Episode 20 Gordos 絶望と怒りの序曲
語り手
おはよう。
よく眠れたみたいで何よりだね。
んん…おお眠っておったわい。
では景気づけにワシの話でもするか?
なんでそうなるのさ
いんや、ワシとてグロストと肩を並べた身。
ワシ無くしてこの物語は語れまいて!がはは。
…と、いうことなんだけど…じゃぁ今度はおじいちゃんのお話でもしよっか。
おじいちゃんも昔はグロストのように、暴君だった時期があったんだよね
そうじゃの、前にも話したがの、ワシがここまで穏やかになったきっかけがその時の平和軍の一番偉い奴を殺したその時じゃ。
では何故ワシはそんなことをしたかということじゃが…
……フム、すまんの。ちと思い出してしまったようじゃ。
続きを話すのはお前さんに任せるわい。
おっけー。
おじいちゃん。
あなたにとってはとても辛い話なんだから無理しちゃだめだよ。
タハハ…こりゃまいったの。
Episode 20 Gordos 絶望と怒りの序曲
平和軍本部の一室。
ドラゴンでも入れるように、天井の高さも、扉の大きさもドラゴンサイズ。
しかし、人間や獣人が扉を開ける時、重くて骨が折れる為、なにかしらの魔法で軽く開けられるように施されている。
そんな一室の、ドラゴンサイズの大きな机に大量の書類。
本棚は整理されていて、置物も綺麗に置かれている。
しかしそこはほこりまみれ。
誰かが整理した後一度も手を付けていない。
そんな感じだ。
そんな部屋で書類に追われる、平和軍将軍、兼、軍最高権力者。ゴードス。
その赤き身体に反しない、強力な炎魔法の使い手だ。
しかしそんな彼の力には一つ秘密がある。
それは彼の左目。
赤く燃えるような赤い目に反するように、深い海の色をした青い目がそこにある。
少し前までは無かった力。
この力は水を巧みに操り、迫りくる敵を水圧で潰したり、激流による一撃で敵を圧倒する。
そんな彼の奥底で眠るのは、死ぬまで一生背負い続ける深い悲しみ。
後悔。
大罪。
「…ふう、戦いやカウンセリングが無い時ぐらい休みたいわい。」
ため息をつくゴードス。
肩を回し、ゴキゴキと音を鳴らす。
同じ姿勢だとやはり肩がこる。
「…しかし…」
ふと彼の目に映った1つの写真たて。
これだけはきっちり清掃されてあり、埃1つない。
ゴードスが毎日手入れを欠かしていないようだ。
「頑張らねばならんの。」
どこか寂しい、悲しそうな顔をしてゴードスはその写真を見る。
そこには今よりもずっとずっと若いゴードスと、その隣に住みきった空色の身体の美しいドラゴンが居た。
とても楽しそうで、幸せそうな。
ゴードスが一番大切にしている写真なのだ。
「…やっぱりお前の笑顔を見ると…思い出すのう…何もかもが忘れられん…辛いのう…」
その伝う涙は書類にポトッ、ポトッと落ちた…
戦乱時、誰もが混乱し、誰かが誰かを疑い、そして誰かが誰かを殺したり
そんなことは戦乱時よくあることだ。
それは一般市民だけに及ぶものでは無い。
これは、グロストが生誕する時よりずっと昔。
ゴードスが、現平和軍将軍兼、最高権力者になるまでに起こった
独裁者によって翻弄された悲劇と絶望の話…
そしてこれは、彼が最高権力者となった同時にやってきた穏やかで、大らかな優しい心に眠る深い、深い悲しみと、心の傷の真実を追う物語。
ゴードスは大陸の中央より、やや南の地方で生まれ、間もなく破壊軍の襲撃を受けた。
幼いゴードスを残して、両親は死亡。
まだ歩行もロクに出来ないまま焼野原に放り投げられた。
生きる本能に従い、分からぬままに破壊軍から隠れ、逃げ続けた。
物心がつき始める50歳ほどになるころにはすっかり逃げることに慣れ、使えるようになっていた炎魔法で、いざという時は破壊軍を上手く出し抜いていた。
そんな生活を続けていたゴードスの中にあるのはただ生きるということだけ。
余計な感情も無い、ただの動く人形のような状態だった。
そんな彼は世界の中央から少しだけ北へと逃げた。
そしてある町…そこも、間もなく破壊軍の襲撃を受ける場所。
当時の平和軍の本部があった町…
そこで彼は運命の出会いを果たした。
まともに食料も取れず、飢餓に苦しむ町民。
平和軍に捧げる物資、そして当時の平和軍の立場を利用した横暴は現在の平和軍とはとても比較にならないほどに凄まじい。
食料を巻き上げ、逆らう者は容赦なく処刑。
ストレスの捌け口を町民に行っていた。
そんな町に逃げ込んだゴードスは町の深き場所。
家の無い身寄りの無い人が集まるスラム街に身を寄せた。
しかし彼は人形。
感情も分からず、ただ何も無くじっと過ごすだけで、周りにも色々怪しまれ。
場合によっては破壊軍じゃないのかと疑いをかけられたこともあった。
その度人形の彼はなにも分からず敵として認識し、魔法で殺害した。
そんな彼に手を差し伸べるものは誰も居なかった。
しかし彼にはそんな誰かを頼ろうとする気持ちも無い。
言葉すらまともに扱えない。文字も描けない。
このまま人形のまま過ごすことが当たり前なのだと認識していた。
しかし、そんな彼はこのスラム街で出会う。
ある一人のメスのドラゴンと。
「どうしました?一人ですか?」
白く透き通った身体。
細い目をしていて、青い瞳。白い毛が頭の後ろにしなやかにのびている。
なにより、とても優しい目をしている。
「……」
「言葉、喋れますか?」
「……」
黙ったままのゴードス。
まだ人間で言う5~6歳程度。
そしてメスのドラゴンは恐らく110歳程度。
人間で言う11歳~12歳程度だろう。
「そう、言葉は駄目なのですね。じゃぁ頷いたりして教えてくださいね。」
メスのドラゴンはとても穏やかで丁寧な言葉でゴードスに話しかける。
「…そうですか…お父さんもお母さんも居ないのですね…良かったら私のお家に行きませんか?あまり綺麗な場所ではありませんが…」
「…」
言葉が分からないゴードス。
しかし食事は好都合だ。
本能に従い彼は頷いた。
「分かりました。それでは参りましょう。あなたのお名前は……」
メスのドラゴンはゴードスの身体を見る。
着ている服はボロボロの布だ。
その布の裏には名前が書かれてあった。
「…これ…ですか?」
ゴードスは何も言わないし、頷かない。
「…では、これが違うお方だとしても、お名前をお借りしましょう。私の名前はリリアです。では、行きましょう、ゴードスさん。」
「…?」
何も分からずついていくゴードス。
「さぁどうぞ。」
机の上に並べられたのは、パンが2・3個と、具がほとんど入っていないスープ。
「…ごめんなさい。私もあまり余裕が持てなくて…このぐらいしかおもてなしが出来ません。」
リリアは複雑な表情で、ゴードスに謝罪する。
「…」
ゴードスはそのパンを加え、食べる。
スープも一気に飲み干す。
「…!」
今までに味わったことの無い味がした。
表情の1つも変えなかったゴードスの顔が驚きの表情に変わった。
「…どう…でしょう?」
リリアは尋ねる。
「…」
ゴードスは何度もうなずいた。
よっぽどの美味だったようだ。
「分かります、良かったです。お気に召したようで。」
リリアはニコッと笑ってゴードスの頭を撫でた。
「私も…一人なのです。お父さんもお母さんもついこの前破壊軍に殺されて…なんだか…弟が出来たみたい…」
「…アァ…ア…」
何かを言いたげなゴードス。
リリアの身体に抱き着いて穏やかな表情を見せた。
「…ゴードス、寂しかったのですね。」
ゴードスはリリアに抱かれて眠った。
温もりを感じた。
暖かくて優しい光がゴードスを包み込むようだった。
太陽の匂い。
とても柔らかくて暖かい。
「…ゴードス?」
「ん?なんじゃ?」
「その喋り方…どこで覚えたのですか?」
「いやぁ、最近近所にやってきた東方の出身者がおってな!東方のモンはこういう喋り方をするそうじゃ!」
「…そ、そうですか…」
あれから40年の年月が流れた。
ゴードスは90歳。リリアは150歳。
リリアが時間を賭けて言葉を教え、表情や世の中のこと。
破壊軍のこと。
リリアの知る限りの知識と経験をゴードスに教えた。
その結果、ゴードスは普通の生物と、何一つ変わらないドラゴンへと成長した。
70歳ぐらいのころからリリアと共に働き手を探し、こきつかわれながらも、生計を立て、支え合って2人は暮らした。
何処かで違う国の言葉を覚えてきたらしく、喋り方がとてもまだ子供とは思えない喋り方になってしまったこと以外は、順調に成長を踏んでいた。
「でも不思議です。」
「?何がじゃ?」
「ゴードスを最初に見つけた時はこうやって笑うことも、喋ることも、なにも出来なかったのに。」
「昔の事は覚えとらん…でもリリアの温かい温もりは覚えとる!」
「フフッ、私もゴードスの温かさ。しっかり覚えていますよ。」
「…リリア…その、俺は…お前に言いたいことがあるんじゃ…ん…?」
「…?」
小声で恥ずかしそうに言うゴードスの言葉が掻き消えてしまう。
家が小刻みに揺れているのだ。
カタカタカタと小さな音を鳴らして揺れる食器や棚。
「まさか…!」
「…!」
「きゃっ!?」
「リリア!」
大きく揺れた。
棚の食器が音をたてて割れる。
「破壊軍が攻めてきたぞーーーー!逃げろーーー!!」
「破壊軍が!?」
「リリア!逃げなければ…!」
「ええ…!行きましょう!」
破壊軍の襲来。
破壊軍は南方から突如現れた正体不明の無機生命体。
意志を持たず、ただ目の前の存在を破壊し続ける軍勢だ。
皆が重厚な鎧で覆われており、この当時は人型の破壊軍しか存在していなかった。
重厚な鎧の中には魂のみが存在しており、肉体すらも存在しない。
謎に包まれた存在だ。
すでに世界の南方全てと、中央部の大半を制圧しており、徐々に北へと勢力を広げている。
その破壊軍に立ち向かう平和軍の本部があるこの町も、ついに破壊軍のターゲットとなったのだ。
舞う火の粉。
迫りくる重厚な鎧。
逃げ遅れた市民は灼熱の業火に焼かれ、破壊軍の剣の餌食となった。
平和軍はただ防戦一方。
町が落とされるのは時間の問題だ。
「リリア、掴まれ!」
ゴードスはリリアの手を掴んだ。
そして翼を広げ空を飛んだ。
「ゴードス、あなた魔法を…?」
「ああ、魔法は少しずつ勉強しておるんじゃ!お陰で空を飛ぶぐらい大したこと無いわい!」
ゴードスは元々幼い頃から魔力の量、そしてその適性が非常に優れていた。
リリアに拾われるまでも、炎の魔法で潜り抜けてきたのだから。
「…酷い有り様じゃ…俺たちの…俺たちの家が…燃えてゆく…」
燃えていく家。
40年間を過ごした家が音を立ててあっけなく崩れてゆく。
「…破壊軍…どうしてこんなことを…!」
「分からないわ…破壊軍は存在が謎に包まれている…ゴードス、北へ逃げましょう。」
「あぁ、そうじゃな…」
その瞬間だった。
一本の剣がゴードスの顔のすぐそばを飛んだ。
「!?」
振り返り、下を見ると、沢山の剣をもった重厚な鎧がそこに居た。
「破壊軍!?くっ!」
「きゃっ!?」
剣を投げてくる破壊軍兵士。
「この…!」
ゴードスはリリアを掴んでいる右手はそのままに、左手に火球を創りだした。
その大きさは5mを超えるとても巨大な物。
「これでも…食らえっ!」
ゴードスが放った火球が重厚な鎧を包みこみ、魂を浄化した。
「…しまっ…魔力を使いすぎた…」
「ゴードス!?」
フラッとバランスを崩したゴードスは自身を地面に向け、リリアの衝撃から守りながら、地面に落ちた。
「ゴードス、ゴードス、しっかりしてください!ゴードス!」
ゴードスは魔力を使い切り眠ってしまっていた。
「おい」
「はい」
リリアの後方から声がした。
「…!」
「今の見たな?」
「ええ、しかりと。」
「…あなたたちは平和軍…?」
「そこのドラゴンを渡しなさい。」
「えっ…?」
「良いから渡せ!」
「きゃっ!」
リリアは平和軍兵士にはね飛ばされた。
「…ゴードス…っ…」
「この幼さでこの魔力…こいつは使えるぞ…!我が軍の戦力にしてやる。」
「待って…!」
それを止めるために抗うリリア。
「この女、どうします?」
「…放っておけ……いや、待てよ?」
平和軍兵士はリリアを蹴飛ばし、頭を掴んだ。
「っ…ううっ……」
「……こいつは人質だ。このドラゴンにとっては大事な存在らしいからなぁ…ククク…」
(ゴー……ド……ス……)
幸せの時間
というものはいとも簡単にあっけなく終わってしまった。
リリアに伝えたかったのは
ワシを拾ってくれてありがとう
ということ
そして
大きくなったら
結婚しよう
そう言いたかったのじゃ…
ゴードス90歳
平和軍
入隊
そこにはかつての人形だった時と似ているようで、似ていない。
激しい絶望や憎悪を纏った鋭い眼光をした赤竜が居た…
Episode 20 END




