬鹿はまだ子供であったな。
余りの子供離れした活躍ぶりに失念しておったわ。」
伝令兵は相槌を打つ。
「確かに。 ガラテア騎士団長。もしかしたら、彼女。
本当にイージスの再来なのかも知れませんね。」
目を丸くしてガラテアは答える。
「おいおい。子供の為の作り話。
本当にそんな者が存在すれば世に争いなぞ無いだろう。」
再び頭を相槌を打つ伝令兵。
「それもそうですね。」
男二人の笑い声が、修練場に響き渡る。
一路王都へと歩を進めるフォルゼア。
謝ったものの、今だ心の霧は晴れてはいなかった。
「確かに、これがあれば、多くの子供が助かるんだろう。
けれど、それならば、何故戦う必要があるのだろう。」
出口の無い迷路を彷徨う様に、悩み続けるフォルゼア。
そこに後ろから声をかけてくる男。
「これはこれは、なんとも美しい剣を携えた麗しき騎士様。
お顔が優れないようですが、何かお困りでも。」
その言葉に、振り向くフォルゼアの視線の先にいたのは、
線の細い、女性の様な男。身なりから吟遊詩人だと見てとれる。
「これは、申し訳御座いません。私、エルド。と申します。
しがない吟遊詩人めに御座います。」
高く透き通った美しい声に反して、
姿勢も言葉も低い吟遊詩人は、右腕を腹部に当て、深く一礼をする。
フォルゼアも名乗ろうとしたが、吟遊詩人の白く美しい手がそれを阻む。
「お名前は存じております。そのシルクの様な真紅の髪に、
冷たい印象に反して激しい情熱を称える真紅の鎧。
そして、皇帝陛下から授かった宝石を散りばめた美しい剣。
イージスと名高いフォルゼア=レッドノート騎士団長様で御座いますね。」
ますます持って腰が低い。立て続けに相手を持ち上げる吟遊詩人。
「15歳と聞き及んでおりますが、いや、。
その若さ、美貌。ふむ。皇帝陛下もお目が高い。おっと失礼。」
何かを知らせようとしたのか、わざとらしく、自分の口をその白い手で軽く塞ぐ。
然し、ガラテアに戦馬鹿と言われている程に、鈍いフォルゼアは聞き流してしまう。
「さて、麗しき赤の騎士様。何をお悩みで御座いましょう。
向かう所敵無し。順風満帆なご様子かと思われましたが。はて。」
まるで全てを知っているかの様な口ぶりで更に言葉を連ねる。
「麗しき赤の騎士様。確かにお金があれば、多くの人々を救う事が出来ます。
然しながら、お金では人の心は救えないので御座います。
どうか、地に生きる者達の希望の灯火であり続けてくださいませ。」
その言葉にフォルゼアは、視線を遠く祖国の方に向ける。
「心を救う為に・・。」
思いにふけるフォルゼアに、突然吟遊詩人が唄い始める。
「昔・そう麗しき赤の騎士様が赤子程の昔。
一人の騎士から、一人の詩人が一つの言葉を聞かされた。
言葉を紡ぐ吟遊詩人、この時ばかりは聞き入った。
それを今、詠う時が来た。
エルドは、静かに目を閉じ、胸に手を当て、最後の一文を高らかに唄い挙げた。
「心、護る故に我は在り。」
その言葉にフォルゼアの心の霧が一斉に晴れ渡る。
それを表情から察したのか、
またしても、わざとらしく。悩む振りをするエルド。
「はて、可笑しいですね。
その騎士様も貴方様と同様。それはそれは美しい真紅の鎧を纏っておられでした。」
フォルゼアは、感情を露にし、エルドの肩を掴む。
「それは・・まさか。」
エルドは優しく、フォルゼアの頬を撫でなだめる。
「誰であったでしょう。はて・・。古い事ですので。然しですね。
偉大な赤の騎士様より承った有り難いお言葉を、
麗しきな赤の騎士様に私がお伝えするとは、妙な縁で御座いますね。
ふむ。良い詩が出来そうな予感がしますね。
それでは、麗しき赤の騎士様。
私の様な、しがない吟遊詩人めの戯言を最後まで聞いて頂き、恐悦至極に御座います。」
右腕を腹部に当て、深く一礼をすると、フォルゼアとは違う方向に去るエルド。
その背中に、フォルゼアは、ポツリと問いかけた。
「ありがとう。 あの、それと、その騎士とは。まさか。」
立ち去ろうとするエルドは、少し足を止め、こう答えた。
「はてさて、いやはや。古い話ですので、お名前は忘れましたな。
いや然し、その方が宝の様に抱いてらっしゃった、可愛らしい赤子の名前は覚えています。
フォルゼア様と・・はて麗しき赤の騎士様と同じ名前で御座いますね。」
またしてもエルドが、わざとらしく惚ける。。
そして独り言をいいつつ去っていく。
「赤き騎士の意思を継いだ赤き騎士が目覚め、
時代は大きく動きを変え、何処へ・何処へ。
時代は力を求め悲鳴を挙げ、力は英雄を求め現れる。
それは無敵の盾と唄わるる護る者イージスの盾。
それは再生の剣と唄わるる授ける者クラウ・ソラス。
はたまた、破滅の剣・奪う者、ソウル・イーターか。
かくして伝承は繰り返され、唄われ続けた詩と出会う。
う~ん、少し格好付け過ぎですかねぇ。ははは。」
予言めいたその詩に、フォルゼアは半ば強制的に聞き入る。
我に返った時には吟遊詩人の姿は無かった。
何か幻覚でも見たのか。と、首を傾げつつもその顔は晴れ晴れとしていた。
「心、護る故に我在り。か。…、
待て。私が赤子の時ならば、エルド殿は私より少し上ぐらいではないか。
と言うか、やはり父上だったのか。」
鈍さもここまで来ると見事な物。一人で遅い突っ込みをすると、
今度は妙な悩みで頭を抱えつつ、王都へと歩みだすフォルゼア。
フォルゼアの通り過ぎた、大樹の陰で座り詩を書く一人の白く美しい女性。
「フォルゼア様、どうか心を曇らせぬ様。
私はもう、悲しみを繰り返したくありません。
これより願わくば、悲しみよりも、喜びを唄わせてあげて下さいませ。」
と言うと、白く美しい女性が光に包まれ、大樹に溶け込む様に消えていった。
数日後、王都へと辿り着いたフォルゼアが見た物は、見るに耐えない惨状であった。
道の隅で、服とも言えないボロ布を付け、寒さに震える幼子が二人、蹲っている。
フォルゼアは、身に着けていた真紅のマントを静かにその幼子二人に被せる。
不思議そうに、フォルゼアを見つめる幼子と、それを見た周囲の者達が我も我もと集まってくる。
流石のフォルゼアも、身を引く。子供だけでは無い、大人も混ざっての人だかりに。
「これは・・。」
困惑するフォルゼアに、汚らしく低い笑い声と共に、背の低い男が声をかける。
「うひゃひゃひゃひゃ。あんな高価なマントをかけるからなんだなぁ。
どこかのお姫様かい。まぁどちらにせよ、ここは初めての様だなぁ。」
腰が低い。というよりは、猫背の醜い男が、舌なめずりをしながらフォルゼアに歩み寄る。
「お姫様よぉ。ここで優しさなんかみせちゃぁぁだめだぁ。
その綺麗な服と鎧全てひっぺがされるだなぁ。」
妙な言葉遣いで、フォルゼアに注意しつつ、周りに集まってきた人を散らす。
「おぉら。おまえらぁ。さっさと散れぇ。」
不思議と、その男の言葉にすごすごと、立ち去っていく人々。
「見ての通りぃ、この国はなぁ。危ないんだなぁ。
お姫様ぁ、なにしにきたかぁわかんねぇけどなぁ。さっさと身を隠すなりするんだなぁ。」
フォルゼアを心配してくれたのか、醜い男は、比較的安全な宿のある方向を指差す。
「あすこにぃ。まだましな宿がぁあるだぁ。さっさと隠れるだぁなぁ。お姫様。
うひゃひゃひゃひ・・・・ひゃ?」
心配しているのか、おちょくっているのか、判らない男に、フォルゼアは皮袋を軽く投げつけた。
「ひょ?これは・・一体って。うひぇあぁぁぁぁっ。」
皮袋の紐を解いて、中身を開けると同時に男は、歪に曲がった腰で、腰を抜かす。
そう、届けられた、宝石と金貨の詰った皮袋である。
「お・お・おめさん。やはりお姫様なのだなぁ。けれど、どう・・・ひょ?」
次に投げつけられたのは、宝石が埋め込まれた剣。皇帝陛下より授かった麗剣である。
「こ・こ・これは。まさかぁ。お姫様、あんた何者だぁ?・・・あ、真紅の鎧。」
フォルゼアが誰かに気が付いたのか驚きの声を挙げる。
「おっどろいたなぁ。まさかお姫様。あのイージスなんだなぁ。」
首を傾げつつフォルゼアの顔を覗き込む。
「いやぁ、でもどうして、ここにおられるのだなぁ、属国の守護者様がぁ。」
更に首を折れそうな程、傾げた。
「あいだだだだ。」
折れかけたようだ。
「皇帝陛下より、招集を受けた。」
痛そうに首を押さえる男にフォルゼアはそう答えた。
「ふお? 皇帝陛下にぃ。」
足元からじわりじわりと、舐める様にフォルゼアの顔まで見る男。
「ほぉほぉ。これは確かに確かに。無愛想だけんどぉ、器量は相当なものだぁなぁ。」
何を言ってるのか理解出来ないフォルゼアは、それを放置し、男にこう伝えた。
「その宝石と金があれば、ここの人達は救えるか。」
その言葉に男は目を丸くして答えた。
「お姫様ぁまさかぁ、これをここの奴らにぃ・・。
やめておくだぁ。こぉんな掃き溜めみたいぃな連中には過ぎた代物だぁ。」
皮袋と剣を返そうとする男に、フォルゼアはこう答えた。
「ならば、この金と宝石を今この場でばら撒く。」
皮袋を取り、紐を解き投げ捨てようとするフォルゼアの腕に男がしがみつく。
「あわあわあわ。なにするだぁ。そんなことぉしたらぁ本当に無駄だぁ。
仕方ないだぁ。俺っちがぁ。上手くやり取りしておくだぁ。」
仕方なさそうな表情で、皮袋を再び受け取る男。
「すまない。君の名前は。」
礼を言おうと、フォルゼアは、男に名を聞く。
「あぁ。聞いちゃダメだなぁ。俺っちみたいな薄汚い溝鼠の名前なぞきいたらぁ。
その綺麗な耳が穢れるだぁ。 さぁさぁここは任せて、あぁ、宿代だけもっておくだぁなぁ。」
袋から金貨数枚をフォルゼアに手渡す。
フォルゼアも、しまった。という顔をする。その顔を見た男は笑いながらこういう。
「お姫様ぁ。しっかりしてそうで、しっかりしてないんだなぁ。ひゃひゃひゃひゃ。」
その言葉に少しムッとしたが、金貨を受け取り、軽く男に礼をしその場を去ろうとする。
「あぁ、お姫様ぁ。こんな薄汚い溝鼠ですがぁ。一言だけぇ言わせてくだせぇ。
世の中ぁ汚れきってるだぁ。お姫様ぁまだ見た事無いんだなぁ。
どうかぁ、気をつけてくださいだなぁ。」
何のことか、判らず軽く聞き流し、その場を去る。
男は皮袋を開け、中に敷き詰められる宝石と金貨に語りだした。
「宝石に金貨さんよぉ。俺っちぃ。不思議だなぁ。
あのお姫様みてるとぉなぁ。上手くいえないのだけどなぁ。
何かが変わる・・いや変われる。 そんな気がするだぁ。
う~・・・ん。やはりよくわからないだぁ。ひゃひゃひゃ。」
笑いながら、皮袋と剣を握り締め、汚れた街の中へと消えていった。
王都を一望する事が出来る謁見の間。
皇帝、ベイグラン=ビグラウスがそこに座している。
周りには、ほぼ何も付けてないと言ってもいいような女性と白銀の騎士が皇帝を囲い。
そこから少し離れた所に、左右に近衛騎士と大臣が並んでいる。
そして、左右の近衛騎士の中心にて跪くフォルゼア。
「皇帝陛下。只今勅命により召集に応じましたフォルゼアに御座います。」
頭を下げたまま、フォルゼアは言うと。嬉しそうに皇帝がこう言う。
「お~お~苦しゅうないぞ。どれどれ話に聞く美貌の持ち主かどうか見てやろうぞ。」
丸く太った醜い体を豪華な椅子から立ち上がらせるも、
運動不足丸出しで、転げるように近づいてくる。
例えるならそう、一匹の芋虫。
その醜悪な容姿に伴った動きで、フォルゼアの元ににじりよってくる。
そして、息がかかる程の距離まで顔を寄せ、舐める様にフォルゼアを見る。
普通ならば顔が引き攣っても可笑しくない。耐え難い嫌悪感に耐え、フォルゼアは平静を保つ。
「ふぅむふぅむ。これは良い。無愛想な所が返ってそそられる。
ふむふむ。良し合格。お前を世の妻に加えてやろうではないか。」
余りの事に、半ば放心状態になりつつもフォルゼアはこう言う。
「恐れながら皇帝陛下。妻にする・・とは。お戯れを。」
その言葉に、余り余った皮で隠れた目を大きく見開く。
「戯れる。いや本気である。今晩より世の伽を命ずる。」
醜い顔に歪に歪んだ笑みを浮べ、涎を垂らす皇帝は、フォルゼアの肩に触れた。
「鎧に触れるな。この鎧に触れて良いのは戦場の騎士達の剣のみ。」
つい、余りの嫌悪感からか、反射的に癖が出てしまった。
触れた手を強く弾き返し、立ち上がり、皇帝を睨み付け罵声を浴びせたのだ。
その余りの剣幕に、皇帝は醜く転がり近衛兵の下に。
「こっ・・・殺せ。反逆罪だ。殺せ。」
醜く怯え、近衛騎士の影に隠れ叫ぶ皇帝。
余りの事にあきれ果てるフォルゼアの口から出た言葉。
「貴様、それでも王か。貴様の様な者が国にいるから、
この城下町はあそこまで酷いのではないのか。
許せん。そこになおれ、剣の錆にしてくれる。」
最早歯止めの効かなくなったフォルゼアは、腰に手を当てて剣を抜こうとするが、
先程の男に皮袋と共に渡した事を思い出す。
「しまった。」
そんなフォルゼアを取り囲む近衛騎士。それを見て醜く歪な笑みを浮かべ笑う皇帝。
「貴様等、それでも騎士か。騎士ならば国を護る為に剣を捧げたのではないのか。」
いつになく激しい剣幕で声をあげるフォルゼア。
その言葉に近衛騎士達は目を背け、その影から皇帝が顔を出す。
「そうだともそうだとも、国は世である。世を護る事こそが騎士である。
貴様は世に逆らった。国家反逆罪である。よって死刑を言い渡す。」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。」
激しい怒りの声を浴びた皇帝は、再び近衛騎士の影に隠れる。
初めて遭遇する、穢れ。
理解し難い、したくも無い。怒りにも似た感情が彼女を支配する。
然し、多勢に無勢。その上帯剣していない。 フォルゼアは容易く近衛騎士に取り押さえられる。
そして、一人の騎士がフォルゼアの首めがけて剣を振り下ろそうとする矢先。一人の大臣が呼び止める。
「恐れながら、陛下に進言致します。」
皇帝の合図一つでフォルゼアの首めがけて振り下ろされる剣。
合図を出そうとするも、呼び止められる皇帝。
不機嫌そうに大臣の方を見る。
「なんだ。貴様も死にたいのか。」
慌て手を左右に振りつつ、言葉を発する大臣。
「めめめ、滅相も御座いません。
ただ、その者反逆者フォルゼアめをここで殺してしまえば、必ずやこの者の国。
そして、この者を信ずる者達が立ち上がり、
彼の死神ガラテアが敵国と共に、王都に攻め上がってくるのは明白。」
両目を器用に寄せ、そういわれればそうだと頷く皇帝。
「して、世にどう致せと。当然策はあるのであろうな。」
大臣は、にやりと笑みを零しつつ、答える。
「勿論で御座います。
その上、その反逆者めに死よりも辛い責め苦を、味わわせる事が出来ますでしょう。」
その言葉に、嬉々とした顔を見せ、大臣の傍に転がりよる。
「死よりも辛い責め苦とな。申せ早く申せ。」
早く早くと、子供がご飯を待ち茶碗を叩くかのように、床を叩く皇帝。
「は。では恐れながら。
先ず、反逆者フォルゼアめを投獄致します。」
床に寝転がり、両足をバタつかせながら続きを待つ皇帝。
「この者めは、新たな勅命により、隣国へと赴いた。と、この者の国に伝令を送ります。」
我慢ならなくなったのか、今度は手足をバタつかせて続きを強請る皇帝。
「ええい。まどろっこしい。簡潔にいわんか簡潔に。」
我慢という言葉を一切知らない様である。そんな事を受け流した大臣は、続けてこう言った。
「これは、失礼しました。では簡潔に申し上げます。」
皇帝は嬉しそうに醜く顔を歪ませた笑みを浮べる。
「うむ。」
一つ、大臣は咳払いをし、こう進言する。
「反逆者を投獄し、身動きを封じ。隣国へ行ったと、この者の国に偽りの伝令を送り。
その後に、皇帝陛下直属の白の騎士団を差し向け。死神ガラテアともども・・・。」
その言葉に皇帝は喜び転げまわる。
「ほっ。それは名案。褒めて遣わすぞ。」
右手を腹部に当て、深く、頭を下げて退がる大臣。
それを聞いて益々怒りの声を挙げる。
「貴様等・・それでも人間かぁぁぁぁぁぁっ。」
目に涙を浮かべ、激しい怒りを声とともに訴える。
それを見た皇帝は、成る程と大きく頷く。
「ふひゃははははははは。確かに、あっさり死ぬより効果的のようじゃのう。大臣。」
その言葉に、大臣は相槌を打つ。
「は。この者、あらゆる意味で若う御座います。そこを突けば、死よりも辛い責め苦となりましょう。
その上、少々目障りになって参りましたあの国と、死神ガラテアも葬れる。という寸法にて御座います。」
その言葉に、ますます皇帝は喜び悶える。例えるなら枝でつつかれた芋虫。
「ほっほー。大臣よ。褒美を取らす。なんなりと申せ。」
大臣は、右手を腹部にあて、再び、頭を下げて退がりつつこう言う。
「とんでも御座いません。陛下のお褒めの言葉に勝る褒美なぞこの世に存在しましょうか。」
皇帝は嬉しそうに更に悶え転げる。もはや、そこに人としての尊厳と言うものは存在していない。
「ひょほほほ。そうである。世の褒め言葉は最高の褒美である。
どれ。」
満足したのか、転げるのを止め、押さえつけられたフォルゼアの顔を踏みつけ。こう言い放つ。
「悔しいか。ん。悔しいか。 悔しいかぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
楽しそうにフォルゼアの顔を踏み躙り、蹴り、唾を吐きかける。
最早、声も出ない程に感情の高ぶりを見せるフォルゼアの様子に満足したのか、玉座に戻る皇帝。
「良し、反逆者を牢に放り込んでおけ。一番汚い牢でよいぞ。」
近衛騎士数人に拘束され、皇帝の醜い笑い声が木霊する謁見の間を後にする。
城内を拘束され運ばれるフォルゼア。
フォルゼアを拘束する近衛騎士達は小声で語りかける。
「申し訳御座いません。我等にはどうする事も。
然し、ご安心下さい。偽りの伝令を、真の伝令にすり替えておきます。」
その言葉に、フォルゼアは近衛騎士達の顔を見る。
歯を食いしばり、己が無力さからか、
涙を必死で堪える三人の近衛騎士が、そこには在った。中には堪えきれず、
鼻水が垂れている者もいる。
「お前達。」
その涙を見たフォルゼアは、高ぶった感情をようやく抑える事が出来た。
「イージスの名は我等にも届いております。
何よりも純粋で、何よりも真っ直ぐな方だと。
そんな方が本当にいるのか、誇張ではないのか。疑っておりましたが。
いや、少しでも疑った自分が恥ずかしい。」
フォルゼアから視線をそらす近衛の一人。
「ははは。貴公は英雄譚が好きなわりに、そういう所は現実的だな。」
「全くだ。」
小さい声で、笑い相槌を打つ。三人の内の二人。
「そういえば、お前達はあの時明らかに怯えていた。
奥にいた白い騎士が怖いのか。少なくとも皇帝に怯えている様には見えなかった。」
その言葉に、三人の近衛騎士は揃って頷く。
「はい。皇帝陛下直属の白の騎士団団長。レザリア=クラスヴェリア様です。
あの方の携える剣。二本の剣の英雄譚をフォルゼア殿はお知りでしょうか。」
頷き答えるフォルゼア。
「二本の剣。ああ、再生の剣と破滅の剣。だったか。」
周囲を見回し、周りに人がいない事を確認し、フォルゼアの耳に更に小さく呟く。
「レザリア様が帯剣している剣こそ、紛れも無い再生の剣なのです。
一度、戦の岐路で見た事があります。
レザリア様が戯れで荒れ果てた地を一振りで緑豊かな地にしてしまった事を。
「御伽話だろう。」
首をかしげ怪しむフォルゼアに三人の騎士が口を揃えて言う。
「いえ、真実です。そして、伝承に伝えられる力よりも凄まじく。」
怯えた声で、フォルゼアに答える騎士。
「成る程、どうしようもない訳だ。」
薄暗い地下牢に続く階段が見えてきた。
「フォルゼア様、申し訳ありませんが、暫し我慢してくださいませ。」
フォルゼアは、任せると目を瞑る。
「さぁ、反逆者め。貴様には汚い牢がお似合いだ。」
わざと看守に聞こえる様に大声を上げ、フォルゼアを牢に蹴り入れた。
投獄されて、時間がわからなくなり、彼女にとって一時間が、1年にも10年にも感じられた。
天井から落ちてくる水滴を目で追いかける事しかできない。そんな現実。
そんな時間が続く中、看守のうめき声と共に倒れた音がし、その後、すぐに聞き覚えのある声がする。
「お姫様ぁ。だぁかぁらぁ。汚れているから気をつけてくれと俺っちいったにぃ。」
困った様な、それでいて恩が返せて嬉しい様な表情をしつつ、牢を開ける。
「さぁさぁさぁ、時間はもうのこってないんだなぁ。既に白の騎士団が発って三日。
じきにお姫様の国が襲われるんだなぁ。伝令はいったはずなんだぁけど、相手が相手なんだなぁ。
さ、早く出てついてくるんだなぁぁ・・・・あ。」
男が手招くと同時に、遠くで剣の競り合う音が聞こえる。
その直後、また、聞き覚えのある声が城内に轟く。
「フォルゼアっどこだ。ええいっ退けいっ。」
力強く、野太くて低い声の主。聞き間違える事は無い。ガラテアだ。
国の危機にも関わらず、フォルゼアを救う為に馬で昼夜休まず駆けて来たのだ。
「ガラ・・テア。」
男はにやにやと笑いながら、少し驚いた顔で声をあげる。
「ひぃえぇぇ。恐ろしい。まさかたった一騎でこの王都に突撃をぉ。
白騎士が居ないとはいえ。なんという豪胆なぁおそろしやぁおそろしや。
流石死神ぃガラテアぁという訳ですなぁお姫様。ひゃひゃひゃ。さ、この剣を。」
ひとしきり笑うと、隠し持っていた、あの剣をフォルゼアに手渡した。
「・・・こんなもの。」
受け取るや否や、剣先を地面に強く叩きつけて、剣を叩き折ったフォルゼア。
「お姫様ぁ、なんというぅ勿体無いぃ。」
その言葉に少し怒りを込めた言葉で返す。
「こんな穢れた剣、振るうに値しない。」
その言葉に、男は再び笑う。
「ひゃひゃひゃ、お姫様ぁ。どうぞ逃げ延びて、
死神様とぉ、敵対している隣国イセカに亡命してくださいませぇ。
貴方様ならぁ、ひゃひゃ。必ずやこの国を救ってくださるとぉ。確信しましたなぁ。」
嬉しそうに小躍りしつつ喋る男。
「その話は後だ、行くぞ。」
「へいぃぃ。合点承知でさぁなぁ。」
ガラテアの声のする方に駆け出すフォルゼアと薄汚い男。
そして、その二人を先程の近衛騎士の一人が呼び止める。
「フォルゼア様。私の剣をお使い下さいませ。我が家の家宝の一振りにございます。」
剣を鞘ごと、フォルゼアに放り投げ、
そのまま飾ってあった槍を手にし、声のする方へ駆け出していった。
「ありがとう。」
受けた剣を鞘から抜き、城内を駆ける。
ついに、ガラテアを見つけたフォルゼアは驚きの声をあげる。
たった一人で、数十人の騎士を相手にしていた。
狭い通路を利用し、少ない人数しかこれない所で戦っていたのだ。
「ひゃひゃひゃ、恐ろしい恐ろしい。流石死神ですなぁ。」
「冗談を言っている場合ではない、助太刀するぞ。」
剣を構え、声を挙げて騎士達に飛び込むフォルゼア。
「お・・俺っち戦いとかだめ・なんだなぁ。応援・するんだ・なぁ。」
どこからか取り出した、扇子の様なもので二人を応援する男。
その男の後ろから、先程の騎士が数人を引き連れて、ガラテアを囲む騎士達に飛び込んでいった。
「貴様、裏切る気か。」
「貴公こそ、今こそ立ち上がる時だと気がつかないのか。」
騎士達の意思の対立。その最中。
「フォルゼア」
「ガラテア」
剣を弾く音、斬られ倒れる音。その中で出会った事がわかる声が聞こえた。
「良し、貴様の腕。とくと見せて貰おうか。」
「ふん。」
恥ずかしそうに、必死で嬉しい感情を抑え、押し寄せる騎士からガラテアを護るフォルゼア。
そして、動きを止められた騎士達を一撃で地に伏せていくガラテア。
攻防対極の連携は瞬く間に、囲まれていた騎士達を軒並み倒してのけた。
「王都の騎士の腕も質も落ちたものだな。」
「根元が腐っているからな。」
珍しく、フォルゼアがガラテアに相槌を打つ。
「根元が腐っている。ふ、はははははは。何を見たか知らんが、成長したな。
最早、私が伝える事は何もなさそうだ。」
満足気な笑みを浮かべるガラテア。
「そう。お父様との約束は果たせそうですか。」
フォルゼアの言葉に驚く。
「これは驚いた。あの時狸寝入りしていたのか小娘。」
「さぁ、何の事だか。貴方の行動で判る。」
ガラテアから目を背けるフォルゼア。
「ふはは、動きも感も鈍い貴様に気づけるとは思えんが、これは初めて、一本取られたな。」
「失礼な。」
不機嫌そうな嬉しそうな、良く判らない表情で、ガラテアを睨むフォルゼア。
「さて、再開を喜ぶのは後にしようか、逃げるぞ。」
「ええ。」
城内から脱出しようと駆け出す。
しかし、出口まですぐという所で、後ろから先程の何倍もの数の騎士が押し寄せてくる。
「くっ。ここまできて。」
先程の戦いで、こちら側についた騎士数人は、怪我を負い満足に走れない者もいる。
迫る騎士達。 出口に出たとしても、追いつかれてしまうだろう。
そんな中、薄汚い男が声を挙げた。
「ひゃひゃひゃ。お姫様ぁ。恩を返させてもらうのだなぁ。
ここは俺っちに任せてさぁ行くんだなぁ。」
薄汚い男は、にやけた顔でフォルゼアに喋りかけた。
「何を、お前一人で止められる筈が・・。」
薄汚い男は、自慢げに歪に曲がった腰に手を当てこう答える。
「それが・・あるんだなぁ。確実になぁ。奴らを足止めする方法がなぁ。
それを聞いたフォルゼアは、助かったとばかりに先を行こうとする。
然し、ガラテア一言で踏みとどまる。
「死ぬ気だな。」
「なっ・・・。」
ガラテアの一言に、慌てて薄汚い男の方を見る。
「ははぁ、流石死神様だぁ。何でもお見通しだぁ。」
残り少ない髪の毛を弄りつつ、答えた男。
「お前、そんな事はゆるさな・・・」
「フォルゼア。」
フォルゼアの言葉をガラテアが阻む。
そして、ガラテアは、男に向けて剣を掲げた。
そして、傷ついた騎士達も剣を掲げる。
フォルゼアが取り残された様にうろたえ、止めようとする。
「何故だ。何故自ら死にに行く。やめろ・・。」
泣きそうな顔を必死で押さえ男を連れ戻そうとするフォルゼアを、ガラテアが止める。
「まだ教えて無い事があったな。見るが良い、あれが貴様に足りない最後の教えだ。
私でなく、別の者に教えられるのは、少々気に食わぬがな。」
必死でガラテアの腕を振り解こうとするフォルゼア。
「わからないっ。判りたくも無いっ。」
駄々をこねる子供のように泣き叫ぶ。
「貴公、名はなんという。貴公こそ騎士の鑑。名を聞かせて貰えないか。」
泣き叫ぶフォルゼアを押さえ、ガラテアは男に問いかけた。
「俺っちはぁ・・。ひゃひゃひゃ。名も無い薄汚い溝鼠さぁなぁ。
溝鼠にしちゃあ、死に様が良過ぎる様な気もするのだぁけど。
気にしない気にしないひゃひゃひゃひゃ。」
男は薄汚いボロ布の羽織を脱ぎ去った。 まるで餓鬼の様に痩せた体に反して、出すぎている下腹部。
しかし、それより目を引いたのは、大きな傷のある腕と、体中に巻きつけられた爆薬である。
「ひゃひゃひゃ、さぁ時間が無いなぁ。いってください・なぁ。
そして、ここから南に下った先にある国に亡命し、力を貸して欲しいんだなぁ。
死神の旦那ぁ。旦那達の国は、・・。ひゃひゃひゃ。
さぁ、行ってください・なぁ。」
「ばかぁっやめっ・・・」
フォルゼアの必死の静止の声が爆音にかき消された。
崩れ落ちる天井は、出口の前を塞ぎ、フォルゼア達が逃げる時間を見事に稼ぐ事に成功する。
隣国に亡命する為、馬を駆り走る。傷ついた騎士達は後から来ると言い、
フォルゼア達に馬を渡し、先を急がせた。
泣きながら馬に乗るフォルゼア。
フォルゼアを横から厳しく叱るガラテア。
「泣くな、貴様はそれでも騎士か。これは戦だ。人が死ぬのは当然だろう。」
「・・・。」
どうしても、自分を責め苛むのを止めないフォルゼア。
「フォルゼア。」
少し、優しい言葉をかけようとするガラテアの横から、女性の声が聞こえた。
「あらあら、死神さんがいなかったので、先に戻ってきて見れば。
お邪魔でしたからしらね。」
その言葉に、馬を止めフォルゼアにガラテアは言い放つ。
「フォルゼア。先に行け。」
「え。」
フォルゼアは、ガラテアの声に後ろを振り向く。
後方には、馬を止めたガラテアと、どこか見覚えのある白銀の鎧を纏った騎士。
「あれは・・。」
王都最強の騎士。英雄譚に出てくる再生の剣を持つ騎士。レザリア。
慌てて馬を止め、戻ろうとするフォルゼアをガラテアが止める。
「行け。国に逃げ込めば、おいそれと手は出せぬ。」
その言葉にレザリアは、くすくすと笑う。
「そうですねぇ。逃げられては手が出せませんけど・・
早くお逃げなさい。イージスのお嬢さん。」
フォルゼアはまたしても不可解な出来事を目の当たりにする。
その気になれば、捕まえる事もできよう筈。然しそれを見逃そうとする言葉。
「相変わらず、良く判らない性格だな。レザリア。」
ガラテアの方に振り向き、答えるレザリア。
「あら、単純でなくて。いかにイージスと呼ばれていても、子供は子供。
生憎と、泣き叫ぶ子供をいたぶる趣味は、御座いませんわ。」
ガラテアに、微笑むレザリア。
「ふん。まぁ、感謝しよう。」
その言葉にレザリアは微笑みを返し、こう言い返す。
「でも・・、利き腕のなくなっちゃった死神相手だと、物足りなくて・・殺しちゃうかも。あの子。
ほら、折角の貴方の腰の剣が泣いてますわよ。破滅の剣。ソウル・イーターが。」
黙るガラテア。驚くフォルゼア。
「ガラテア。ソウル・イーターって。そんなものを。」
驚きを隠せないフォルゼアを見て、レザリアはこういう。
「あらあらあら、教えてなかったのねぇ。秘密にしておきたかったのかしら。
奪う者・命を喰らい力に変える魔剣ソウル・イーター。
その気になれば、あんな国一瞬で滅ぼせたでしょうに。
相変わらず、頭の堅い死神様ねぇ。」
くすくすと笑いつつ、腰に挿していた剣をゆっくりと抜き、フォルゼアに見せる。
「そして、これが再生の剣。授ける者・命尽き果てようとも活力を授ける。
ソウルイーターと対極の剣。クラウ・ソラスよ。
さぁ、イージスのお嬢さん、危ないからお逃げなさい。この戦いに巻き込まれたら、
貴方なんて象の歩く先にいる、蟻一匹に過ぎないわ。」
手をヒラヒラと振り、そしてガラテアの方を再び向く。
「さぁ、英雄譚の続き、知りたくありません事。
私は知りたくて、知りたくて、知りたくてもう辛抱出来ませんわ。」
剣を構え再度フォルゼアに忠告する。
「さぁ、イージスのお嬢さん。お逃げなさい。
・・それとも既に怖くてお漏らししちゃったのかしら。可愛い英雄さん。」
その声に怒りを露にして剣を抜く。
「貴様ぁぁぁっ」
レザリアに向けて馬を走らせる。
「あらやだ。図星。」
フォルゼアを嘲笑い。そして彼女の駆る馬上に乗り上げる。
「言う事聞かない子は、もう、死んでしまいなさい。」
馬上から振り下ろされた白銀の刃。その刃に反応すら出来ないフォルゼア。
それを弾き返す黒の刃。
「行け。」
「だけど・・」
「頼む。行ってくれ。」
いつになく、重く圧し掛かる言葉。
フォルゼアは、剣を鞘に収め、馬を引く。
それを見たレザリア。
「あら、結構素直でいい子じゃないの。ねぇ死神さん。」
レザリアの挑発に乗らず、沈黙するガラテア。
「もう、相変わらずつれない人ね。まぁ、いいわ。
さ、イージスのお嬢さんさっさとお逃げなさい。
片腕の彼にもう勝ち目は無いわ。でも貴方を逃がす為に、死ぬ事は出来るのよ。
騎士として、立派に死なせてあげなさい。」
フォルゼアは、レザリアを睨めつける。
「あらやだ、こわ~い。」
またしても相手を挑発する。
「まぁいいわ、ほら、時間はあるし、彼に何か言いたい事があったらいっていいわよ。
今生の別れに、アレはないわよね~え。」
ガラテアの乗る馬に、フォルゼアの乗る馬が近づく。
そして、一言ポツリと、囁いた。
その瞬間、フォルゼアはその場から駆け出した。
その瞬間、今まで沈黙を保っていたガラテアが馬を飛び降りレザリアに斬りかかった。
「あらやだ、ちょっ。何をいったのよ。ねぇ。教えてよ。」
軽い口調で、軽くガラテアの重い剣を易々と受け流す。
「貴様には、関係の無い事だ。」
にやにやとしながら更にレザリアは聞く。
「あっ。もしかして愛してるとか。いや~だ年の差考えなさいよロリコンオヤジ。」
挑発し続けるレザリアにガラテアが怒りの声を挙げる。
「やる気があるのか、無いのか。」
少しムッとした顔で答えるレザリア。
「なによ~。気になるだけじゃない。教えてくれたっていいじゃないケチ。」
ガラテアは、少し笑みを零しレザリアに斬りかかる。
「ふん。ベルゼアから、国と命を奪っただけではなく、娘まで奪ってしまった。それだけだ。」
目を丸くして、口に手を当てるレザリア。
「あらや~だ。やっぱり惚れられちゃったのね。この色男。」
眉間にシワを寄席るガラテア。
「小娘が好きに解釈するがいい。
ベルゼアよ、約束は果たしたが・・、どうやら謝らなければならない事が出来た様だ。
許してくれるよな。」
幾たびか鍔迫り合いの音が繰り返された後、激しい轟音が木霊した。
既に遠くまで離れていたフォルゼア。
然しその轟音はしっかりと、耳に届いた。
ガラテアの、義父と最後に呼んだ者の死を告げる音が。
力なく、フォルゼアが馬上から崩れ落ちる。
轟音のした方をただ、ただ、涙を流し見つめていた。
絶望感・無力感。土を握る事すら出来ないくらいの虚無感。
何も考えたくない、何も見たくない。いやだ・いやだ・いやだ。
このまま、消えてしまいたい…。
第2話 穢れと絶望。少々長めとなりましたが、読んでくださって有難うございました。
ちょっと、笑う男の喋り方が、読み難いと思いましたが、あえてそのまま使う事にしました。マイナスとなるでしょうけど。こういうキャラをしているもので。
ともあれ、どうも有難うございました。




