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『孤児院から逃げた私は、希少スキル《回復魔法》で世界を渡り歩く』  作者: 楓真パパ
第1章

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第23話

 薄霧の谷の入口で野営した翌朝。空は薄い灰色で、雲がゆっくりと流れていた。


 夜の冷気がまだ残っていて、肌に触れる空気は少しひんやりしている。


 私は寝袋から出て、谷の方へ視線を向けた。


 ――霧が、揺れている。


 谷全体を覆う白い霧は、朝の光を受けて淡く輝き、まるで谷そのものが呼吸しているようだった。


「ノエル、起きたか」


 ソウマが焚き火の前で湯を沸かしながら声をかける。


「うん……おはよう」


「おはよう。今日は本格的に採取を始めるぞ。霧が濃くなる前に動きたい」


 私はうなずき、荷台から薬草袋と杖を取り出した。


「……緊張するね」


「そりゃあな。魔物が多い谷だし、視界も悪い。でも、二人なら大丈夫だ」


 その言葉が、霧の冷たさを少しだけ溶かしてくれた。


 朝食を軽く済ませ、荷物を整えた私たちは谷の中へ足を踏み入れた。


 霧は思った以上に濃く、数メートル先がぼんやりとしか見えない。


「……すごい霧だね」


「谷の名前の通りだな。気をつけて進もう」


 足元の草はしっとりと濡れていて、踏むたびに水滴が跳ねる。


 谷の奥からは、風に揺れる葉の音がかすかに聞こえた。


 ――静かだ。

 ――でも、どこか不気味だ。


 私は杖を握りしめ、周囲を見渡しながら進んだ。


 霧の中で、淡い光がちらちらと揺れている。


「ソウマ、あれ……」


「ルミナ草だな。光ってる」


 霧の中で揺れる光は、まるで小さな灯火のようで――幻想的で、どこか神秘的だった。


 私は胸の奥が少しだけ高鳴るのを感じた。


「……綺麗」


「だな。でも、油断するなよ。魔物が近くにいる可能性が高い」


 光る葉のそばにしゃがみ、私はそっとルミナ草を摘み取った。


 葉は柔らかく、触れるとほんのり温かい。


「……本当に光ってるんだ」


「魔力を含んでるらしい。治癒効果が高い薬草だ」


 私は薬草袋に丁寧に入れ、周囲を見渡した。


 霧の中で光る葉は、まるで星のように点々と散らばっている。


「これなら……採取できそうだね」


「そうだな。ただ――」


 ソウマが急に真剣な声になった。


「ノエル、動くな」


 私は息を呑む。


 霧の向こうで、何かがゆっくりと揺れた。


 草を踏む音。低い唸り声。


 ――魔物だ。


「ノエル、後ろへ」


 ソウマがナイフを抜き、霧の奥へ目を凝らす。


 私は杖を構え、息を殺した。


 霧が揺れ、影が近づいてくる。


 ――見えない。

 ――どれくらいの距離なのか分からない。


 胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


「ソウマ……」


「大丈夫。来るぞ」


 影が一気に近づき、霧の中から飛び出した。


 グラスウルフ。


 昨日倒したものより少し大きい。


「ノエル、右へ!」


 私は横へ跳び、狼の爪が地面を抉る。


 ソウマが背後へ回り込み、ナイフを振り下ろす。


 ザッ!


 刃が肩に深く刺さり、グラスウルフが苦しげに吠えた。


 私は杖を構え、思いっきり杖を振りぬく。


 杖が狼の頭を打ち抜き、グラスウルフは倒れた。


 私は息を整えながら言った。


「……見えなかった……こんなに近くまで来るなんて……」


 ソウマは頷いた。


「霧が濃いからな。魔物の気配が分かりづらい。これが薄霧の谷の厄介なところか」


 私は胸の奥が少しだけ冷たくなるのを感じた。


 その後も、採取を続けるたびに魔物の気配が近づいてきた。


 霧の中で光るルミナ草は美しいけれど、その周囲には必ず魔物が潜んでいる。


「ノエル、左の霧が揺れた。魔物がいるかもしれない」


「うん……気をつける」


 私は杖を構えながら、慎重にルミナ草を摘み取った。


 霧の中で揺れる光は、まるで私たちを誘うようで――でも、その光の裏には必ず影があった。


 魔物の影。

 霧の中の気配。

 近づく足音。


 採取は想像以上にハードだった。


「ソウマ……これ、かなり危険だね」


「そうだな。でも、ノエルならできる。俺が周りを見るから、安心して採取してくれ」


 その言葉に胸の奥が少しだけ温かくなる。


 私は霧の奥へ視線を向けた。


 淡く光る葉が、まだいくつも揺れている。


「……もう少しだけ進もう。ルミナ草、もっと採りたい」


 ソウマは頷いた。


「よし。行こう、ノエル」


 霧の中へ、私たちはゆっくりと進んだ。


 霧は進むほど濃くなり、谷の奥はほとんど白い壁のように見えた。


 淡く光るルミナ草は、霧の中で揺れる小さな灯火のようで――その光を追うたびに、私たちは谷の奥へと進んでいった。


「ノエル、足元に気をつけろ。谷の地面は湿って滑りやすい」


「うん……」


 足元の草はしっとりと濡れ、踏むたびに水滴が跳ねる。


 霧の中で光る葉は美しいけれど、その周囲には必ず魔物の気配があった。


 ――幻想的な光。

 ――でも、その裏には牙が潜んでいる。


 私は胸の奥が少しだけ冷たくなるのを感じた。


 ルミナ草を摘み取っていると、霧の奥で何かが揺れた。


 草を踏む音。

 低い唸り声。

 そして――小さな足音。


「ソウマ……何かいる」


「分かってる。ノエル、後ろへ」


 霧が揺れ、影が近づいてくる。


 ――見えない。

 ――どれくらいの距離なのか分からない。


 胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


 影が一気に近づき、霧の中から飛び出した。


 ゴブリン。


 小柄で緑色の肌。

 鋭い牙。

 粗末な棍棒を握っている。


「ノエル、右へ!」


 私は横へ跳び、棍棒が地面を叩きつける。


 ソウマがナイフを抜き、ゴブリンの腕を切りつけた。


 ザッ!


 ゴブリンが甲高い声で叫ぶ。


「ソウマ、後ろにもいる!」


 霧の奥で、もう一つの影が揺れた。


 そして――三つ目の影。


「……三匹……!」


「ノエル、下がれ!俺が前に出る!」


 ソウマが私の前に立ち、ナイフを構える。


 霧が揺れ、ゴブリンが三方向から迫ってくる。


 視界はほとんどない。音だけが頼り。


「ノエル、右の気配が近い!」


 私は杖を横に構え、迫ってきたゴブリンの棍棒を受け止めた。


 ガンッ!


 衝撃が腕に響く。


「くっ……!」


 ソウマが正面のゴブリンへ突っ込み、ナイフで足を切りつける。


 ゴブリンが転び、ソウマが追撃して倒す。


 左からもう一匹が飛びかかる。


「ノエル、左!」


 私は杖を振り抜き、ゴブリンの顔面を叩いた。


 バシッ!


 ゴブリンがよろめく。


 ソウマが横から回り込み、ナイフで胸を突き刺す。


 残り一匹が背後から迫る。


「ノエル、後ろ!」


 私は振り返り、杖を突き出した。


 ドンッ!


 ゴブリンの腹に命中し、ゴブリンが苦しげにうずくまる。


 ソウマが素早く駆け寄り、ナイフでとどめを刺した。


 霧の中に静寂が戻る。


 私は息を整えながら言った。


「……見えない……こんなに近くまで来るなんて……」


 ソウマは眉をひそめる。


「霧が濃すぎる。魔物の気配が霧に紛れてるんだ。ここは本当に危険だな」


 ゴブリンを倒した後、討伐報酬である右耳を剥ぎ討伐報酬袋に詰めた。そして私たちはさらに奥へ進んだ。


 霧が少しだけ薄くなり、谷の奥に広がる光が見えた。


「……ソウマ、見て」


「ルミナ草の群生地だな」


 霧の中で揺れる光が、まるで星空のように広がっていた。


 淡い光が草原のように続き、霧の中でゆらゆらと揺れている。


 ――幻想的。

 ――美しい。

 ――でも、危険。


 私は胸の奥が高鳴るのを感じた。


「……すごい……こんなに……」


「ノエル、採取は任せる。俺は周囲を見る」


 私は頷き、光る葉をそっと摘み取った。


 葉は柔らかく、触れるとほんのり温かい。


「……綺麗……」


「ノエル、左の霧が揺れた。魔物がいるかもしれない」


「わかった。気を付けて採取する」


 ルミナ草を摘み取っていると、霧の奥で複数の影が揺れた。


「ソウマ……影が三つ……」


「分かってる。ノエル、後ろへ」


 霧が揺れ、影が近づいてくる。


 ――三体。

 ――同時に。


 胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


 影が一気に近づき、霧の中から飛び出した。


 ゴブリン三匹。


「ノエル、右の一体を頼む!」


 私は杖を構え、迫ってきたゴブリンの棍棒を受け止めた。


 ガンッ!


 衝撃が腕に響く。


 ソウマは正面のゴブリンと対峙し、ナイフで応戦する。


 左からもう一匹が飛びかかる。


 私は杖を振り抜き、ゴブリンの顔面を叩いた。


 バシッ!


 ゴブリンがよろめく。


 ソウマが正面のゴブリンを倒し、すぐに左のゴブリンへ向かう。


 私は右のゴブリンの棍棒を避け、杖で腹を突いた。


 ドンッ!


 ゴブリンが苦しげにうずくまる。


 ソウマが横から回り込み、ナイフでとどめを刺した。


 霧の中に静寂が戻る。


 私は息を整えながら言った。


「……また三匹同時なんて……こんなの……採取どころじゃないよ……」


 ソウマは息を吐きながら言った。


「薄霧の谷は魔物が多い。群生地は特に危険だ。でも、ノエルと2人なら連携が採れるから安心して戦える」


 その言葉を聞き私の胸の奥がじんわりと温かくなる。


 ルミナ草は十分に採れた。

 薬草袋は光る葉でいっぱいになっている。


 でも――


 霧の奥で、また影が揺れた。


「ソウマ……また来る……」


「ノエル、もう戻ろう。これ以上は危険だ」


 私はうなずいた。


「……うん。十分採れたし……これ以上は無理だね……」


 ソウマは私の肩を軽く叩いた。


「よし、戻るぞ。ゆっくりな」


 私たちは谷の奥からゆっくりと戻った。


 霧は相変わらず濃く、魔物の気配がどこかに潜んでいる。


 でも、谷の出口が近づくにつれて、霧は少しずつ薄くなっていった。


 谷の出口に着くと、霧が薄くなり、空が見えた。


「……帰ってきた……」


 私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


 ソウマが笑った。


「ノエル、よく頑張ったな。ルミナ草、たくさん採れた」


 私は薬草袋を抱えながら言った。


「うん……怖かったけど……でも、やってよかった」


 谷の奥で揺れる光は、まるで夢のようだった。


 でも、その光の裏には牙が潜んでいて――幻想と危険が混ざり合う谷だった。


「ソウマ……ありがとう。一緒にいてくれて」


 ソウマは少し照れたように笑った。


「当たり前だろ。俺たちは相棒なんだから」


 胸の奥が静かに高鳴る。


 私は谷を振り返り、ゆっくりと息を吸った。


「……帰ろう、ソウマ」


「うん。街へ戻って、依頼を報告しよう」


 荷台の車輪が静かに回り始め、私たちは薄霧の谷を後にした。

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