Episode 15 選択
Episode 15 選択
「来たか。グロスト。」
「今回は何だ、俺は忙しいんだ。」
ウィルとグロストが少しだけ和解をしたその数日後。
グロストは将軍ゴードスに呼ばれた。
座りながら話すゴードス。
苛々としながら嫌そうな顔でゴードスを見るグロスト。
またいつもおせっかいか、いい加減にしろ。
そう思うグロストだが…
「お前さん、今他の平和軍兵士がお前さんの事をどう思っているか知っているか?」
「…フン、そんなもの決まっているだろう。俺がしてきたことは誰も知っている。」
言わずとも、グロストがしてきたこと。それが答えだ。
敵味方を問わない、巻き込んだ戦いを繰り広げ、多くの味方兵士を殺してきた。
軍内でも味方を殺したことがる。
そんな彼が受ける評判など、聞かずとも分かること。
こいつは何を当たり前のことを…
グロストはそう思う。
「そうじゃろうな、こないだまではの。」
「どういうことだ…?」
ゴードスは立ち上がった。
「お前さんが後方支援隊を救ったことを称賛しておる兵士がおるのじゃ。」
「…だからどうした?」
「どうしたもなかろう。お前さんの働きで誰かが感謝しておるのじゃぞ。」
「…そんなことで呼んだのか。」
「お前さんの心に聞いてみぃ。お前さんがウィルを救ったこと、お前さんが後方支援隊を救ったこと。それは全て偽りか?我々生き物の本能でもあるまい。」
「…分からない。そんなことを考えていると気が狂う。」
グロストは何故あんなことをしたのか今でも分かっていない。
毎日ウィルと話をしてもまだ答えは見えない。
これが自分のしたいことなのか。それが分かれば全て理解できる。
しかし
「本当の俺が何処にあるか分からない。何が自分で、何が偽りの自分なのか。それすらも分からん。」
「そうじゃな。それはウィルと話していればいつか分かるかもしれん。そしてウィルだけでは無い。」
ゴードスは書類をグロストに手渡す。
「…なんだこれは」
「せっかくの機会じゃ。お前さんはウィルと出会い、少しだけ変わった。ここまで来たらとことん変わってもらうぞ。」
「……前にも言ったが、もう一度言わないと分からないか?お断りだ。」
グロストは書類を見て言う。
「そう言うと思った。だからワシはこう言う。これを持ち帰れ、そしてゆっくり考えるが良い。燃やしたり捨てたりするな。良いか?絶対にじゃぞ。」
ゴードスは念押しした。
「…フン。答えは変わらん。もう行くぞ。」
グロストは紙を雑に折り、手で持ちながら扉を開き、出て行った。
「…良い返事を返してもらえるようにしっかりな。ウィル。」
ゴードスの渡した書類のコピーを読みながらゴードスは座った。
そこに描かれていた書類にはこう書かれてあった…
“平和軍、2人目の将軍について”
「グロスト。」
「…早いぞ来るのが。」
「だって早く会いたかったから。」
「…まぁ良い。」
森にはもうウィルが居た。
グロストがゴードスに呼ばれた時には居なかったようなので、戻ってくる間に来たのだろう。
そして居なかったから待っていたと、こんなところだろう。
「ゴードスさんに呼ばれていたんでしょ?何て言われたの?」
「お前には関係ない。」
「まーたそんなこと言う。」
頬を膨らませてぶーぶー言うウィル。
なんだか友達感覚な喋り方になっているが、グロスト自身は好きにしろとだけ言うので、ウィルは下手に言葉を作ることをせずにいる。
それもまた、グロストと親しくなるために、ウィルの出来ることだ。
「…読みたければ勝手に読め。」
グロストは紙をくしゃっと丸めてウィルに投げた。
「?」
ウィルは紙を広げた。
「…グロスト、どう返事したの?」
ウィルが聞く。
「断った。考えろと言われたが覆ることは無い。」
グロストは即答した。
本当になるつもりは無いようだ。
グロストのことを称賛している兵士は居る。
しかし、その数は非常に少ない。1割にも満たないだろう。
多くの兵士はまだグロストを人殺しだ、恐ろしい奴だ、近づくと殺される
等、多くの悪いうわさが消えないままだ。
「グロストが将軍かぁ…どうなんだろう……」
「その話は終わりだ。俺は将軍になどならん。」
将軍。
それは兵士を率いて、戦い部下を守り、仲間の為に戦わねばならない役割。
グロストの今のスタイルとは真逆のことをしなくてはならないのだ。
「…ねぇグロスト。」
「……」
「気を悪くするかもしれないけどさ…僕は君になら出来るって思うんだ。」
「…面白くない冗談だ。」
「そうかも。でも僕はそう思うんだ。君の中にある優しさを僕は知っている。あれがきっと本当のグロストなんだって思うんだ。」
ウィルは笑顔で言う。
「…俺にも自分が分からないのにお前には分かるというのか。」
「全部知ってるわけじゃないよ。でもね、自分のことって、他の人にしか分からないことっていうのもあると思うんだ。」
「他の人にしか…分からないこと……」
自分の知らない自分を誰かは知っている。
ウィルはグロストの知らない部分を知っている。
そういうことになる。グロストには理解しがたい話だった。
自分は自分でしかない。他の誰かが理解できるものでは無い。
そういう考えだからだ。
「グロスト、君の憎しみとか悲しみとか、そういうのも君の姿かもしれない。けどあの時僕にしてくれた優しさもまた、君の姿だと思う。」
ウィルの言葉は一つひとつが何か刺さるものがある。
グロストの心はよく揺らぐ。
前はそれに腹を立てていた。
しかしいつしかそれは消えようとしていた。
グロストの中でウィルに対しての心が開き始めているからなのかもしれない
「もちろんそれを決めるのはグロストだから。僕はこれ以上は何も言わないよ。」
「…」
「ごめんね、気分悪くさせたかな…」
ウィルは申し訳なさそうにグロストに言う。
「…いや、いい…いつ戦いになるか分からん…今日はもう帰れ。」
「うん、またね。」
ウィルをひとまず帰したグロスト。
「…ッ……」
いつもの発作だ。
「グ……ッ…」
(力は増している…だがこの痛みは治まらない…これは一体…なんだというのだ…!)
グロストの力は増していた。
力も今は全体の6割を使えるようになっていた。
だが、ウィルと出会った辺りから起こっている激痛発作は未だに続いている。
ウィルに見られると面倒だと思っているグロストは、ウィルが居なくなるまで無理矢理力を抑え込んでる。
「…オオオッ……!」
激しく呼応する心臓の音。
流れる多量の汗。
バチバチと音を立てて弾ける小さな雷。
「ハッ…ハッ…ハッ…」
荒い呼吸に、激しい痛みがグロストを襲う。
それは数十分すれば収まる現象ではあるが、1日に2度ぐらいは起こる現象だ。
原因が分からない以上、どうしようもないし、どうにもならない。
「…この痛みも……ウィル…あいつが関わっているのか…?」
グロストはウィルのことを考えた。
ウィルが来て、力が増して、発作が現れた。
(力が増すこと…それがこの発作の意味なのか…)
痛みと、力。
どちらを取るか。
しかしグロストには天秤に乗っける意味もない。
答えはもちろん
「…力が増すための作用であるのなら…この程度造作もない…!」
グロストの復讐心に比べたら痛みなど。
深い憎しみは消えることは無い…
「……本当の…俺…」
グロストはウィルの言うことを気にした。
ウィルを救ったこと。
後方支援隊を助けた事。
これらのことは、グロストが本能的に行ったことだ。
しかしグロストは今まで憎しみを背負い、誰かを救うことなどしなかった。
それがウィルの登場で全てが変わってきたのだ。
いや…これは…
「これもまた…俺のすべきことなのか…?憎しみだけでは…駄目だというのか…?」
今までの自分を覆すこと。
それは本人にとっても大きな決断だ。
すぐに判断は出来なかった。
カーン!カーン!
鐘の音が鳴る
破壊軍の侵攻だ。
「来たか破壊軍め…!」
グロストはまだ少しの激痛を抱えながら戦場へと赴いた。
破壊軍の侵攻ルートはあの日から後方支援隊を狙うルートに固定された。
侵入しようとする場所が分かれば足止めできる。
グロストの戦闘している場所も変更され、新たなエリアでの討伐が始まっていた。
「ウオオッ!」
咆哮と共に繰り出される光闇の雷撃は周囲を焼き尽くす。
「ハッ!」
迫り来る破壊軍を叩き潰していく。
そんなグロストだが、戦い方にもわずかな変化が。
「わああっ!」
破壊軍に殺されそうな兵士が居たならば、グロストはその破壊軍兵士を焼き殺した。
「そこで腰を抜かしていては邪魔だ。お前も殺すぞ。」
「は、はいいいっ!!」
すぐに殺そうとしないグロスト
今までならば破壊軍諸共消し去っていたはずだ。
ここしばらくで、グロストによって殺された平和軍兵士の数が激減したのだ。
「………」
戦いが終わるころには、グロストの身体は生傷だらけ。
グロストは守りに徹することが増えたのだ。
それも、その時は周りに平和軍兵士が居る時だけだ。
(…クソッ…意味が分からん…俺は何故あんな雑魚共を庇う…?)
グロストは本能で平和軍兵士を極力殺さなくなっていた。
そして、防御を覚えていた。
「グロストさん」
戦いが終わり、生傷を抱えて森に入ろうとするグロスト。
しかし入る前に聞こえた聞き覚えの無い声。
「…」
そこに居たのは平和軍兵士。前衛兵士のサイノだ。
「私はあの時尻餅をついていた兵士です…傷…そのままで良いのですか?」
この兵士は戦いの時、グロストに殺されそうになっている所を救ってもらっていた。
サイノが聞く。
サイノにも変化があったようだ。
普段は優しいが、グロストの話になると明らかな敵対意識を持っていた彼であったが、ここ最近のグロストの行動に少し心の変化があったようだ。
「貴様には関係ない。俺のことなど放っておけ。去れ。」
グロストは去るように言う。
「わ…私は少々回復魔法を持っています。治療をさせていただけないでしょうか」
食い下がるサイノ。
「良いと言っているだろう…!」
「私は…あなたに命を救ってもらった。いくらあなたが暴君であろうとも、恩を返したい。」
「…好きにしろ…」
(面倒な奴らばかりだ…)
どうにも最近やたらと食い下がる奴が多い。
グロストはそれを拒否するが、後々食い下がってきたら面倒なので、好きにしろと言うようにしているようだ。
「グロストさん、私を許してください…」
サイノは回復魔法をグロストの身体に当てて言う。
「…?」
「あなたのことを最低だと思っていた。しかし…例えそれが咄嗟のことであったとしても私はあなたに助けてもらった命、無駄にしません。あなたの憎しみに支配されたその心とはもう一つ、その厳しさの中にある優しさを知りました。」
「ありがとう」
治療を終えたサイノはお辞儀をして元の持ち場にもどって行った。
「………」
グロストは何も言えなかった。
皆が言う、自分の優しさというものが蘇ってきている。
とっくに捨てたことなのに、今になって。
しかしグロストの中では確かに響いていた。
兵士たち、サイノの”ありがとう”
ウィルの”ありがとう”
「…これもまた…俺のすべきことなのか……分からない……あんたならどう言う…?母さん…」
グロストの中の忘れていた感情が甦っていく。
…何かが問いかけてくれた気がした。
「…答えを出そう…」
グロストは森に入らず、癒えた傷口を手に当てながら、ゴードスが居る本部に足を向かせた。
今、扉を開く。
「…グロストか、結論が出たようじゃのう、そんな顔をしておる。」
「あぁ…俺は…」
知らなければならない
この複雑な気持ちも
この本能的に起こる優しさも
自分のあるべき姿を知るために
知らなければ
ならない
Episode 15 END




