Episode 19 将軍として
Episode 19 将軍として
「ゴードスさん、俺、最近一緒に戦ってる仲間の気持ちが分からなくなってきたんです。」
「ほう。」
ゴードスはカウンセリング中だった。
「…と言うと?」
「前はなんとなく、仲間のやりたいこととか、そういうのが分かっていたんです。でも最近は…仲間もなんだか冷たくて、暗くて…声もかけづらくなってきて…」
「ふーむ。」
「何か悩みがあるのかって聞いても、うるせぇって言われちゃって…もうだめなのかなって…思ってしまうんです。」
「…そうじゃの、今のままのお前さんでは、出来ることは何もないぞ?」
「ええっ!?じゃぁこのままほっとけってことですか!?」
「そうじゃの。ほっとけ。じゃが、これはお前さんにその仲間とこれからもずっと付き合える自信が無い場合の話じゃ。」
「…どういうことですか…?」
予想外の回答に焦っている兵士。
「では…聞くぞ?お前さん、ウィルは知っておるか?」
「あ、はい…あのグロスト将軍を変えた…」
「そうじゃ。彼は1年間グロストに殴られて、突き放されながらも何度も毎日彼に向き合った。そしてようやくあの2人には誰にも踏み入れることの出来ないほどの深い関係を築くことが出来たのじゃ。」
「…」
「”誰かと本気で分かり合おうとするならば、死ぬ気で向き合わなければならない”と言うことじゃ。お前さんにとってその仲間はそれほどの覚悟を決められるほどに大事な存在か?」
「…はい!あいつとは…ずっと、この世界を平和にしようって誓ってきて…そして、言葉では言い表せないほどに…俺にとっては大事な存在です!」
ゴードスはそれを聴いて微笑み、兵士の頭に手を置いた。
「ならば大丈夫じゃ。向き合ってみぃ。お前さんの想いを伝わるまで、何度も、何度もぶつかるのじゃ。さすればきっと、分かってくれるはずじゃ。」
「はい!ありがとうございました!ゴードス将軍!」
「頑張るのじゃぞ、ま、無理はせんようにな。戦えなくなっては元も子もない。」
「はいっ!失礼します!」
兵士は覚悟を決めたようだ。
出ていく際、誰かに会釈をして帰って行った。
そこに居たことにゴードスは気づいていたらしく。
手招きをする。
「様になっているようだな。」
「まぁの。」
「こんにちは、ゴードスさん。」
グロストとウィルだ。
「よう来たの。今回は何をしに来たのじゃ?」
ゴードスは聞く。
「カウンセリングです。今、お時間良いですか?」
ウィルが聞いた。
ゴードスは微笑み「構わんぞ。ホレ、立ち話もなんじゃ。座ったらええ。」
ウィルとグロストは座り、ゴードスと向き合った。
「で、お前さんたちが来るとは珍しいの」
「俺は別に…」
「まぁまぁ。ゴードスさん。グロストも僕も少し悩んでることがあって…」
「ほーう…」
ニヤリと笑うゴードス。
「何故笑う…」
グロストは嫌そうに言う。
「いや、ウィルはともかくグロストも…のぉ…フフ…」
笑いをこらえるゴードス。
相当珍しいことだ。ゴードスの性格上、まず茶化すだろうと言うことはグロストにも想像出来ていた。
「…帰る。」
グロストは立ち上がる。
「まぁまぁ。」
ウィルはグロストをなだめる。
「ガハハ、良い良い!人は誰だって悩みを持つものじゃ!」
ゴードスは大きく笑った。
「じゃ、まずはウィル。お前さんから話してみぃ。」
「あっ、はい。」
ウィルは愉快な流れから、自分の悩みを思い出したようで、ちょっと下を向いてしまう。
「…これ、多分…僕の憶測でしかないことなので……おかしなこと言うかもしれないけど…!」
ウィルがゴードスの顔を真剣な目で見る。
「…僕が悩んでいるのは…破壊軍のことなんです。」
「…破壊軍?」
グロストもゴードスも少し顔をしかめた。
「破壊軍は意志を持たない、魂だけの存在です。けど…僕はおかしいって思うんです。」
「おかしい…とは?」
掘り下げようとするゴードス。
皆の空気が変わって行く。
「彼らは僕たち生物の原理から大きく外れた存在です。彼らが何処からやってくるのか、何故意志を持たないのか…そして、何故”急に侵攻する場所が変わったのか”…あまりにも謎が多すぎると思いませんか?」
ウィルは聞く。
「確かにのう…破壊軍には謎が多い。」
破壊軍は本当に謎の存在だ。
本来生物は、肉体、精神、魂の3要素が揃って初めて生物なのだ。
どれかが欠損している時点で生物の定義を失うのだ。
「ここからは本格的に想像です。不快だと思ったら言ってください。」
ウィルは語りだした。
「破壊軍は…”亡くなった人々の魂を何らかの手段で抜き取って、誰かか操っている…”と、僕は思うんです。」
「…」
「ワシの予想と同じじゃ。」
「え?」
「ワシもその可能性を疑ったことがある。いや、今も疑っておるよ。」
「…そうだったんですか…」
「だが破壊軍は俺たち生物を根絶やしにしようとしている。やられる前にやらなければならない。」
グロストは言う。
「そう…だけど、なんだか怖いんです…正体のわからない敵と戦って…破壊軍兵士だって元々は誰か生物の魂かもしれない。」
ウィルは恐れていた。
この間のように破壊軍を操る者がいるとしての、侵攻位置の変更なのだとすれば、またあの時のような予想外な行動に出てこられ、また負傷者を多く出してしまうのではないかと。
「…ウィル、お前さんは優しい子じゃのう…しかし…酷な事じゃ。我々は平和軍、平和を取り戻すために戦うのじゃ。分かるな?」
「…分かっています。でも考えずにはいられません。」
「じゃが、お前さんの優しさはよく伝わった。破壊軍の正体については、今後重点的に調査をするように手配をしよう。」
「…ありがとうございます。」
ウィルは微笑んだ。
「すまんの、あまり力になれなんだな。じゃが、お前さんの優しはきっと、周りの人々もよりよく変わって行くじゃろうて。」
「いいえ、こうやって悩みを吐き出すだけで大きく違います。」
「…」
グロストはウィルを見た。
(こいつは本当に優しい奴だ…敵に情けなど…俺はかけられん…)
「さて、グロスト。次はお前さんじゃ。」
今度はグロストの番だ。
「…」
「グロスト?」
グロストは黙ったままだ。
「…グロスト?」
グロストは数秒黙ったままだったが、何かを言おうと決めたような顔をして、ゴードスに言う。
「…将軍として、俺が何をするべきなのかが分からない。」
「…ほう?と、いうと?」
「お前は地獄耳だと思う程に噂を聞きたてるだろう?ならば俺が今、部下共からどう思われているか知っているはずだ。」
「なんじゃ、お前さん気になっておるのか?周りの評判が。」
ゴードスは面白そうにグロストに訊ねる。
なんだか馬鹿にされてるような気分だ。グロストは少しイライラしながら言う。
「その口…塞いだ後、魂ごと焼き殺してやろうか。」
「まぁそうカッカするでない。」
「グロスト落ち着いて…」
グッと拳を堪えるグロスト。
「冗談の通じん奴じゃの。まぁ良い。将軍として成すべき道が見えぬと言うか。」
「そうだ…」
「ま、確かにお前さんは過去にやりすぎた。お前さんを嫌悪している者は今後途絶えることは無いじゃろうて。失った信用はそうやすやすと取り戻せるものでは無い。」
正論だ。
最もな答えだった。
「じゃがの。」
ゴードスは更に口を開く。
「それで良いではないか。」
「…どういう意味だ?」
ゴードスは分からんのか?と困った顔をする。
「グロスト、誰もが皆に慕われているわけでは無いのじゃ、ワシにも、お前さんにも、ウィルにも、他の兵士たちにもじゃ。ワシら生物はの、誰かに恨みや憎しみを抱かれているものじゃ。」
「…つまり、俺を嫌悪している者は放って置け…と言いたいのか?」
「そうではない。まぁ、最後まで聞け。」
ゴードスはグロストの質問を流した。
「その恨みや憎しみも、やすやすと晴れるものでは無い…そんな恨みや憎しみを強く持っていたのは他でもないお前さんじゃ。」
「…」
「しかし、お前さんの中に眠る恨み、憎しみ…昔に比べてどうじゃ?ウィルと出会ってからそれはどうなった?」
「…まだ消えたわけでは無い、俺は破壊軍を殲滅する。その気持ちは変わらない…だが…今はそれと同時に…誰かを守り、戦うことを覚えた。その時だけは憎しみや恨みの感情は弱まる。」
「じゃろうて。つまり、お前さんを嫌悪をしている者たちの心を動かすのじゃ。消すことは出来ずとも、抑えることは出来る。」
「…それは…ウィル、お前も言っていたが…形として示すことで抑えると…そういうことなのか…?」
ウィルは頷いた。
「これはワシの意見じゃ、決めるのはお前さんじゃがの。
“あいつのこと嫌いだ”
と
“あいつのこと嫌いだけど、こういうところは良いよな”
とでは全く嫌悪している強さが違う。」
「…もしかしたら、グロストを嫌悪している人が、グロストの活躍や行動を見て、好きになってくれる人も…居るかもしれないね。」
ウィルがゴードスに言う。
「そうじゃな、そしてお前さんは行動をもうとっくに起こしておるではないか。自覚は無いかの?」
ゴードスはグロストに投げかける。
「俺が……?」
「そうじゃ。お前さんの戦いぶりは時折見させてもらっておる。仲間を守り、そして時には庇い、自分を嫌っても構わないから見ていてほしいと兵士に伝えたではないか。」
「…」
「深く考える必要はないんじゃ。お前さんのするべきこと、そしてしたいこと。それを実践するがええ。」
ゴードスは微笑んだ。
「誰かの優しさは誰かを優しくさせる。ウィルがそれを教えてくれたじゃろう?」
「…」
グロストはウィルを見る。ウィルはグロストに微笑んだ。
「…分かった…俺は俺のすべきことをしよう…礼を言う。」
グロストは立ち上がり、ゴードスの部屋を出た。
「あっ、グロスト!」
ウィルはグロストを追おうとするが、一端ゴードスを見る。
「行ったらええ。ワシの言うべきことは伝えた。」
「…はい!ありがとうございました!」
ウィルは笑顔でゴードスに言い、グロストを追った。
―――
「…ワシの意見が全て正しいわけではない。じゃが、グロストならばきっと、自分なりに悩み、信用を取り戻すことじゃろうな。」
(…あやつは変わっていっておる……これからきっと良き将軍となるじゃろうて………ワシとは違って…な…)
静寂と共に、一人のドラゴンは大きく、ため息をついた。
その彼に浮かぶ赤い左目と青い右目の光は徐々に失われていた・・・
時刻は陽が落ちて間もない晩。
しばらく無言が続いたまま森に戻ってきた2人。
戻ってきても、会話と言う会話がないまま時間が過ぎて行ったのだ。
「…あの…さ。グロスト、何か得られた?結局、形として示していくしかない…って感じだったけど…」
ようやく会話が出た2人。
口を最初に開いたのはやはりウィルだ。
ウィルがグロストに訊ねる。
「……お前とゴードス、揃って同じことを言うのだ…確信には繋がったと思う…」
「…出来るよ、グロストなら。僕、グロストが一生懸命仲間の為に戦ってるの、知ってるから。僕だけじゃないよ、分かっている人もきっと居る。」
「…そうだな……そうだと良いな……それと…だな、ウィル。」
グロストは言いにくそうにウィルに言う。
「?」
ウィルはなんだかいつもと違う声を見せるグロストに首をかしげた。
「…色々…世話になりっぱなしだ…すまない…そして…ありがとう…」
照れくさそうに言うグロスト。
そっぽを向きながらだが、ウィルにはしっかり伝わったようだ。
「…ううん、そんなの良いよ。でも嬉しいな、グロストがお礼を言うなんて、僕初めて聞いちゃった。」
「…」
グロストはそっぽを向いたままだった。
ウィルはそっぽを向いたグロストの口が緩んでいたことを見落とさなかった。
(…初めてみたよ、君の不器用な笑顔。)
ウィルは口には出さないにしても、嬉しくて微笑んだ。
「よーし!僕も頑張らないと!グロスト!頑張ろうね!」
ウィルは気合を入れてグロストに言う。
「ん、あぁ…」
形で示し、人の心を変えてゆくこと。
大らかな心でそれを伝えたゴードスの話もしっかり頭に収め…
そして、グロストがするべき将軍としての道。
悩みながら前に進むグロストは、ウィルの目にはとても輝いていた…
Epidsode 19 END
--------------------------------------
怠惰
なんだあいつは…
あいつが現れてから俺の…俺の意志が…負けている…そんな気がするぜ…
チッ、胸糞悪い。
こんな救いようもない世界で足掻く様なんて…見ていて滑稽すぎて、くだらなすぎるぜ…
はやくこんな世界滅ぼせよ、それがてめぇらのすべきことだよ破壊軍。
--------------------------------------
語り手
…と、いうわけで、グロストはまた新たな問題を抱えながら、ウィルやゴードスさんに力を借りて、変わろうとしていくんだよ。
…おじいちゃん、起きないね。
ふふっ、気持ちよさそうに眠ってる。
おや?君もなんだか眠そうだね。
…オッケー。
んじゃ、少し休憩しようか。
おやすみ、また起きたら続きを話そうね。




