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『孤児院から逃げた私は、希少スキル《回復魔法》で世界を渡り歩く』  作者: 楓真パパ
第1章

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第20話

 翌朝の空は澄んでいて、昨日よりも少しだけ暖かかった。


 荷台の車輪が静かに回り、街道の土を踏む音が規則的に響く。


「ノエル、今日中には街に着けると思う」


「うん。昨日と同じくいい天気でよかった」


 風は優しく、草原は穏やかで、旅の二日目は順調に進んでいた。


 ――その時だった。


「きゃあああああっ!!」


 小さな悲鳴が、街道の先の林から響いた。


 私は息を呑む。


「ソウマ……今の……!」


「行くぞ!」


 ソウマは荷台を道の端に寄せ、私の手を引いて林へ駆け込んだ。


 林の奥へ走ると、そこには――


 灰色の毛並みを持つ狼型の魔物、グラスウルフ。


 鋭い牙をむき出しにし、低い唸り声を上げている。


 その前で、小さな女の子が二人、必死に抱き合って震えていた。


「いやぁ……!お姉ちゃん、こわいよ……!」


「ミナ、目をつぶって……!」


 姉の方が妹を庇い、必死に震える体で立ち向かおうとしていた。


 私は胸の奥が熱くなるのを感じた。


 ――助けなきゃ。


 考えるより先に、体が動いていた。


「ソウマ!」


「任せろ!おーーーい!こっちだーーー!」


 ソウマが道に落ちていた石ころを拾い上げグラスウルフへと投げた。


 石は当たらなかったが、グラスウルフがこちらに気づき、低く唸りながら飛びかかってくる。


 私は杖を構え、ソウマはナイフを抜いた。


 グラスウルフは素早く、土を蹴って一気に距離を詰めてくる。


「ノエル、左へ!」


 私は横へ跳び、狼の爪が地面をえぐる。


 ソウマが背後へ回り込み、ナイフを振り下ろす。


 ザッ!


 刃が肩に深く刺さり、グラスウルフが苦しげに吠えた。


「ノエル、今だ!」


 私は2人の元へと駆け寄り保護をする。


「ソウマこっちの2人は大丈夫!」


「わかった!あとはこいつだな!」


 ソウマは手負いのグラスウルフをさらに挑発し自分へとヘイトを向けさせる。


 挑発に乗ったグラスウルフはソウマへと襲い掛かるが、ソウマはナイフでうまく受け流し、ナイフをグラスウルフの首元へ突き刺した。


「ギャン!」といううめき声と共にグラスウルフは倒れ、動かなくなった。


 私は息を整えながら、震える姉妹へ駆け寄った。


「大丈夫……?もう魔物はいないよ」


 姉の方が私を見上げ、涙をこぼしながら頷いた。


「……ありがとう……ございます……」


 妹の方はまだ震えていて、姉の服をぎゅっと掴んで離さない。


 ソウマが優しく声をかける。


「怪我はしてないか?」


 姉は首を振った。


「私は……大丈夫です。でも……お母さんが……」


「お母さん?」


「お母さんが怪我をしてて……薬草を取りに来たんです……そしたら……魔物が……」


「お母さんはどこにいるの?」


 姉は林の奥を指差した。


「この先の街です……歩けないから……私たちだけで……」


 ソウマが私を見る。


「ノエル……」


 私は頷いた。


「行こう。お母さんを助けないと」


 グラスウルフを倒し、リナとミナを抱きしめて落ち着かせたあと、私たちは街へ向かって歩き始めた。


「お母さんは……何処を怪我したの?」


 私が尋ねると、リナは申し訳なさそうに俯いた。


「お母さん、馬車にぶつかって足を怪我してて……家から出られないの」


 ミナが続ける。


「だから……薬草を取りに来たの……お母さんに内緒で……」


 胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


「危なかったね……でも、よく頑張った」


 私が言うと、リナは涙をこぼしながら頷いた。


「……だって……お母さんが痛そうで……私が……なんとかしなきゃって……薬草集めるのに夢中で……気が付いたら林の中で……」


 ソウマが優しく言う。


「偉いよ、リナ。でも、もう子供たちだけで林に入っちゃダメだ。魔物は大人でも危ないんだ」


 リナは唇を噛み、ミナの手をぎゅっと握った。


「……うん……」


 私たちは姉妹の歩調に合わせてゆっくり進んだ。街道の先には、街の見張り塔が見えている。


 門が近づくと、門番がこちらへ歩いてきた。


「おい、そこの君たち。その子たち……リナとミナじゃないか?」


 リナとミナは門番の姿を見ると、安心したように駆け寄った。


「門番さん……ただいま……!」


「おお、リナ、ミナ!無事だったのか……!」


 門番は二人を抱きしめ、その後私たちへ向き直った。


「この子たちを……助けてくれたのか?」


 ソウマが頷く。


「林でグラスウルフに襲われていました。危ないところでした」


 門番は驚き、そして深く頭を下げた。


「……本当にありがとう。街の子どもを救ってくれたんだな」


 私は少し照れながら答えた。


「いえ……助けられてよかったです」


 門番は続けた。


「念のため、身分証を確認させてもらえるか?最近、怪しい連中も出入りしていてな」


 ソウマがギルドカードを取り出す。


「はい。これがギルドカードです」


 私も同じようにカードを提示した。


 門番はカードを確認し、名前とランクを見て頷いた。


「確かにギルド登録済みだな。問題なし。ゼッルトルの街へようこそ。本当にありがとう」


 門番は道を開け、私たちは街の中へ入った。


 街の中は夕方の光に照らされ、家々の影が長く伸びていた。


 リナとミナは慣れた道を歩き、私たちを案内してくれる。


「私たちの家、こっちだよ!」


「ミナ、走らないで……!」


 街の端にある小さな家に着くと、リナが扉を開けた。


「お母さん……!ただいま!」


 中から弱い声が返ってきた。


「リナ……ミナ……?どうしたの……そんなに慌てて……」


 女性は椅子に座っていて、足には布が巻かれている。

 痛みのせいか、顔色が悪い。


「お母さん……ごめんなさい……私たち……薬草を取りに行って……魔物に襲われて……」


 女性は驚き、娘たちを抱きしめた。


「なんてことを……!危ないじゃない……!」


 私はそっと声をかけた。


「大丈夫です。私たちが助けました。それより……足を見せてもらえますか?」


 女性は戸惑いながらも頷いた。


「……ええ……でも……あなたは……?」


「私はノエル。回復魔法が使えます。傷を治せると思います」


 女性は驚いたように目を見開いた。


「回復魔法……?そんな……希少な……」


 私は女性の足元に膝をつき、布をそっと外した。


 傷は深く、赤黒く腫れている。


 ――痛かっただろうな。


 胸の奥が痛む。


 私は深く息を吸い、胸の奥の熱を感じる。


 その熱が腕へ流れ、手のひらへ集まる。


「少しだけ光ります。痛みはすぐに消えますからね」


 女性は弱く頷いた。


 淡い光が女性の足を包み、傷口がゆっくりと閉じていく。


 腫れが引き、赤みが消え、皮膚が少しずつ元の色を取り戻す。


 女性の呼吸が深くなり、顔色が少しずつ戻っていく。


「……あ……痛みが……なくなっていく……」


「もう大丈夫。傷は塞がりました」


 女性は涙をこぼしながら言った。


「ありがとう……本当に……ありがとう……」


 リナとミナが私の手を握る。


「ノエルお姉ちゃん……ありがとう……!」

「ありがとう……!」


 その言葉で胸の奥がじんわりと温かくなる。


 ――良かった!助けられた。

 ――この家族を守れた。


 その実感が、静かに心を満たしていった。


 治療を終えると、女性は深く頭を下げた。


「あなた達がいなかったら……娘たちがどうなっていたか……」


 ソウマが優しく言う。


「あまり怒らないであげてください。2人は本当にあなたを心配してましたから」


 私は姉妹の頭を撫でた。


「怖かったね……でも、よく頑張った」


 リナは涙を拭きながら笑った。


「私……強くなる……ソウマお兄ちゃんやノエルお姉ちゃんみたいに強くなってお母さんやミナを守る……!」


 ミナも小さく頷いた。


「うん……!わたしも!」


 その姿に胸が熱くなる。


「ソウマ、行こうか」


「うん。宿を確保してギルドで旅の資金を少し稼がないとな」


 家を出ようとしたとき、お母さんが必死に立ち上がろうとした。


「ま、待ってください……!」


 ソウマが慌てて支える。


「無理しないでください。足は治りましたけど、まだ力は入りにくいはずです」


 女性はそれでも頭を深く下げた。


「本当に……本当にありがとうございました。私たち家族を……助けてくれて……。何か……お礼をさせてください。お金は……ほとんどありませんが……」


 その声は震えていて、の奥がぎゅっと締めつけられた。


 私は首を振った。


「いえ……お礼なんていりません。助けられてよかったんです。それだけで十分です」


 ソウマも続ける。


「そうですよ。俺たちは冒険者ですし、困っている人を助けるのは当然のことです」


 女性はそれでも諦めない。


「でも……でも……!娘たちを守ってくれたんです……何か……何かできることは……」


 リナが私の服の裾をそっと引っ張った。


「ノエルお姉ちゃん……お礼……したい……」


 ミナも小さく頷く。


「したい……!」


 私は二人の顔を見て、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


 ソウマが少し考え、優しく笑った。


「じゃあ……お礼は明日でどうかな?」


「明日……?」


 リナが首をかしげる。


 ソウマは続けた。


「俺たちはこの街に来たばかりで、右も左も分からないんだ。だから……明日、二人が街を案内してくれたら嬉しい」


 リナの目がぱっと輝いた。


「街を……案内するの……?わたしたちが……?」


 ミナも嬉しそうに跳ねる。


「する!する!ノエルお姉ちゃんとソウマお兄ちゃんに案内する!」


 お母さんは涙をこぼしながら微笑んだ。


「……そんなことでよろしいのですか?……たしかにこの子たち……街のことならよく知っていますけど……」


「うん。私はそれが……嬉しいな。元気になった2人ともっと一緒にいたいし。明日、案内してね」


 リナは胸を張った。


「任せて!街の美味しいパン屋さんも、広場も、川も、全部案内する!」


 ミナも大きく頷く。


「うん!全部!」


 ソウマが笑った。


「じゃあ、明日また来るよ。今日はゆっくり休んでね」


「本当に……本当にありがとうございます……」


 家を出ると夕暮れの風が静かに吹き抜けた。


 ――助けられた命。

 ――守れた未来。

 ――そして、新しい街での生活。


 胸の奥が静かに高鳴っていた。

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