Episode 11 変化の4年間 ゴードスとウィル
~語り手と語り手の竜~
なんというか…すごい執着心だよね…何度語っても恐ろしいよ…
そうじゃな、ウィルは本当に凄い奴じゃった。
グロストの暴行一つひとつを毎日受け、突き放され続けてのう。
ワシは知っていた。ウィルが頑張っておるのをな。
じゃがワシはただ見守ることしかできなくての…声もかけられなかったのじゃ。
さて、1年が経過し、ようやく進展が見えたウィルとグロスト。
ここからウィルはゆっくりと時間をかけてグロストと交流を重ねていくんだ。
そしてもう一人の彼を忘れてはならないよね。
そう、彼もウィルの影響をこれから受けることになるんだ。
ウィルのお陰でワシに出来ることを見つけられたのじゃ。
本当にウィルには感謝が尽きぬよ。
Episode11 変化の4年間 ゴードスとウィル
※視点戻ります
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気が付いたら3日が経過していたという。
ウィルはグロストとようやく一歩前進を1年賭けて果たし、森の外で倒れた。
「……ん…」
「お?」
ウィルが目を覚ますと、そこは見慣れない場所だった
あたりをきょろきょろと見渡すウィル。
目の前に居たのは、赤いドラゴン。
赤色の右目と青色の左目。
「ゴードスさん…?」
「分かるかの?」
「はい…」
どうして自分はここにいるんだっけ。
頭が回らないウィル。
「お前さんは森の前で倒れておったのじゃ、それから3日も眠っておったのじゃぞ。」
「…ええっ!?」
ウィルがガバッと身体を起こす。
「ど、どうしよう…!また明日って言ったのに…」
ウィルは倒れたあの3日前、グロストにこういった。
“また明日”
と。
「あわわ…どうしよう…」
ウィルが慌てているのを見て、ゴードスはウィルを静かにまた寝かせた。
「案ずるな、お前さんが何故困っておるかワシは知っておる。そして奴も分かっておるじゃろうて。」
「…知ってるんですね、僕が彼に…グロストに固執していること…」
「勿論じゃ。しかし…ワシはお前さんに何もしてやれんかったのう。ワシに出来たのは、お前さんの首を繋げることだけじゃった。」
ゴードスはウィルに優しい口調で語りかける。
ウィルはグロストの固執し、傷ついて帰ってきて、余計にグロストを悪い方向に導こうとしていると疑われ、最終決定権であるゴードスに何度も解雇の願が送られていたのだ。
しかしそれをゴードスは拒否し続けた。
「…僕が軍をクビにならないように繋いでてくれたんですか…?」
「ワシにはそれしか出来なかったのじゃ。許せよ。」
ゴードスは申し訳なさそうに言う。
「いえ…ありがとうございます。おかげで僕はグロストに近づけたのですから…」
ウィルはゴードスに感謝した。
「そうか…ならば良かったのじゃ。」
ゴードスはホッと肩をなでおろした。
「でもゴードスさん…彼をここに置いているのは…やっぱり、戦力の都合なのですか?」
ウィルは聞いた。
ゴードスは何故グロストを置き続けているのか。
「奴はもはやワシでさえも止めることが出来ぬほどの力を持っておる。そのような力を持ちながら復讐に囚われておる。ワシはグロストをこのまま野放しには出来ぬと思い、何か変わるきっかけにもなるやもしれんと思い、グロストをここに置いておる。じゃが、お前さんが現れるまでは何も変わることはないはおろか、より深い闇をかかえてしまったようじゃがな…」
ゴードスはグロストに変わって欲しいと願い、軍に置いていた。
しかし、ゴードス自身も何かしたくても何をすればいいかも分からなくなり、軍とグロストの関係は段々と深い傷を生み出してしまい、気が付いたらこの有り様だった。
「ワシには何も出来んが…お前さんならグロストをもしかしたら深い闇から救い出せるかもしれん…」
ゴードスはその大きな身体で、小さな少年に期待を抱いた。
だからゴードスはウィルの噂を聞いて、ずっと首を繋げてきたのだ。
「でも僕は3日も軍の仕事をせずに眠っていました…」
「そのことも安心せい。レイリーには伝えている。」
「レイリーさんに…でも、許されていいのですか?」
ウィルは真面目な少年だ。
身を守るためとはいえ、申し訳なさそうなウィル。
「ワシは一応最高権力を持っておる。」
「……すいません…ありがとうございます…」
ウィルも承諾せざるを得なかった。
これからグロストの心を更に開いていくにはこの軍に居る必要がどうしてもあるのだから。
「…お前さんは本当に凄い奴じゃ、あのグロストに1年間も暴行を受け、突き放されてもなお固執し続けるその粘り強さ…感服するぞ。」
「そんな…僕は思ったことを実行してただけです。僕はもう誰も苦しんでほしくありません。グロストにも…皆にも。だからまずは破壊軍よりも…この軍の内部を変えていかなくてはならないと思ったんです。」
「…うむ…」
ゴードスはウィルの話を真剣に聞いている。
思い当るところがあるからだろう。
「皆がグロストの強い部分しか見えて無くて…本当の彼はとても苦しんでいて…弱い。」
「奴が弱い…等と言うのはきっとお前さんしかおるまいて。」
「そうだと思います、僕も。でもそれだけじゃないです、軍の内部でのもめごとが多いと思うんです。皆が心を汚している。でも同じ仲間なのにそれって変じゃないですか?力を合わせて破壊軍に立ち向かっていくのが本当の姿だと思うんです…きれいごとかもしれないけど…それが実現出来たらきっと平和なんてすぐそこだと思います。」
11歳のウィル。
ここまで自分の意志をはっきりと言えるその姿にゴードスはただ、ただ驚いた。
「全く、お前さんは本当に凄い奴じゃ。では、ワシにも教えておくれ。」
ゴードスはウィルに顔を近づけた。
「ワシにもお前さんの活動の力になりたい。ワシは何をすればお前さんの力になれる?教えておくれ。」
ゴードスはウィルに頼んだ。
自分はどうすれば良いか。
思い当たることろが多すぎたのだろう。
最高権力を持っているのに、自分自身はただ目の前の破壊軍を倒すことしか出来ない。
軍の内部のことまで気が回せなかった。
1人で苦悩し、苦しんでいるのは、グロストだけでは無かったのだ。
彼もまた、重い責任を抱えて苦しんでいた。
(この人は…将軍であり、最高権力者であるのに…どうしてここまで一般兵士の僕に頭を下げるんだ…?)
ゴードスはウィルを頼っている。
「これは命令でも何でも無い、ワシ個人の頼みなのじゃ。このワシ、ゴードス自身の頼みじゃ。」
ゴードスは頭を下げる。
「…ゴードスさん、頭をあげてください。僕、考えてみます。僕らはきっとまだ出来ることがあるはず。」
ウィルは起き上がり、眠っていたベッドから降りた。
「ありがとうございます。また今夜伺います!」
ウィルは休んでいた証明の報告書を受け取り、外へ駈け出して行った。
まだ足がふらふらしているが、何とか身体を動かして、後方支援隊の駐留場を目指した。
「…あのような幼い子に軍全体の問題を指摘されるとはの…ワシよりも、よっぽど最高権力者にふさわしいのう…」
ゴードスにもウィルの思いは届いたようだ。
「…ワシに出来ることか……」
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「ウィル、心配したぞ。ゴードス将軍も心配していただろう。」
ウィルが戻ってくると、まずはレイリーが迎えてくれた。
「迷惑かけてすみません。これが報告書です。」
ウィルは書類を提出した。
「…了解した。」
ウィル自身はやはり少し複雑のようだ。
「無理をするな。」
「…ごめんなさい。でも、ようやく一歩近づいたんです。もう一息だから…もう少し頑張らせてください!」
「…全くお前は頑固者だな…ダメと言っても聞かんだろうが。」
レイリーはため息をつき、ウィルに言う。
「…もう3日も気絶するほどボロボロになるな。死んでは元も子もないのだ。良いな?」
「はい!」
ウィルはレイリーに挨拶し、持ち場に戻ろうとした。
「おい、ウィル。」
「?」
獣人の兵士がウィルに話しかけてきた。
「お前、3日時間を空けて分かんないだろうから教えてやるよ。グロストのことだ。」
「えっ…?どうして…?」
ウィルは疑問に思った。
話にするだけでも恐れるグロストの話をまさか他の人からされるなんてと。
「いや、何かさ、お前…頑張ってるみたいだし。ちょっとぐらい情報提供してやってもいいってことだ!」
「あ、ありがとう!」
ウィルは笑顔でお礼を言った。
「グロストの奴、この3日間で、雷の力をより強く増したらしいんだ。しかも真っ黒だった雷に少しだけ白みがかかったって話だ。」
「力が増した…?それって…」
「俺もよく分からないけどな、役立ったかどうかは知らないが…」
「ううん、助かるよ。ありがとう!」
些細な情報でもありがたい。
ウィルはしっかり感謝を伝えた。
「しかし、お前もやるなぁ、ホントにあいつを改心させたりしてな。でも困ったときは1人で抱え込むなよな。」
「うん、そうだよね…」
ウィルは嬉しかった。
こんなギスギスした軍の中にも優しい人が居るんだということに…
「俺たち軍の兵士たちも心がすっかり汚れてしまってる。それをケアできるような人が居たらいいんだけどな。」
「心を…ケア?」
ウィルは何かひっかけた。
何かが出そうな感じだ。
「そ、いわゆる…“カウンセラー”ってやつ?」
「…それ…だよ。」
「え?」
「それだっ!ありがとう!それ!出来るかもしれない!」
「え?あっ!おいウィル!?」
ウィルは頭にピンと来た。
慌てて何処かへ走り出すウイル。
獣人兵士はただきょとんとするしかなかった。
「…なんだったんだ?」
時刻は昼。
今はまだ忙しい時間帯。
ゴードスはウィルの為に時間を裂いてくれていたようだ。
ウィルは何かをゴードスに伝えたかったようだが、時間を考え、また夜に伺うことにした。
その間に1度、破壊軍の侵攻があったが、そこでの仕事を普段通りにこなし、そこから夜までずっと部屋に籠り、何かをしていた…
そして日は暮れ、夜になる。
ウィルは本部の前に立った。
「ゴードス将軍は居ますか?」
「ウィルさんですね?将軍からあなたが来たら通すように言われています。どうぞ。」
本部の前の警備の兵士にあらかじめゴードスが言ったのだ。
なかなか通れないはずの場所を軽々と通ってしまうウィル。
まだ新人なのに、凄い待遇だ。
「あぁ、それと。」
兵士が呼び止めた。
「グロストが居ます。気を付けて。」
「えっ?あっ、はい!」
(グロストが来てる!?)
ウィルは大慌てでゴードスの居る部屋へ向かった。
ドア前でノックをするウィル。
ドラゴンの大きさに合わせて、扉は4mを超えている大きな扉だ。
魔法で開け閉め出来るようだ。
「ウィルじゃな。待っておれ。」
ギイと扉が開き、ウィルは中へ入る。
そこに居たのはゴードスとグロストだった。
「グロスト…!」
「……」
グロストはウィルを見るが、何もしなかったし、何も言わなかった。
「では、そういうことじゃ。明日も頼むぞ。」
「フン、分かっている。」
グロストは不機嫌そうに扉を閉め、出て行った。
「…グロスト、何しに来てたんですか?」
ウィルは聞く。
「なに、お前さんは気にせんで良い。それよりも何か思いついたか?ワシはさっぱりじゃが…」
「あっ、そうでした。思いつきました!」
「これしか、軍を良い方向に導く方法はありません!」
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「グロスト。」
「…お前か…」
あの日から時間は流れて2年。
ウィルは13歳になった。
あれからもウィルはずっとグロストの元へ行っている。
この2年間。
軍の中では非常に大きい変化が見られた。
「よく飽きないものだ」
「飽きないよ」
「ゴードスはまだ続けているようだ」
「そうだね、まさか思いつきで考えたことがここまで影響を受けるなんて思わなかった」
グロストとウィルも2年で大分会話という会話をするようになっていた。
グロスト自身も、もう慣れてしまったのかあまりとやかく言わないようになっていた。
いや、言ったところで無駄だと思ったのだろう。
相手は、1年間ボコボコにされながらも毎日立ち向かってきた男なのだから。
「ゴードスさん、俺…もう、戦いが怖くて仕方が無いんです。」
「フム。」
「故郷を破壊した破壊軍を倒すために入隊したのに…怖くて剣も振るえません…もう僕は駄目だ…!」
ゴードスと兵士だろうか。
ゴードスの本部には毎日兵士の列が出来る。
何かを待っている様子。
「駄目…か…それを決めるのはまだ早いかもしれんぞ?」
「えっ…?」
「ではお前さんは何故まだここにおるのじゃ?戦いたい意志は偽物ではないはずじゃ。」
「…それは…」
「ゆっくり、己と向き合うのじゃ。ワシは戦えないものを追い出すことはしないと誓っておる。」
「でも…!」
「案ずるな。お前さんの勇気、ワシにもいつか見せておくれ。」
「…はい…!」
(…フム、大分様になってきたかの。)
2年前、ウィルの提案を聞いたゴードスは最初、キョトンとした。
「かうん…せりんぐ…?とは何じゃ?」
「精神のケアです。この軍の兵士たちは皆心に深い闇を持っている人ばかりです。それを取り除くための作戦です!」
ウィルは自信ありげに言う。
「フム…それはワシが出来ることなのか…?」
「ゴードスさんは将軍です。ゴードスさんはとても優しいのを僕は知っています。大らかな心を持ち、そして僕を守ってくれたように…きっと皆の助けになるはずです。」
「…そうか…ワシに出来るかどうかは分からんが…確かにそうかもしれん。少し時間をくれ。考えてみよう。」
「はい。」
ウィルの出した提案。
それはゴードス自身が、軍の兵士たちのメンタルの支えになることだった。
ゴードスは最高権力者だ。
その言葉はきっと兵士たちの心に届くはずだ。
最初はその言葉の重みに押しつぶされてしまう兵士が居たが、今ではこなれたものだ。
ゴードスのカウンセリングはたちまち軍のメンタルを大きく支えることになった。
ゴードス自身が重みを感じるようになったら、その時はウィルや、他の兵士たちがその重荷を分け合った。
信頼を積み、そして兵士全員が、皆の重さや辛さを支えた。
この2年で軍の士気は何十倍にも膨らんだのだ。
「グロストは行かないの?カウンセリング」
「俺には必要ない」
「そうかぁ…」
グロストはまだ心を開いていない。
会話が成立するようになった分、大分ましにはなったのだろうが…
ウィルもゴードスにグロストのことをよく相談しに行く。
ゴードスもカウンセリングについてはある程度勉強したらしく、よく頭も回転するようになり、戦いにおいても前よりも的確な指示が与えられるようになり、今やゴードスの信頼はすさまじいものになっていた。
そこから発生するプレッシャーを分け合いながら…
しかし、この2年で変化あるものもあれば、変わらない部分もあった。
「破壊軍は依然として変わらないけど…グロストには変化があったか?」
「無いな」
「あいつは相変わらずだ」
「ゴードスさんもどうしてあんな奴」
グロストのことだ。
グロストの噂は相変わらず悪いままだ。
「ウィルもおかしいよなあんな奴と一緒にいるなんて」
「あいつも破壊軍の灰をあびておかしくなったんじゃねぇか?」
「かもな」
グロストほどではないが、ウィルにも悪い噂が立っていた
それをゴードスに相談する者もあらわれた。
しかしゴードスもカウンセリングをする者とはいえ、言うべきことはきちんと言っているようで、軍の誰かの悪口をいう者にはしっかり厳しく怒っているようだ。
やはりゴードスのカウンセリングで皆が救われているわけでは無い。
「グロスト、他の兵士たちとは交流を持たないの?」
「…くだらん、弱い者と交流などしない。そんなものは戦いには必要ない。」
「そんなこと…」
「知った口を聞くな。」
「ごめん…」
ウィルはゴードスから聞いていた。
グロストは人柄さえよくなれば、いつでも将軍になれる質があると。
グロストがもし将軍になれば、戦況はもっと大きく変わるだろう。
より周りとの交流も増えるだろうから、きっとグロスト自身のためにもなると考えている。
(グロスト…君の心の中が…見えないよ…)
ウィルはグロストの心の闇をまだ取り除けない。
それはこれからしばらく変わらないままであった。
それからまた2年。
ウィル15歳、グロスト87歳…
まだ彼の心は開かない…
その間、破壊軍は小さく不穏な音を立てていたことも気が付かず…時は流れて行った…
Episode 11 END




