第19話、魔族その②
「ごほんッ」
いつまで自分の姿に見とれてんだ。俺はサラフィナの意識を取り戻すのに咳払いをした。うっとりとモニターを見ていたサラフィナもそれに気づく。やっと気づいたか。それにしても自分の顔なんて見飽きてるんじゃないのかねぇ。
「すごい物ですね。この魔……機械というのは」
「はい。この映像を俺の世界へ送る事を配信といいます。これを見た人が多ければ、多いほどポイントが入ります。また、この世界で魔物を倒してもポイントはもらえます。そのポイントと交換で、回復魔法を覚えました」
別に投げ銭システムには触れなくてもいいだろう。複雑過ぎて面倒だしな。
主に、説明の方が……。
「なるほど。でも、あなたの唱える詠唱が、この世界の女神様を貶める行為である事に変わりはありません。そもそも、私たちエルフが使う魔法に詠唱は必要ありません。これからも魔法を使いたいのであれば、女神様の名前は正式名称でお願いしたいと存じます。できますか?」
うん、まぁ。名前が違うのなら直すのは当然だな。
それに関して俺に否はない。WooTobeがどんな意図であんな名前を付けたのか、気にはなるけどな。俺はサラフィナの意見に首肯した。
サラフィナが、ホッ、と胸を撫で下ろす。ん、これまで感じていた寒気が一気に和らいだ。キグナスが使う威圧とはまた違った部類の威圧だったようだ。
「それでは最初の問いに答えましょう。魔族による女神信仰への反逆は三百年前に異界渡りをしてきた迷い人の協力を得て大きく情勢は変わります。かの者が持つマナは膨大で、当時劣勢であったエルフと人族を優勢へと導きました。後に勇者と語られるその者は、魔族の王――魔王を討伐する事で戦いに終止符を打ったのです」
魔法はそれを生み出す女神様の力を借りて行う。
その力は、信仰の度合いが高ければ増え、減れば下がる。
マナを多く内包する魔族が、なぜ女神信仰に異を唱えるマネをしでかしたのかは今では謎に包まれている。元から内包するマナが少ない人族より、マナを多く内包するエルフたちの力を削ぎたかったのだろう。
これが戦後に考えられた、エルフ側の見解だそうだ。
魔法の源泉である女神様を貶めれば、当然、魔族の使う魔法にも影響は出るはずだ。だが、当時を振り返ると、その様な兆候はなかったらしい。
魔族が何に気づき、何を信仰していたのかは、現在では分からない。
「ってこたぁ、その迷い人が現れなかったら……」
「はい。現在のような人族の暮らしも、私たちが集うアルフヘイムも存在していなかったでしょう」
ふぅん。サラフィナは当時を懐かしむように瞳を閉じてる。ということはだ、当時を知ってるサラフィナは少なくとも三百歳。やっぱ婆の姿が本物なのか?
幼女の姿は美しいが、どっちが本物なのか疑問は残る。
まぁ、この幼女エルフの姿を映像に残せたのは正解だな。
ぐっちょぶ。――俺。
「だがよぉ、俺たち人族にはそんな伝承は残っちゃいねぇぞ」
あぁ、そう言えばそんな話はキグナスから聞いてないな。もし、迷い人が後に勇者として崇められたのなら、記録くらいは残っている筈だが。
――どういう事だ。
まさか、人族の寿命が短いからなんて単純な理由じゃねぇよな。この世界にだって文献もあれば、本だってあるからな。
「それは人族同士の権力争いに端を発します。魔王を倒した後、人族は魔族の領土を巡って争いを始めました。これにより、生き残っていた魔族も根絶やしに……。魔族が居なくなると、今度は人族同士で領土を奪い合うようになったのです。敗れた国は歴史を勝者によって書き換えられました。そして――勝者の国は後世に禍根を残さないように魔族との争い。また勇者の存在をもなきものに書き換えたのです。本当の史実を知るのは長寿のエルフと、傍観者であった獣人だけでしょう」
日本も昔に起こした戦争で相手国の都合のいいように歴史を改ざんされたんだっけな。3S政策がどうとかで国民を洗脳して、腑抜けに教育したとか。陰謀論だと言う者も多かったが、実際の問題として後世に確実に尾を引いた。
日本人の心に余裕がなくなったのは、それから来ているとも言われてたな。
北方領土も竹島も、沖縄、北海道もこの先どうなることやら。不安は尽きないが、異世界に来た俺の心配する事ではないか……。
「それで、その迷い人はどうなったんです?」
「どうして迷い人が現れたのか、その後、彼がどこに行ったのか。現在では誰も知りません。ただ、魔王なき後の人族の行いに嫌気が差し、自ら消息を眩ました。といった意見が私たちエルフの見解です」
なるほどね……俺と同じ世界から来た人なら、その考えも理解できるな。良かれと思って手助けしたのに、余計に争いを生む結果になれば、やりきれねぇな。
勇者だって魔王だけ倒せば平和になるって思ったんだろ。それが、魔族を根絶やしにされ、人族同士の争いにまで発展ね。何をやってんだ……人族は。
「なるほどな。てめぇらエルフが人族を客じゃねぇって言った理由はそれかよ。だが、迷い人を客だと言うのはどうしてだ?」
キグナスも何度かこの店に顔を出したことはあったのだろう。自分たちを客と思わず、迷い人だけを客と扱うサラフィナに苛立ちを向ける。
「ふっ。助けた恩人の顔に平気で泥を塗る人族を――エルフは侮蔑しています。私たちは三百年間、迷い人を待ち続けました。過去の清算をするために。今度こそ、あの時の恩を返そうと思っております」
「ふんッ。バカらしい。残念だがこのタケは三百年前の勇者じゃねぇ。それでもおめぇたちは同じ事が言えんのか?」
確かに。俺はその勇者じゃない。海外旅行に行って昔、日本人に世話になったから接待するよ。と言われているような気分ではあるな。
「私たちエルフは人族の様に利用するだけ利用して放り出すような事はいたしません。客分としてアルフヘイムで平穏にお暮らしいただけるように考えております」
「言い換えりゃ、てめぇらの腹づもりは迷い人の独占だよな。違うか!」
キグナス、そんな事はどうだっていいんだよ。人族であれエルフであれ、俺が楽しければそれでいい。それにアルフヘイムかぁ。一度は行ってみたいからな。
サラフィナは幼女だけど、まさかエルフ全員が幼女って事はねぇだろう。
きれいな金髪に翡翠の瞳。スタイル抜群のお姉さんなんてそそられるじゃん。
サラフィナの顔に――そのスタイルかぁ。やばっ。息子が刺激されちゃうぜ。
「迷い人様、どうかされましたか、なんだか、お顔が赤いようですが……」
お読み下さり、ありがとうございます。




