Episode 23 爆雷竜、暴走
Episode 23 爆雷竜、暴走
破壊軍とのいつもの戦い。
しかしその中で不意に異変が起こった。
グロストたち平和軍の前に現れたそれは
身体から煙を吹きだす、全身鎧に覆われた怪物。
30mを軽々と超えるその巨体…
破壊軍は今まで何故このような存在を差し向けてこなかったのか。
それが不思議なぐらいに、絶望を象徴していた。
あまりにもでかすぎる。
ドラゴンでさえも4m~5mだというのに、それを大きく上回る巨体だ。
2mも無いような人間や獣人の一撃など、痛くもかゆくもないだろう。
「…行くぞ、覚悟を決めろ。」
「「「「「はっ!」」」」」
グロストは今、その怪物に挑もうとしていた。
空を飛べる兵士たちの前に立つグロスト。
怪物から放たれる威圧、しかしここで立ち向かわないと、全て終わりだ。
破壊軍の怪物が歩くと、他の破壊軍兵士を巻き込みながら立つのがやっとの風圧が襲い掛かる。
空へ飛ぶグロストたち。
空を飛べない兵士たちは地上から応戦する。
「グロスト将軍、どうなさるおつもりですか…?」
「…まずは様子を見るのだ。奴は意志を持たぬ…だがそれはあくまで我々が今まで経験したものから得た知識だ…しかし今回のような予想を遥かに超えるような存在にはそんな経験も、常識も通じぬ。」
グロストなりに考えた。
猪突猛進ではいけないと考えたのだ。
(奴がもし…近づくことで攻撃をしてくるタイプならば…早急にケリを付けねば…)
グロストはまず、小さい雷弾を遠距離から放った。
もし何かが飛んできたら…を考え、雷弾は人の居ない西部に放たれた。
そしてその雷弾が怪物からおよそ20m圏内に入った瞬間だった。
「!?」
怪物の鎧の…生物の目に当たる部分の鎧から赤い光が輝き…
「っ!?」
「なっ!?」
赤く、大きく、重圧な野太い光線が口の部分から放たれた。
その光線は雷弾を一瞬にして消し飛ばし、山を破壊し、地面を抉り、はるか遠方まで飛んで行った。
その数秒後、遠方で大爆発の音…
「あ、あんなの…どうやって倒せって言うんだ…!」
「終わりなのか…もう…」
平和軍兵士は今の光線を見て絶望した。
あんな一撃を食らったらひとたまりもない。
「…逃げるか?」
「えっ…?」
「逃げたくば逃げろ。邪魔だ。」
グロストは脅える兵士たちに言う。
「将軍…アレを見ても尚、諦めぬと言うのですか!?」
「そうです!あんなの…」
「…やはり…貴様らは役に立たんな……」
グロストは憐みの目で兵士を見た。
様子を見ろとは言ったが逃げろとは言っていない。
グロストは兵士の脅える姿に苛立ちと憐みを覚えた。
その時だ。
グロストの身体に、地上に蔓延る黒い砂が巻き上がり、まとわりつく。
これはかつての、破壊軍の殺戮しか考えていなかったグロストが纏っていたもの…
黒い灰である。
グロストの闇の力が大きく増幅する作用がある。
「…キエロ…役立たズが……」
グロストの目はかつての、将軍就任前の目に戻っていた。
狂気に満ちた目だ。
目の前の怪物よりもはるかに恐ろしいと感じた兵士たち。
驚いて何も言わずに後ずさった。
「…良いゾ…こいつを…倒せば…破壊軍に大きな打撃を…与えることができるデアロウ…!!」
グロストの身体にまとう黒い灰の量が増える。
「グッ…ハッハッハッハ!!!グハハハハハハ!!」
グロストは高笑いを始めた。
「ガアアアアアアッ!!!」
グロストの身体から放たれる黒い雷が怪物に向かって放たれる。
しかしその雷がやはり20m圏内ぐらいに入ると怪物の光線が放たれる。
「何…!?」
直撃が来る。
グロストはマントを広げ、最も耐久に優れた素材に魔力を使い変換させる。
しかしその光線の威力は予想以上に強力だった。
「…オ…オオオッ…!!」
兵士たちはその隙に光線の射程範囲から離れていた。
グロストだけがその光線をマントでかろうじて弾き飛ばした。
壁に向かって放たれた光線はグロストの守りでそのまま地面に屈折。
地面に底の見えない大穴を創りだした。
「…ハッ…ハッ…マントが…破れた…!?」
グロストはさっきまでとうって変わり正気を取り戻していた。
狂気に満ちていた目は元に戻り、落ち着いていた。
しかしグロストのマントは溶かされ、本人も身体に大きな衝撃と怪我を受けた。
「…クッ…ここまでとは…だが…!俺は…負けるわけにはいかん…!」
「しょ、将軍っ!」
「邪魔ダ!戦えぬ兵士などいらぬ!」
「しかしっ!このままだとあなたが!」
「黙レ…!」
グロストの低い声で言う。
兵士は驚いて何も言えなかった。
「…一人でモ我は破壊軍を倒す。こいつを…」
グロストのマントは徐々に姿を戻しつつある。マントは魔力を秘めているので時間がかかるが再生するのだ。
再び力を行使しようと、黒い灰がじわじわと集まってくる。
グロストの心は不安定だ。
孤独の戦い、復讐や憎しみの想いが強くなると、黒い灰はグロストに纏おうとするのだ。
グロストが雷を放とうとした時…
「またお前さんは一人で戦うつもりか?」
「…ゴードス…」
ゴードスがやってきた。
海側の敵を殲滅してやってきたのだ。
しかし海側も警戒を怠らないように、多くの兵士を海側に残した。
「将軍としては失格じゃ、戦えぬ兵士を奮い立たせるのがお前さんの…将軍としての務めじゃ。」
「勝ち目ノなイ奴を連れて行くノは馬鹿のするコとだ。」
「そうかもな、しかしお前さんはお前さんを気遣うものまでも突き放しておる。」
「…無用だ、そのようなコトハ…俺は…こいツを倒し…破壊軍に打撃ヲ与える…!!」
グロストの考えが昔に戻りかけている。
ゴードスは危惧した。
このままではマズイと…
「貴様も邪魔をすルな…!」
グロストはゴードスを突き飛ばし、怪物に再び黒い雷を繰り出した。
「!?いかん!」
ゴードスはグロストを身体を使って吹き飛ばした。
「何をするキサ……!」
グロストの目の前に小さな光線が通った。
ゴードスの腕にかする光線。
「っ……ワシが火の魔法が使える者であったから良かったが…」
かすったゴードスの腕は煙を上げていた。
ジュクジュクと真っ黒に焦げた腕。
「ワシは火に耐性がある。それでこれじゃ。お前さんがまともに食らえばひとたまりもあるまいて。」
「…」
「今の光線は先程とは違う。まだ隠し玉があるやもしれん、迂闊に攻撃をするでない。」
「…だがこのままだと終ワリダ…!」
「まだ考える余裕はある、考えるのじゃ。」
ゴードスは提案した。
「黙れ!俺は一人でモ倒す…!破壊軍如き…」
「しっかりせんか。お前さんがそれではいかんぞ!」
「黙レ…!」
グロストは明らかに様子がおかしい。
グロストの拳がゴードスの腹部に飛ぶ。
「将軍!?」
「グロストさん!何を!」
「…馬鹿者が…今は争っておる場合では無かろう…!!」
ゴードスは無防備だったため、グロストの攻撃でふらつき、腹を抑えた。
かなり本気に近かったようだ。
「役立たずの兵士などイラン」
グロストの身体は黒い灰で覆われていた。
グロストは、黒い灰を纏ってしまうと、我を忘れてしまうようだ。
しかし、どうすればいいのかゴードスにも、兵士たちにも分からない。
「…グロスト、落ち着くのじゃ!我を忘れてはならん!」
「黙れと言っているだロう…」
グロストはゴードスを睨みつける。
目が赤い。
このままでは暴走してしまう。
「グロスト…!」
黒い灰が巻き上がる。
グロストの身体にどんどんまとわりつき、ついには姿が見えなくなった。
「おかしい…!これは…危険じゃ!皆!下がれっ!!!」
ゴードスの号令で兵士たちは後ろに引いた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ…!!」
「グロストッ!!!」
「…!」
「どうしたウィル?」
後方支援隊長のレイリーはウィルの顔を見て言う。
「…」(なんだろう…ものすごく…嫌な予感が…する。)
ウィルは後方支援隊で、何かを感じ取った様子。
「…なんとなく…ですけど、伝わるんです。グロストが…危ないって。僕を戦場に派遣させて頂けませんか?」
ウィルはお願いした。
しかし…
「しかし…それはお前の予感だ。許可するわけには…」
やはり断られる。
レイリーはウィルの言っている嫌な予感を信じることができなかった。
それに、今もこの後方支援隊は大忙しだ。人手も足りない。
その時、伝令が声を荒げて言った。
「ほ、報告します!グロスト将軍が謎の灰に包まれ暴走寸前!怪我人が出る恐れがあります!」
前衛の兵士、サイノが後方支援隊に向かって大きな声を出した。
サイノ自身も怪我をしており、フラリと倒れる。
「大丈夫かサイノ!」
「だ、大丈夫…かすり傷だ…」
「…グロストが…!?」
ウィルは走り出す。
「お、おい!ウィル!!」
「何処へ行くウィル!!」
「すいません!僕、やっぱり行きます!!ごめんなさい!」
ウィルは自分が愛用している一式の救護セットを持ち出し、戦場に向かって走り出した。
「馬鹿者が…!しかし…あいつならばグロストの暴走を止められるかもしれん…任せて良いのだな?ウィル…」
レイリーはウィルのまっすぐな気持ちを信じ、黙って見送るのだった…
―――
「…オオオオッ…」
「グロスト!」
ゴードスは声をかけ続けるが、反応は無く、ただ、力の暴走に苦しんでいた。
黒い灰がグロストをグルグルとまわり続けている。
「おのれ!うっとおしい灰めが!離れんか!」
ゴードスはグロストを纏う黒い灰をはらおうとするが、あまりにも量が多い。とてもはらえなかった。
--------------------------------------
(…)
グロストの意識は完全に暗闇の中だった。
闇の中、真っ黒の空間に佇んでいる。
(…俺は…どうなっているのだ?)
黒い空間に1人。
何処に何があるのか、現実の自分がどうなっているのか。
遠くからゴードスの声が聞こえるような気がした。
しかしそれ以外は何も感じないし、聞き取れない。
(お前がこの世界を希望に導こうとしてるグロストか)
「誰だ…!?破壊軍…なのか!?」
(んー、違う。そして俺は俺でもない。俺は俺の思念。しかし、破壊軍を操ってんのは俺。俺じゃなくて、俺。)
「意味の分からんことを…何処に居る…?貴様を殺せば全て終わる…!」
(焦んなって、お前は自分の今の状況分かって言ってんの?もう暴走寸前だぜ。)
「俺が…?そうか…あの黒い灰…」
(ま、いいや、俺がトドメさしてやるよ)
「何だと…?」
(…お前に声をかけ続けている奴が居るな…どうだ?あいつはお前を束縛する。)
「束縛だと?」
(そうだろ?お前はあの怪物に挑まなくてはならない、しかしあいつは様子を見ろだのなんだのと。実に腹が立つ。そんなところだろ?)
「…」
グロストは何も言えなかった。
(お前の復讐の心は何処へ行った?お前のやることは破壊軍を殺すことだろう?余計な情を持つから邪魔が入るんだ。)
「…違う、ウィルは俺を必要としている…ゴードスだって…」
(ではお前は何故ゴードスを拒んだ?)
「それは…」
(お前は独りだ…ずーーーっとな…それをお前が望んでいる…心の闇を覗いてみろよ)
「違う…!俺は…!」
(綺麗事はいらねぇよ。大人しく…お前の闇を解き放て。本当は分かっているんだろう?自分は独りで…破壊軍を殺して、殺して殺して殺しまくる…それとも何?お前の心に掲げた復讐はその程度だったわけ?幻滅だな。)
「…そうだ…俺は…」
グロストの思考は完全に支配された。
(お前の闇を解き放て)
――――
グロストを纏った灰が膨れ上がる。
「!?」
そしてその瞬間、グロストの全身から太く、真っ黒な雷が大量に空へと放たれた。
灰がチリチリに分散され、その灰の中から出てきたグロストの身体からは黒い雷が強く、激しくバチバチと音を立ててあふれ出ていた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「うおおっ!?」
激しい咆哮でゴードスは何十メートルも吹き飛ばされた。
目が真っ赤に染まり、完全に自我を失っていた。
咆哮だけでゴードスを吹き飛ばすグロスト。
「…何じゃ…これは!?今までに感じたことの無い程…強大な魔力を感じる…そしてそれと同時に感じるこの…異常なまでに感じる禍々しい力…!これがグロストの中に眠る闇だと言うのか…!?」
体勢を立て直すゴードス。
兵士たちもグロストのその姿に脅えていた。
腰を抜かす兵士も大勢いた。
「ウガアアアッ!!」
グロストは怪物に突っ込んでいった。
「馬鹿な!?やられるぞ!!皆!もっと下がるのじゃ!」
ゴードスは兵士たちをさらに遠くへ行くように促した。
怪物の光線が放たれる。グロストが怪物に近づいたからだ。
「ガッ…アアアアアアアアッ!!」
グロストの腹部を貫く光線。
しかしそれにひるむことも無くグロストは怪物の身体に触れた。
「…グァッハハハ…」
「ゴオオオオオオオオオッ!!!」
怪物の叫びが響き渡る。
グロストの雷が怪物の全身に回る。
30mオーバーの巨体の全身に隅々まで黒い雷が怪物を襲う。
雷が鎧からも吹き出している。
中がどうなっているかは不明だが、魂に届くのも時間の問題だ。
しかし怪物も何もしないわけではない。
光線がグロストの身体や腕、足を貫く。
あまりにも激しい激痛が襲っているはずだ。
だがグロストはもろともせずにただ、怒りの表情を浮かべ、雷を浴びせ続けた。
怪物の魂に雷が走る。
手ごたえを感じたのかグロストは雷を止めた。
拳に黒い雷は溜まり、黒い灰と共に、その拳は怪物の鎧を破壊し、中の魂ごと30mを超える巨体を貫いた。
「グハハハハッ…!」
グロストは笑みを浮かべた。実に禍々しい笑みだ。
殺すことに快感を覚えた野獣のような赤い眼光…
もはやグロストではなく、別人を見ているようだった。
「グロストーーーーッ!!」
「ウィル!?ここまで来たのか!?」
ゴードスがウィルに気が付いた。
ウィルは戦場を走り、グロストの近くまで来た。
「ハァ…ハァ…グロスト…!なんて禍々しい力なんだ…素人の僕でも分かる…!」
「ウィル!危険じゃ!ワシとてもうどうにもならん!」
「でも…グロスト…あんな…」
ウィルはグロストの身体を見た。
あちこちに穴が開いていてそこから大量の血が吹き出ているのが分かる。
今は正気では無いので痛みは感じないかもしれないが…
「グロスト!奴はもう倒れた!戦いは終わりじゃ!」
怪物の魂は消えた。
鎧もただの飾り。倒れることも無くただ佇む巨体であり、今はオブジェのようなものだ。
平和軍の危機は去った。他の破壊軍は他の兵士たちが討伐に成功している。
今回のグロストの暴走による死者も幸いにも出ていない。
「グロスト!僕が分かる!?」
「オオオッ…!」
グロストは鎧を攻撃し続けている。
雷を浴びせ、足で踏みつぶし、完膚なきまでに破壊している。
もう怪物が活動停止していることすらも気が付いていないようだ。
「グロストッ!もう戦いは終わったんだ!正気に戻って!」
ウィルが一生懸命声をかける。
ゴードスがウィルを庇いながらだが、ゴードスもウィルの声掛けならもしやと睨み、特別にグロストに近づくことを許可したのだ。
「ハカイグン…スベテケシサッテヤル…!!」
片言で喋るグロスト。全身から灰が溢れだし雷も未だ身体を纏い続けている。
「グロストッ!君は…こんなこと…本当は望んでいないでしょ!?僕は知ってるよ…?君の優しい心を。だから…取り戻して!君の光を!」
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「ウィルの声が…聞こえる…俺は…また暴走してしまったのか…!?ウィル…!俺は…俺は…っ!!」
(チッ、邪魔が入ったか…まぁ良いさ、お前はもう終わりだ。あの世で会おうぜ。)
――――
「な、何…!?」
「…ウ…ル…」
正気を戻しかけたグロスト。
目も一瞬だが正気を取り戻した目をした。
しかし振り下ろす拳は手遅れだ。
激しい一撃が鎧に。
その時だ。
鎧が赤く光出した。
「…!まさか…!?ウィル!!ワシの身体の懐へ入れ!!」
「えっ!?」
「間に合わん!急げっ!!」
「は、はいっ!」
ウィルはゴードスの腹の下部分に入った。ゴードスはウィルを身体と腕を使い、覆う。
その前にマントを魔力でカバーし、耐久のある素材へと変えた。
「…!?」
暗い所に居るウィルでも分かった。
猛烈な赤い光が外で発光している。
その数十秒後…
ゴオオオオオオオと大きな音と共に爆風がウィルとゴードス…そして無防備のグロストを襲った。
「わああああああああああっ!!!?」
「クッ…オオオッ…」
隠れているウィルにも響く大地が大きく揺れる大震動。
爆発だ。
鎧が赤い光を放ち大爆発を起こしたのだ。
激しい爆風は軍の壁にまで届き、壁を大きく揺らした。
瓦礫が落ち、逃げ惑う兵士たち。
ゴードスのマントはあっという間に吹き飛び、その爆発を生身で受けた。
ウィルを庇いながらも耐えた。
炎にも耐性があるお陰で、大きな痛手にはならなかった。
爆風は約3分も続いた。
その間、実に高熱の中を耐えたのか分かる程に、大地がジュクジュクと赤く光り、一部が溶岩化している。
爆風がおさまり、ゴードスは火傷だらけの身体からウィルを放つ。
「ゴ、ゴードスさん!!」
ウィルはズシンと膝を付くゴードスに手を添えた。
「…大丈夫じゃ…しかし…グロストは…」
「グロスト、そうだ!グロストは!?」
ウィルはきょろきょろと辺りを見渡す。
溶岩化した焼野原、グロストは初めから負傷している。
無事では無いことは確かだ。
「…静かだ…」
溶岩を避け、歩くウィル。
「……あっ…ああっ!」
ウィルの前に見えたのは、黄色い身体。
辺りには赤黒い血が流れ出ている。
「うわああああああっ!!」
ウィルは走り出す。
溶岩を踏みそうな勢いで、グロストをめがけ走り出す。
「やだ!やだっ!」
ウィルが見たグロストは、誰がどう見ても絶望的な状態だった。
身体中、光線に貫かれた身体…そこから赤黒い血が噴き出している。
更に全身は大火傷を負っていた。全身がただれている。
そして黒い灰を纏いすぎた後遺症だろうか、身体がやや黒い。そして…
「…ガ…ア…」
苦しそうに血を吐き出すグロスト。
「しっかりして!グロストッ!!」
ウィルは持てる限りの治癒魔法をグロストにかけた。
しかし治る兆しはない。
ウィルの治癒魔法では到底治せないほど、重症だ。
いや、生きていることが奇跡だ。
「くそっ!くそっ!僕の治癒魔法じゃ…!くそっ!お願い!嫌なんだ!失いたくないんだ!君を…ッ…」
ウィルは絶望した。
グロストが苦しいのに、助けてあげられない。
目の前でこんなにも苦しんでいるのに。
もう助からないかもしれない
思いたくはないがウィルの脳裏によぎった。
悔しさがこみ上げる。
「…ウ…ル……」
「グロスト…!」
グロストが何かを伝えようとしている。
力の無い目。うっすらと開いている目、かすれた声にウィルに耳を傾ける。
「…す…ま………な…い………」
「どうして謝るのさ…?君は平和軍の危機を救ったんだよ!誇らしくしてて良いんだよ!また君が暴走したら…今度は…僕が絶対助けるから…だから……死んじゃ…いやだ……!」
ウィルは大粒の涙を流した。
グロストの身体にポタポタと落ちる。
「…」
グロストの目に生気が消えた。
「…グロスト…!」
「わあああああああああああああああああああああっ!!!!」
ウィルの悲痛な叫びが戦場に虚しく響き渡る。
グロストの魂の鼓動が…今、停止した。
Episode 23 END
~彷徨う魂~
グロストは早急に軍に運ばれた。
レイリーが前衛からの爆風を見てすぐに後方支援隊が駆けつけられるようにしていたお陰で、グロストが運ばれるまでの時間は短くて済んだ。
だが、時間が早い遅いで左右されるまでもなく、グロストは生死の境をさまよっている。
ゴードスも軍へと運ばれた。
ドラゴンの兵士たちに運ばれ、早急に治療を受け、ゴードスは回復をした。
グロストは前にウィルが眠ったことのある重傷を負った兵士が眠る場所へと移された。
しかしグロストはもう魂の鼓動を止めている。
つまり―――死んでいるのだ。
「…妙です。」
「…妙…と、言うと?」
ゴードスとウィルは眠るグロストの傍に居た。
専属の医者がグロストの身体を見て言う。
「…彼はもう死んだはず…しかし、彼の肉体と精神の”生”を感じます。これは…まるで…」
「まるで?」
「…”肉体と精神を繋いだまま魂だけが何処かへ行ってしまった”…と言うところでしょうか…」
「…?どういうことじゃ?」
「分かりません、ただ…グロストさんは…まだ死んでいない可能性がある…!」
「グロストが…生きている!?」
「それは真か!?」
ウィルもゴードスも衝撃を受けた。
「ええ…なのでグロストの肉体の治療を行いたいと思います。目覚めはいつになるかは分かりませんが…」
「…信じるしか…ないようじゃの。」
「…はい…」
グロストは生きている。
しかしその魂は何処かへ消えてしまった。
これがどういう意味なのか、それは誰にも分からない。
「僕、信じます。グロストがいつか、目覚めるその時まで、僕も精一杯生きます。そして、もっと強くなりたい…!」
「そうじゃな、グロストを信じよう。」
ウィルとゴードスは、グロストを信じた。
いつか、彼が目覚めることを。
そして決意した。
グロストが不在でも、きっとこの軍を守り続けると。




