第20話、ギルド入隊
「えっ、それはきっと気のせいです。うん。そうですよ」
俺がやましい妄想を膨らませていたなんて言える訳がねぇ。しかも、サラフィナ本人じゃなく、他のエルフで。
「そうですか。それなら良いのですが……。なにぶん迷い人様の世界と、こちらの世界では違う事が多そうですので」
さっきまで再生していた動画は、他人の動画に切り替わっていた。サラフィナは会話を進めながらも、そこに映し出される日本の街並を見ていたようだ。何か面白そうな物でも映っているのか。彼女の瞳が大きく見開かれた。
キグナスたちも同様だ。さっきからモニターを見つめて目を白黒させている。
「これがタケの世界、なのか……」
「箱が人を乗せて走ってますよ。しかも、あんなに速く――」
キグナスもアリシアも動画に意識が釘付けだな。まぁ、予想の範囲内か。
誰でも未知の世界への興味は尽きない。それは俺もだ。もっとも、俺の場合は、この魔法が使える異世界に対しての興味だが。
「迷い人様さえ良ければ、すぐにでもアルフヘイムへお連れしますが。いかがなさいますか?」
「おい! てめぇ。さっきの俺の質問にまだ答えちゃいねぇだろう。エルフは迷い人を独占しようって腹づもりなのかって聞いてんだぜ」
はぁ。キグナスは忘れてなかったのか。
俺にしてみれば、エルフのキレイなお姉さんに囲まれ。あんな事や、こんな事をするのも楽しそうなんだけどな。それにリスナーもエルフが大勢映っている動画の方が嬉しいはずだ。まさに、異世界の醍醐味だよな。俺、配信者だし。
それにさっきチラ見したら、チャンネル登録者が信じられない数字になってた。
このままエルフと行動をともにするのもアリだが、ポイントを稼いで配信者として大成してみたい。そんな野望も湧いてきた。
「サラフィナさんの申し出は助かります。でも、俺はこの世界の事を何も知らない。娯楽を提供する役目だってまだ始まったばかりです。これから各地を回ってみたい願望だってあります。勿論、その途中で、エルフの里にもお邪魔したいと思います」
「フッ、迷い人の使命ですか……」
うーん、使命と言うほど崇高なものじゃないけどね。どちらかと言えば、俗物だからな。楽して魔法を覚えて、俺強ぇぇができて。大金を稼いで、ハーレムも――おっと、また妄想に入り込む所だった。
「よし、良く言った。タケ。んじゃ、予定通りこの後は冒険者登録で良いんだよな?」
いや、だからキグナス。その背中をバシバシたたくの止めてもらえませんかねぇ。何だか背中がヒリヒリしてくるからさ。多分、紅葉ができてるぞ。
「分かりました。今回は諦めます。ですが……エルフはいつでも迷い人様の来訪を歓迎いたします。お困りの事があれば、各街に点在している魔法の店をお尋ねください。きっと、あなた様のお役に立てますので」
へぇ。他の街にもエルフが居るのか。それは楽しみだ。
「ありがとうございます。それで魔法の適性を調べるというのは、何を調べてくれるんでしょうか?」
「おぅ、そうだった。今回はその件で来たんだからな」
全属性とか、俺には勇者の称号がありますとか、そんなのが分かるのかな。ドキドキしてくるな。楽しみだぜ。回復魔法が使えるのはもう決定だからな。
「そうですね。魔力制御するだけのマナの有無を調べる事は可能です。ですが、それを調べるというのは無意味でしょう」
「なぜでしょうか?」
「先程のフェイルスで、魔法適性があることは証明されています。ここで調べられるのは、あくまでも魔法を使えるマナがあるかないかだけです。もし、使用可能な属性を調べたいのであれば――アルフヘイムでお調べできます」
「てめぇ、まだタケを口説こうってのか?」
「ふふっ。迷い人様がいつ心変わりされても、エルフは歓迎しますというアピールですよ。人族に任せるよりは、よほど安全ですから」
すげぇ。このエルフ、キグナスの威圧なんて露程も気にしてねぇ。二人が戦ったらどっちが強いんだ。まぁ、今の俺では赤子の手をひねるようなものだろうな。
キグナスの威圧を軽く流しながら、俺にウインクしやがった。しかも舌までだして、ペコちゃんかよ! あざといな。この女。婆と娘――どっちが本当の姿だ。
「さぁ。用は済んだぜ。次行くぞ。全く、タケも魔法が使えるっていうなら、会った時に言えよ。無駄な時間を取らせやがって」
うーん、きっと初見で魔法が使えますなんて言えば、かなり怪しまれただろう。もしかしたら、あの場で殺された可能性もあるよな。キグナスたちは悪い人じゃないけど、人通りの少ない街道だ。魔法を使える不審者を信用するとは思えない。
魔法を使えない人からすれば、魔法使いは脅威だろうからな。
多分、俺のその予感は外れていないと思う。うん。実際さっきだって、いきなり斬られたからな。根に持つ訳じゃないけどさ。
でも、サラフィナさんのおかげで、キグナスたちとの蟠りは氷解した。動画を見せたのも納得させる材料にはなったと思うけどね。
ここまで自分をさらけ出して関係がダメになるなら仕方がない。でも、キグナスたちならそんな心配はないように思える。会社の先輩とは違うからな。
「それじゃ、婆。邪魔したなッ」
キグナスに促される形で、俺も席を立つ。今度は扉に触れることができた。
やはり、さっき出られなかったのは、結界だったようだな。
「これを持っていきなさい。迷い人様ならこれを使いこなせる筈です。それに、これで魔法を覚えれば、もう変な呪文は必要ありませんから」
外に出ると、サラフィナから一冊の分厚い本を手渡された。普段、読書をしない俺にはあまり興味はないが受け取っておく。チラッと表紙を見たけど、日本語じゃないから全く読めなかった。
サラフィナさんにお礼を言った俺は、キグナスたちの後を付いて歩き出した。
勿論、次に行くのは冒険者組合だ。
冒険者組合は大通りに面した場所にあった。店には剣と槍のマークの看板が刻まれている。入り口は、スイングドアだ。中に入ると、冒険者は少なかった。混み合う時間までまだ早いらしい。そんな訳で、登録申請も呆気なく終了する。
「これで冒険者の登録は終了です。ソロで活動される場合は、二階のFランク専用の掲示板から依頼書を持ってきてください。ギルドを組まれるのであれば、そのギルドのランクで仕事を受ける事が可能です。でも、あまりランク差が大きいと不慮の事故に遭いやすいので注意してくださいね」
受付で散々注意事項を伝えられた。その時に、一枚の銀製のタグをもらった。タグには読めないが、名前とランクが刻まれているらしい。
ギルドに来て分かった事だが、この世界の言葉は通じる。しかし、文字に関しては読めなかった。どちらかというと、古代文字に似ていたからだ。
日本の神代文字とか、カタカムナ文明と似通った文字といえば分かり易いか。
書類に名前と年齢、滞在先を記入するように言われ、仕方なくキグナスにお願いした。昨日までなら、「おめぇは文字も書けねぇのか。ガキより劣るぞ」とか言われただろう。だが、俺の生い立ちを知った今となってはそれもなかった。
「よし。これでタケも冒険者だ。うちのギルドに入るか?」
キグナスたちは、俺が回復魔法を使えることを知っている。だから入隊を勧めるのかと邪な考えも浮かぶが、それを聞いた受付の女性から叱咤が飛んだ。
「ちょっとキグナスさん、私さっき言いましたよ。あまりランクの離れたギルドに入ると危険だって。タケさんはFランク。ラフランはCランクじゃないですか」
「がははは。分かってるって。危険な目に遭わせなければいいんだろ?」
「もう、タケさんも気を付けてくださいね。それでなくても新人で無理して亡くなる方は少なくないんですから」
聞けば、キグナスたちのラフランはCランクだ。それが、昨日の護衛任務でBランクへの昇格がほぼ確定しているらしい。FとBの差は大きい。
本人の意思を優先とは言っても、ギルドは注意をせざるを得ないんだと。
「分からない事が多いので、キグナスさんのギルドにお世話になりますよ。それに――」
「それに、なんでしょうか?」
受付の人も、いきなりBランクギルドに入ろうとする理由に興味があるのか、オウム返しをされる。
「キグナスさんなら、俺が死ぬような依頼は受けないと信じていますから」
よし、俺はキグナスのギルドに入る。サラフィナの所ではいきなり腕を切られたけど、俺が前もって話していれば良かっただけの話だ。
それは、昨晩の食事の時でも良かった。話して関係が壊れるのを恐れたのは俺の方だからなッ。
これから仲良くしたいならもっと踏み込んでもいい。俺が望んでいる関係だ。
知り合って間もないが、少なくとも会社の先輩よりは信用ができる。
勿論、これからLIVE配信をする上で、協力者になってくれそうだ。といった腹づもりも多少はある。そして、迷う人だと知られている事は大きい。
昔の人族の王は、迷い人を利用した。でも、キグナスは違うと信じてる。
他者を知ることは知恵、自分を知ることは悟りと老子も言ってるからな。意味は良くわからんけど……。
「さて、タケがラフランに入隊するって言うなら――今夜は乾杯だ」
仲間が増えた事に喜び、坂の上の林檎亭までの道のり何度も背中をたたかれた。きっと今晩は仰向けで眠れないだろう。まぁ、うつ伏せなら眠れるか。あ、でも、今晩も●×▼とか――ないよな。ないと思いたい。
お読みくださり、有り難うございます。




