Episode 13 渦巻く胸騒ぎ
~語り手と語り手の竜~
さぁ、ここから段々と盛り上がって行くことになるよ。
グロストはウィルと交流し、更なる力を得たみたいだ。
そしてグロストが感じた怪しい雲行き…
それは、悲惨な出来事になることになる。
だけど、グロストはこの出来事をきっかけに更に変わり、そしてその分だけ悩むことになる。
しかしグロストはこの出来事が無ければこれ以上先には行かなかったじゃろうて。
そうだね。でも何か起こってからじゃないと変わらないのも…なんだか複雑だね…
とりあえず次のページへ行こうか。
Episode 13 渦巻く胸騒ぎ
カンカンと警告を知らせる鐘の音が鳴り響く。
兵士たちが慌てて戦闘の準備を始めて戦場へと向かう。
今回も生物の領土を守る壁の向こう側から、そして海側からの侵攻だ。
ゴードス将軍が率いる兵士が海側を守り、壁側では幾多の兵士と、光闇の力を持つ竜、グロストが守る。
いや、グロストには守るという概念は存在しない。彼の頭では、既に敵の破壊軍に対する憎しみがこみ上げていた。
しかし今回は何かが違うようだ。
グロストの様子も、そして…破壊軍の動きも。
破壊軍はいつも同じような動きをするのだ。
つまり、パターンである。
そのパターンさえ覚えれば、破壊軍がどういうルートで攻めてくるかが分かるのだ。
時々微弱な変化が無いことも無いのだが、それはわずかな違いだ。
少し修正すればどうにでもなる誤差だ。
しかし今回は本当に見ただけで違うと分かった。
「…妙だ…何故こんなにも少ない?」
グロストが見た破壊軍の数は、100人にも届いていなかった。普段は500人を超える数で壁に向かってくるのに、これはあまりにも少なすぎる。
「やった…!破壊軍の勢いが弱くなってるんだ!」
「そうだきっと!平和はもうすぐだっ!」
破壊軍の勢いが遂に落ちたのかもしれないと、兵士たちは喜びを見せているようだ。
「…違う…何かが違う。」
グロストは心にざわざわと胸騒ぎを感じていた。
「…!」
グロストに迫る魂だけの鎧。
黒い灰が渦巻くこの戦場で、グロストは今日もその力を振るった。
「…」
破壊軍兵士の振りかざす武器を素手で受け止め、へし折った。
「死ね…!」
身体から放たれる黒色と、若干白色の混じった雷は破壊軍兵士の鎧に眠る魂をも焼き尽くした。
「…フン。俺には関係ない…」
黒い灰を浴びたグロストの心は次第に闇に堕ちて行った。
戦いの際、黒い灰は闇の力を増幅させる作用がある。
グロストの憎しみのエネルギーを纏い、それはグロストの心の闇を深く深く、黒染めしていくのだ。
一方、後方支援隊では懸命の救援活動が行われていた。
青年ウィルは後方支援隊に努めてもう5年だ。
今では戦場に出向いて治療をすることも増えた。
命がけの支援にいつも立ち向かっていた。
「しっかり!」
「がんばれ!」
「う…いてぇよ…ぉ…」
苦しみの声、励ましの声、泣き声。
様々な苦しい声の飛び交う後方支援隊の仕事場。
ウィルの心は何度も潰されそうになった。
だが、その度にグロストのことを思い出した。
(グロストは僕よりずっと苦しんでるんだ…こんなことで音をあげちゃ駄目だ!)
ウィルはそう言い聞かせてここまでやってきたのだ。
グロストが胸騒ぎを感じていたころ、後方支援隊も忙しさを増してきた。
だが、ここでウィルは妙なことに気が付いた。
「…おかしいです。」
「何がだ?」
レイリーが違和感を感じているウィルに声をかける。
「今日は怪我人が少ないです。良いことなんでしょうけど…なんだかいつもより…」
「…確かに…破壊軍の数が少ないと壁側から報告が入っている。その影響かもしれないな。」
壁側の破壊軍が少ない。
海側が多いということなのか、それとも…
ウィルは気になっていた。
もしかしたら破壊軍が何か違う動きをしていたら…
そう思うとゾッとした。
(…破壊軍の行動はワンパターンだ。だからこそ、もしもの対策にまで手が回っていない…)
ウィルも胸に違和感を感じた。
何か…起こりそうな気がする。
「…その違和感が気のせいであって欲しいが…」
「えぇ…」
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「……」
迫りくる破壊軍を倒していくグロスト。
しかしグロストの気は晴れることが無かった。
戦いこそがグロストの生きがい、生きる価値であり、戦いによってグロストは満たされるのだ。
しかしいつもと違い、何も感じることが無い。
全く満たされない気持ちにグロストは複雑だった。
「…何故…何故あいつが出てくる…ウィル…」
ウィルの顔が脳裏に浮かぶのだ。
「こんな時まで俺の心をかき乱すのか…あいつは……」
迫りくる破壊軍を雷で焼き払いながらグロストは脳内に浮かぶウィルの顔を消そうとした。
しかし消えない。
そして胸の中で感じる違和感。
やはり破壊軍の動きが妙であることにも関係しているようだ。
「…?」
地が揺れた。
その時、後方から煙が上がっているのを兵士が確認。全員に知らせに来た。
「煙!?」
「まさか破壊軍が…!?」
ざわざわとしだす戦場。
グロストも後方を見る。
あの場所は、後方支援隊の場所だ。
「まさか後方支援隊が…破壊軍に狙われていた!?」
「いや待て!何故破壊軍が壁を超えている!?まさか破壊軍が少なかったのはこのため…!」
「…ウィル…チッ!」
「あっ!」
「グロスト!?」
グロストは何故か体が動いていた。
後方に向かって飛ぶグロスト。
「グロストが後方に向かったぞ!俺たちは地上の戦いに専念しろ!早く海側のゴードス将軍に…!」
「報告無用じゃ。」
「!ゴードス将軍!」
ゴードスが海側の敵を殲滅して戻ってきたのだ。
「状況は把握した。グロストは何処じゃ?」
「後方です!後方支援隊の方へ…!敵はあそこから壁を越えて来たようです」
兵士が破壊軍の侵入ルートを調べたようだ。
ゴードスは煙の上がる後方支援隊の方角を見た。
「…グロストよ、信じて良いのじゃな?」
ゴードスはマントをなびかせながら言う。
「皆!これ以上の侵攻を許してはならん!我々は破壊軍をこれ以上いれぬように戦うのじゃ!」
「おおおおお!!」
(グロスト、そっちは任せたぞ…!)
一方後方支援隊の方では火の手が回っていた。
破壊軍がたいまつを放り投げたらしい。
混乱のなか、怪我人順番に殺していく破壊軍兵士。
10人前後の破壊軍兵士が後方支援隊に襲い掛かる。
逃げる人は捕えられ、立ち向かう人は返り討ちにあう。
「きゃああああああ!!」
「逃げろーーー!早くー!!」
「ここで食い止める!」
「…!破壊軍…!やっぱり図られてた…!?」
「馬鹿な!奴らは意識を持たぬ軍勢…!作戦を練ってくるなどありえない!」
レイリーは珍しく動揺している。
「いいえ…彼らだって生物です…!きっと指揮している人が居るはず…!」
ウィルはなんとなく悪い予感をしていた。
だがそれは的中してしまった。
破壊軍の侵攻を許してしまった。
思わぬ打撃だが、いつかは起こっても不思議では無かったはずだ。
「ウィル!今こそ戦わねばならない!俺たちはこれ以上の侵攻の許してはいけない!」
「…でも…!」
「勝てないと分かっていてもだ!」
「…はいっ!」(そうだ、戦わなきゃ…前衛が来るまで…それまでだけでも!)
ウィルは武器を持った。
レイリーも武器を取り、立ち向かう構えを見せる。
「わあああっ!!」
キンキンと弾かれるウィルの持つ槍。
「ぐっ!?」
槍ごと突き飛ばされたウィル。
「くっ…!」
剣を間一髪で交わすウィル。
破壊軍兵士の猛攻を避けるのが精いっぱいだ。
だがそれも時間の問題。
その時間も来てしまったようだ。
「わあああああ!」
槍を突くウィル。
弾かれバランスを崩す。
「……ぁ………」
その隙を破壊軍は見落とさなかった。
「危ない!ウィルッ!!!」
他の破壊軍と交戦中のレイリーが叫ぶ。しかし手遅れだ。
「!!…ぁ……!!」
ウィルの腹部には鋭い剣が突き刺さった。
「ウィルーーーーーッ!!」
ガクッと倒れるウィル。
身体から流れる鮮血が地を染める
「ぁ…ぁ……」
あまりの激痛に身体をガクガクと震えさせる。
「…グ……ロ……ス…ト………」
ウィルはグロストの名を呼んだ。
(…来るわけ…無いよね……ははっ……ここで…死んじゃうのかな…諦めたく…無いに決まってるよ…)
ウィルの視界は揺れる。
意識が途絶えようとしているが、なんとか繋いでいる。
しかし出血がひどい。このままだと長くはもたない。
他の後方支援隊兵士は逃げてしまったり、応戦中で、どうにもならなかった。
「ウィル!気をしっかり持て!ウィルッ!」
レイリーの呼び声も段々遠のいていく。
(…グロスト……)
もう一度グロストの名を…今度は心で願った。
その時だった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
激しい咆哮。
その方向は大地を大きく揺らした。
「何だ!?」
「あの声は…まさか…!来てくれたというのか…!?」
「……来た…来て…くれた……」
ウィルの目の前に映ったのは、白い光、白い雷を纏った雷竜、グロストの姿だった…
Episode 13 END




