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『孤児院から逃げた私は、希少スキル《回復魔法》で世界を渡り歩く』  作者: 楓真パパ
第1章

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第24話

 薄霧の谷を後にし、私たちは街へ向かって歩き続けた。


 谷の霧はまだ肌に残っているようで、冷たい空気が背中を押すたびに、あの白い世界の気配が蘇る。


 淡く光るルミナ草の群生地。

 霧の奥から迫ってきたゴブリン三匹。

 視界ゼロの中での戦闘。


 ――怖かった。

 ――でも、それ以上に冒険をしているという実感が湧く。


 胸の奥に残る緊張と、それを上回る達成感が静かに混ざり合っていた。


「ノエル、疲れてないか?」


 荷台を引きながらソウマが声をかける。


「うん、大丈夫。でも……少しだけ、まだドキドキしてる」


 ソウマは笑った。


「そりゃそうだ。霧の中でゴブリン三匹と戦ったんだぞ。普通なら逃げ出してる」


 私は苦笑した。


「怖かったよ……本当に。でも、ソウマがいたから……進めた」


 ソウマは照れたように笑った。


「俺もノエルがいたから頑張れたんだよ」


 街の門が見えてくると、夕方の光が石壁を赤く染めていた。


 門番が私たちを見つけて手を振る。


「おお、戻ったか!薄霧の谷はどうだった?」


 ソウマが笑って答える。


「危険でしたけど、なんとか採取できました」


 私は薬草袋を見せた。


「ルミナ草、たくさん採れました」


 門番は驚いたように目を見開いた。


「おお……本当に採ってきたのか。あそこは魔物が多いって聞くぞ。よく無事だったな」


 ソウマは肩をすくめる。


「まあ……色々ありました」


 門番は深く頷いた。


「ギルドへ急げ。報告すればすぐに処理してくれるはずだ」


 私たちは街へ入り、ギルドへ向かった。


 ギルドの扉を押し開けると、中は夕方の活気に満ちていた。


 依頼を終えた冒険者たちが報告をし、受付前には長い列ができている。


 酒場からは笑い声が聞こえ、依頼掲示板の前では冒険者同士が情報交換をしている。


「ノエル……なんだか緊張するね」


「大丈夫だ。ちゃんと採ったんだから胸を張れ」


 列に並び、しばらくして受付嬢が声をかけてくれた。


「次の方、どうぞ」


 ソウマが依頼書を差し出す。


「ルミナ草の採取依頼です。薄霧の谷で採取してきました」


 受付嬢は依頼書を確認し、薬草袋を覗き込んだ。


「……えっ」


 受付嬢の目が大きく開かれた。


「こ、これは……こんなに……?」


 私は少し照れながら言った。


「たくさん群生していたので……気づいたら、こんなに」


 受付嬢は驚いたまま袋を持ち上げた。


「ルミナ草……五十束……?こんな量、見たことありません……!」


 周囲の冒険者たちもざわつき始める。


「五十束だって?」

「薄霧の谷でそんなに採れるのか?」

「いや、普通は魔物が多くて無理だろ……」


 受付嬢は慌てて書類を確認し、報酬欄を見てさらに驚いた。


「報酬は……五束 銀貨八枚……五十束なので……金貨八枚になります」


 私は息を呑んだ。


「き、金貨八枚……?」


 ソウマも驚いたように目を見開いた。


「そんなに……?」


 受付嬢は深く頷いた。


「ルミナ草は希少ですし、治療院が大量に欲しがっています。これだけの量なら、金貨八枚が妥当です」


 私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


 ――頑張った。

 ――怖かったけど、進んだ。

 ――その結果が、ここにある。


 受付嬢は金貨八枚を丁寧に袋へ入れ、私たちへ差し出した。


「本当に……お疲れさまでした。ギルドとしても感謝します」


 ソウマが受け取り、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


 私も頭を下げた。


「ありがとうございました」


 ギルドを出ると、夕暮れの風が静かに吹き抜けた。


 ソウマは金貨の袋を見つめながら言った。


「……すごいな、金貨八枚なんて」


「うん……こんなに稼いだの、初めてだよ」


 金貨八枚。それは冒険者にとって大金だ。


 宿代、食費、装備の更新、そして次の依頼の準備。


 すべてが余裕を持ってできる。


 ソウマは少しだけ考えるように空を見上げた。


「ノエル、これから先のことなんだけど……」


「うん?」


「俺のナイフだけじゃ……薄霧の谷みたいな場所は厳しいと思う」


 私は胸の奥が少しだけ締めつけられた。


 ――確かに。

 ――霧の中での戦闘は、ソウマに負担が大きかった。


「……剣を買うの?」


 ソウマは頷いた。


「うん。ちゃんとした剣があれば、もっと安全に戦えると思う」


 私は笑った。


「いいと思う。ソウマなら剣、似合うよ」


 ソウマは照れたように笑った。


「じゃあ……武器屋へ行こうか」


 夕暮れの街を歩きながら、私たちは武器屋へ向かった。


 ギルドを出ると、夕暮れの風が静かに吹き抜けた。


 街の灯りがぽつぽつと灯り始め、人々が家へ帰っていく。


 ソウマは金貨の袋を腰に下げながら言った。


「ノエル、武器屋はこの先の通りだ。昨日、姉妹に案内してもらっただろ?」


「うん、覚えてる。あの石造りの建物だよね」


 夕暮れの街はどこか温かく、薄霧の谷の冷たさが少しずつ溶けていくようだった。


 私は歩きながら、ソウマの横顔をそっと見た。


「ソウマ……」


「ん?」


「剣、良かったね、前から欲しいって言ってたし」


 ソウマは少し照れたように笑ったあと、何かに気づいた顔をして急に焦りだした。


「あっ!!!ちゃんと今の手持ちを考えて買うよ!絶対に無駄遣いしないよ!」


「まだ、何も言ってないよ!」


 武器屋の前に着くと、店主の大柄な男性が腕を組んで立っていた。


 店の前には剣や槍が並び、夕暮れの光を受けて刃がきらりと輝いている。


「おう、この前の奴らじゃねえか。今日は何を見に来た?」


 ソウマは少しだけ照れながら言った。


「剣を……買いたいんです」


 店主は目を見開いた。


「ほう……ナイフから剣に変えるのか。いい判断だな。薄霧の谷で戦ったんだろ?」


 私は驚いた。


「どうして……?」


 店主は笑った。


「ギルドで噂になってるぞ。ルミナ草五十束採取したってな。あそこは魔物が多い。ナイフだけじゃ厳しかったろう」


 ソウマは苦笑した。


「まあ……色々ありました」


 店主は剣の棚を指差した。


「ここから選べ。片手剣、両手剣……ナイフの次なら片手剣が合うだろう」


 ソウマは棚の前に立ち、一本一本の剣を手に取っていく。


 私はその横で、剣の輝きを見つめていた。


「ノエル、これどう思う?」


 ソウマが手にしたのは、銀色の刃が美しく輝く片手剣。


 刃は細く、軽そうで扱いやすそうだった。


「軽いね……ソウマなら振りやすいと思う」


 店主が頷く。


「それは軽量型だ。素早い攻撃が得意な奴向けだな。ただ、耐久は少し低い」


 ソウマは剣を軽く振り、その感触を確かめた。


「……悪くないけど……もう少し重みが欲しいな」


 次に手にしたのは、少し重めの片手剣。


 刃は太く、柄の部分には細かい装飾が施されている。


「これは……重いけど、安定してる」


 店主が笑った。


「それは狩人向けの剣だ。魔物の硬い皮を切り裂くために作られてる。耐久も高い」


 ソウマは剣を振り、その重みを確かめる。


「……うん。これ、いいかもしれない」


 私はソウマの横顔を見つめながら言った。


「ソウマ……その剣、似合うよ」


 ソウマは少し照れたように笑った。


「ノエルがそう言うなら……これにしようかな」


 店主は剣を受け取り、刃を光にかざして確認した。


「この剣はいいぞ。刃の通りも滑らかだし、柄の部分も丈夫に作ってある。お前みたいな近接型にはぴったりだ」


 ソウマは真剣な表情で店主を見た。


「……お願いします。これを買います」


 店主は頷き、剣を丁寧に布で包んだ。


「リナとミナを助けてくれたんだってな、こいつはそのお礼だ!金貨三枚でいいよ」


「いいんですか!」


「この街の子供を救ってくれたんだ。当たり前だろ!」


「ありがとう」


 ソウマは金貨を渡し、剣を受け取った。


 店主は少しだけ声を低くして言った。


「坊主。剣はただの武器じゃない。使う奴の覚悟が宿る。お前は……その覚悟がある目をしてる」


 ソウマは驚いたように目を見開いた。


「……覚悟、ですか」


 店主は頷いた。


「守りたいものがある奴の目だ。その剣は、お前の力になる。その覚悟をなくすなよ」


「はい!!」


 店を出ると、夕暮れの風が静かに吹き抜けた。


 ソウマは剣を腰に下げ、私の方へ向き直った。


「ノエル……これで、もっと安全に戦えるよ」


 私は笑った。


「うん。ソウマなら、この剣を使いこなせるよ」


 ソウマは剣の柄にそっと触れながら言った。


「これから先、もっと危険な場所にも行くだろう。でも……俺、絶対に強くなるから!」


「うん、私も!」


 胸の奥が静かに高鳴る。


 私は夕暮れの空を見上げ、そっと息を吸った。


「ソウマ……これからも、一緒に頑張ろうね」


 ソウマは笑った。


「もちろんだ。俺たちは相棒だからな」


 夕暮れの街の灯りが優しく揺れ、新しい剣の刃がその光を静かに反射していた。

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