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WooTober異世界に立つ  作者: 石の森は近所です
サラエルド編
27/208

第25話、――あれから4日。

 街へ戻った俺たちを待っていたのは、冒険者組合の職員だった。

 冒険者組合の一室で事情を聞かれた俺は、兄貴の冒険者タグと引き換えに今回の報酬と心ばかりのお悔やみ代をもらった。


「それでは事情は分かりました。後日、アリシアさんとご一緒にまたいらしてください。キグナスさんの口座に入っているお金の引き渡しがありますので……」


 本来ならば兄貴と付き合いが長いアリシアが立ちあうのが筋なのだが、彼女はあれからずっと目を覚ましていない。

 気を利かせた職員の手によって、坂の上の林檎亭へと運ばれていった。


 ひととおり当時の状況を聞かれた俺は、冒険者組合を後にする。

 坂の上の林檎亭までの道のりがやけに遠く感じる。

 兄貴が死んだというのに、通りすがりに見える街の喧騒はいつもと同じだ。

 夕方のかき入れ時とあって、食堂や酒場は大勢の客で賑わっていた。

 今の俺にはそんな日常の光景でさえも何が楽しいのか、何がそんなに面白いのかまったく理解はできない。ただ宿で休んでいるだろうアリシアに何て声をかければ良いのか、途方に暮れていた。あの時、アリシアが言った言葉が耳から離れない。

 来年には兄貴の子が生まれると言ったアリシアの言葉が――。


 俺が最初から毒だと気づけていたら。

 俺が毒を解毒する魔法が使えていたら。

 俺がちゃんと魔法を勉強していれば――。

 俺がもっと強かったら。

 そんな後悔ばかりが頭の中で渦巻いている。


 坂の上の林檎亭に着くと、受付には神妙な顔つきの女将さんが待っていた。


「おかえり、今回は大変だったね。アリシアさんなら冒険者組合の人が運んできてくれて今、部屋で寝ているよ。あんた――飯はどうする?」


 俺は首を横に振るとそのまま部屋の鍵を受け取り、奥の階段を上がっていった。

 今は口を開きたくない。

 口を、声に出せば抑えている感情を吐き出してしまいそうだから。


 ――それから三日。

 俺とアリシアは自分の部屋に引きこもっていた。

 食事は気を利かせた女将さんが部屋まで運んでくれている。

 今はまだ賑やかな食堂に顔を出すのもつらい。

 そんな気にはなれなかった。

 アリシアも翌日には目を覚ましたと女将さんから聞いたが、他の誰とも一切の接触を断っていた。俺も彼女にかける言葉が見つからないまま、部屋に閉じこもった。

 幸い、兄貴が宿を出るときに一週間分の宿代を支払っておいてくれたおかげで、宿代はなんとかなっている。


 俺は四日目に入ってノートパソコンの電源を入れた。

 あの日から充電はしていたが、電源を付けたのはこれが初めてだ。

 俺が最後にアップした動画から、四日も投稿をしていないとネットでは俺が死んだのでは? といった憶測まで飛び交っている。

 明日はゴブリン掃討作戦に参加します。の、コメントの後から音信不通だったからな。

 連絡が途切れれば死んだと噂されてもおかしくはない。

 便りのないのが無事な証拠とはいったものだが、ここ異世界では俺が死んでも連絡してくれる人は誰もいない。


 俺は無事を伝えるために急遽動画を投稿した。

 本来は編集をしてから投稿する予定だったが、そんな気にはなれなかった。

 よく言えば臨場感溢れる、よりリアルな映像を配信する事ができる。

 だが、プロとしてはそんな動画は配信するべきではないのだろう。

 そんな動画を垂れ流すのは初心者の証だから。

 それほどに、今の俺は心に余裕がなかった。

 動画をアップし終えると、生配信の予約を一時間後に設定する。

 いきなり生配信を行っても、リスナーが見に来ない事がほとんどだからだ。

 時間を設定する事で、チャンネル登録しているリスナーに連絡が届く。

 ライトなんてものはこの部屋にはない。

 窓からの自然光を頼りに、配信する位置を決めた。


 三、二、一。


「イエーイ。みんな、四日間も連絡できなくて悪かったな。ちょっとこっちで問題が起こってよ――」


 いざ声に出してみると、何を話せばいいのか分からなくなる。

 冒頭の挨拶から暗い表情で、声もかすれ、しまいに瞳からは涙が溢れてきた。

 現在視聴している人数は三万人。

 日本では平日の午前中だというのに、大勢のリスナーが集まってきていた。



ゲスト:何だこいつ、いきなり泣き出したぞ。


ゲスト:お初です。異世界配信者が生配信するって言うから見に来たんだけど――何。これどんな展開?


ゲスト:二時間ものの動画をアップして、一時間後に生配信とかもっと時間考えろよ。まだ動画途中じゃねぇか!


ゲスト:タケちゃん、どうした? 何があったんだ?


ゲスト:今日、夜勤で良かった。タケちゃんの無事な姿を――無事とも言い切れないのか? 何があった? タケちゃん


ゲスト:タケちゃん、お姉さんに話してごらん。きっと役に立つから


ゲスト:話題の異世界配信だっていうから来てみれば――むさい男の号泣シーンかよ。チッ。つまんねぇぞ


ゲスト:上の人、黙ってろよ。それより二時間の動画お疲れさん。


タカト:タケくん、どうした? いつもの君らしくないぞ


ゲスト:タケくんはホームシックに掛かって、号泣中です。あはは、だっせぇ~


ゲスト:配信者が何も喋らねぇんじゃ意味ねぇぞ。動画でも見てるか


 生配信だと言うのに、俺は醜態をさらしまくっていた。

 その間にもリスナーのレスは流れていく。

 俯き加減で、次々に溢れ出す涙を袖で拭いながら、俺はただ呆然ぼうぜんと画面を見つめていた。

お読みくださり、ありがとうございます。


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