6.信用されないおっさん
今日もおっさんが部屋から出てこないので、この日「旅人」は街を散歩しています。
一人の子供が公園で泣いていました。
まわりには誰もいません。
親とはぐれでもしたのでしょう。
遠くから「旅人」がその様子を見ていると、おっさんが公園の前を通りました。
そのおっさんは泣いている子供を見つけると、数瞬考えて、そのまま通り過ぎていきます。
しばらくするとおっさんと同じ種族の雌が子供の前にやってきました。
その雌は泣いている子供を何回か叩いたあとに腕を引っ張り連れていきました。
「旅人」は子供が連れ去られるのを見送るとおっさんを追いかけます。
おっさんは下を向いてゆっくり歩いていたのですぐに追いつけました。
「旅人」は先ほど見ていたことをおっさんにたずねます。
「さっきおっさんは「助けてあげたい」と思っていただろうに、どうして動かなかったんだい?」
「おっさんは子供に近寄っちゃいけないんだ」
「そうなのかい? でも子供を連れていたり、働かせたりしているおっさんもいるじゃないか」
「それは「強いおっさん」だからだよ。おっさんとは違うんだ」
おっさんはさもおかしそうに言いました。
「旅人」もおっさんたちにたくさんの種類がいることは知っています。
けれどその違いというものは観察していないとわかりません。
「おっさんと「強いおっさん」はどう違うんだい?」
「「強いおっさん」は競争で勝ったおっさんたちさ。
肩書きや立場を持つおっさんは身形も立派なんだ。
顔や姿が良いおっさんは社会や他人から信用されやすいんだ」
「旅人」はとても驚きました。
そんな容易く移ろうものに価値を見出す刹那的な社会など初めてだったからです。
「旅人」の星で言ったら笑われてしまうような話です。
「そんなもので信用が変わってしまうのかい?」
「競争をしていると、そんなものでしか他人を見られないんだ」
信用というものは「旅人」の星でも大事なものです。
それなのに、あまりにも理に適っていないものに縋っているように感じてしまいました。
「おっさんもかい?」
「おっさんは競争から外れてしまったから、そういう見方をできなくなってしまったよ」
おっさんの返事を聞いて「よかった」と「旅人」は小さくつぶやきました。
「競争で負けたおっさんは子供に近寄ってはいけないのかい?」
「ああ、お互いのためなんだ。
子供だけじゃない、女性の傍にいるのもいけないよ。
それと夜も出歩いてはいけない。
負けたおっさんたちはそこにいるだけで、生きているだけで悪いとされるからね」
「生きにくいね」
負けたおっさんというのは生きていてはいけないことと同義のように「旅人」は思いましたが、口には出せませんでした。
「だけどこれが競争で負けたおっさんの、自分を守るためにできることなんだ」
「難しいね」
それを聞いて「外に出られないじゃないか」と「旅人」は思いましたが、おっさんが外をこわがり部屋から出なくなったのを思い出して、合点がいきました。
けれど「旅人」は疑問も持ちます。
「この星は競争で負けたおっさんたちが一番数が多くて、この星の基盤になっているのに、そこの部分を壊れやすくしていくのはいったいなんでなんだろう。
どんな建物だって土台が一番重要で、一番守らないといけない場所なのに。
ピラミッドだって一番下の段が消えてしまったら、あっという間に崩壊してしまうのに。
どうしてそんなことをしているんだろう」
「旅人」は多くの星を渡っていましたから、そういった構造を崩していった星がどういった末路をたどったかよく知っています。
そしてこの星がどうなっていくかを大体予想できてしまいました。




