第29話、魔法言語習得。
あの日、サラフィナに文字を教えて欲しいと訴えてから1週間が経過していた。
午前は8時から昼の12時まで治療院で下級回復魔法を使って医者の真似事をして金を稼ぎ、午後からは夕方までサラフィナの所にお邪魔して文字を教わる。
俺はその甲斐あって下級氷魔弾、下級炎魔弾、下級水流砲、下級結界、下級解毒をマスターする事ができた。最初に自力で魔法を覚えてしまえば、後は簡単だった。
長ったらしい詠唱なんて全く必要なく、魔法名とイメージさえあっていれば発動できた。
こんな簡単な事をおざなりにしたおかげで、兄貴を死なせてしまった。
魔法をマスターしてしまえば、前以上に後悔の念に押しつぶされてしまいそうになる。
この際だから中級魔法も覚えたいとサラフィナに尋ねたが、今の俺に教えるのには不安があると頑なに断られた。まぁ、直近の用途を考えれば無理もいえない。
圧倒的火力をもって狂蛇の剣を殲滅するというのも面白そうだが、あいつらには死ぬまで苦しみ抜いて欲しいと思うから。
アリシアはまだ部屋にこもったままだ。
日に日に衰弱していると、女将さんが心配していた。
食事も日に三度は運んでいるらしいが、手が付いても日に一度程度らしい。
ちなみに俺がドアをノックしても開けてすらもらえていない。
俺が不甲斐なかったせいで兄貴が死んだのだ。
甘んじてそんな扱いも受け入れよう。
今は俺が毎日治療院で稼いだ金を宿代にまわしている。
当然、アリシアの分も俺もちだ。
1週間、兄貴に世話になって、1週間アリシアの面倒を見ている。
金銭的にはおあいこだが、俺が背負った十字架はこれでは購いきれない。
冒険者組合へはアリシアの状態が戻ってから顔を出すと伝えてある。
その話をした帰りに、受付嬢のお姉さんから不愉快な情報がもたらされた。
狂蛇の剣がBランク入りしたという知らせだ。
ゴブリンリーダーを倒した功績が大きかったと風の噂できいた。
兄貴が無事だったら、きっとゴブリンリーダーを倒したのは兄貴だったのに――。
その話を聞いた夜は初めて異世界で潰れるくらい酒を飲んだ。
異世界の麦酒は、ぬるくクソ不味かった事だけ覚えている。
「それでタケ様はどうなさるつもりです?」
「どうもこうも、ヤツらをあの林で待ち伏せして――けりを付けるよ」
文字を教わっている途中からサラフィナが受ける俺の印象が固定されたのか、彼女は俺をタケ様と呼ぶようになっていた。
それはそれで心地良いが、様付けで呼ばれることに慣れていない俺にはちとくすぐったい。
明日、護衛の任務で街を出ていた狂蛇の剣が戻ってくると聞いた。
兄貴が築いた護衛のお得意様も、アイツらが横取りしたと言うわけだ。
どこまで計算尽くだったのか考えれば考えるほど胸糞の悪い話だ。
俺は明日、アイツらが戻ってくる街道の途中で待ち伏せをする。
ヤツらが話し合いに応じれば、俺が兄貴に弓を射ったヤツを問い詰める手筈になっている。そこで問答無用で俺を殺して口封じしようとするならば、俺はギルドごとヤツらを殲滅する。万一、アイザックか他のメンバーが弓兵を非難するようであれば、俺が弓兵に決闘を申し込んで殺す算段だ。
話はそれたが――。
俺は1週間の勉強期間を終えて、サラフィナに明日決着を付けると話した。
その時の会話だ。
俺が明日の予定を話すと、サラフィナは首を横に振って、明日の話ではなくその先の話だと切なそうな面持ちで告げられた。
この街を代表するBランクにのし上がったギルドを壊滅に追い込むのだ。
それを成せば、この街にはいずらいだろうとの配慮から尋ねられたのだと思う。
だが、俺は心に決めていた。
でも俺一人の考えではどうにもならないから、今は言葉を濁した。
「まぁ、遠くに行く予定は今の所ないとだけ伝えておきます」
「そうですか。私は明日の事は何も心配はしておりません。ただこの先もタケ様は愚かな人間と知り合う機会があるかと思います。その都度、お心を痛められるのかと思うと、少し胸が切なくなってしまいます。くれぐれもご自愛くださいませ」
「ありがとう、サラフィナさん。また会いましょう」
短い挨拶だけ残し、俺は魔法の店に背を向けた。
これから俺は明日使用する荷馬車を借りにいく予定になっている。
全てが解決したら今度こそ、アリシアが泊まる部屋のドアをノックしよう。
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ではまた来週。




