Episode 17 失った信用
グロストは将軍となった。
グロストの心に変化が現れ、誰かに見せる忘れていた優しさ。
そして、自分の持つ力を少しでも制御するためのヒントを見つけるために彼は今までとは違う動きを見せていた。
まずは戦いだ。
将軍になったその日の戦いから彼の戦いは大きく変わっていた。
「くっ、このままではマズイ!」
兵士の一人が破壊軍に押され、危機が迫っている時。
「下がれ!」
「!?」
その声で後ろへ一歩身を引いた瞬間、目の前に居た破壊軍は鎧も魂も消え去った。
「グ、グロストさん…!」
「無理をするな、お前に出来ることをしろ。」
「は、はい!」
グロストは今、使える力の範囲を超えないと厳守していた。
今使える力の範囲を超えてしまうと、制御が不可能となり、暴走してしまう。
それはつまり、将軍になる前と同じ暴君の頃と何も変わらない状況に陥ってしまう。
「まだ戦える者は続け!残りはわずかだ!」
「「オオオー!!」」
壁側を守っていた兵士たちのモチベーションはグロストが将軍になる前よりも大きく上昇していた。
グロストを支持し、共に戦う兵士が増えたからだ。
「ハッ!」
グロストを襲い来る兵士たちを薙ぎ払い、その先に居る兵士たちがトドメを刺した。
破壊軍を倒す方法はただ一つ。
その鎧に包まれた魂を倒すこと。
幸いまだ壁側には人型と、人型に翼が生えた破壊軍しか姿を見せていない。
海側ではドラゴン型や水中を得意とする人型の破壊軍兵士が時折現れるが、こちらはゴードスの戦場だ。
炎と水を操るゴードスの力で、破壊軍の戦闘はあっけなく終わってしまうこともある。
戦場の中で、効果範囲の広い技は非常に便利だが、周りを巻き込まないという高度な技術を要求される。
しかしゴードスは自分の力をまるで自分の手足のように使いこなしている。
グロストはまだ力の制御範囲でも、広範囲の技は周りを巻き込んでしまう。
グロストはなるべく周りを巻き込まないように気を配る。
しかしまだまだ不安定だ。慣れていないこともあり、時折わずかな雷が平和軍兵士に当たってしまうことがちらほらとあった。
その時には「すまない」ときちんと詫びを入れていることもあり、それによる指示率の低下はさほど多くは無かった。
ここまでは戦いに関する変化だ。
そして、更なる変化は紛れもなく他の兵士たちとのコミュニケーションだ。
将軍になってから数日はいつものように戦いが済んだら森に籠って修行をしたり、ウィルと会話をしていた。
しかし1週間もすれば、まったく人と絡むことが無かった彼が、将軍になったことで、戦いが終わった後の食事や酒を挟む場に席を置くことが増えていたのだ。
しかし、本人は進んでそこに参加したわけでは無いようだ。
「いいから行きましょうよ。」
「いや、我は……」
「ほらほら。」
「お、おい!」
ノリの良い兵士たちに勧誘されてそのまま引きずられてしまう
というパターンのようだ。
その場には必ずと言っていいほどウィルが同行している。
ウィルの年齢では酒は交わせないが、場の雰囲気でグロストが押されないようにしっかりとフォローした。
グロストは周りの平和軍兵士たちに対する信用性を少しずつ上げてきているようだ。
しかし、それはもちろん全員では無い。
グロストが将軍に任命された儀で伝えた覚悟。
そこから湧き上がる歓声が表から見えた事であるなら、これからグロストが向き合っていくのは、その隙間隙間に隠れている闇だ。
「グロストさん、酒!イっときます!?」
酒に酔う兵士に渡される酒。
大きな樽ジョッキにたっぷりと入っている。
「……これは何だ?」
「知らないのですか!?では飲んでみてください、きっといい気分になれることでしょう。」
「…フム……」
グロストはその渡された酒をクイッと口に入れた。
「…!!」
「おおーいいですねぇー」
「いいぞいいぞー!」
「……ヒック…」
「え?」
「ウーーーイ…ヒッ…」
奇妙な声をあげるグロスト。
顔が真っ赤だ。
「あっ、もしかして…グロスト、お酒弱いんじゃ…」
ウィルが言う。
「もっと…ヒッ…ク…持って来い…!」
完全に酔った目をしたまま、がぶがぶと全て飲みつくしたグロストはジョッキを薦めた兵士に突き付けて言う。
「ちょ、えっ、グロストさん?」
「持って来い…!我の…言うことが聞けんのかあああああああああああああああ!!!」
「さ…」
「さ…」
「「「酒癖最悪だーーーー!?」」」
グロストの雷が飲んでいた会場に何発か落ちたがけが人はいなかった様子。
“グロストに酒を飲ませるのは禁止”という暗黙の了解が出来上がったのはその翌日だったという。
「…う…何なのだ…あの飲み物は…ッ…」
気分が悪そうだ。
弱いくせに飲んだくれたせいだろう。
ウィルとも別れ、森に戻ろうとするグロスト。
この日の夜は弱い風が吹き、髪が軽く靡く程度で、月明かりが明るい日だった。
「…誰か…居るな…」
「……グロスト…」
そこにいたのは平和軍兵士。
人間のようだ。
「…どうした、こんな時間に……我に何か用か…?」
グロストは意識をなんとか保ちながら兵士に問う。
すると兵士はグロストの前に立った。
「……俺は…俺は……あんたのこと、認めない。」
「…何…?」
「認めないって言ったんだ!」
兵士は大声で言う。
「…!」
グロストは一気に酔いが醒める程驚いた。
「俺の…俺の親友はお前の攻撃に巻き込まれて死んだんだ!子供のころから…一緒に平和を取り戻して、一緒にその世界を見ようって誓ったのに!そりゃ破壊軍に殺されたのなら納得だ!だが……どうして俺の親友は…どうして味方であるはずのお前に殺されたんだ!」
「…それは…」
グロストは何も言えない。
自分が殺してきた者の名も顔も、覚えていない。
「俺のようにお前を嫌っている奴なんてたくさんいる!俺だって!他の奴らだってお前が将軍なんて絶対に認めない!絶対にだ!」
人間の兵士はグロストを強く睨みつけた。
「……」
グロストは何も言えずに手を震わせる。
「殺すか?俺を。殺すなら殺せ。あいつが居ない世界なんて俺には必要ないんだからな!」
「……すまない…」
「謝ってもあいつは戻って…戻ってこないんだ!!くそおっ!!」
人間の兵士は完全に感情的になっている。
「何で…何でお前みたいな奴が生きてて…あいつが死ななきゃならなかったんだ…!」
兵士はそう言い、グロストの足を蹴り、去っていった。
人間の蹴りだ。痛みなど何も感じはしない。
だが、グロストの心には強い痛みが残ってしまったようだ。
「……すまない…」
グロストは誰も居ないその先を見つめて呟いた。
平和軍の闇はまだまだ、消えることは無いようだ。
いや、生物が居る限り、闇は消えない…
皆がそれぞれ闇を抱えている。
それが生物というものだ。
「まったく…上の人ホント離してくれないんだから…グロスト。居る?」
ウィルが森の奥にやって来た。
辺りは静かだ。
風の音で木々がざわざわと靡く音しかしない。
グロストは居ないのだろうか、ウィルは辺りを見渡した。
「あっ、グロスト。」
ウィルはグロストを発見。
傍に駆け寄った。
「…グロスト?大丈夫?まだ酔ってるのかな…」
グロストは下を向いて座っていた。
「もしかしてまた発作!?ねぇグロスト!グロスト!」
ウィルはグロストを揺らす。
もちろんウィルよりもはるかに重いグロストを動かすことは出来ないが、ウィルはグロストを揺らそうとしながら呼びかける。
「…大丈夫だ、発作では無い。」
グロストは下を向いたまま言う。
「…大丈夫?」
「ああ…」
「何かあったの?」
「…少しな……」
グロストは下を向くのを止めてウィルを見た。
「…話してくれる?」
「…あぁ。」
グロストの変わった部分はここにも見られた。
前までのグロストは何かがあっても誰にも相談することは無かった。
だがグロストは将軍になってから、ウィルだけには相談をするようになった。
ゴードスのカウンセリングにはまだ一度も出向いていないようだ。何かしらのプライドが邪魔しているのだろう。
グロストは先程起こった出来事をウィルに話した。
「…そっか…そうだよね…やっぱりグロストを受け入れてくれない人…居るよね。あれだけ盛り上がっていたとしても、誰かを殺された恨みって…絶対に消えるものじゃないもんね…」
「…俺は取り返しのつかないことをした…それは理解している…だが…」
グロストの戦い方は今まで多くの犠牲者を出した。
そこで大切な友人や仲間を失った人は多いだろう。
残された人はいかに悲しみ、辛い思いをしたか。
グロストは人の心の痛みを知り、心を痛めた。
「…俺は…どうすれば良いのか分からない。」
グロストは苦悩した。
失った信用を取り戻すことなど、早々に出来るものでは無い。
「…これは僕なりの考えだけど…」
ウィルは考えて、口を開いた。
「彼らには何の償いも出来ない。だからこそ、形で示すしかないと思うんだ。」
「形で示す…」
「うん、これからのグロストの将軍としての資質を試されてるんだと思う。」
「…失った信用は形で返せ…ということか…」
「それしか無いと思う。でもね、何回も言うけど、僕は君一人を背負わせやしないからね。」
ウィルは笑ってグロストに言う。
「…すまん…」
「謝らないで。僕はグロストの為なら、どんなことだってする。たとえグロストが拒んでも。」
「…ウィル…」
ウィルはグロストを一人にしないと誓っている。
まだ軍の仲間と触れ合ったばかりのグロストの心はまだまだ不安でいっぱいだろう。
将軍として何が出来るか。
自分が変わるためには何をしなくてはならないか。
そして、自分がもっと強くなる為にはどうすればいいか。
まだまだ課題が山積みだ。
ウィルはそれを少しでも取り除ける力になれればいいなと思っている。
「ねぇグロスト、明日、戦いの合間があれば…だけど、ゴードスさんのところに行ってみない?」
「ゴードス…?カウンセリングとやらか?」
「うん、ゴードスさんもきっと力になってくれると思うんだ。」
「…ム…仕方ない…そうするとしよう。」
「決まりだね。」
嬉しそうなウィル。
「じゃ、僕戻るね。」
「あぁ。」
ウィルは森を出ようとする直前に言う。
「もうグロストは一人じゃないから。グロストを許し、共に戦おうとしてくれてる人も居るってこと、忘れないで。」
ウィルは笑顔を見せ、森を出た。
「……!」
ドクンと鳴る胸の鼓動。
バチバチと雷が身体から微量放出される。
「ッ…!」
ズシンと音を立てて跪くグロスト。
「オ…オオッ……」
急に起こる発作。
グロストの中に眠る光と闇の力の影響だ。
原因不明の激しい痛みと、身体から小さな雷がバチバチと音を立てて放たれる。
これはウィルがグロストと交流を始めたあたりから起こった現象であるが、何故急にこのような事が起こってしまうのか、まるで見当がつかない。
「ウガッ…アアア…!!」
時折身体が言うことを聞かなくなり、暴走を引き起こしてしまうこともある。
その暴走はすぐに静まる為、木が数本折れたり焦げたりするだけで済んでいる。
身体から流れる多量の汗がその苦しさを物語っている。
「…ハァ…ハァ…」
5分程度で収まる発作。
「…今で…良かったな……」
グロストは自分の発作でウィルを心配させまいと気を遣っている。
ウィルが居る時に発作が現れた時は、顔を崩したりしないように堪えているのだ。
もちろんこれは大きな負担がかかるので、ウィルが居ない時は我慢せずにいる。
「……俺は…本当に将軍など…務まるのか…?」
グロストの悩みはまだ解決しない。
明日、ウィルとゴードスのカウンセリングに向かうことになっているグロストだが、そこから何か得られるのか。
それを考えながらグロストは眠りについた。
Episode 17 END




