表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/38

Episode 32 ウィルが居ない夜 そして…

Episode 32 ウィルが居ない夜 そして…





「…とりあえず、これで安心です。しかし…しばらくは動けないでしょう。」


グロストは酷い重症を負った。


しばらく起きることすらも難しいだろう。


現れた破壊軍の長であり、そしてこの世界の神である存在。”ディスタバンス”。


動ける平和軍の兵士たち全ての魂を奪い、動ける平和軍で残ったグロスト、ウィル、ゴードスの3人。

魂を奪われかけたゴードスの前に駆け付けたグロストとウィル。


戦うグロストだが、神と名乗るだけありその力は強大であった。

その際に酷いダメージを負ってしまう。


助けに入るウィルに、ディスタバンスは容赦なく、ウィルの魂を奪ってしまった。


怒りを爆発させたグロストはディスタバンスから、半数の魂を奪い返すことに成功した。

しかし、その取り戻した魂の中に、ウィルの魂はなかった。

ウィルの魂はディスタバンスに奪われたままであった。



(グロスト…奴はこの世界の最南端…それよりも南に位置するという天を貫く塔にて待つ…そう言っておった。)




言葉を発することができない程に傷を負ったグロスト。

力ないゴードスの言葉を聞き、ただ悔しい思いをしたまま、動けずにいた。


(奴は一人で来いと言った。そしてそれまでは破壊軍をここへ送り込むことをしない…そう言っておったよ…)



グロストに一人で来いと言うディスタバンス。

それまでは破壊軍の侵攻を止めるとも言っていた。

信用性があるものではないが、魂が還って来た兵士たち。そして、怪我などで眠っている兵士たち。

誰もが不本意ながら安心感を覚えていた。


無論、だからといい何もしないわけではない。



破壊軍が攻めてこない今、平和軍では多くの兵士たちが来るべき決戦に備えていた。

グロスト一人で塔へ行けば、破壊軍はここへ送られてこないかもしれない。

しかし、そこにはどこにも信憑性が無いのだ。


今のうちに、休める兵士は休み、動ける兵士はコンディションを整えながら、戦いの準備を進めた。


グロストは今、来るべき戦いのために療養をしている。





(…俺は……負けた……そして…ウィルを…)



今グロストが居る部屋には、怪我で動けない兵士だけではない、魂をディスタバンスに抜かれ、実質死亡している兵士たちも眠っている。

もちろん、そこには静かに眠り続けるウィルも居た。

魂。つまり、生物の核。

それを失っているため、もちろん呼吸もしていない。実質死亡状態だ。


(…クッ…俺の光の力をもってしても…この身体が動けぬとは…奴の力はそれほどまでに…)



”勝てるのか”



そんな気持ちがグロストの中によぎった。


弱気な気持ちが生まれてしまう。

それほどまでにディスタバンスの力は強大だったのだ。





(…俺は…ウィル…俺はどうすれば良い……いいや…言うまでもない…)




この手で取り戻す。

たとえその命果てようとも。


---------------------------



一方ゴードス。



彼は、ディスタバンスの力を間近で見た。

そして、魂を抜かれかけた。

そのうえ、グロストがいとも簡単に敗れた。

自分の目の前で、世界の希望がやられてしまう。


あまりにも絶望的な現実を見せられてしまったゴードスは、精神に強いダメージを負ってしまった。



ついさっきまで、ディスタバンスに心を操られていて、自身の手で多くの兵士を傷つけ、殺してしまい…そして、目の前でグロストが敗北。ウィルも魂を奪われてしまった。



立て続けに起こる惨事。ゴードスの心はすっかり折れてしまった。



「…」



「将軍。」


「…すまん…今は一人にしておいてくれんか…?」

「…すみません。でもどうしても伝えたいことがあります。」


ゴードスの居た指令室は、戦いの中心であった場所。

この建物自体が半壊…いや、全壊に近い損傷を被った。


ゴードスはただ意味もなく、壊れた屋根から見える汚れきった空を見ていた。

そんなゴードスに話しかけるは、魂が戻り、動けるようになった兵士たち。



「…将軍、我々は待っています。あなたが再び立ち上がるのを…時間は…おそらくあまり残されていないと思います。それでも…私たちは待っています。いつまでも。」


兵士たちの代表がそう述べ、兵士たちは元の持ち場に戻っていった。


「…ワシは…」



(ワシにはもう…立ち上がる力など…)

ゴードスは自身の首に提げられていたブローチを見た。

それはかつての妻である、リリアからの贈り物。これがあるからゴードスは今生きているのだ。


洗脳されていたときはこれを外していたが、あれから付け直したようだ。



(リリア…ワシには…いいや、この…世界にはもう希望など…残されていないのかもしれん…それでもワシは…生きなくてはならないのか?お前のいない夜をもう何度過ごした…?ワシは…何度大切な存在を失えばいい…?)



戦いで、まず親を失った

次に妻を失った

そして兵士たちを失った


そして

友を失った



「…すまんの…すまんの…ワシは…本当に弱くて…情けない…情けない……」

ゴードスは涙をこぼした。

それでも、彼は立ち上がれない。

彼の心は深い悲しみに覆われた。





それからは、不本意だが、至って平和だった。



ウィルたちの魂が奪われて4日。


破壊軍は今まで1度も平和軍を攻めてくることは無かった。


ディスタバンスの言うことは本当だったのかもしれない。

だが、油断はできない。兵士たちは修繕作業と共に、準備を進めた。



兵士たちが少しずつ回復する中、ゴードスは食事も取らず、自分の部屋で座り込んでいるだけだった。


グロストは傷が癒え、大分回復した。

この調子ならばあと1日もあれば全快するだろう


「グロストさん、もう体は…!」

「…問題ない。」


グロストの目は明らかに怒りを浮かべていた。

まるで、昔の暴君だったときのような険しい顔。


「…グロストさん…」


怒りに燃えるその表情が、兵士たちを驚かせた。



ウィルが居ない夜。

ウィルの居ない平和軍。


そう、ウィルはグロストにとって大きな心の支えだった。

そしてストッパーでもある。


そのウィルがあろうことか、破壊軍の長であるディスタバンスにその魂を握られている。



グロストにとってはあまりにも歯止めが聞かない最悪の状態だ。

グロストは今にもとびかかり、人を殺してしまいそうな顔をしていた。




「グロストさん、落ち着いてください!我々も尽力します!だから…」

グロストは手を兵士の頭に置いた。





「…案ずるな。我は確かに怒っている。奴に対するこの怒り…そして…自分の無力さに腹が立つ…これらを何処へぶつければいい…そう思っている。だが…それでもお前たちには何もしない…まずはゴードスを起こす。」



「グロストさん…」





グロストは顔こそ恐ろしく怒りの籠った顔をしているが、心では、それなりに冷静を保っているようだ。










グロストは指令室に向かった。


ゴードスの話は聞いていた。

もう4日。ずっとその場を動かない。そう聞いていた。



「…ゴードス。」


ゴードスはすっかり気力を無くしていて、振り向きさえもしなかった。


「…貴様は何をしているのだ?」


「…ほうっておいてくれんか?グロスト。」

口を開いたゴードス。かすれたような声で力なく答える。


「ゴードス…貴様、この4日間…俺が起き上がれぬ間ずっとそうしているのか…!」

グロストはゴードスを後ろから強く蹴った。


「…」

ゴードスは反撃もせず、振り向きもせず、その場に倒れこんだ。


「貴様はこの状況を見てもなお…そこで地に伏せるのか!?」


「…」


「貴様を心配して毎日来る兵士が居るのではないのか?貴様に希望を抱く者がいるのではないのか?何故それに答えん!」


「…」


「悔しくなかったのか!?ディスタバンスに仲間の魂を奪われたことが!」

「…ッ…」


ゴードスはそれでもなお、体を少し揺らす程度の動きしか見せない。


「将軍…!」

「グロスト将軍まで…どうしたんだよ…!」

兵士たちもざわざわと集まって来た。



「…貴様は…愛する者のために生きているのだろう。それなのにこのまま何もせずにただ死を待つのか…!」


「…もう…良い…」

「なんだと?」

「もう…良いと言っているのじゃ…!」


ゴードスの拳がグロストの顔に命中した。

グロストも不意のことであったので、強く身体を打ち付け、吹き飛んだ。


「もう何も残されておらんのじゃ!夢も!希望も!ワシらは…負けたのじゃ…!」

ゴードスは涙をこぼしながらグロストに叫ぶ。


「勝手に…決めるなッ!!」

光の力により、高速化したグロストの雷を纏った拳がゴードスに顔に当たる。


「戦いはまだ終わっておらぬ!我々はまだ…負けてなどおらん!!」

「グッ…ワシらはッ!!負けたのじゃ!奴の強さを見ただろう!!」

ゴードスの拳がグロストに命中。


「…あぁ見た…だが!俺は諦めん…!絶対に奴を許さぬ!この世界を滅ぼそうと企み…世界中の生命を奪い、殺し…そして…我が友までも…絶対に俺が…いいや、俺達で奴を倒す!!貴様にはその意思が無いのか!貴様の覚悟は…貴様の生きる力はこの程度のことで折れてしまうものなのか!!希望を見出したと思えばまた絶望し閉じこもり…弱虫が…貴様は何度繰り返せば気が済むのだ!」


「お前さんには分からん!全てを失い…そして絶望を見せられたワシの何が…わかるというのじゃ!!」


お互いに拳で殴り合う。

お互いに顔が腫れ、血が流れる。


「分からん…!だが…貴様の大事な仲間たちは手を差し伸べている!」

「…ッ…」


グロストの周りには兵士たちが立っていた。

皆が手を出す。

ゴードスに。共に立ち上がろう。共に戦おう。共に平和な世界に行こう。

数々の兵士たちの思い。

ゴードスの心は強く震える。


「そして俺は貴様を殴り飛ばしてでも立ち上がらせる…皆で平和を勝ち取るために…そして囚われた兵士たちの…ウィルの魂を取り戻すためにだ!!」


「…じゃが…奴は一人で来いと…!」




「あぁ、俺は一人で行く。」

グロストがそう言い、兵士たちはざわついた。


「だが…」



グロストは兵士たちを見た。



「…我の心はいつもお前たちと共にある。我は一人で行く。だが一人ではない…お前たちの思いを我は全て背負う。我は…一人ではない。」


「グロストさん…」


「グロスト…!」


「ゴードス。お前にはここを任せたい。奴が破壊軍を仕向けてきたとき…お前が皆を守るのだ。」

「…ワシにその資格は…」


ゴードスは下を向く。


「そんなことないです!」


「…」

兵士たちが言う。

「ゴードス将軍…俺達、言いましたよね。いつでも待ってるって。俺達にはゴードスさんが必要なのです!平和軍将軍ゴードス将軍の力が!」


「私たちを平和な世界へ連れて行ってください!」

「精一杯共に戦います!」

口々にゴードスに手を差し伸べる声が聞こえる。


「…ッ…」

ゴードスの目に再び涙がこぼれる。


「分かるか?ゴードス。これがお前にかけられた思いだ。それがわかったならば…いつまでもそこでグズグズするな…!」

グロストは傍にあった自身のマントを肩にかけ、身に着ける。



「戦いの準備を進めるのだ!破壊軍が攻めてこない今が勝機!我々平和軍、最後の力を見せつけてやるのだ!」



「「「「オオオオオオオオオオーーーーーッ!!」」」」

兵士たちは更に士気を上げた。大きくふるいあがる兵士たち。


そしてゴードスもまた、立ち上がった。



「…お前さんは本当に変わったの。」

「…誰のせいだと思っている…?」


グロストはそう言い、兵士たちと共に、戦闘の準備を進め出した。



「…リリア。ワシは…まだ……死ねんようじゃ。」


ゴードスもその大地を足で踏み出し、希望へと歩き出した。


Episode 32 END





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ