Episode 26 雷竜の反撃
Episode 26 雷竜の反撃
「…詳しく聞かせてほしい。」
「うん…」
帰還したグロストが知る現状、それは何とも奇妙な現象だった。
ウィルの話によると、破壊軍の数が大幅に減少したという。
それだけ聞くと朗報なのだが、平和軍にも打撃が来ていた。
原因が不明のまま、多くの平和軍の兵士たちが激しい火傷を負っている。
それにより平和軍の戦える兵士の数も大幅に減っている。
そしてその容疑をかけられているのがゴードス。
平和軍将軍であり、平和軍すべてを取り仕切る、炎と水を操るドラゴン。
グロストやウィルのことをよく気にかけ、そしてカウンセリングにより平和軍の治安の安全と、士気の向上を目指す良き指揮官だ。
そんな彼が容疑にかけられている
グロストは信じられぬ顔でいた。
「グロストが眠ってからしばらくは、破壊軍の侵攻も過激化して…今、僕たちの拠点は大きく後退した。」
「後退…劣勢ということか…」
「うん、それは今も変わっていない。なぜなら破壊軍の数が減っても、僕たちも戦闘不能になっている兵士が多いからだ。現状は何も変わっていない。」
奇妙な現象が起こる前と、何も変わらない。つまり劣勢のままなのだ。
「僕は前線で戦う兵士として派遣されるようになった。」
「前線…!?」
グロストは驚いた。後方支援隊までもが前衛で戦うことが当たり前になっていったのだ。
「ゴードスは反対しなかったのか…!」
グロストは怒りを覚えた。非戦闘員が表に出て戦うなど、グロストは許せなかった。
「苦渋の選択だったと思う。でも僕たちは待った。いつか訪れるチャンスを。そしてグロスト。君の目覚めを。」
「…そうか…」
苦渋の選択。
自分が眠っている間、平和軍は非戦闘員まで戦わなくてはならない程、追い込まれたのだ。
グロストは感じた怒りを自分に向けた。
“俺が力を使いこなせず、眠ってしまったから”
「…とにかく…外を確認せねば…」
グロストは起き上がり、立とうとする。
「ッ…!」
ふらっと足をふらつかせながら歩くグロスト。
まだ本調子ではないようだ。
身体はまだ生傷が痛々しく残っている。
「グロスト!」
ウィルは駆け寄る。
「…大丈夫だ…まだ…傷が少々うずくようだが…」
グロストの腹部には大きな包帯が巻かれている。
血が少しだけにじんでいるようだ。
「俺はどのぐらい眠っていた?」
「1か月ぐらい…」
グロストは立ち上がり外に出る。
「1か月でここまで…!」
グロストが出た先。
そこは自分が居た拠点ではなかった。
拠点は後退し、見たこともない土地へと移動されていたのだ。
「破壊軍の勢いは止まることは無い。数が減ってもまだなお、僕らは劣勢なんだ。」
平和軍も戦闘員が減少している。
そしてグロストが居なかった平和軍。
「ゴードスはどこだ?奴と会って話をする。」
「ゴードスさんは…指令室だと思うけど…中に入れないんだ。」
「なんだと?」
「特殊な魔法壁が張ってある。あれを壊せるのはゴードスさん自身。」
ゴードスはここ数日、姿を見せていないようだ。
「戦いのときだけ、外へ出て、そのまま命令もせずに空へ飛んでいくんだ。そして戦いが終わったら帰ってきて指令室にこもる…だからゴードスさんに容疑がかけられているんだ。」
ゴードスの行動がどう聞いてもおかしい。それだけは確信した。
「指令室へ案内してくれ、ウィル。」
「分かった…」
グロストの表情が曇る。
「ところでグロスト…その目…」
ウィルが言う。
グロストの目についてだった。
「…俺の目がどうかしたか…?」
グロストは鏡など見ない。自身の顔のことなど気にしたこともなかった。
「いや、白目が黒目になってるから…どうしたんだろうって…」
グロストの赤い眼球の周りは白だった。しかし、今は真黒だ。
黒目と赤い眼球の目。妙な感じがした。
「……心当たりはある。おのずと分かる。」
「そ、そう?」
「あぁ、それよりもゴードスのところへ。」
「わ、分かった。」
グロストとウィルは指令室へと向かった。
見慣れない道をゆっくりとウィルが誘導する。グロストはまだ身体が思うように動かせない。
「ここだ。」
扉の前には大きな魔方陣。かなり強力な結界が張られているようだ。
「…気配を感じる。ゴードスはやはり中に居る。」
グロストは魔方陣に近づく。
「…なるほど。相当強力のようだ。」
「そうなんだ。だから僕たちじゃどうにもならなくて。」
グロストは魔力を腕に込めた。
呻るような音で雷が腕に集まっていく。
「グロスト…!」
グロストは拳を構えた。
「…ふんっ!!!」
グロストの拳が魔方陣に叩き込まれた。
魔方陣は粉々に砕け散った。
「す、すごい…!流石だよ!」
「…ッ!?」
グロストは体に激しい痛みを覚えた。
グロストは崩れ落ちるように倒れる。
「グロスト!?」
「…グッ…!ガッ……!!」
力の副作用だ。
(力は…使いこなしたはずだ…!あれはやはり…夢の中だけ…なのか…!?)
「グロスト、ひとまず戻ろう。今は危険だよ。」
ウィルは魔法を使い、グロストを浮かせた。
そして、先ほどの緊急治療の部屋でグロストを寝かせた。
「…俺は…力を使いこなせていない…?」
―――
指令室では蹲る存在。
「…魔方陣が…奴が目覚めたというのか…?いや…もはや関係あるまい…」
小さく呟く赤き竜は目を細め、また、静かに蹲る。
―――
「グロスト?使いこなせていないって…?」
「…ウィル、長い話になる。だが、お前には知ってほしい。」
「…眠っている間…なにかあったんだね。」
「あぁ、俺は眠っている間……」
グロストはウィルに夢でのことを話した。
そこで出会った光と闇の存在。
そしてそこで確かに力を制御する鍵を得たこと。
その実感を今、ここに戻った今でも感じること。
「…そんなことが…」
「あぁ、しかし俺はそこで力を使いこなすための答えを知った。だから俺は力を使いこなせた。それはここに戻っても変わらぬはず…」
「万全じゃないから…?」
「…分からん…」
「グロスト、今日はもう休もう。破壊軍も今は攻めてこないと思う。」
「…わかった…」
ウィルはグロストに休むように言った。
ウィルは自分の持ち場へと戻った。グロストはまた深く眠ったようだ。
グロストの話したこと。それはあまりにも不思議な話だ。
しかし、ウィルは信じた。グロストは本当に力を使いこなしたのだと。
そしてその条件…
誰かを守るために力をふるうこと。誰かを頼り、頼られ。そして愛する。
つまり光の感情。
それと同じように闇の感情もある。この逆だ。
それを均等に収めることが力を制御させるトリガーなのだ。
(それさえ分かっていれば、俺がここでも力を制御できるのも遠くないはずだ)
「グロストの言葉が本当なら…ここから、僕ら平和軍の反撃が始まるかもしれない。」
ウィルは流れる星を眺めながらつぶやいた。
(でもグロスト…僕は…僕はもうこれ以上君が無理をするところを見たくない…だから僕は…僕が君を精一杯アシストするから。そのために僕はこの1か月、あらゆる魔法を勉強したんだから…)
ウィルの顔はグロストが倒れる前に比べて、とてもしっかりとした目をしていた。
その努力の賜物として、ウィルは後方支援隊の中では1番の魔法使いとして注目を浴びている。
それは攻撃の魔法ではなく、誰かを前線でサポートする役割。
ウィルの魔法を始めとする、後方支援隊の努力により平和軍の前線兵士の減少率も大幅に下がっているようだ。
グロストの存在は平和軍にとってやはり大きな力だった。
それが居なかったこの1か月で平和軍はグロストの存在がいかに大きかったかを思い知った。
だからこそ後方支援隊はウィルの提案と、レイリーの指示の元、それぞれが力を高めるために努力を重ねたようだ。
前衛兵士たちもなんとかグロストの不在と、ゴードスの異常を抱えながらもギリギリの戦いを強いられていたが、グロストの帰還を信じて兵士たちは耐えていたのだった。
―――数時間後、休息の時間は終わりを告げた。
カーンカーンと鳴り響く緊急警報。
「!」
グロストは眠っていたが、バッと飛び起きた。
「警報…!」
軍のキャンプで休息をとっていたウィルも立ち上がった。
「破壊軍だー!総員戦闘準備にかかれ!」
戦える兵士たちが戦場に向けて足を進める。
「…行かねば……!」
グロストは立ち上がる。
しかしフラッと立ちくらみを起こし膝をつく。
「クッ…動け…俺の身体…!」
「グロスト!」
ウィルがグロストに会いに来た。
「ウィル…!」
「駄目だよまだ休んでないと!」
「休んでなど…いられん…!破壊軍が攻めてきているのだぞ!」
「…グロスト…」
グロストの目が訴えていた。
皆を守りたい。そのために戦いたい。
「…」
ウィルの身体から癒しの波動があふれる。そして、その光はグロストに包まれた。
「…体が…楽に…」
グロストは立ち上がる。
「一時的に身体を動かせるようにした。でも一時的なんだ。だからグロスト。決して無理はしないで。」
ウィルは涙目で訴えた。
グロストに頼らなければならないことは分かっている。
それでも、大切な友が無理をしてまた意識を失うようなことがあったとしたら。
もう2度はない。
「…わかった。俺もまだ死ぬわけにはいかない。無理はしない。」
「…約束してね。」
「あぁ。」
2人は戦場に向かった。
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戦いはすでに始まっていた。
破壊軍の猛攻に苦戦する平和軍兵士。
時々見える血しぶきは平和軍の兵士ばかりだ。
士気もだいぶ落ちてしまっているようだ
そしてやはりそこにゴードスの姿もなかった。
「もう駄目…だ…」
「諦めるな!」
「しかし…グロスト将軍もゴードス将軍も居ない…俺たちだけでは…!」
兵士たちの士気はもう無いに等しかった。
軍を束ねていた存在。
軍の戦闘力の大半を担っていた存在。
その双方を失っていた平和軍はもはや破壊軍にやられてしまうのは時間の問題だ。
しかし、今日。それは変わる。
「諦めるな!!!」
その声は戦場に響いた。
「!!」
「あ、あぁ!」
「おお…!」
戦場の境。
大きな崖。
その上に平和軍の拠点はある。崖を降りたらそこは戦場だ。
そんな崖の上からとどろく声。
雷を纏い、現れたマントをなびかせる大きな竜人。
その姿はまさしく将軍グロストの姿。
「グ、グロスト…将軍だ…」
「か、帰って来た!」
「グロストさーーーーん!!」
「おおおおおおおおおお!!」
兵士たちは大きく叫んだ。
「戦場を向け!まだ戦いは終わっていない!!我が平和軍の力を見せてやるのだ!」
「よーし!グロスト将軍がいるならこっちのもんだ!」
「おおおお!!行くぜ!!」
兵士たちの士気が一気に高まる。
グロストの隣に居たウィルは嬉しい気持ちになった。
(やっぱりグロストの存在は大きいんだ。僕も…君を守る。)
「ウィル。サポートを任せるぞ。」
「うん。」
ウィルは持っている杖を構える。
目は黒く鋭い赤目。
懐かしいその戦いの目。
グロストはウィルの手をつかみ、崖を飛ぶ。
地に着いた瞬間グロストの雷が体中から爆音とともにはじけ飛ぶ。
「わっ!」
その雷は周りの兵士に当たっているはずなのに、兵士たちも、すぐ傍に居たウィルにもダメージがない。
「こ、これは…!」
「今一度問う…光と闇の力よ…我が心を聴け……我は貴様らと共に在り、そしてその力を支配して見せよう。」
グロストの身体にはじける雷が次第にその大きさを増していく。
「グロスト…君は…本当に…」
ウィルの目には涙がこぼれた。嬉しい涙だ。
目の前には今までずっと、何十年も苦しんできた力を、今…
支配していた。完全に制御していたグロストの姿があった。
大きな爆風と共にグロストの光と闇は完全に一体となった。
そこに居たグロストは、今までのグロストは違う。
前よりも、ずっと。ずっと強い。
力だけではない。
グロストは夢の世界で大切なものをたくさん知り、教わり、それを継承してここへ帰って来た。
「光と闇は共に在り…!」
とてつもないプレッシャーに兵士たちは驚きを隠せず、やがてそれは歓声に変わった。
「今こそ反撃の時だ!皆!我に続け!!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」
反撃の時は来た。
平和軍の快進撃はここからはじまる。
Episode 26 END




