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Episode 21 Gordos 復讐と深き絶望 愛の終演

Episode 21 Gordos 復讐と深き絶望 愛の終演
























目を覚ますとそこは拷問場だった。


たくさんの拷問道具、拷問機器が並んでいる。




「…ここは…」


「目が覚めたかゴードスよ。」


「…お前は…誰じゃ…!?」




「私は平和軍将軍にして最高権力者…名をデクターと言う」


目の前に居たのは平和軍の最高権力者。

種族は人間。

身長は190cmを超える大柄だ。


「先程のスラムで見せた魔法、見事な物であった。そこで私は貴様を平和軍へと入隊させることを決めた。拒否権は無い。」


「…な、なんじゃと…?」


まだ90歳。人間だと10歳にも満たない幼いドラゴンに突き付けられる入隊。



「貴様は魔力の適性が高い。幼かろうと、大人と肩を並べるなど造作もなかろうて。」


「…断る…と言えば?」


「そう言うと思ったのでな、貴様の大事な人を人質として用意させてもらった。」


マントをバッと靡かせるデクター。

その身体の奥に見えたよく知っている顔。



「…リリア!!」

リリアだ。


両手を錠で縛られ宙吊りにされている。


「……ゴー…ドス……」


あちこちにみられる生々しい痣。

酷い虐待を受けたのだとすぐに理解した。



「貴様あああああああああ!!」

ゴードスは怒りで身体を震わせた。

しかし全身を拘束された彼にその拳が届くことは無い。



「おっと、動くな。」


「グッ…アアアア…!!」


ゴードスを囲んでいた平和軍兵士がゴードスの身体を剣で斬り裂く。

鮮血が飛び散る。

「…!やめてええええっ!」

リリアは悲痛の叫びを部屋に響かせる。



「……ッ…」


「あの女の命を救う方法はただ1つ。貴様が我が平和軍の前衛となり、破壊軍と戦うことだ。」


「…つまり…奴隷…と…いうこと…か…」


「そうだ、貴様は軍の奴隷。我が支配下に置かれた哀れな子犬よ」


デクターのゴードスを見る目はまるで地を転がっている汚いゴミでも見るような目。


「我が軍の犬となれ、ゴードス。さすればあの女には牢獄で暮らす義務を与えよう…食事も与えてやる。悪い話では無かろう…?」


「…釈放の…見込みは…?」


「あるとも。貴様がこの戦争を終わらせば良いことだ。」


なんという下衆だ。

ゴードスの目はかつてリリアと過ごしたときの明るさは消え、その鋭い眼光がデクターを睨む。



「…分かった…入隊するからリリアを離せ。」


リリアの錠は外され、即座に平和軍兵士に牢屋に連れて行かれた。

「…」

リリアはゴードスの顔を見る暇も与えられずに運ばれた。



「…余計な気を起こすなよ。余計なことが出来ないように貴様の左胸には爆弾を装備させておく。絶対にはずせない。」


周りの兵士の一人がゴードスに爆弾が仕込まれたバッジのようなものを身体に埋め込んだ。

「ッ…!」

激痛が走る。

「そのバッジはかつて遥か昔、人間とドラゴンの古代戦争時、使われたものと言われている。貴様も知ってるだろう、史上最悪の戦争…」

「…知らん……それよりも…俺をこれからどうするつもりじゃ…」


「…フン、まぁ良い。貴様にはこれからキツイ特訓を詰んでもらう。そして我が軍の一員として日々、破壊軍と戦え。」


「……リリアには会えんのか……」


「それは出来ない。あくまで約束するのはあの女の身柄だけだ。」

「……クッ…」




「さぁ連れていけ。」

ゴードスはおとなしく連行された。


その心の中では既に決意を堅く固めていた。




(リリア…待っていてくれ。必ず、必ず助ける…その為ならば…)










人形だった彼に甦った優しさは


たった1日で憎しみと悲しみに染まってしまった…





「破壊軍だーっ!」

「戦え!死ぬならば戦って死ね!」



「オオオオオオオオオオオ!!」



赤竜の咆哮。


両腕から放たれる灼熱の業火は周囲を焼き尽くした。


「どうした…!足りん!足りんぞ!もっと破壊軍よ来い…!俺が全てブッ殺してやる…!」




時はあっという間に流れて行った。

日々繰り返される訓練に耐え抜き、少しずつ戦績を伸ばし、上を目指すゴードス。


破壊軍を簡単に倒せるようになる頃、彼は50年近くの年月を賭けていた。


ゴードス140歳。

ようやく前線で、大きな活躍が目立つようになってきた。



そしてこの頃、最高権力者だったデクターは年を取り、老死。

新たな者が最高権力者となった。


しかし、新たな権力者もデクターの教えを受け、デクターのすることを見てきた身。


やっていることはデクターと何一つ変わらなかった。



50年の時間が流れて、一度もゴードスはリリアとの面会を許されないでいた。


しかしこの時ゴードスは、誰にもばれないようにリリアと会う手段をずっと模索していた。




そして今夜、それは試された。





平和軍の夜は皆浮かれ状態。


皆が酒をの飲みどんちゃん騒ぎだ。


ゴードスはこの隙を狙って、人の少ない時間帯に最短ルートで牢屋に行く手段を見つけたのだ。






50年ぶりの再会。




「…リリア……」




「…!」



全身裸で、手かせを付けられて、すっかり痩せ細ったリリアの前に現れたゴードス。



「…あぁ…あなたなのですか?」


「…あぁ…リリア。ずっと…会いたかった…」


「私もです、ゴードス。」


牢屋越しの再会にお互い、涙をこぼした。


「…そう、まだ戦争は終わらないのですね…」

「あぁ…でも待っていてほしい。俺が絶対に破壊軍を殲滅して、お前を助け出すけんの…待っていてほしい。」

「はい…ずっと…待っています。」




ここで会話は終わった。


いられる時間はあまりにも短かった。

だが、この短い時間でゴードスもリリアも大きく救われた。



ゴードスは次の日からいつもに増して気合を入れて破壊軍殲滅に臨んだ。





「…駄目じゃ…これではいつまでたってもリリアを救えん。」



あれからゴードスは1年に1度ぐらいのペースでリリアと再会していた。

しかし、リリアは会うたびに衰弱していた。


身体も酷くやせ細り、新しい痣が次々と出来ていた。


身柄は確保されているが、時々兵士の腹いせとして殴る蹴るなどの暴行を受けているようだ。




ゴードスは耐えられなかった。


自分がリリアの精神的支えになっていたとしても、身体はもう限界だ。








何度も策を練り、考えながら、破壊軍に立ち向かう年月が始まった。


それからまた時間が流れ、ゴードス189歳。

49年後…



ゴードスはずっと計画を企てていた。


脱獄だ。



リリアを牢屋から救い出し、北の大地に逃げることを考えた。




ゴードスは成人目前。人間で言う18歳~19歳ぐらいだ。


力も、軍の上層部よりと互角レベルの力を付けるまでになっていた。








「脱獄だーーー!!」


「ゴードス…こんなことをしては爆弾がっ…!」


「そんなものはもう外したわい。」


ゴードスは実力が認められ、散々心に腹を立てながらも、汚いことをしても、軍の信頼を得た。


その証として爆弾を外されたのだ。





「貴様!裏切ったな!」


「ガハハ、最初から貴様らに従うことなど考えもしておらん!平和を目指すなどと綺麗な肩書きをしておきながらこの非道なやり方…絶対に俺は許さん…!覚悟するが良い。リリア。ここに居ろ。」

「ゴードス…」

ゴードスはあまりの嬉しさに顔をゆがませた。


その目は復讐と怒りにまみれた下衆の顔だった。



「グアッハッハッハ!!!ガーーッハッハッハ!!!」


全身から吹き出る灼熱の炎。


興奮の最中吹きだすよだれも蒸発するほどの高温を纏い周囲を破壊してゆく。


リリアは胸が痛んだ…





(リリア。)



(リリアが居てくれたから俺は優しくなれたんじゃよ)



(リリア、今日の飯はなんじゃ?)








「グオアアアアアアアアアアッ!!」


灼熱の業火が平和軍本部を焼き尽くす。




逃げ惑う兵士たちは成すすべもなく、チリチリバラバラとなっていった。



「ざまぁないのう!ガハハハ!!さぁリリア!俺と逃げよう!そして平和を掴みとろうではないか!俺たちだけの平和を!」

「…はい…」






2人は逃げた。

北の国まで逃げた。






「なぁリリア。」

「…はい。」



「…すまんかった。」


北の大地。

破壊軍に壊されていない場所。


新たな場所を拠点にすることに成功した2人に新しい家が出来た。


その中でゴードスはリリアを強く抱いた。



「…俺は怖かったかの…?」

「……はい…」


「俺が…嫌いに…なったかの…?」


「…そんなこと…」



「…リリアは優しい…嘘を吐かんでもええ…」


「いえ、私は…あなたが変わってしまうのが…怖いのです…優しかったあなたの復讐に満ちた顔は…見たくないのです…」

リリアはゴードスの胸の中で声を押し殺して泣いた。


「…リリア…俺は…もう戦わない…これからもずっとお前の元にいたい…そばに居たいんじゃ…」



「ゴードス…」



ゴードスはリリアの口を引き寄せた。


リリアはそれを拒まず、2人はキスを交わした。


「…いつか言おうと思っていた。リリア…俺と…結婚してくれるか…?」


「…はい。あなたといつまでも…」




北の大地に降る夜の雪は2人を祝福した。



ゴードス189歳。

リリア252歳。


平和軍に捕らえられて過ごした99年の時間を経て、二人は永遠の愛を誓った…







平穏な暮らしというものは



こうもあっさりと砕け散ってしまうのだと。







それから彼は思う。



運命というのはあまりも残酷だと。











「見つけた」





「!!」








「おーい、リリアー帰ったぞ……!」


部屋が荒らされている。



いつも丁寧にされている部屋の家具が壊れている。



「リリア!リリア!何処じゃ!?」





「動くな」



後方から気配。


振り向きすぐに魔法を放とうとするが、傍にいたのはリリア。

しかしそのリリアは、拘束されていた。



見覚えのある鎧。



「…平和軍…!!」



「ようやく見つけたぞゴードス。こんな北の果てまで逃げるとは大したものだ。」


「…貴様…!リリアを離せ…!」


「そうはいきません、あなたにはもう一度戦場に出てもらわねばなりません。リリアは人質です。」



まただ


前と同じ、リリアが人質だ。


「くっ……」



なんの抵抗も出来なかったゴードス。




2人は連行された。


この時破壊軍は既に中央地帯を制圧。

北の大地の一部も制圧をしていた。

残すは、世界の北東部と、最北端の山と、その付近のみ。



破壊軍の侵攻は日々勢力を増していた。



この時ゴードス232歳。

結婚から43年が経った時だった。




「将軍じゃと…?」

「そうだ、お前に役職を与える。」


この時の平和軍最高権力者、名をドルート。

大分年を取った老人のドラゴンだ。

しかし、その性格は性根の腐ったものだと言われている。


「…リリアは無事なんじゃろうな…」


「あぁ無事だとも。もちろん解放条件は前と同じ。破壊軍を殲滅しろ。」


「…クッ…」



ゴードスが受け取ったのは将軍の証、覚悟のマント。


危険なこと、不利なことでも受け止める心構えをすることを誓うマントである。

もはやこの軍ではただの肩書でしかないものではあるが、将軍だと分かるようにするために適当に使われている。


「それは特殊な魔法が施されている、戦いながら学べ。リリアを助けたくば戦え、殺せ。殺戮の限りを尽くせ…!」



「…」

ゴードスは無言のまま、マントを付け、去った。



「フン、その強さを持ってしてもまだ”愛”を選ぶか。愚か也。」










「ガアアアッ!!シネ…シネエエエエエエエ!!ウガアアアアアアアアアアッ!!」





ゴードスの戦いはあまりにも暴力的だった。

これぞ暴君。


他の兵士など目もくれず、破壊軍を倒し続けた。



今度はリリアの捉えられている場所すらも教えられていない。

リリアと会えない年月がまたしても流れていくのだ。




それから数か月。



ゴードスに更なる悲劇が襲った。







「…おお来たなゴードス。」


「…何の用じゃ」

「まぁそう言うな。私に愛人が出来た。紹介しよう。」



ドルートが連れてきた”愛人”。

それは紛れもなくリリアだった。


「リ、リリア…?」


「…」

リリアは何も言わず、下を向いている。


「んん?どうしたぁ?ゴードス?何か言ってみろ。リリアは私の妻になることを快く受け入れたぞ?」


「…」


リリアの手が震えている。

きっと脅されたのだろう。


ゴードスの怒りは頂点に達した。



「貴様…貴様…この…この下衆がああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


目の前にある机を破壊しドルートに接近する。


「愚かな。」


ドルートの前には魔法の壁がかけられていた。

その壁が音を立ててゴードスに雷を浴びせる。



「ガアアアアアアアアアアアアア!!!」


「ア…ガッ……」

ズシンと音を立て倒れるゴードス。


「そこで見ているがいい。私とリリアの愛をな…フハハ…」


「…」


ドルートはリリアを近づけ、キスを交わした。


リリアの目から涙がつたう


それをゴードスは見過ごさなかった。


(リリア…ワシの…リリア……おのれ…おのれええええっ……!!ドルート…貴様だけは…絶対にこのワシが殺してやる…!!)





ゴードスの心に深い、深い憎しみが植え付けられた瞬間だった。







ゴードスは前のように軍に忠実に動いた。


その中でゴードスはあることを企てていた。



それは有志を募ることだ。




ドルートのやり方を気に入らない平和軍兵士を集めたのだ。





「分かりました。私もお手伝いします。ゴードスさん。」


「すまん、頼んだぞ。」




何度もドルートに嫌がらせを受けながら、すっかりドルートのおもちゃになってしまったリリアの成れを見せつけられたり、日々の憎しみは既に頂点を超えていた。



その中でも耐えて。

耐えて


耐え続けた。



ドルートの嫌になることをゴードスは他の有志と共に実行した。

まずは精神的に痛めつけることから始めたのだ。


作戦にわざと失敗し、責任を負わせたり、小さなことまでくまなく行った。



「嗚呼。なんなのじゃ最近…ロクなことが無い…のう、リリア…こんなワシを慰めてくれるかの」

「はいドルート様。私で良ければいくらでも使ってくださいませ」




ドルートは日々、リリアをおもちゃのように扱った。

それももう終わる。待っていてくれリリア。ゴードスの計画は間もなく行動で行われることになる。





この日のことは




今でも後悔しているという。









何故こんなことになってしまったのか。










時は長く続いた。

有志の人間や獣人は老人になってしまい力尽き、新しい世代が増えた程に長い時間が流れた。





ゴードス413歳。




平和軍再入隊から


181年


ドルートは未だにリリアをおもちゃにしていた。




そしてこの年。

ゴードスが出会ったのは…


彼である。







「止まれ!止まれっ!それ以上の侵攻は容赦しない!」


「…貴様らも死にたいのか…?」


「ぐっ…!舐めるなよ!」




すっかり有志も増え、将軍としての立場も利用できるようになったゴードス。

もはや優しさは完全に捨てていた。


「フン。」

「なっ!?」


「通さないならまとめて始末してやる。」


門前に侵入者。


将軍としてそれを通すわけにはいかない。

ゴードスは即座に彼の足に火球を放った。




「グォッ!?」


バランスを崩し、体勢を崩した。


「何っ!?」


それから体勢を立て直そうとするが空中からゴードスは地面に頭を叩き付けた。



「くっ…「動くな。」






「た、助かりました…ゴードス将軍…!」


「…はよ逃げんかい。こいつの力は何処か妙じゃけん何しでかすか分からんぞ。応援はいらんし報告もせんでいい。ワシ一人でやる。」


一人称も変わり、声の高さもすっかり重厚なものとなった。

人間で言う約40歳~41歳。すっかり老いたゴードス。



「は、はいいっ!お気を付けて。」


兵士たちは距離を置くために退散した。


取り押さえた竜人はゴードスの顔を強く睨みつける。



「さて…貴様は何奴じゃ。ここは軍の管轄地。不法侵入は重いぞ?」

ゴードスは竜人の顔を睨む。


バッファローのような曲線を描く角、赤い身体。

4mは軽く超える大きな身体のドラゴン。


左右の肩にはマントの留め具が装備されており、そこから灰色のマントが風の音でバサバサと音を立てて靡いている。


すっかり威厳を纏ったその姿は181年前から大きく変わったようだ。



「くっ…俺は…破壊軍を殲滅しに来た……!貴様ごときの相手をしている暇は…ない!!」

体内から黒い雷を放出する竜人。


「フム。」


ゴードスはマントを魔力で動かし、雷を食い止めた。

そしてその雷を打ち消した。

ゴードスの眼は非情に鋭く、戦いの眼をしている。

その威圧感は誰もが驚いてしまうほどに強い眼をしている。


「何だと…!?」


「無駄じゃ、貴様の力は無力。命までは取らん。早々にここから去るのじゃな。」


「そんなこと…出来るかっ!!グオオオオオオオオオ!!!!」


竜人は雷を更に放出した。


力づくでゴードスの手から逃れた。


「ほう、少しはやるようじゃの。」






「……俺は…破壊軍を殺す…!邪魔をするなら…容赦はしない!!」

大きく雄たけびを上げる竜人。

大地が大きく震えた。


雷が身体を纏い、その身体が巨体のゴードスの身体目がけて襲う。

「ならばワシを倒してみぃ!そうすれば何処へでも行くがええ!」




「ウオオオオオ!」


竜人の放った雷は大きな音を立てて、地面を割りながら凄まじい速さでゴードスを襲った。

「どうした?その程度か?のぉ。」

その雷をゴードスは受けた。


(ほう、こやつ…)


その雷を片手で弾き飛ばした。


「クッ、ならばっ」

接近戦に持ち込もうとする竜人。

ゴードスは余裕の表情で竜人の拳を交わし、竜人の背に手を当てた。


「あんまりやりすぎると死んでしまうからのぉ。このぐらいにしておいてやるけんの。」


ゴードスは更に鋭い目で身体に力を溜め、爆炎を放った。

「ガッ、グアアアアアアアアアアア!!!!!!?」


灼熱の炎に包まれて叫び、倒れる竜人。


「…グッ…アア…」


「ワシ一人では苦戦する相手と戦うのに貴様程度の力では太刀打ちなど出来まい。顔を洗って出直してくることじゃな。」



無駄な力を使った。

だがこの竜人。底知れないパワーを持っていると、ゴードスは感じていた。


ゴードスは後ろを向き、立ち去ろうとする。


「…俺は…諦めん……!」

弱々しい声で言う竜人。


「……どうしても破壊軍と前線で戦いたいのならば平和軍に入隊するがいい。」


「…弱い奴と群れるだけ…無駄だ…!!」


「…群れねば成しえぬこともあるのじゃ。」


バサッとマントを靡かせ、ゴードスは去った。




(そう、有志を集わねばワシはいつまでもリリアを救い出せんかった…しかし…今宵。リリアを救い出す…!まっておれ…リリア…)




夜。


ついに作戦が決行された。




有志の中に、魔法を打ち消す力を持つ者が現れたのだ。

これを使えば魔法の壁を破れる。


あとは有志たちを本部に集め、逃げ場をなくし、叩く。



「ドルート様!敵襲です!敵…ぐはっ…!」


「な、何事じゃ!?」

「…!」


ドルートはリリアと裸で居た。


その瞬間。扉が爆炎で粉砕され、魔法の壁に直撃して灰となった。


「…よぉ…久しぶりじゃのぅ、ドルート…」

「ゴ、ゴードス!!貴様!」


「…」

ゴードスは目前のドルートとリリアを見た。

リリアはゴードスに何かを言いたげだ。

すっかりリリアも老いてしまった。



「おい。」


「はいっ。」


有志の一人が魔法をかける。

すると魔法の壁が大きな音を立てて砕け散った。


「おのれいっ!」

「させません!」

有志の魔法を封じる魔法がドルートにかけられた。

魔法が不発に終わったドルート。

その瞬間だった。

ゴードスの拳は既にドルートのすぐそば。


「ギャヒャアアアアアアア!?」



「…」


ゴードスの瞳はかつて今までないぐらい怒りに満ちていた。




建物の外まで吹き飛ばされたドルート。

その前に立つゴードス。

完全に血の気が登っている。


そのあまりの威圧感にドルートは身体を震わせた。


「貴様だけは絶対に許さん」


「ギェッ!?」


腹を思いっきり踏むゴードス。

ジュワアアと蒸発していくドルートの脂肪。

「ギャアアアアアアツイ!!アツ"イイイ!!!」


「ただでは殺さんぞ。」

勢いよく腹を強く踏み付けた。

「ギャッ!!!!!!!!?」


腹部の内臓が今ので使い物にならなくなった。

血を吐き苦しみ悶えるドルート。


「や、ヤメ、ユ、許しテ…くだサアアアアアアア!!?」

ゴードスは手の炎を纏ったままドルートの胸を掴んだ。


「苦しいか?苦しいじゃろうなぁ…ああん?」

「アッ、アッ、ヒャッ、グォ…」


「じゃがのう、リリアはもっと苦しかった!!!貴様に!!」

顔を拳で殴る。


「貴様にっ!」

何度も何度も


「貴様におもちゃにされて苦しんだリリアはこんな痛みよりももっと苦しいにきまっとる…!」

顔が歪んで戻らなくなるまで殴られるドルート。


「アガアガ…フガガガガ…」


「…案ずるな…貴様の後継者はワシがやる…貴様はおとなしく











死ね。」




「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」



全身を業火で焼かれるドルート。

溶け行く身体の中ドルートはゴードスを睨んだ。



「オ、オノレ…アァ…アァ…リリア…私の…リリア…私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の」

「!?」




「リィリィィィィィィアーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」






グサッ





「ーーーーーーーー!!」



ドルートが仕込んでいた刃物が投げられた

魔力の籠った、ドラゴンの胸ですら貫く鋭利な刃物だ。


その刃物は無残にも―――リリアの左胸を貫いた






「リリアーーーーーーーーッ!!!!!!」




「ヘ、ハ、ギャキャハハハ!!!ワダジハ…リリアト…イッジョ…ニ……」

ドルートは狂気の笑みを浮かべ、業火に飲まれ力尽きた。





ゴードスはリリアの元へ駆け寄り、リリアを抱いた。


「リリアッ!リリアッ!!誰かっ!誰か治癒魔法の使える者はっ…!!」


治癒魔法の使える有志がつどい一斉に治癒魔法をかける。



「駄目です…!心臓が損傷している…」

治癒魔法では治療できない。

リリアの身体から鮮血が流れ落ちる。


「リリアっ…リリアっ…」





「ゴー…ドス……私を抱いているのは…あなた…?」

「あぁつ、ワシはここじゃ!ここにおるよ…!」


リリアの目は薄れてはっきり見えていない様子。


「…すまん…リリア…ワシは…ワシは…お前を助けられんかった…すまん…すまんっ……」

ゴードスは涙を流した。ポタポタと大粒の涙がリリアの頬を流れる。


「ゴードス…そこに…」

リリアは瓦礫の下を指した。

そこを掘り返す有志たち。

見つけたものをゴードスに渡した。


「これは…写真…ワシらのか…」

「ええ…これだけは…ずっと、ずっと手放さなかった…」


北の地で過ごす間に、旅の人間に撮ってもらった一枚。

2人の写真はこれが最初で最後の一枚だ。

「…ありがとうな…リリア…」



「ゴードス…お願い…あり…ます…聞いてくれ…ますか?」

「…あぁ。聞く。何でも聞く…」

ゴードスは理解したのだ。

もうリリアはまもなく死ぬと。

これは遺言だ。




「…これから…どんなこと…あっても……ずっと…優しい…あなたで…いて…くださいね…」


「あぁ…」


「……辛いこと…苦し…いこと…一人で抱えちゃ…駄目です…よ?」


「あぁ…」


「どうか……この世界…に…平和を…」


「…あぁ、ワシが…ワシが必ず。この世界を平和にして見せるぞ…こやつらと共に…!」


周りの兵士は涙を流し、敬礼した。

ゴードスに忠誠を誓った証。

今ここに居る有志たちは、誰一人彼を裏切ることはしないだろう。



「…最後…」

リリアは手を一生懸命動かし、ゴードスの顔を近づけようとする。


リリアの最後の一言だった。









「……私は…あなたを世界で一番……










愛しています。」














「…リリア…ッ…」


リリアの最後のキス。

ゴードスは目一杯リリアを抱きしめた。

そしてもう力尽きたリリアの身体からその口をしばらく離さなかった。




そして口から口を離し、その大粒の涙と共に…






「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」




言葉で表現出来ないほどに、その悲しき咆哮は虚しく




燃え盛る炎と共に








消えて行った
















「ゴードス将軍、待ってますから」


「ゴードス将軍。あなたが復帰するまで、我々がしっかりここを守って見せます。」





ゴードスは深い絶望に囚われた。

リリアの言葉はしっかり届いている。



しかし、生物というのは、そう簡単に誰かの死を受け入れられないものだ。



今の彼は何があろうとも微動だにしないだろう。








「……」

北の森の湖。


木漏れ日の暖かいこの日。

リリアの墓が作られた。


リリアの遺体は湖に沈ませた。

どうか安らかに。

兵士たちはリリアの旅立ちを祈った。




墓造りが終わり、ゴードスは一人、湖に座っていた。


「……リリア…そこに…そこにおるのか…?」


湖にはリリアは居る。

しかしもうリリアの魂は天に召されたのだ。

湖の底に居るのはリリアの肉体であり、リリアではない。



「…あぁ…リリア…」





それからゴードスは何年もこの湖で過ごした。

心の絶望や悲しみが晴れることは無かった。


ゴードス425歳。

リリアが亡くなって8年の年月が経っていた。




「…リリア…ワシも…そっちへ…」


ゴードスにはもう良し悪しの区別もついていなかった。


ゴードスは湖に自分から飛び込んだ。



深い湖だ。

4mの巨体がぶくぶくと沈んでゆく。


(…あぁ…息が出来んの…まぁ…良い…リリアの元に…ワシも行けるのならば…それも……良い………)












(いけません)


「……!」


声がする。

幻聴だろうか。

リリアの声がする。









(あなたは…ここで死んでは…いけません……私との約束…思い出して…?)


ゴードスの身体が青い光に包まれた。


「…リリア…なのか…?」


「…頑張って。あなた。」


ゴードスの前に現れたのは青いブローチ。

まるでこの湖のように透き通った色。

不思議な力を感じる。


それを掴んだ時、彼の身体に水の加護が与えられた。


「さようなら、ゴードス。」




「待ってくれ!リリアっ!!」


-

----------------------------------------


「ゴードス将軍っ!



    ゴードス将軍!」




「…ハッ!」


目を開くゴードス。

ここは湖の森。


身体がびしょ濡れだ。


傍に居たのは獣人の兵士。

有志の一人だった。


「ゴードス将軍、驚きました。急に湖の中に入られたと思ったら青い光を纏って飛び出してきたのですよ?その後すぐに気を失われたので、私が傍に居た次第です。」


「…そうか…ワシはまだ…生きなければ…ならんのじゃな…?」


「…将軍?」


「いや、何でも無い…ありがとうな。」

「あ、はぁ…ところで将軍?」

「んん?」


「その左目…」

「左目?」


「お気づきでは無いですか…?湖の上に顔を…」

ゴードスは湖の上に顔を近づけた。


「…ん?青いのう。」


左目が青い。

この青い目…なんだかリリアの目の色にそっくりだ。


「それにこのブローチ…なんだか不思議な力を感じるのう……」


湖の中で受け取ったブローチの透き通った青は無くなっており、深い青色へと変わっていた。



「…まぁ良い。なんだか元気が出てきたぞ。」

「そうですか…!それなら良かったです。では参りましょう!今日から新しい平和軍が始まるのですね!?」

「あぁ、ワシに出来ることは…この世界を少しでも破壊軍の手に渡らんようにすることじゃ!」



ゴードスはここで、不思議な力を授かった。


この時から彼は、炎魔法とは別に、水の魔法も使えるようになった。

これはきっとリリアが最後に自分に預けたもの。



リリアとの約束を思い出しながらゴードスは今日も、将軍として、時には厳しく、時には優しく。


平和軍最高権力者として奮闘している…









「……リリア、見ておるかの。」


書類をそっちのけにして写真たてに映るリリアを見るゴードス。

その写真たてのリリアは笑っている。

とても眩しい、太陽のような微笑み。



「ワシはあれから変わったよ。ガラでもない。カウンセリングなんか始めたり…グロストという問題児もおってな…なんだかんだ、上手くやっとるよ…」


こぼれる涙を拭きとり、ゴードスは優しく笑顔で微笑む。


「不思議じゃの。さっきまで落ち込んでおったのに、お前の笑顔を見ると、頑張れる気がするぞ。」





「ワシも、グロストのように、悩み、そして変わらねばならんよな。リリア。ワシも、世界一お前を愛しているぞ。」



布を首に巻き、その中央に輝く青いブローチ。

水魔法を使う時、このブローチは透き通った青色となるようだ。


リリアがくれたものだ。いつもリリアが見守ってくれている。

そんな気がしている。



ゴードスはふと外を見た。



どんよりしているが、いつもよりは明るく見えたような気がした。








Episode 21 END







カーン!

カーーン!!




敵襲ー!!


敵襲ー!!!!






「…やれやれ、少しは休ませて欲しいの。」



悲しみを振り払い。

今日も彼は戦場へと出陣する。








(しかし何じゃ…?今回…ちと…嫌な予感がするのう…)








語り手と語り手の竜










…と、いうことで、ゴードスは平和軍の将軍になりましたとさ。





大丈夫?












あぁ、平気じゃ。












おじいちゃん?悲しくなるならやめとけばいいのに。










いいや、ワシとて語り継がねばならん者なのじゃ。

己の悲しみにばかり囚われていてはリリアに怒られてしまうわい。












…ねぇおじいちゃん。

今でも、リリアさんのこと好き?










…もちろんじゃ。


ワシはリリアを世界一愛しておる。

これは何百年経っても、決して変わることは無い。




















愛の力って…凄いね。



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