第30話、タケVS狂蛇の剣①
「ふぅ、なんとか一人でここまで来れたぜ」
ここは恐らく、俺が初めて兄貴と出会った場所。
前日に荷馬車を借りた俺は、狂蛇の剣と決着をつけるべく、ゴブリン討伐戦の時に馬車を止めた街道に来ていた。
なぜ、この場所を選んだのか?
ヤツらに良心の呵責があるのならば、兄貴が死んだあの場所まで行って兄貴の亡骸に謝罪させるためだ。亡骸が動物や魔物に食い荒らされていなければいいのだが……。
死んだ者の霊は、無念の度合いが大きければ大きいほど、死んだ場所に留まるという。
兄貴はきっと無念だったに違いない。
だから亡骸がなくても、兄貴の霊体はあの場に残っていると俺は思っている。
あくまでもヤツらに良心があればの話だ。
兄貴が死んだ後で、兄貴が築いた護衛の仕事をかっ攫ったヤツらにそんな心があるとは思っていない。
でも、万一と言うこともある。
日がたつにつれて後悔するって事も、人ならばあるはずだ。
そんな考えから俺はこの場所を選んだ。
それにヤツらが証拠隠滅を謀ろうとするなら、ここは恰好の場所だ。
俺が街からここまで来るのに、すれ違う馬車がいなかった事でもご承知の通り。
その時は、ここがヤツらの墓場となる。
馬車を待避所に止めると、座席にノートパソコンとソーラーパネルを広げる。
リスナーの皆には見届け役になってもらう。
万一、俺がヤツらに殺された時のために――。
「イエス、WooTobe、イエス、イエス! さぁ、久しぶりの生配信だ! リスナーの皆、今日俺は、兄貴を殺した例のギルドと決着を付けるべく、ひとけのない場所にきてるぜ。相手が反省しているなら問題は起こらねぇ。でも証拠隠滅で俺を殺そうとしてくるならば――その時は俺がこの1週間で覚えた魔法を披露するぜ。リスナーは見届け役ってわけだ。よろしく頼むぜ!」
現在のリスナー数は8万人。
平日の午前中だが、前もって宣伝していた効果で、その数は徐々に増加している。
ちなみに1週間前には登録が10万人だったチャンネル登録者数が、今では25万人までになっていた。兄貴が死んだあの動画が話題を呼び、国内だけでなく海外からの登録も手伝った形だ。
さすが異世界の動画だ。
画質は良くないが、リアルな映像をリスナーたちは求めたと言うことだろう。
俺がWooTobeにアップした動画は軒並み急上昇にランクイン。
チャンネル登録者数は日に日に増加。
俺はもう底辺のWooToberではなくなっていた。
月末の段階で総再生数がどの位まで上がるのか、今では楽しみでしかたがない。
それで俺は中級魔法を取得すると前回の動画でも宣伝を打っておいた。
サラフィナさんは今の俺が中級魔法を覚える事に否定的だった。
でも、やはり下級魔法より上の中級魔法を使ってみたいじゃないか。
来月まで待ち遠しいぜ。
そんな話をしながら場を持たせる。
リスナーたちは、これから何が始まるのか興味津々といった様子だ。
仇討ちなんて止めろと言う人も中にはいた。
平和な日本に暮らしているからこそ、そんな事も言っていられる。
でもね、そんな事を言っている人は、今の日本がなぜ平和なのかを実はよく知らなかったりする。
神の国――日本。
神の国だから昔からずっと平和だと思っている人は多いが、実は平和になったのは織田信長が京に上洛した際に、兵に対して略奪や民への暴行を禁止したのが始まりだったりする。信長亡き後、豊臣政権、徳川幕府、現在へとそれが継承された。
それ以前の平安時代、鎌倉時代から戦国時代までは略奪、強姦、殺人は普通に起きていた。
平安時代なんてどこが平安だよって言うくらい、世の中は荒れていたしね。
仇討ちも実際は江戸時代まで脈々と続いていた事を普通の人は知らない。
歴史を少しかじれば知っているだろうけどね。
話はそれたが、リスナーたちもここが日本の常識では収まらない異世界だと知っている。
兄貴の仇討ちに賛成の者も多くはないがいた。
そんなリスナーたちに俺はいう。
「皆の言いたいことは分かるぜ。俺だって日本で暮らしていたらこんな感情は抱かなかったさ。兄貴を殺した犯人を早く捕まえてくれって警察に泣きつけばいいんだからな。動画っていう証拠だってあるから――。でもな、ここは昔の日本と同じく被害を被った者からの訴えがなければ警備隊も動かない。――そんな所なんだ。なら俺がやるしかないじゃねぇか! 俺が兄貴の仇を討たなければ、誰が悪党を退治する? 傷心で部屋に閉じこもっているアリシアか? 兄貴の子供を腹に抱えている彼女にそんな事させんのか? 彼女一人で狂蛇の剣と戦ったら、間違いなく彼女は殺されるぞ。なら俺が、俺がやるしかねぇ。俺にはその力が、異界渡りでこの世界の人より魔力が高い俺がやるしかねぇんだ。俺はこの一週間必死に魔法言語を覚えた。覚えちまえば簡単だったさ――なんでゴブリン討伐作戦までに覚えなかったんだろう、なんでもっと兄貴たちの忠告を聞かなかったんだろうって……。後悔してしまう位にな。俺の怠慢が兄貴を死なせたと言っても過言じゃないんだ。ゴブリンの集団があの場所にいるって知らせたのも俺だ。俺がこの異世界に来なければ、兄貴は死なずに済んだんだよ。だから! 俺は――俺の責任において兄貴の仇を討つ」
悲痛な声で俺はリスナーたちに訴えていた。
刹那時間が止まったかのように、レスも止まった。
リスナーたちからはもう反対の声はあがらない。
タケちゃん、死ぬなよ。頑張れ。そんなレスで溢れかえっていた。
しんみりとした雰囲気が流れてどの位たったのだろう。
ふと気づくと、前方から砂煙があがっていた。
遠目ではハッキリとは認識できないが、2台の馬車にはそれぞれ3、4人は乗っているようだ。
「来たッ」
俺はノートパソコンのカメラを前方に向けると、カメラを背にして道をふさぐかたちで街道の真ん中に立った。
しばらくして、どうどう、と御者席に座る男が手綱を引き絞る。
2台の荷馬車は俺の目の前で停車した。
「こんな道の真ん中で何やってやがる。邪魔だ!」
肩に左巻きの蛇の印を付けた、厳つい男が御者席から俺を睨んでいた。
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