Episode 18 向き合い、示すこと
Episode 18 向き合い、示すこと
グロストの失っていた信用について、ヒントを得る為、ゴードスのカウンセリングを受けることになったグロストとウィル。
それを決意した日の翌日の戦いは昼前に起こった。
破壊軍の侵攻をいつものように食い止める平和軍兵士。
今回の兵士の配置だが、グロストは壁側、ゴードスは海側で固定されているが、他の兵士たちは時折変わることがある。
今回グロストの背に居る兵士たちは、あまり関わりの無い兵士ばかりだった。
嫌な予感がする。
「…破壊軍…現れたか…行くぞ!」
「「オオー!!」」
「続け!」
「「ワアアア!!!」」
グロストはこの時点で確信をした。
声が小さいのだ。
いつもの半分ぐらいの声量。
後方に残っている兵士はそっぽを向いて動こうとしない。
その数は約10人。
「グロストさん!後方が…!」
「構わん!放っておけ!今は戦いに集中するのだ!」
「は、はいっ!」
今は戦いの際中。
後ろの兵士がいかなる態度を見せようが気にしている場合では無い。
グロストの雷は破壊軍兵士たちを叩き潰していく。
討ち漏らした兵士たちをグロストの後方に続いた兵士たちが力を合わせて倒していく。
そして戦いに関するグロストの変化がもう一つ。
「グロストさん!敵前方から遠距離攻撃!来ます!」
「任せろ…!」
グロストはマントを身体の前に広げた。
破壊軍兵士の飛ばす弓矢をマントは防いだ。
「流石です!」
「油断するな、遠距離攻撃は全て我が受け止める!」
「はいっ!」
変化、それはマントだ。
グロストが将軍になった時に託されたマント。
このマントにはある特殊な力が秘められている。
将軍になった時、ゴードスに教えてもらっていたのだ。
グロストは思い返した。
ゴードスとの会話。マントの説明を受けている時のことだ。
(良いか?グロスト。このマントにはある力が備わっていてのう。)
(ある力?)
(そうじゃ、このマントは魔力を使うことで強度等を変化させられるのじゃ。)
(…本当にそんなことが可能なのか…?)
(…フム、まぁ信じられんじゃろうて。じゃが、よく考えてみぃ。ワシはマントをしておるが、どうやって空を飛んでいると思う?)
ゴードスはグロストに質問をした。
(…)
(フム、ではお前さんもそのマントを付けて飛んでみるがいい。)
グロストは翼を動かそうとした。
しかし、マントが翼にひっかかり上手く飛べないのだ。
飛ぶことは、魔力を消費することと、翼があるなら、翼を動かすことが必要だ。
片方でも条件が欠けると飛ぶことは出来ない。
(…ではワシのマントを触ってみるといい。)
グロストはゴードスのマントを触ろうとした。
だが、マントはグロストの手をすり抜けた。
(…これは…!?)
(これは魔力を使い、マントを透明化しておるのじゃ。微々たる魔力で十分なので、常にこうしておくと良いかもしれんな。時にはマントの強度を高め、盾代わりにすることも可能じゃ。戦いで大いに役立つことじゃろうて。)
(…そうか……)
「固まれ…!」(このマントがあれば…守りながらの戦いがより楽になる…!)
ゴードスから教わったマントの活用法を実践していくグロスト。
敵の攻撃を防ぎ、そして叩く。
守って、倒す。
これが今のグロストの攻撃スタイル。
マントの防御、雷の攻撃。
攻撃を防ぐことで相手の攻撃にも隙が生まれる。
そこをグロストの雷や、兵士たちの剣で倒すのだ。
なかなか上手くいっているようだ。
負傷をしている兵士は今のところいない。
しかし戦いにおいて、負傷者が出ないということはまずありえない。
「ぐああっ!」
「倒し漏れか…!?」
後方に向かう破壊軍兵士が2人。
しかし前方にも破壊軍兵士が迫っている。
「お、おい!来たぞ!」
「う、嘘だろおい、おまえ出ろよ」
「ば、馬鹿死にたくない!」
「うわあっ!」
「グロストの奴討ち漏らしやがった!」
「くそっ!だからあいつは!」
「あいつのせいで俺たち死ぬんだ!」
後方兵士たちは慌てている。
グロストのことを嫌悪しているからか、グロストの悪口を飛ばしている。
「グロストさん!後方が…!」
「分かっている!しかし…!」
グロストは破壊軍兵士を倒しながら言う。
「グロストさん、ここは我々が食い止めます!だから後方を!」
「…しかし…!」
前方の破壊軍兵士の数が多い。
誰か犠牲者が出るかもしれない。
グロストは躊躇った。
迷っていた。
「行ってください!グロストさん!我々を信じて!」
「……クッ…!」
グロストは攻撃を止め、後ろを向いた。
「…信じて良いのだな…?」
グロストは確認を取る。
「ええ、あなたの助けを待っています、早く!」
「…分かった…すぐに戻る!」
グロストはマントを透明化し、空を飛行した。
グライダーのように飛ぶそのスピードはあまりにも速く、すぐに後方兵士たちの前まで飛んで移動した。
「!?」
「グロスト!?」
「下がれぇ!!」
「え、ええ!?」
咆哮の如く叫ぶグロスト。
驚いた兵士たちは後ろへ後退した。
「オオオオオオオオオオオオ!!!」
破壊軍2体の持つ剣の斬撃を受け、鮮血が舞い散る中、強く破壊軍を睨みつけるグロスト。
「この…!」
血を舞い散らせながら破壊軍兵士2体を両手でわしづかみにして地面に叩き付ける。
「あ、ああ…」
「ひっ!」
後ろに下がった兵士たちは叩き付けた轟音に驚いて肩をビクッと上げた。
「我が軍の兵士には…指一本触れさせん!」
雷を纏ったその両手拳は2体の破壊軍兵士の鎧を貫いた。
ピクリとも動かなくなった破壊軍。魂も消えてしまったようだ。
「…あ、あの…」
グロストは振り向き、後ろに居た兵士たちを見つめる。
「す、すみま……あの…」
おどおどとする兵士たち。
殴られる、殺される。誰もがそう思った。
「……無事か?」
「えっ?」
「あの…」
「無事かと聞いている。」
「は、はいっ!」
「あ、あぁ…」
グロストは安堵の表情を浮かべた。
「ならば良い。」
グロストはそれだけ言い、再び戦の目をした。
前方を任せた兵士たちを助けるために前線に飛んだ。
風圧で顔を覆う後方に居た兵士たち。
「…な、なんなんだ…?」
「グロストのあんな顔…俺初めて見た…」
「待たせた!」
グロストはすぐに前線に戻った。
「すみません!負傷者が…!」
「すまない…!すぐに後方支援隊を呼ぶのだ!ここは我に任せよ。」
「は、はいっ!」
前線の兵士たちは負傷した兵士を庇いながら応戦。
数人の兵士が後方支援隊に負傷者を伝えるために後方に下がる。
「おーーい!後方支援隊の要請を頼むー!」
前方の兵士が後方に向かいながら、後方で唖然としている兵士たちに伝える。
しかし足がすくんでいるようで、動けないようだ。それも全員だ。
約10人も居る兵士たちが一人も、動けないのだ。
「ど、どうしたんだ!何故動かない!?」
「だ、だってよ…足が…動かなくて…!」
「なんだと!?くっ、なら俺が行くしか!」
後方兵士が動けなくなってしまったので、呼びに来た前線の兵士が後方支援隊を呼ぶことになった。
「グロストさん!すみません!」
前線兵士はグロストに謝りの言葉を言い、後方支援隊の居る場所へと走る。
「クッ、俺一人では…!」
「ごめんなさい…私のせいで…!」
「気にするな…お前は我が守る…!」
負傷者をかばいながら戦うグロスト。
あまり強力な一撃を叩きこめずにいるグロストは苦戦を強いられた。
「グッ…!」
破壊軍の強烈な一撃を受け、血が舞いながらもひたすら受け、そして流し、弱めの技で相手の活動を抑えることしか今のグロストには出来なかった。
今まで周りを気にせずに戦ってきた分、周りを気配るようになると、それだけ出せる技も限られる上に、隙も生まれやすくなる。
本来の力を出せないだけでなく、今出せる力までも抑制しなくてはならない。
グロストの戦闘能力は大幅に弱体化した状態での戦いになっているのだ。
このままだとグロスト自身もやられてしまう。
力のコントロールが不十分なので、誰かを巻き込んでしまうかもしれない。
そうなればまた信用を失ってしまう。
グロストには迷いが常に脳裏をよぎっていた。
その心の乱れはやがて破壊軍のまき散らす黒い灰を介して、影響を与えかねんとしていた。
「…我は…我の力では負傷した兵士一人も守れぬというのか!!」
放つ雷の威力が上がってきている。
雷の色も白色から黒色へ。
グロストの負のエネルギーに呼応するかのように舞い散る黒い灰。
「グオオッ!」
雷の威力がどんどん上がってきている。
グロストの身体を伝う汗。
どんどん鋭く、野獣のような目になっていく。
「グロストさん…!」
負傷した兵士がグロストの名を呼ぶ。
「…!」
グロストを待っていた黒い灰は拡散した。
目も普段通りの目に戻った。
「俺の事は気にしないで…!全力でやってください!!」
「しかし、お前を巻き込んでしまうかもしれんのだぞ…!」
グロストは躊躇いを見せる。
「……信じてます!」
「…!」
負傷した兵士の言葉。
身体が震えている。しかし覚悟の目をしている。
グロストの心は付き動かされた。
「ハアアッ!!」
身体を纏う黒い雷と混ざる白い雷。
「オオオオオオ!!」
両腕をまとう光闇の雷を叩きこむグロスト。
衝撃波で辺り一面の黒い灰と破壊軍の亡骸、負傷した兵士までもが宙を舞った。
「わああっ!?」
「固まれ…!」
グロストの後方に落ちてきた兵士を固めたマントで受け止め、クッションにした。
「…た、助かった…」
負傷した兵士が前を見ると、先程まで戦っていた破壊軍兵士の鎧が無残に砕かれ、ピクリとも動かなくなっていた。
周りに破壊軍は居ない。
「勝った…みたい…ですね。」
「あぁ…お前を巻き込んでしまったことを謝罪する。すまなかった。」
「いえ、あなたが本気を出さなければ俺はやられていました。本当にありがとうございまいた。」
兵士はグロストにしっかり、深々と礼をした。
「…我は特別なことはしていない、顔をあげてくれ。」
それから数分後、後方支援隊の兵士たちがやってきて、負傷した兵士は無事に治療を受けることが出来た。
「……」
「…」
後方兵士たちはようやく動けるようになっていた。
ため息をつき、安心する約10人の兵士たち。
その眼前にグロストが立った。
「…すんませんでした」
動けなかったことに素直に謝る兵士。
まだそっぽを向いたままの兵士もいる。
守ってもらっておきながら…という態度ではあるが、それとは別問題だと思っているのだろう。
「…我がまだ憎いだろう。それも良い。我はそれほどまでに酷いことをしたのだ。恨まれても当然の事…」
グロストは自分の立場を考えた。今までやってきたこと。恨みを買われても仕方が無い状況。
しっかり心に刻みつけている。
「許さなくても良い、ずっと憎んでいても構わぬ…だが…我は変わる。そう誓った。故に…見ていてほしい…目を背けないで欲しい。」
グロストは目を閉じた。
そしてしばらくして再び目を開け…
「すまなかった。」
グロストは謝罪し、その場を去った。
「…なんだよ、あれ。」
「なんか…本気だよね…あれ…」
「でもなぁ…」
まだまだ煮え切らない兵士たち。
「どうじゃ?グロストは変わったじゃろう?まだまだ不器用じゃがのう。」
「ゴ、ゴードス将軍!?」
「いつの間に…!?」
兵士達の傍に降り立つゴードス。
海側の戦闘が終わり、壁側のこの場所を見に来たのだ。
「少々見物させてもらったがの、お前さんたちはグロストが憎かろう。」
ゴードスは優しく、おだやかな顔をしている。
「…ええ、憎いですよ…でも、あんな戦い方見せられたら…」
「まるで別人のようです。」
「…必死…そんな感じ。」
「そうじゃの、あやつは不器用なりに変わろうとしている。それだけは分かってやって欲しいのう。そしてグロストは、口先だけでは無い、形として示そうとしている。お前さんたちのようにあやつを憎む者にも向き合い、示そうとしておる。」
「…」
兵士たちは何も言えずにいる。
「見守ってやってくれんかの。そしてあやつが間違った時、正してやるのは他ならぬお前さんたち兵士やワシと言った…“仲間”なのじゃぞ。」
ゴードスは微笑んで、兵士たちの頭をそれぞれポンと叩いた。
「また悩んだらワシの所に来るとええ。見た所お前さんたちはまだワシの元に来たことが無さそうじゃからのう。」
ゴードスは本部に戻ろうとするとき…
「まぁ来ん方がええ!悩みは無い方が良いに決まっておるからの!ガハハ!」
そう笑いながら去っていった。
嵐のように現れ去って行ったゴードスに何とも言えない兵士たちだった。
グロストの今日の戦いの出来事はさっそく軍内部に広まった。
「…フウ。」
時間は昼。
ウィルは後方支援隊の仕事を終え、いつもとは違う場所に居た。
ここはグロストの居る森から少し離れた丘の上。
その先に広がる景色は壁で遮断されて見えないが、空はどこまでも綺麗だった。
ウィルは何か考えたりするときはここに行くようにしている。
少し思いつめた時はここに来て心の整理をしたり、空を見てリラックスするのだ。
ここはウィルが最近見つけた秘密の場所…のようなものだ。
「…ウィル?」
「…あっ。」
空を見ていたウィルに話しかけるはグロスト。
「どうしたの?グロスト。」
「お前こそどうした、いつもならすぐに俺の元に来るだろう。それにこの後カウンセリングに向かうのだろう?」
「…あはは、そうだね…」
「……ここはお前の場所か?」
「え?」
「俺の場所があの森であるように、ここがお前の落ち着ける場所なのか?」
グロストは訊ねる。
「そうだね、そんなところ。グロストの居るあの森も落ち着くけど、ここも同じなんだ。」
風を感じながら答えるウィル。
「…何かあったのか?」
なんとなくだが、元気が無いように見えたようだ。
「……大したことじゃないんだけど…」
「話せ、お前は“俺ではない”。」
「…ありがと。じゃ、せっかくだしゴードスさんも一緒に。僕もカウンセリング受けようと思うんだ。」
やはり何かあったのか。グロストは考えた。
戦いによるストレスか。それとも別の要因か。
ゴードスの元にいけば分かること。
グロストとウィルはゴードスの居る本部へと向かうのだった…
Episode 18 END




