Episode 28 弱き心
Episode 28 弱き心
「ゴードスさんは破壊軍になにかされている。」
ウィルがゴードスに襲われた日の翌日。
軍の会議で、ウィルは起こったことを話し、そのうえで発言した。
動ける平和軍兵士が集まり行う作戦会議。
ゴードスが抜けた今でも有志を募り、この会議を行っている。
「なにかってなにをだ」
「それは分からないです。けど、ゴードスさんは明らかにおかしい。同じ仲間としてもう見逃す事は出来ません!」
ウィルは訴えた。
ゴードスをまた前のように、平和軍の総括者として引き戻すことを。
「しかし…あの人は…」
兵士たちはすぐに賛同しなかった。
「あの人は俺たちに危害を加えてる。引き戻すって言っても…言葉じゃ通用しない。ウィル。襲われたお前が一番知ってるだろう。」
同じく会議に参加してたレイリーがウィルに言う。
「…それは…それでも、ほっとけないんです。ゴードスさんは何かに苦しんでいる。これが破壊軍による洗脳か何かだとしたら…僕らはそれを止めなくちゃ…ゴードスさんは僕らの仲間だから!」
ウィルは訴え続けた。
「お願いです。皆の力を貸してください。」
ウィルは深く頭を下げて頼み込んだ。
「おいおい、頭を上げろって。そこまで親身にされると…なぁ。」
参加していたサイノはウィルの真剣さに驚き、慌てる。
「でも俺は嫌だぜ。こんなの…昔のグロストの時と同じじゃないか。」
「うーん…どうにも…破壊軍の侵攻を防ぐだけで手いっぱいなのに…」
ウィルの訴えに何人かの心が動くが、まだ過半数が納得いっていない模様。
「我からも願う。」
腕を組み、座っているグロストが口を開いた。
一夜を過ごし、多少体力が戻って来たようで、力を使わなければ普通に行動できるようになっていた。
「今のゴードスは…そう、まるで昔の自分を見ているようだ。」
「…」
兵士たちはグロストの話を聞いている。
「奴には何か理由があって今のような行為を行っている。そう我は捉えたのだ。それしか今のやつには見えていない。だが、それには相応の覚悟があったようだ。奴の顔は苦しそうだった。」
(グロストも気づいていたんだ…)
「それだけではない、憎しみ、悲しみ…様々な負のエネルギーが奴を取り囲んでいた。そう、まるで…昔の我だ。」
グロストは改めて言った。
「ゴードスを助ける手助けを…我とウィルに力を貸してほしい。」
グロストは腕組みをやめ、頭を下げた。
兵士たちは驚いた。
あのグロストが頭を下げた。仲間のために。
グロストは目覚めてから、前よりもずっと仲間のことを気にかけるようになっていることに、兵士たちは気づいていた。
「今晩、またここに集まってくれ。そこを決断の場とする。破壊軍との戦闘は各自死なぬよう全力を尽くせ。我のことは気にするな。以上だ。」
グロストはそう言い、会議室から出る。
「…グロスト、本当に変わったよな。」
「あぁ、今までの暴れっぷりが嘘みたいだ。」
「なんだか…俺たち情けないよな。」
「あぁ…なぁ…ゴードス将軍を連れ戻すの…どう思う?」
「どうもこうも。俺たちじゃ…」
「でもグロスト将軍が居る。」
「…そうだな。あの人が居る。それだけで希望はあるんだ。」
「グロストとウィルが真剣に向き合っている。ならば、我々も応えねばなるまい。」
レイリーはそう言い、「私では力不足かもしれんが…力を貸そう。」
「あ、ありがとうございます!」
「しゃぁないな。そんな真剣に言われたらよ。」
サイノもそれに応える。
「ありがとうございます…!」
段々いい方向に向かっている。ウィルは安心した。
否定派が居なくなったわけではない。
しかし、グロストを信用する兵士の数はさらに増えた。
グロストは、拠点の移動によりいつも修行で使っていた場所が無くなった為、新しい場所を探していた。
「…ここは良いかもしれない。」
前の場所と似たような場所だ。
小さな森の中。拠点からもほとんど離れておらず、緊急の音も聞き取れる。
(…ゴードス、お前は今何を思っている。お前は何を考えている?)
自分の落ち着ける場所を見つけたグロストは、ここで少し休息をとることにした。
今まで一人でこのような静かな場所で過ごしたグロストは、軍の中で休むより、こういった場所のほうが落ち着くのだ。
(皆はゴードスに対する信用を失いかけている…これは由々しき事態だ…なんとかせねば…)
昔の彼ならば、「関係ない」と一蹴だ。
だが、彼は変わった。
今は自分のことだけではない。仲間のことも考えるようになっている。
一見当たり前のことだ。しかし彼の閉じていた心はそれを拒んでいた。夢世界で出会った仲間たちや、ウィルやゴードスが居たから。自分はここに居る、力を使いこなせる。
だからこそグロストは救わねばならないと思ったのだ。
苦しんでいるゴードスを。ウィルが感じたゴードスの苦しそうな顔。きっと何かある。そして、まだ間に合う。
「俺は信じる、だがもしもお前を倒すことでお前が救われるなら…俺はお前を…倒さねばならぬかもしれん…」
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(またこの光景なのか)
ゴードスはうなされていた。
ここは会議翌日…
真昼の軍の指令室。
ここでうずくまるゴードスはとても苦しそうだ。
だが、これは…
彼の意思ではない。
(もはや体はいうことをきかぬ…)
ゴードスは自身の心の奥で自我を封印されていた。
今ここに居るゴードスは、心の抜け落ちた怪物のようなものだ。
本物のゴードスの魂は奥へと封じられている。
(ウィル…すまん…ワシに出来たのは…この腕の力を弱めること程度じゃ…)
(こんなはずではなかった。なんて愚かなことをしてしまったのじゃ…ワシは…)
ゴードスは後悔に囚われていた。
それは、グロストが重傷を負い、眠っている間の1か月の間に起ったことだ。
「グロスト……」
グロストが眠りについて2週間が経った頃の話だ。
わずかこの短期間で、拠点を後退し、現在の位置までたどりついて間もなくの時だ。
ウィルは毎日グロストを看ていた。
伸びすぎた髪を切ったり、体を拭いてあげたり…一生懸命に眠るグロストを介護していた。
「ウィルよ、そろそろ休んではどうじゃ。」
「大丈夫です、これぐらい…グロストはもっと苦しんでるから。」
「…あまり無理をするでない。」
「はい…でも何もせずにはいられないんです。」
ウィルは泣きそうな目でゴードスに言う。
「ウィル、グロストなら大丈夫じゃ。お前が傍に居ればきっと…」
「はい…」
(ウィルの心にも軋みが生じておる。グロスト…何をしておるのじゃ…)
―――
(最近俺たち劣勢だよな)
平和軍兵士たちの声がゴードスの耳に届くようになる。
カウンセリングに来る兵士も大幅に減った。
(グロストが居たときはまだ優勢だった)
(ゴードス将軍だけじゃ荷が重いのか?)
(馬鹿言うなよ。俺たちが…弱すぎるんだよ…いつも2人に任せてるようなもんだ)
ゴードスに対する不満も聞こえた。
(強いんじゃなかったのかよ!最近劣勢ばっかりじゃないか!俺たちの領土ももうほとんどない!終わりだ…っ!)
(やっぱりゴードス将軍じゃ)
「…彼らに悪気があるわけではない。」
(我々生物は追いつめられると誰かのせいにしたりして、自分を正当化させようとする生き物だ。)
そう、誰も悪くはない。
悪いのは。
弱い
自分だ。
「リリア…ワシは…どうすれば良い…?」
それからのゴードスは段々と力の使い方が暴化していた。
不安定になってしまった精神に見合った不安定な力が暴発し、周囲に被害を被るようになってしまったのだ。
それにより兵士によるゴードスの評判は悪くなる一方だ。
それでも誰かのせいにも出来るわけもなく、自分の弱さにどんどん自分を追いつめた…
「ゴードスさん…」
ウィルはそれに感づきゴードスの元を訪ねた。
が、その時にはすでに遅かったのだ。
「…居ない…?」
ゴードスは軍に居ないことが増えていた。
何処に居るのかは誰も知らず、戦闘にも参戦しない日が続いた。ゴードスとグロスト。
2人の最強戦力が消えた平和軍。これは大きな打撃だった。
拠点を後退させてから、ウィルも居る後方支援隊が前線に出たりすることがあったが、それが常時配置となった。
それでも破壊軍の猛攻は止まらない。
再び後退を余儀なくされそうだった平和軍。
が、そこで”あの現象”が起こった。
空から降り注ぐ爆炎が、平和軍と破壊軍を巻き込み戦場を赤い炎で包み込んだのだ。
それによる被害で、幸い平和軍兵士に死者は出ていない。が、多くの重症人が出てしまった。
しかしその分、破壊軍兵士も戦いを重ねるごとに数が減った。
しかし平和軍の重症兵士も増えるばかり。
兵士たちはゴードスを容疑にかけた。
強い魔力の炎だ。そして不在のゴードス。時折指令室に戻るところを目撃されているが、入り口は強力な魔方陣で守られ、誰も入れない。
様子がおかしい。明らかに…
グロストが目覚めたのはそれから更に1週間経ってからだ。
聞こえている。
ウィルの声も。グロストの声も。
兵士たちの声も。だが届かない。
ここに居るゴードスは自分であって自分ではない。
だが、自分の心の弱さがこれを招いた。
おかしくなったその日。
ゴードスは暗闇の指令室で頭を抱えていた。
自分の弱さで平和軍が劣勢している。
責任を自分だけで背負おうとしている。
そんな時だ。
(よぉ)
「…誰じゃ…!?」
(そう警戒しなくても良い。俺はお前の心を救いに来てやったんだぞ)
声が聞こえる。
どこかずぼらでだらしなさそうな声。
頭に直接流れ込んでいる。
(見えるぞ、感じるぞ。お前の悩みが。お前の弱さが)
「…」
(お前が強くなる方法を教えてやろう。)
「…なんじゃと…?」
(俺は神様だ。何だって出来る。)
「神様じゃと…!?冗談を言うでない!ワシは気が立っておる。黒こげにするぞ…!」
怒るゴードス。
(フン、そんなことしてもいいのか?俺はお前の大事な嫁さんを生き返らせてやる…と言おうとしたんだがな。)
「生き返らせる…!?リリアを…?」
(そうだ。俺の出す条件を呑めばお前の大事な存在をよみがえらせてやろうじゃないか。愛する人が傍に居ればお前は強くなれる。グロストのように守りたいものが出来るんだ。思いの力は強大だ…お前だって知ってんだろ。)
「…戯言を…!リリアは死んだ!ワシの腕の中で…!」
(頭悪いのかお前は。だから俺は神だって。)
「ふざけるな…ワシをこれ以上怒らせるな…!」
ゴードスの体内から魔力があふれ出る。鋭い目で誰も居ない部屋をにらむ。
(…あーもうやめた。)
「…なんじゃと?」
(んだよ、せっかくこの俺が直々に頼んでんのによ。勝手にやらせてもらうことにするわ。)
「な…!!!」
ゴードスの身体が赤く光りだす。
(この手段はな、心の弱ってる奴しか効き目がないんだがな。お前には効果テキメンだろうよ。)
「ぐっ…アアアアアアアアアアアァァァァl!!」
激痛がゴードスを襲う。
全身の骨が砕け散るほどの激しい激痛がゴードスを襲う。
(平和軍を壊滅させろ。外からも、中からも…な。)
「ば、馬鹿な…!そんなことを…ワシに…させ…る…気か…!?」
(お前だってわかってんだろ?もう疲れてんだろ?自分が頑張っても皆が不満ばっかりタラタラ言いやがって。ムカついてんだろ?)
「そ…そんなことは…!皆は…」
(綺麗事は大概にしやがれ…お前の本当の心はそうだな…リリアを人質に取られていたあの頃のお前だ。)
「ち…違…」
(さぁ……解き放て。お前は今日から俺の駒だ)
“破壊軍将軍 ゴードス”
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ワシはまんまと心を閉ざされた。
ワシの心を閉じ込め、悪魔のような暴君の魂を植え付けた。それは昔のワシだった。
リリアを人質に取られ、ただがむしゃらに破壊軍と戦っていた狂気に満ちたあの時のワシの裏の残虐な心。
ワシ自身も苦しむことになるが…この暴君の暴挙の邪魔をすることぐらいしかワシにはできなかった。
時間は過ぎ、ワシはワシの意思とは無関係に、戦場を襲った。
まるで昔のグロストのように、全てを巻き込んだ戦いで平和軍兵士が傷ついていく。
ワシの抑制で平和軍に死者はまだ出ていないようだが、ワシの抑制も、だんだんと効き目が無くなってきている。
そんな時。
グロストが帰って来たのじゃ。
力を完全に制御し、彼は帰って来た。
良かった。これで戦いは我らの優勢となるに違いない。
グロスト。
お前さんが戻ってきたら…ずっとお前に願っていたことがあるのじゃ…
ワシはもう駄目じゃ
この暴君の心はワシと同じ。魂そのもの。
この暴君が行ったことは全てワシの罪。
その手はついにウィルを手にかけた。
必死に抑えたが、結果、グロストが来なければ殺していたじゃろう。
これは全てワシの罪なのじゃ
だからグロスト。
今度対峙するときは…
迷うことなく
ワシを殺してくれ
それをワシの罪滅ぼしとしよう…
―――
ゴードスは苦しんでいる。
グロスト。そしてウィルは再び彼と対峙したとき…どう向き合うのか…
対峙の時は近い…
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…終焉の時は近い
今度こそこの世界は終わる
ただでは終わらせん
この世界を守ろうとする愚かな奴らに分からせてやる…
何をしても無駄であることを。
生物の魂など、どんな覚悟を持っていたとしても、脆く、弱いものであることを。
お前はよくやっている
平和軍を殲滅しろ…破壊軍を巻き込んでもかまわねぇ
時間はくれてやる。だがチリ一つ残すんじゃねぇぞ…
世界に終止符を打て。
良いな?
ゴードス
「や、やめるのじゃ…!や…め…!ぐああああっ!!?」
自分の心の弱さを呪え
「グアアアアアアッ!!ウィルよ…!グロスト…!平和軍の皆…!すまん…すまん!弱いワシを…許してくれ……グルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
お前は俺の駒だ。
やれ。平和軍を殲滅しろ。
「…グルル…」
Episode 28 END




