Episode 31 神の裁き
Episode 31 神の裁き
「神と名乗っていた奴の名はディスタバンス…それはこの世界の名前でもある。そう言っておった。そして破壊軍の主…」
ディスタバンス。
それがこの世界の神であり、この世界を終わらせようとしている破壊軍の長の名だった。
「それじゃぁ…僕たちがこれから倒せなきゃいけない相手は…神様…!」
ゴードスは操られていながらも、その正しい心は奥深くへ囚われていただけだ
そのため、神と名乗るディスタバンスの情報をある程度だが記憶に収めることができたようだ。
「…神でも構わん。この世界をこれ以上奴の思い通りにさせるわけにはいかない。」
グロストは気を引き締めた。
何十年も戦い続けてようやくたどり着いた破壊軍の黒幕。
その存在を知ったグロストはこの戦いにもいよいよ終わりを見出した。
「…すぐに戦いの準備をするべきだ。決戦だ。」
「グロスト待って!」
「…?」
やる気満々のグロストをウィルが止めた。
「平和軍で戦える兵士は今とても少ないよ。このまま挑んでも不利なだけだよ!」
「ウィルの言う通りかもしれん…グロスト、今一度…体勢を立て直してからにしたほうが良いかもしれん。じゃが…それを決めるのはお前さんじゃ。ワシにはもう将軍である権利はないのじゃから。」
ゴードスはあの戦いの後、将軍の肩書を自らの手で抹消した。
つまり、今この平和軍の長はグロストということになる。
「…俺には軍のことは分からん。ゴードス。お前がそう言うなら俺はそれを尊重する。それで良い。」
グロストはゴードスを頼りにしていた。
自身と似た境遇があった。ということだけではなく、ゴードスの軍を統率するスキルはグロストとは雲泥の差だ。
立場上ゴードスは将軍ではなくなったが、グロストやウィルだけではなく、兵士たちはゴードスのことをまだ将軍であると思っている。
「…わかった。では、体勢を整えることを優先するとしよう。」
平和軍の兵士たちは順調に回復し、人数が増えてきている。
その間の破壊軍は動ける兵士たちとグロスト、ゴードス、ウィルたちで退けた。
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そして、1週間の時が流れた。
あれから神は姿も、声も見せていない。
ウィルは疑問に思っていた。
あれからディスタバンスの動きがない。
破壊軍は攻めて来るが、ずっとワンパターンが続いている。
(嫌な予感がする…そう、今までにないぐらい…)
ウィルは嫌な予感だけを胸に抱えていた。
「…」
グロストは相変わらず体を鍛えることを辞めなかった。
だが、肉体だけではなく、精神統一をするなど、力の制御の強化にも力を入れていた。
ゴードスも、出来る限り軍の為に動いた。
責任を果たす為に必死に見えるが、その必死に責を果たそうとする姿は周りからも好印象であった。
ウィルは不安なことがあるといつも夜、一人で眺めのいい場所へ行く。
「…何か悩み事か?ウィル。」
「…グロスト。」
いつも軍の拠点から少し離れた場所で休息をとるグロスト。
今回はウィルの気配を感じて、眺めのいい場所へと行ってみた。するとウィルが居た。
「…なんだか…嫌な予感がするんだ。グロストは感じない?」
「……俺は…不安だ。」
「グロストが…不安?」
「あぁ。俺は…この力で平和軍を守ると誓った。世界を守ると誓った。だが…俺は本当にそんなことができるだけの力があるのか…いざというとき俺は守れるのか…そして、今回、相手は神であるとわかった……余計に嫌な予感を感じた。不安感を感じる。」
「…グロストもそんなこと言うんだ。」
「…俺は強くなどない。誰かに助けられてばかりだ。」
「僕も弱いけど…皆に守られてる。」
星は見えないよどんだ夜空を眺めてウィルは言う。
「…グロスト、生き残ろうね。そして、世界を守ろう。」
「あぁ…俺は死なない。死ねない…」
(世界を救うまでは…な……)
手を合わせるグロストとウィル。
誓いあった二人。
世界を救おう。そう誓った二人の夜が流れてゆく。
希望にあふれた二人の心がここにあった。
「グロスト。お願いがあるんだ。」
「ん?」
―――
「…そんなことか。勿論だ。」
「…!ありがとう!」
新たな約束を交わす二人。
穏やかな短い時間
しかし
それは突然終わりを迎えることになる
もうここに二人が集まることは無い…
ゾワッ
「!!」
「グロスト?」
「…!!」
今までにないほどの悪寒を感じたグロスト。
ふいに後ろを振り返る。
「…ウィル。やけに静かだ…!」
「えっ…?」
「……まさか…!」
グロストはウィルの手を引いた。
「グロスト!?」
「俺の傍を離れずについて来い!」
「…!」
グロストの表情が明らかにおかしい。
今までにないほどに顔色が悪い。過呼吸気味のグロストの呼吸。
それは力を制御できずに苦しんでいた時の顔など、比較にもならない程に不安を浮かべた顔だった。
ウィルはここで察した。
今、ウィルの嫌な予感が的中したのだと。
「ゴードス!皆!居るか!?居たら返事をしろッ!!」
グロストは呼びかける。
しかし誰の声も聞こえない。
しかもとても静かだ。
「ハッ…ハッ…ハッ…!」
不安で押しつぶされそうな二人は辺りを探索する。
平和軍の拠点にはもう居なかった。
いや、正確には…
「な、なに…これ…!どうなって…!」
兵士が全員倒れているのだ。
駆け寄るウィル。
「そんな、そんな…!!」
ウィルは一人ひとりの呼吸を確認する。
その中にはレイリーやサイノも含まれている。
「これは…!」
「な、なんだよこれ…!」
被害を受けていない兵士たちも続々と集まってくるが…
「ウィル!皆は…兵士たちは…!」
ウィルの目には大粒の涙がこぼれた。
「…全員……
死んでる…!」
「馬鹿な…!何故だ!!ゴードスはどこだ!ゴードス!!」
「指令室…!指令室に行ってみよう…っ…!」
膝が震えて上手く歩けないウィル。
なんとか我を保つグロストはウィルを抱えて指令室へと急ぐ。
「ゴードス!!」
「…グロスト……!」
「ゴードスさん!!」
ゴードスともう一人いる。
「貴様かっ!!」
グロストの雷がゴードスを襲っていた者を襲う。
ゴードスより小さいが、ゴードスを念力か何かで持ち上げていた。
それを止め、それはグロストの雷を交わす。
「…なんだまだ生存者がいたのか…あぁ、そういえばお前はまだ食らってなかったな。」
その姿は獣人だ。
赤く、長い髪。何の種類の獣人かは分からないが、狼のような顔つきをしている。
色黒に焼けた皮膚。赤い瞳。そしてしなる牛のような尻尾。
2m弱ほどの身長だが、その内から感じる途方もない底知れない力。
「グロ…スト…ウィル…逃げる…の…じゃ……こいつが…こいつがディスタバンスじゃ!!」
「!この獣人が…ディスタバンス!」
「俺の名前を記憶していたか。まぁ良いだろう。どのみちお前たちは終わりだ。この軍の兵士の魂は俺の手にある。」
ディスタバンスは手にそれを浮かべて見せる。
そこから感じる仲間たちの魂の鼓動。
「貴様…!許さんぞ…!我が仲間たちを…よくも!!」
「フン、怒れ怒れ。それだけでは俺を止めることなんて出来やしないってこと教えてやるよ。」
「ウィル、ゴードスを頼む。」
「…死なないでね。」
「あぁ、俺は勝つ。そして…終わりにする!!」
「やってみろよ。」
グロストは瞬時にディスタバンスを指令室を突き破って吹き飛ばした。
ウィルとゴードスから距離を置くためだ。
空中戦が始まった。
「ゴードスさん!大丈夫ですか!?」
「あ…あぁ…お前さんたちが来なければワシも魂を抜き取られていた…礼を言うぞ…」
「魂を…抜き取る…ということは、あいつがもってる魂を皆に戻せば…!」
「じゃが…奴は危険じゃ…!破壊軍などまるで可愛い赤子と思えるほどに…奴の力は……ワシら生物の次元を超えておる…!」
「そんな…!でもグロストは負けない…僕は信じたい。」
「……駄目じゃ…」
「えっ…」
その時だった。
グロストが吹き飛ばされてきたのだ。
指令室は
その衝撃で半壊し、天井もむき出しになってしまった。
「…グッ…アッ…」
グロストの全身に赤黒い炎が絡みついている。
火傷は黒く染まり、グロストを苦しめている。
「あンだよ、俺はまだ力の半分も出してねぇぞ。」
「…強い…!」
「グロスト…!」
「ウィル、グロスト…終わりが来たのかもしれん…ワシらの…負けじゃ…」
ゴードスは絶望した。
グロストならば勝てるかもしれない。
そう思っていたが、やはり力の差。もはやどうしようもないことを悟った。
「諦めん!俺は…必ずこの世界を…!」
「もう良いって。眠れ。」
「グアアアアアアアッ!!!」
グロストの全身から赤黒い炎が噴き出す。
その温度は距離があるウィルやゴードスが、一気に汗を吹きだすほどの灼熱だ。
やがて全身から血が噴き出すほどに皮膚が膨張してゆく。
「グロストオオオッ!嫌だーーーっ!!」
悲痛なウィルの叫びが響く。
「グッ…アアアアアアアアアア!!!!」
喋ることも出来ない。気絶する間も与えない。感じたことのない痛みがグロストの全身に襲い掛かる。
「やめてぇぇっ!!」
ウィルが駆け出した。
(ウィル…駄目だ!!来るなっ…!!)
「わあああああああっ!グロストを離せえええええっ!!」
「ピーピーうるせぇぞゴミが。」
強く睨みつけたディスタバンス。
その時だ。
ウィルの身体がピタリと停止した。
「ァ…ッ…」
ウィルの身体から何かが抜け落ちた。
魂だ。
その魂がディスタバンスの手の内に宿った。
「…ァ…!!」
(…そんなことが…あって…!)
ウィルは倒れた。
魂を抜き取られた。
その魂を取り返さなければ
ウィルは死ぬ。
グロストはそれを見て…
「グォァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
強く激しい怒りの咆哮が響き渡る。
全身に赤黒い火を浴びながら血をまき散らし、白と黒の雷を纏い突っ込むグロスト。
「何…?チッ!」
不意の行為にディスタバンスの身体にグロストの身体がぶつかった。
その反動で、ディスタバンスに握られていた魂の半分以上ががそれぞれの兵士たちに戻っていった。
しかし、そこにウィルの魂は無かった。
ウィルの魂はまだディスタバンスの手の内にあった。
「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
グロストは激しい猛攻でディスタバンスをひるませる。
「やるじゃねーの。」
しかしまだ余裕の表情。
「よーし、ここまでだ。」
「グオオオオッ!!」
「話は聞け。」
「ガッ……」
グロストはディスタバンスの攻撃、一撃で地に伏した。
「グロストに伝えておきな。今回はこれで引き下がる。この残った魂たちを救いたければ、破壊軍の本拠地…この世界の最南端…それより奥に位置する天を貫く塔まで来てみろ。それまでは破壊軍をここへ派遣するのもやめておいてやる。そして一人で来い。そこで最後の戦いをさせてやる。」
今この場で、唯一意識のあるゴードスにそれが言い渡された。
「ま、お前らが勝つことなんて絶対ないけどな、ハッハッハッハ!!!」
ディスタバンスは笑いながら、消えていった。
「………終わりかもしれんの…ハハハ…リリア…………」
ゴードスは涙を流し気を失った。
静寂だけが、平和軍に残った。
今までで、一番静かな夜。
ただ、気を失い倒れるゴードスとグロスト。
魂が戻ってきたが、まだ気を失っている兵士たち。
そして
魂を抜き取られたまま、疑似的に死亡した兵士たちと…ウィル。
ディスタバンスを倒さねば彼らは死ぬ。ウィルも死ぬ。
相手はあのグロストを簡単に戦闘不能にした神。
状況はどんな時よりも
絶望的であった…
Episode 31 END
【語り手と語り手の竜】
…グロストは敗北した。
そして、神であるディスタバンスにその魂を抜き取られてしまったウィルや平和軍の兵士たち。
その魂を人質に囚われてしまうグロストとゴードス。
圧倒的な強さを前にゴードスは激しく絶望してしまったんだ。
あの時の絶望は忘れんよ…
あの時ほど、本気で絶望したことはない。
グロストが大切に…一番かけがえのない大切な存在を失った。
それを取り戻すため、グロストはこれからきっとディスタバンスに戦いを挑むだろう。
でもその前に、怒りをあらわにするグロストに多くの手が差し伸べられることになるんだよ。
ウィルを失ってもグロストはまだ一人じゃない。
まだ彼を支える仲間が居る。
それも全て糧にして、グロストは戦うんだ。
…そしてその戦いは……ううん、これは君には関係のないことだね。
さぁ、この戦いも残りわずか。
君は最後まで見届けてくれるかな?
ワシからも、ここまで聞いたならば、最後まで聞いてほしい。
グロストという竜が…戦い抜いた戦いの結末をな…
さぁ、最終章のページをめくろう。
ここからの葛藤も踏まえてすべてが最終決戦だ。




