WooTober異世界に立つ、番外編②もしも序盤からヒロインが登場していたら-side武郎
俺は腰を抜かしているらしい女性警察官を横目にチャットのログを確認した。
ゲスト:うえぇ気持ちわりいもん映すなよ。これバン対象じゃねぇの?
ゲスト:うーん、さすがに今のはない~引くわ~
ゲスト:タケちゃん、自首をおすすめするよ。ついにやっちゃったね。生配信で殺人って
ゲスト:でも血の色――赤くなくね? 緑だったような……
ゲスト:俺看護師だけど、何かがおかしい。普通は血って赤いよね
ゲスト:まさか――マジで異世界なのか?
どうだ!
やっぱり異世界だっただろ?
俺もメークを施された人間だったらどうしようとかちょっとは思ったけどさ、でもこんな状況ありえないからな。巻き込まれ転移みたいな形で警察もいるし。
制服着ているから恐れ多くて近づき難いけど……童顔でカワイイじゃんね。
俺はゴブリンに向けていたカメラを女性警察官に向けた。
「イェスWooTobe! 俺が巻き込まれたのか、それともこの警察官の転移に俺が巻き込まれたのかは分からないが、二人で異世界にやってきたぜぇ~イエス、イエス!」
ゲスト:コスプレ乙
ゲスト:そんなカワイイ婦警さんがいるわけがねぇだろ!
ゲスト:とりあえず通報します
何か散々な言われようだが、俺の手に握られている警棒はずっしりと重く偽物とは思えない。しかも俺の名前をさっき口走っていた所からすると、大阪城で注意を受けた警察の仲間なのは確実だろう。
カメラを女性警察官に向けると、嫌な顔をされ手のひらでカメラを塞がれた。
「ちょっと勝手に撮らないでよ。肖像権の侵害で訴えるわよ!」
「お姉さん、今公務中なんでしょ? それなら撮影されても肖像権の侵害には当たらないと思いますけど……」
確か撮影していた配信者が、職質をかけられた時に言っていたからな。
それが事実かどうかまでは俺は知らないが……。
真似してみよっと。
(※良い子は決して真似しないでください。下手をすると公務執行妨害になります)
「何を言ってるの。そんなの許せる訳ないでしょ! あたしにだってプライバシーはあるのよ! いい加減にしなさい。長田」
「ちょっと、生配信中に俺の名前をばらすなよ。プライバシーを侵害されてんのは俺の方だって」
まったく冗談じゃねぇ。
リスナー3人に本名まで知られちまったじゃねぇか。
知られても痛くも痒くもねぇが、できれば身バレはしたくはない。
「所でお姉さん、本物の警察官だって言うなら――警察手帳見せてよ」
「はぁ? なんでこんな場所であんたに見せないといけないのよ。でもどうしてもって言うなら見せてあげてもいいけど? 見たい? 本当に見たい?」
彼女は胸のポケットから颯爽と2つ折りの手帳を取り出すと、俺の目の前に突き出した。
「どうだ! これで信じてもらえたかしら?」
「えっと――西脇ちか巡査ね。おーい、リスナーのみんな。俺と一緒に巻き込まれ転移したのは大阪城交番の西脇ちか巡査だ! 嘘だと思うなら交番に聞いてもらってもいいぜ!」
「ちょっと、あんた何勝手にあたしの名前をばらしてんのよ!」
「えっ? だって西脇さんさっき応援を呼ぶとか何とか言って、無線しまくってたじゃん。ここは異世界だから無線が通じないけど――」
「通じないけど何よ?」
俺はもったいぶるようにじらす。
そして――。
「俺のスマホも圏外だけど、どういう訳だか知らないが生配信だけは続いてんだよね」
「だからそれはここが日本だからでしょ!」
「日本にこんな緑色の人間がいましたっけ?」
「いるかもしれないじゃないの! あんた殺人よ。これ殺人」
「いやっ、いないっすから。絶対。確実に100%」
西脇巡査がさっき解錠した手錠を、再び俺の手首に繋げようとするが、間一髪でかわして巡査の空いている右手を掴み逆に手錠をはめる。
結果、彼女の両手に手錠がかけられた状態になった。
別に変なプレイなんてしないから安心して欲しい。
そんな事をしたら――俺が日本に帰った時に逮捕されちゃうからね!
「――えっ」
「しばらくはおとなしくしていてくださいよ。今、リスナーが交番に確認しているみたいなんで」
隣では長田~外せ! 早く。さもないと死刑だ! と叫いているが、そんな事よりもリスナーの反応の方が面白い。
ゲスト:今、照会終わりました。大阪城交番に――
ゲスト:もったいぶんなよ。んで? どうだった?
ゲスト:まさか――
ゲスト:そう。そのまさかだ! 交番では西脇ちか巡査にいくら連絡を取ろうとしても連絡が付かないって大騒ぎしてたよ。気の毒だったんで、このサイト教えておいた。
そうこうしている内に、リスナーの数が増加。
ゲスト:何でそこに西脇巡査がいるんだ! 西脇、何をやっている!
ゲスト:あぁ、本物だったわ。ご愁傷様……
ゲスト:おまわりさん、西脇巡査は今――異世界ですから連絡はここでしか取れませんよ
ゲスト:何を馬鹿な事を――おい、なんだ西脇、その両手の手錠は? 一緒に映っているその男に拉致されたのか? そうなんだな!
なんだか大騒ぎになっちまったな。
でも異世界へ転移されたのは俺の仕業じゃない。
両手に手錠がはめられているのは、一部は俺にも責任があるが……。
ふふッ――俺は無罪だ。
「残念ながらここに俺が飛ばされたのも、巡査が巻き込まれたのも、事故ですよ。だいたい警察を誘拐なんてそんな恐ろしい真似、俺にはできませんから!」
俺は西脇巡査の上司を名乗るリスナーに説明をすると、カメラを森へと向けた。
映像にはざわざわと風にたゆたう林と、奥の方に森が映し出される。
「それにしてもどうすっかな? 何かチート能力でも得ていればいいけど――ステイタスオープン! そんなライトノベルみたいな展開じゃないみたいだしな」
「長田、何中二病みたいな事してんのよ。それよりも早く。鍵返してよ!」
フフッ、さっき西脇巡査が解錠した際に、パクっておいたのだ。
これで巡査も好き勝手ができまい。
さっきみたいな場面で手錠されていたら完全に詰むからな。
それどんな罰ゲームだよ。
俺は西脇巡査をその場に残し、森へと歩き出した。
「ちょっと置いてかないでよ!」
後ろから両手を前で拘束された西脇巡査が、変にヨタヨタしながらついてくる。
「ちょっと付近を捜索するだけですよ。危険だから付いてこない方がいいですって」
「馬鹿な事言わないで! こんな場所で一人残るなんて――」
体格は細め、さっき腕を掴んだ感じでは力もない。
帽子を被っているから髪形までは分からないが、面長なマスクに曇りなき大きな瞳を貼り付けた彼女は現役の高校生と言われても信じてしまいそうだ。
そんな彼女が俺にすがる様に追いかけて――あはは。
なんだか気分がいい。
一気にモテ期が到来した気すらおきる。
まぁ、錯覚だが。
そんな妄想に浸っていると、ぷにゅっと何かを踏んづけた。
林の影になっていて気づくのが後れたが、中腰になって確認すると辺り一面に赤、青、黄、緑、透明の色をした巨大なぷよぷよ。もといスライムが蠢いていた。
「イェェェイ! リスナーのみんな。始まりの街でお馴染みスライムが蠢いているぜ! よく目かっぽじいて見ろよ!」
首に引っかけたノートパソコンを外し、カメラに映るように足元まで下ろす。
俺が踏んづけた仲間だろうか?
赤いスライムは、まるで怒りを表現しているかのように横にぷるぷると震えるとノートパソコンに襲いかかってきた。
俺はすかさずパソコンを左腕で持ち上げ、そのスライムに蹴りを食らわす。
スライムは俺が常に履いている安全靴の爪先にめり込むとぐったりして動かなくなった。
「イエーイ! スライムが最弱なのは――真実だったぜ。さぁ、蹂躙のはじまりだ!」
俺は器用に左腕でパソコンを抱えながら、倒しては次々に襲いかかるスライムを足踏み体操の要領で仕留めていく。
「ねぇ。長田、あんたいつまでそれやってるつもりよ?」
それは西脇巡査が声をかけるまで延々と続き――。
最後に真っ赤なエフェクトを纏ったスライムを倒した事で終わりをむかえた。
「おっ、なんだ――これ?」
俺はスライムからドロップしたと思われる真っ赤な石を拾ってみる。
ビー玉程度の大きさしかない石を太陽に翳すと、その石の中に何が書いてあるのかはわからないが、文字が彫られていた。
「何っ、なにか手がかりでも見つかったの?」
「えっ、そんなものありませんよ。俺が見つけたのは多分――魔石です」
「はぁ? そんな事はいいから早く帰る手段を見つけなさいよ! もう夕方なのよ! このままこんな場所で夜を迎えるなんて、あたしは嫌だからねッ。ちょっと聞いてる?」
西脇巡査は日本に戻る気が満々な様子だが、俺はこの世界を楽しんでいた。
そして今まで生配信をしていて気づかなかったが、公式ページのベルマークが点滅している事に初めて俺は気づく。
「イエーイ。今日の配信はこれで終えるぜ。腹も減ってきたしな。明日はバッテリーが持てば続報を配信するからよ。みんな期待していてくれよなッ!イエーイWooTobeイエス、イエス」
生配信を終わらせた俺は西脇巡査に向き合う。
「はぁ、まだ諦めて無かったんですか? ここは異世界、異世界転移では元の世界へ戻れる方法は――」
「戻れる方法は?」
西脇巡査が期待する様な面持ちを浮かべているが、それには応えられない。
「そんな方法は恐らくないでしょう。この場に召喚したのが誰なのか、そこからまず探さないと。でもこんな大草原の中では、簡単にはいかないでしょうしね」
西脇巡査が今にも泣き出しそうな面持ちに変わる。
だから彼女に希望を持たせる意味でも、俺は告げなければいけない。
「そんな顔しないでくださいよ。この世界がどういう世界なのか、人間はいるのか、どの位の魔物がいるのか、人がいるとすればどんな制度の国なのか、色々調べなければいけないことも沢山あるんですから。その上で戻る方法があるなら探せばいいじゃないですか」
「そうよねッ、この世界の事を何も知らないままじゃ先に進めないものね」
西脇ちか――チョロい。
でも多少は前向きになってくれたようだし、さてと公式のお知らせでも見るか。
お知らせがアカウントの削除とかだと今度は俺の方が凹みそうだが……。
俺はノートパソコンを首にかけ直すと、抱えた体勢のまま公式ページを開く。
生配信の時には歩きながらでもキーを打ち込んでいたからな。
この位はお手のものだ。
点滅しているベルマークをクリックした俺は、書かれてある内容に驚愕する。
「はぁ? これWooTobeの仕業なのかよ!」
お読みくださり、ありがとうございます。




