第21話、あれから一週間。
ギルドラフランに入隊して一週間が過ぎた。
キグナスたちには悪いが、ギルドでの活動は一日置きにしてもらっている。
なぜ、一日置きなのか。ノートパソコンのバッテリー消費の問題によるものだ。
ギルドで討伐依頼を受け、その活動内容を動画に残す。坂の上の林檎亭に戻ってから、動画の編集をするとバッテリーがかなり減る。
日本では昼間に撮影して、夜は編集と平行して充電もできた。それがここでは通じない。毎日、討伐に行くと、あっという間にバッテリーはなくなった。
勿論、昼間撮影をしながらソーラーパネルでの充電を試した。それでも、夜の編集でバッテリーは減る一方だった。
それからは、キグナスたちに無理を言って、依頼は二日に一度にしてもらった。
サラフィナの店でチラ見した時に一万だったチャンネル登録者数は、エルフ登場と銘打った動画から一気に十万人を突破した。これで即収益につながればいいが、残念ながら、収益化まで一月の時間が掛かる。これにより、今月どれだけ動画の再生数を稼いでも、ポイントが振り込まれるのは翌月末であった。
現時点での動画の再生数は二百五十二万回に及び、来月の末には同じ数のポイントが入る予定だ。
サラフィナの登場回で、初めて再生数が百万回を超えた。
それに伴い、急上昇ランキングに上がったことで、知名度も一気に増えた。
さすがエルフ。恐るべしといった所だな。
日本人だけでなく、世界各国からもアクセスはあった。
まさに、エルフ様々だね。ていうか、どんだけエルフを好きなんだよ。
サラフィナは見た目、幼女だぜ。このロリコンどもめ。あ、ごめんなさい。
ロリコンは最高です。幼女萌えぇぇぇ。
その後、再生数を稼ぐため、サラフィナの店に何度か行った。だがしかし、サラフィナは俺がノーパソを広げるとすぐに婆に変身しやがった。
「迷い人様への協力を惜しむつもりはありません。しかし、私の知らない所で姿見を使われるのは、良い気分はしませんね」と言うのがその理由だった。
くそっ。
あれか、写真を撮らせたら寿命が減るって考えか。それは違うか。しかし、エルフ再登場と銘打って動画をアップロードするだけでいいのに。
それだけで百万ポイント。下級魔法が十個覚えられるんだよ。惜しいよね。
これでエルフの里に行ったら、とんでもない事になりそうだ。
まだ行く予定は未定だけどさ。でも、いざ行ってみたら、撮影お断りとか言われそうじゃん。サラフィナを見ていると、そんな気がしてならない。
まぁ、着実にチャンネル登録者数も、再生数も伸びてるから無理はするまい。
このままでも来月末には、中級魔法の二つは覚えられる計算だからな。
夜間に一人で部屋にこもる。別に嫌らしいことをしている訳ではない。動画の編集中だったのだが、部屋の扉が二度強くノックされた。この音はキグナスだな。
アリシアのノックの音はもっと控えめだしね。
「おう! まだ起きてたのか」
「兄貴、今日も協力ありがとうございました。おかげで良い動画が撮れました」
「タケは相変わらず訳の分かんねぇ伝道師をやってんのか。それよりもあの婆からもらった本を読めよ。字が読めねぇなら、婆に聞いたって良いんだしよ。その方がよっぽど早く魔法も覚えられるんじゃねぇのか?」
俺だって日本語で書いてあれば熱心に勉強するさ。だって、夢にまで見た魔法だからな。でも、タイトルすら読めないのでは、豚に真珠。猫に小判だよ。
少なくとも、自分の頭は自分がよく知っている。簡単に異世界の言葉を覚えられるとは思ってない訳よ。だから、今ではテーブルの上で埃を被っている始末だ。
勉強なんて不得意な事をするより、動画で再生数を稼いだ方が楽じゃねぇか。
魔法の取得はランダムだから、必ずしもほしい魔法を覚えられるのかは疑問だけど。それでも、今の再生数から計算すれば――来月末には二百五十万だ。
それが入れば、下級魔法でも二十五種類。中級だと二種類は覚えられる。
こんなに楽に覚えられるなら、無理して勉強なんてしなくてもいい。
本を読む必要性を感じない。
確かに、こっちの文字を読めない事は問題だよ。それは分かってる。
でも、楽に生きたい。
楽をして金を稼ぎたい。
苦労しないで魔法だって覚えたい。
そのために俺はWooToberになったんだから。
「その内に文字の勉強も始めますよ。でも、見てくださいよ。ここ。ここに二百五十万って書いてあるんですよ。これが俺の稼いだポイントで、魔法と交換すると下級魔法が二十五種類も覚えられるんです。月末までには、回復魔法以外の魔法も覚えますんで、期待していてくださいよ」
「相変わらず、おめぇの言ってる事は分かんねぇけどよ。そうか。来月末か――。無理にとは言わねぇが、少しずつでも文字を覚えろよ。俺が言いてぇのはそんだけだ。じゃ、邪魔したな」
キグナスはそれだけ言うと部屋を出て行った。
同じ事をサラフィナにも言われた。
勿論――アリシアにも。
決まって俺は答えた。伝道師の仕事が順調で、来月には魔法を覚えられると。大きな顔で豪語していた。この世界の人間には、努力もしないで何やってんだ。そう思われているだろう。
でも、俺だって、WooToberとして努力してんだ。
不手際でも編集だってやっている。
音声だって調整している。
そう、自分に言い聞かせていた。
動画の編集は夜半過ぎまで続いた。気が付けば既に日は昇っていた。
扉をガンガンたたかれ。急いで扉を開けると、キグナスはいつものように呆れた様子で立っている。
「おめぇは一体いつまで寝腐ってやがんだ。もう十一時を回ってんだぞ!」
ニートだった時の俺からすると、まだ朝だな。
でも、この世界でそれは通じない。いや、日本の普通の人と同じか。
この世界では、日が昇る時間から活動を開始する。十一時まで寝ているのは、物乞いと娼婦くらいらしい。
深夜営業の酒場でさえも、仕込みで朝は九時から活動を始める。というのが一般的である。よくそんな睡眠時間でやってられるものだ。過労死しそうだな。
俺は寝ぼけ眼を擦りながら扉をあけた。
「すみません。兄貴。昨日も遅くまで編集の仕事をしてたもんで――」
「おめぇには、おめぇの仕事があんのは分かるよ。けどな、この世界はおめぇの世界とは違う。それだけは頭にたたき込んどけよ。今日は俺たちラフランの本拠地となる物件を見せてやるからよ。早く支度して食道に来いよ」
仕方ねぇな。そんな顔をしながらも、俺を楽しませようとしているキグナスの気遣いに頭が下がる思いだ。
サラフィナの店に行ったあの日から。ずっとキグナスはこんな感じで構ってくれる。この世界に身寄りのない俺にはもったいないくらいの兄貴分だ。
ギルドラフランの本拠地だとか言っていたし、今日も楽しい一日になりそうな予感がする。俺は支度を済ませると、食堂へと急いだ。
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